胆管がんで労災申請、校正印刷ではない通常のオフセット印刷でジクロロメタンに高濃度ばく露/三重在住男性

2012年7月中旬、三重県在住40代男性で胆管がん療養中のHさんから相談電話がかかってきた。
詳しく聞くと、Hさんは、SANYO-CYP社のようなオフセットの「校正印刷」ではなく、一般的なオフセット印刷に従事していた。

校正印刷においては、多種類を少数枚数印刷するために、洗浄回数がきわめて多くなる。
これに比べて、1種類の印刷枚数が比べものにならないくらい多い通常のオフセット印刷でも、問題になるような有機溶剤へのばく露状況があるのだろうか、という疑問がわくのが自然だ。

しかし、S社の事例では頻回の洗浄回数だけが問題となったばく露をもたらした原因ではないことに注意しなければならない。つまり、劣悪な労働環境、杜撰なばく露防護対策も原因だということだ。

Hさんの場合、局所排気装置や防護マスクはなかった。厚生労働省の調査によって示されている「きわめて杜撰な現場状況」そのものだった。

また、オフセット印刷とはいえ、S社において問題になった洗浄剤成分であるジクロロメタンを含んでいたとみられる「エースクリーン」(東洋化学商会)(Hさんと元同僚の記憶)という洗浄剤をブランケット洗浄やローラーの洗浄に相当な量を使用していたことが聴き取りにより判明した。

「エースクリーン」は、Hさんの就労期間には、ジクロロメタン50%、1,1,1トリクロロエタン50%を成分としていた。

したがって、Hさんの胆管がんはS社と同様に業務上疾病の可能性が高いことは明らかであることから、8月29日、名古屋西労基署への労災請求に至った。
9月7日、Hさんは名古屋労災職業病研究会事務所で記者会見を行った。

「商用印刷で胆管がん」
三重の患者労災申請し会見

印刷会社で働く人に胆管がんが多発し、全国で労災申請が相次いでいる問題で、三重県在住の40代男性が労災を申請し、7日、申請者のがん患者として全国で初めて記者会見に臨んだ。勤務していたのは、これまで発症が確認されることが少なかった一般的なオフセット印刷の職場。男性は、名古屋市内での会見で「悔しいという気持ちにつきる」と話した。東海3県での労災申請は初。

申請は8月29日付。男性は1984年6月~95年12月、名古屋市内のオフセット印刷の事業所(現在は廃業)に勤務。窓を閉め切った部屋で、有機溶剤を使って日に何度も印刷機を洗浄し、マスクはしていなかった。転職後の06年1月、肝機能の数値に異常が見つかり、翌年「肝門部胆管がん」と診断された。

患者支援団体の調査で、男性が当時使っていたとみられる有機溶剤には、発症との因果関係が指摘される化学物質ジクロロメタンが含まれていたことが分かった。
厚生労働省によると、胆管がんによる労災申請をした人は、9月4日現在で全国に34人(うち23人死亡)。これまでに具体的な作業環境がわかった申請者の多くは機器の洗浄を頻繁に行う「校正印刷」の職場だった。今回のケースなどは、一般的な商業用の印刷に使う「オフセット印刷」の職場でも洗浄が頻繁な場合、患者が出ていることを示している。(鈴木彩子)

刺激臭にマスクせず

「今も悪い環境で働いている人も多いと思う。それぞれの会社の経営者に、職場環境についての考えを変えてほしくて、会見に臨みました」。男性は7日、報道陣を前に、胸のうちを打ち明けた。
男性は、印刷会社を退社して10年以上たった2006年1月、健康診断で肝機能に異常が見つかった。自覚症状はなかった。

「なんで?という思いがありましたが、医師の表情と肝機能の数字でやばいと驚いた」。精密検査を受け、がんと告知された。
印刷会社で働いているとき、有機溶剤が体に悪いとぼんやりとは知っていたが、マスクをせずに「かなりきつい刺激臭を吸い込んでいた」記憶がある。健康上の不安よりも、会社を解雇されたら困る気持ちの方が強かった。

これまでに胆管がんの治療費には500万円以上かかった。リンパ節への転移を2度経験。今年6月、転移したがんを摘出する手術を受けた。今も抗がん剤の副作用で気分がすぐれず、食欲もない。仕事に行けない日もあり、夜は深い眠りにつけない。
「これ以上、被害者を出さないように環境を整備するため、これから自分でできることは精いっぱいやりたい」と話した。 (川村真貴子)

朝日新聞 2012年9月8日