職業がんをなくそう通信 3/第5回職業がんをなくそう集会 in 福井・記念講演・三星化学、新日本理化OT膀胱がん報告など
2017年10月16日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/
去る10月15日(日)10時~16時 福井県教育センター3 階会議室にて、第 5 回職業がんをなくそう集会が開催されました(参加者30 名16団体)。
【記念講演】 山野優子教授 (昭和大学医学部衛生学講座)
産衛学会では 1983 年「職業性発がん物質」として 13物質を掲載(4- アミノジフェニル、塩化ビニル、石綿、2- ナフチルアミン、2- ニトロジフェニル、ビスクロロ
メチルエーテル、ベンジジン、ベンゼン、ベンゾニトリル、ニッケル、すす、タール、クロム化合物、ヒ素化合物)。
86 年 IARC に準じ 3 群に分け、「産業化学物質および関連物質」として 44 物質、「医薬品」として 40 物質を掲載。第 1群:13物質(上記)、第 2 群A:8 物質(アクリロニトリル、アフラトキシン類、BaP 等)、第2 群B:23 物質(オーラミン、色素、DDT、四塩化炭素等)。
その後 IARC の分類基準が妥当なものとして結果を参照しつつ許容濃度委員会で判断してきましたが 2013 年11 月発がん分類を見直すための小委員会が発足し。背景には印刷工場で起きた胆管がんの原因物質とされた1,2- ジクロロプロパンには発がん分類がなかったこと(IARC グループ 3)、2014 年 IARC 分類 2B の有機溶剤が特化物に指定されたこと(クロロホルム他9 物質)などがあることを紹介されました。
IARC 発がん性評価は、世界各国よりワーキングメンバーを選定し、当該化学物質についての論文等を精査し分類を決定しモノグラフを作成・公表、評価の決定は疫学研究と実験動物の発がんに関し「十分な証拠」「限定的な証拠」「不十分な証拠」の分類、発がんメカニズムについては「強い」「中等度」「弱い」とされ、最後に投票で発がん 5 分類を決定する(Group1: ヒトに対する発がん性が認められる、Group2A: ヒトに対しておそらく発がん性がある、Group2B: ヒトに対する発がん性が疑われる、Group3: ヒトに対する発がん性が分類できない、Group4: ヒトに対しておそらく発がん性がない)と解説。
発がん物質検討小委員会では、産衛、IARC、ACGIH に掲載されている化学物質全てをリンクし、産衛にだけ発がん分類がないもの、産衛に許容濃度があるもの、産衛と IARC で発がん分類が違うもの、IARC のみに発がん分類がある 2B 以上のもので優先順位をつけて見直し作業を進めており(研究用や医薬品食品などのほか作業工程や職業は検討対象から外している)作業は論文収集を行い疫学研究、動物実験、メカニズム等を総合的に評価していることを解説しました。1040 種の化学物質分類作業を示され大変な作業であることが伝わりました。
福井県の膀胱がん多発事案を受けオトトルイジンの発がん性分類を見直し 16 年 5 月 2 群 A から 1 群へ変更されましたが、同年1 月防御対策を実施した上での試験生産での作業者の尿中代謝物(13 名)は平均 89.9ppm で膀胱がん発症SIR5.8(95%CI2.9-10.5) であったゴム用薬品合成でのデータ (1946-2006、男 1643 名 )98.7ppm と同等に高かったこと等を解説、2007 年にオルトトルイジンのリスク評価調査ではリスク低いとされたことやその後の行政の対応(労基署による 38 事業所の立ち入り調査、対象者の確認、相談窓口の設置、7 名を労災認定、特化則の第 2類・特別管理物質に指定、経皮吸収による健康障害防止対策の強化など)を紹介されました。
最後に発がん性分類表の活用の仕方(産衛学会とIARC 分類が必ずしも同じではないこと、疫学と動物実験によるもの、発がん性の強さの分類ではないことなど)を解説されました。
会場には特定芳香族アミンの取扱をしている労働者や膀胱がん患者もあり質疑が多数出て参加者の感心の深さが伺われました。(堀谷)
【基調報告①】 田中康博氏 (三星化学工業支部)
1997 年入社時から異常な状態が続きました。
①違法行為の数々:有給休暇の届け出に理由を書かせる。患者が出ても救急車を呼ばない。仕事上の怪我でも健康保険を使わせる。
②不適切な労働衛生管理:作業環境測定や悪臭測定の結果を従業員に知らせず、危険物保安講習等各種講習終了後テキストを没収する。
③ものを言えない労務管理:上司に問題点を指摘したら一方的に降格・減俸する。作業環境が悪い職場に配転し見せしめにする。賃金評価を一方的に下げるなど。その後もパワハラ(高圧的な発言や暴力も)が横行し、作業による体調不良を訴えても無視され(心身を病んで会社を辞めていった同僚もいた)、粉塵だらけのタンク内作業(製品のこびりついた乾燥機内部に一人がギリギリ入れるような狭いマンホールから入りヘラでこそぎ落とす作業。あまりに酷い作業環境なので変更を訴えても対応せず)の強要が続きやがて膀胱がんの多発に繋がります。
その後労組を結成し様々な職場改善を要求し封じ込めや局所排気の設置などが実現したことを組合機関誌を用いて紹介され、無反省な経営に対し奮闘する組合の姿が見えました。
質疑では、現在の会社の姿勢が問われ、未だに膀胱がん多発の原因をわからないとし自ら究明しようともせず安全配慮義務違反はなかったと開き直る経営者の姿勢が報告され、集会アンケートには、経営トップの視野の狭さ、人権感覚の欠如への憤りや労組の努力が職場改善の実現や雰囲気を少しずつ変えていることへの称賛など多数の意見が書き込まれていました。
【基調報告②】 徳島県職業がんと闘う OT の会
昨年春、徳島県新日本理化退職者に膀胱がん検診勧奨が郵送され会社に説明を求めるも個人情報を理由に背景を知らされず、10 月に再度尿検査の勧奨がされるも今後は自費でと文書が添えられており、退職者は切り捨てられてしまうと危機感を感じたこと、地元の記者と個別訪問による独自調査を進めていくとある OB が自ら膀胱がんを発症し労災申請していると名乗り出てくれたこと、ようやく自分たちが製造に関わったオルトトルイジンが膀胱がんを引き起こす物資でありそれ故に尿検査を勧奨されていたのだという背景が理解できたという経過を説明。
その後会社に自費による検診はおかしいと問い合わせるも良い返事がなかったですが三星化学で労災認定されると会社負担で検診を実施すると連絡があり、三星化学労組や化学一般、職業がんをなくす患者と家族の会の運動の成果が全国に波及していることを実感できました。
本年 1月徳島工場でOT(オルトトルイジン) の生産に関わった退職者 20 名で「職業がんと闘う OT の会」を結成し 2 月徳島労働局に交渉に行くも「労安法及び諸規則は退職者には適応しない」と言われ退職者への風当たりの強さを感じつつ、労基署交渉も実施し OT の会作成「徳島工場における経皮ばく露の背景と実態」の提出に漕ぎつけたことを紹介。新日本理化労組との懇談も実現でき、会社との橋渡しを依頼したことを報告しました。
(堀谷より資料報告)
他社で実施している薬品取り扱い履歴(入社以来の取り扱い化学物質をすべて記載し管理者がチェック。退職時はコピーをもらえる)の紹介もされました。
【全体集会】
関西労働者安全センターより韓国サムスン電子で発生した職業病を告発する映画「もうひとつの約束」鑑賞と交流行事の訴え、トンネル掘削工事の塵肺患者の訴え、全参加者の職場実態が報告され、集合写真を撮りました。