職業がんをなくそう通信 2/東京の膀胱がん労災申請に不支給決定など

2017年9月1日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

第 5 回職業がんをなくそう集会 in 福井 は10 月 15 日 (日) 午前 10 時~午後 4 時 福井県教育センターにて開催

福井県での職業性膀胱がんの多発事案を受け、昨年は三国町社会福祉センターにて集会を開催いたしましたが、本年は場所的にも参加しやすいところが良かろうと福井県教育センターを選定しました(JR 福井駅からも近く交通等利便です)。
また、日程に関しても一泊だと参加者が制限されてしまうので、日曜日の1 日(これはこれでハードスケジュールなのですが)としました。午前に基調報告を行い、午後は記念講演と分散会を行う予定です。
記念講演は、昭和大学医学部公衆衛生学山野優子教授による「産業化学物質の発がん性分類について」をお願いしています。今回問題になったオルトトルイジンの発がん性分類についてのお話もしていただけると思います。

東京集会で訴えた膀胱がん罹患者の労災申請に不支給決定がされる

海外出張時に染色した布の検査業務を行い、その後膀胱がんを発症し労災申請をしている方の訴えが本年2月の東京集会でありました。その後、当時の職場の様子を詳細に記述しできる限り職業ばく露が理解できるような資料を追加で提出しましたが、8 月初めに不支給決定がされました。

本人が不支給に至った経過を東京労働局に聞き取りにいった中で分かったことは、化学物質のばく露による膀胱がん発症の立証が必要としたうえで、

①本人が提出した CI 酸性(染料の名称)はアゾ染料芳香族アミンを含有しているものと認識している(ジメトキシベンジジンやジメチルベンジジンなど)
②実際の染色作業に毎日従事していたわけではない(直接染料に接触していない)
③裏付ける客観的な資料がない(会社からの資料がない)などでした。

本来労災であるか否かは相当程度の因果関係が認められれば良いとされ、石橋裁判においても厚労省要請行動の場で何度も国側が言ってきたことです。ところが、実際の判断においては、この事例のように「立証が必要」と言うのです。厚労省に追及しても「個別案件にはお応えできません」とあくまで原則論に終始してきました。

また、膀胱がんの発症には潜伏期間があり、当時の職場環境を正確に知ることは国内ですら難しいのが現状です。ましてや国外において当時の作業の様子がわかる資料を本人が提出している中で「ばく露を裏付ける客観的な資料」がないというのは被災者の切り捨てであり、非現実的な判断基準だと言わざるを得ません。そもそもまだまだ若い労働者が海外で染色工場の試験に従事し膀胱がんを発症したというのであれば、まず労災ではないか
という疑いをもって調査するのが当然です。

今後審査請求の手続きに入りますが、国は海外まで調査にいくのは不可能だと言っています。それならば本人が提出した資料(会社が資料を提出していない)を元に労災ではないかという疑いをもって慎重に検討を進めていくよう要請をしていきたいと思います。

働くもののいのちと健康を守る石川センター第 9 回総会終了後、仕事と職業がんをめぐる関係」 を講演

8月30日働くもののいのちと健康を守る石川センター第 9 回総会が石川民医連会館で 18 時より開催され、総会終了後、「仕事と職業がんをめぐる関係」というテーマで講演をしてきました。

総会のあいさつで莇先生(城北診療所所長)から職業がんは全がんの 5%程度はあり、昨年のがん死亡数 37万人においてはおそよ2 万人弱にのぼると触れられ、その数がかなり多いにもかかわらず私たちの認識がまだまだ遅れていることを指摘されました。

職業がんについては、ヒトに対する疫学と動物実験による証明が 2 本柱になっており、それは 1775 年イギリスの Pott 外科医が煙突掃除夫に陰嚢がんが多く原因は煤であろうと推論したこと、1895 年ドイツの Rehn 外科医が合成染料製造作業者に膀胱がんが多く原因はアニリンであろうと推論したことなどに始まり、動物実験については 1915 年山極勝三郎先生がウサギの耳にコールタールを反復塗布して皮膚がんを発生させたことに続き、現在でも発がん性の証明は疫学と動物実験が両輪の輪となっています。さらに発がん機構も加わりこれらの総合的な判断により発がん性の分類がされています。

職場の発がん要因としては、アスベスト・芳香族アミン・ベンゼン・ホルマリン・1,2- ジクロロプロパン・ジクロロメタン等の化学物質のほか喫煙・受動喫煙・夜勤交替勤務なども発がん要因であるとされています。

正しい化学物質の管理には、作業環境管理、作業管理、健康管理があり発生源対策や安全衛生管理体制の確立、作業手順の明文化、作業の記録などが大事な項目になります。化学物質管理の法的な対応はSDS 交付義務対象が640 物質に及びリスクアセスメントの対象がそれと同等まで拡大されてきていますが、市場に出回っている化学物質は 6 ~ 7万種ともいわれており、殆どが毒性がわからないまま使用されているのが現状です。従って発生源対策などばく露防止をしっかり行うことが肝要です。

また、ある化学会社で実施した退職者を含む発がん調査や実際の化学物質取り扱い記録を紹介しました。

後半は参加者の職場にある化学物質について伺っていきました。病院・建設・公務・学校等の職場と化学物質との関係を話しました。
講演後の質疑では、身内の方が胆管がんになり後で聞いてみるとジクロロメタンを使用していたことや個人経営でのばく露は補償がないなどの問題点が指摘されました、また美容師さんで常時かゆみを訴えているケースなども紹介されました。

有機溶剤や顔料等にばく露した労働者が死亡。遺族と調査活動を開始しました

これは三重県で発生した事案ですが、40 代の青年労働者が様々な有機溶剤・顔料にばく露し体調を崩し、入退院を繰り返していましたが、昨年8月亡くなりました。職場の仲間が酷い労働環境に耐えかねて労組を結成し職場改善が進んでいた矢先のことです。当時の労組三役の「亡くなったのは職場環境としか思えない」という声におされご遺族が労災申請にむけて歩みはじめました。8月 17 日大学病院主治医への聞き取りに同行しました。