OSHA(米国・労働安全衛生庁)の新・記録保存規則「いくつかは改善、他の面では後退」/ NYCOSH Update on OHS,2002.2.7

特集/「労災隠し」と労災職業病の記録・届出

OSHA=Occupational Safety and Health Administration
NYCOSH=The New York Committee for Occupational Safety and Health

NYCOSH( The New York Committee for Occupational Safety and Health)  Update on OHS,2002.2.7

掲示は1ヶ月間から3ヶ月間へ

あなたは、自分の使用者のOSHA200記録様式がどこにあるか知っているか?
従業員11人以上の職場であって危険有害性の低い業種に該当しなければ、それを知っているべきだ。使用者は、2月1日から3月1日まで、それを掲示することを要求されていた。この記録用紙は、昨年中に職場で発生した労働関連傷害・疾病の概要報告である。
今年2月に、OSHA200様式を見たとすればそれは最後の機会になるだろう。なぜなら、OSHAが規則保存規則を全面的に改訂したからである。来年、使用者はOSHA300記録様式を掲示するはずで、それには、OSHA200様式よりもくわしい情報が含まれることになっている。

法律上は、どちらの様式の情報も、労働者が一年中いつでも閲覧することが可能なことになっているのだが、使用者はわずか1か月それを公に掲示することを求められているだけである。1か月間の掲示という要求事項は、今回改訂された点のひとつで、来年は、使用者はOSHA300様式を掲示し、それは1か月ではなく3か月間掲示板に貼られることになる。

改善、改悪「ごたまぜ」

「新規則はひとつの改善ではあるが、本来それがあるべきほど予防的なものにはなっていないという大きな問題はなお残されている」、とAFL-CIOのBill Kojolaは言う。
「『危険有害性の低い』業種のすべての職場の免除というのは、まったく不適切である。なぜなら、危険有害性の低い業種にも危険有害性の高い多数の職場があり、それらを確認することは難しくはないからである。それなのに、死亡事故以外の、多数の入院に至らない災害に関する記録を保存する要求事項のすべてを免除されてしまう。」

「OSHAの新しい記録保存規則には、いくつか歓迎できる面もある」と、NYCOSH副議長のSusanOBrienは語る。
「大きな改善のひとつは、掲示に関する要求事項である。労働者は、自らの職場の労働災害・職業病記録を吟味することによって多くのことを学ぶことができるし、労働者にはいかなるときでもそれらの記録を調査する権利がある。しかし、多くの労働者は、使用者の反感を買うことを恐れて、その権利を行使しようとはしていない。記録を1か月間掲示するというOSHAの要求事項は、労働者が傷害・疾病情報を見る権利を有していることを思い出させるのに有用であったが、記録の掲示がわずか1か月間、それの年のうちの最も短い月だけだったという事実は、労働者がその権利を行使するのが困難だということをも思い起こさせるものであった。」

使用者は、すでに1月1日から、新しいOSHA300記録様式に労働関連傷害・疾病を記録し始めることを求められている。この情報は、2003年2月に始めて掲示されることになるが、労働者には、合理的ないかなるときでも使用者のOSHA300様式を調査する権利がある。新しい記録様式とその背景にある記録保存規則は、いくつかの点で昨年存在していたものと大きく異なっている。

いくつかの面では新規則は改善だが、他の面では後退している。だから、これはごたまぜだ」、とO’Brienは言う。

マイナー疾患は記録除外

後退のひとつの例は、労働関連疾患に関するものである。
旧記録保存規則では、使用者は、労働関連疾患ごとに記録することを要求されていた。
新規則では、使用者は、1万件以上にのぼる呼吸器系の炎症や皮膚炎などの、重篤性の少ない疾患の記録は保存しなくてよいことになっている。

「OSHAが『マイナー』な疾患を記録保存の要求事項から除外したことに対しての言い訳はない」、と産業医のRobin HerbertはNYCOSHに語っている。
「ニューヨークで今まさに、ロワーマンハッタンにおける職業曝露の結果としての咳や発疹を含む、多彩な症状を呈している何百人もの人々を見ているのである。グラウンド・ゼロ(ワールドトレードセンター跡地)の労働者がそのような咳をするようになったとすれば、職業病であることは明らかである。にもかかわらず、それが休業や薬物治療が必要なほど重いものではないという理由で、記録されないことになってしまう。きわめて現実のものであるがとりわけて重篤ではない状態に関して、記録を保存しない道を選ぶことによって、OSHAそしてこの社会が、健康によくない作業条件による医学的影響に関する、貴重な莫大な情報を失いつつあるのである」。

OSHAは、新規則のもとで、旧規則では記録されていた10万件にも及ぶ職業病の事例を、使用者が毎年省くことができると推計している。

筋骨格系障害チェック条項1年間延期

新記録保存規則の際だった他の2つの欠点は、当初2001年1月のクリントン政権の最後の週に公布された規則の2つの条項を、少なくとも1年間遅らせるというブッシュ政権の決定の結果によるものである。
当初の原文では、新規則は、労働者が持続する労働関連筋骨格系障害(WRMSD)にかかった場合に、使用者が□にチェックすることを要求する欄を含んだ、傷害・疾病記録様式の節を求めていた。労働省は、たとえWRMSDの事例があっても、WRMSDの欄は空白のままにしておくよう指示している。

「われわれは職業性MSDの大流行のさなかにいる」、と合同食品・商業労働組合安全衛生部長のJackieNowellは言う。「OSHAに系統的にそれを計測させるのに何年もかかって、ようやくこの問題に対処する手掛かりが得られたのに、OSHAは今では『ノー、数えない』と言っている。これが、彼らが[MSDの]数は減ってきていると言える理由である。私は、[OSHAの長官John]Henshawと会い、これは極悪非道なことだと彼に言った。

彼は、『これは1年間だけのことだ』と言った。『1年間だけ』の間に何千人ものわが組合員と何十万人もの他の労働者が、障害をもたらす可能性のあるMSDにかかり、そのうちのかなりの者が結果的に永久的な障害を残すことになる。それでも、1年間『だけ』だと言うなら、われわれも了承することになっているのだと考えよう。」

難聴についても1年延期

少なくとも1年間延期されることになった新規則のもうひとつの節は、労働関連難聴の定義に関するものである。OSHAの騒音曝露基準のもとにおいて、使用者は、永久的聴力喪失を引き起こす可能性のあるレベルの騒音に曝露するかもしれない労働者の聴力検査を行うことを求められている。同規則は、低レベルの音を聞き分ける能力が10デシベル低下するという「10デシベル閾値変化」を生じた労働者が見つかった場合に、使用者に、さらなる傷害を予防するための是正措置を講ずることを要求している。10年近くの間、10デシベル変化の生じた労働者を防護するために使用者が特別の対策を講じるという要求事項と、記録すべき聴力喪失を、聴覚感受性喪失の2倍以上に当たる25デシベルの変化と定義したOSHAの記録保存規則との間に、乖離が存在していた。当初の新記録保存規則では、記録が必要な聴力喪失の定義が、騒音曝露基準自体と合わせるように変更されていた。現在OSHAは、この記録保存に関する変更の執行を、少なくとも1年間遅らせることにしている。
「これは労働者の聴力にとって本当に危険なことだ」、と耳鼻科の臨床医でニュージャージー州イーストブラウンシュヴァイクの言語・聴力科学センター所長のEIlen Kellyはコメントする。
「いったん聴力喪失というレベルになったら、元には戻らない。OSHAは、10デシベルの変化が、一層の悪化を予防するために使用者に何かを求めるのに十分であることを理解している。それなのに、OSHAは、重要な聴力喪失を様式に記録するよう求めずに、どうして使用者に適切な行動をとることを保障することができるだろうか?OSHAは何年間も、記録保存規則を騒音曝露基準にいつ合わせるのかと問われて『すぐにも』と言ってきた。改訂をもう1年遅らせるというのは、まったく理解できない。

安全センター情報2002年6月号