「労災隠し」対策で厚生労働省懇談会:労使の現状認識は真っ二つ?
『安全スタッフ』Nα1879は、以下のように報じている。
厚生労働省が平成13年度施策の柱のひとつに掲げている「労災かくし対策」の件で、昨年12月14日、第1回目の懇談会(労災報告の適正化に関する懇談会)が開催された。日経連と連合の担当者それぞれ1名ずつと、労災かくしがとくに多いとされる建設業界からは、全建総連と個別企業(ゼネコン)の双方からそれぞれ担当者1名ずつが出席した。
『安全スタッフ』Nα1879
この懇談会が設置された理由は、二次健診給付制度を創設するために労災保険法の改正が行われたおととしの国会にさかのぼる。当時、国が同時に行った建設業のメリット率変更措置(30%を35%に)について衆議院労働委員会は「…いわゆる労災かくしの増加につながることのないように、…制度運用に万全を尽くすこと」と附帯決議を付けたため、厚生労働省は今年度の行政施策のなかに対策を盛り込んだ。
対策を具体的行動に移したのが今回の懇談会で、同省の担当課長補佐によると、「初回はおもに現状認識について話し合ってもらった」としている。
しかし、労使の認識は真っ二つに割れたという。「少なくともゼネコンに限っては労災かくしなんてない。防止マニュアルまで作って対策を行っている」とする使用者側に対し、労働側は「災害の多寡が金銭面に跳ね返るメリット制が労災かくしの温床になっており、使用者主導の労災かくしがないとは言わせない」と訴え、互いの主張は平行線をたどった。
安衛法第100条に基づく安衛則第97条は、労働災害が発生した場合に所轄労働基準監督署長への報告を義務づけているが「労災かくし」はこの報告の際に災害の発生場所や責任の所在を偽る「虚偽報告」と、災害の事実それ自体をなかったことにする「報告せず」の双方を指していう。ある土木会社の担当者は行為の背景について「どの現場でも目にする”○○時間無災害継続中”のプラカードが与える心理的圧迫感があるかもしれない」とも指摘する。厚労省は「年間におよそ80件ほどそうした事実を摘発している」というが、「氷山の一角に過ぎない」とも半ば公然と語られているのが現実だ。
懇談会は、同省労災管理課長の私的研究会の位置づけで、今後、一定期間常設する。メンバー間のスケジュールを調整しながら不定期に開催する方針。「フリーに話し合ってもらう中で一定の方向性を明らかにし、必要な措置について検討していただく」(厚労省)としている。
同誌資料版No.213では、ゼネコン各社からの委員からなる「建設労務安全研究会労務管理部会労働災害等報告に関する小委員会」が、昨年10月31日付けで作成した「いわゆる『労災かくし』の排除のために」という小冊子を紹介しているが、記事中の使用者側発言の「防止マニュアル」はそのことと思われる。
安全センター情報2002年3月号