サムソン半導体女性労働者の乳がんを改めて労災認定:パノリム声明 2020年5月18日/遺伝子検査で家族性を否定

乳がんを発症し、一度は労災認定を拒否されたサムソン半導体女性労働者Aさん。
2歳年下の妹が同じ乳がんであったことで、「家族性の乳がん」という理由で業務外とされた。ところが、その妹も同様のばく露歴があった。Aさんはあえて遺伝子検査を行い、家族歴に否定的な結果を得たことで再申請し、今回は労災認定された。
しかし、疾病の因果関係は、ばく露のある・なし、ばく露の程度によって疾病の発生率に差があるかどうかで判定するべきもので、こうした、明らかなばく露歴がある姉妹の同一疾病発症を「素因」と決めつけて業務外と判断することは、誤りだ。
パノリムは、Aさんの今回の業務上判断における認定当局に認定の在り方の「厳格すぎる判断」の傾向を批判し、本来、労働者保護の立場からの認定を行わなければならないと声明を出した。このことは、労災補償制度の本旨であり、国を問わず共通の原則であるべきものだ。遺伝子検査をするまでもなく、最初から業務上と判断するべき事案であったといえるだろう。以下、パノリムの声明を紹介する。

Aさん産業災害認定に対するパノリムの立場
家族歴に疑い=産業災害不承認?
産業災害保険は厳格な判定の態度を変えて
社会的安全網として機能しなければならない

Aさんはサムソン半導体のプチヨン富川工場の拡散(ディフュージョン)工程で、7年以上働いた。そして退社から9年経った満33才の時に、乳癌と診断された。Aさんが働いた半導体工場の環境には、乳癌発生の蓋然性があった。Aさんは若い頃に夜間交代勤務をし、有機溶剤を含む数多くの化学物質に暴露することがあったため、2019年1月に、パノリムと一緒に産業災害の申請を行った。
2019年5月、勤労福祉公団(疾病判定委員会)はAさんの乳癌に対して、産業災害ではないという判定を行った。産業災害が不承認とされた主な理由は、Aさんの乳癌の家族歴だった。Aさんの2才下の妹のBさんも同じ年に乳癌に罹ったので、産業災害ではなく、個人的な疾病と見るべきだということだった。

産業災害保険が、家族歴を根拠に不承認とすることは適切なのか? 家族歴があっても、単に遺伝子のせいで癌に罹るわけでもなく、誰もが100%、癌に罹るわけでもない。家族歴は単に癌に罹る可能性が高いことを意味するだけだ。そして、Aさんのように家族歴と同時に職業的な有害要因への暴露がある場合、二つのうちのどちらがより大きく作用したのかを確認する方法もない。すなわち、家族歴は職業病の可能性を否定するものではない。
それでも今まで、勤労福祉公団では、家族歴は産業災害不承認の強大な根拠になった。家族歴があれば、職業的な有害要因などの他の事情は簡単に見過ごされた。更に、Aさんと妹のBさんには、二人とも職業病の可能性があった。Bさんもやはり半導体労働者として働き、Aさんとよく似た有害環境に暴露したからだ。しかし、勤労福祉公団は、姉妹が乳癌に罹ったという、その部分にだけに注目して、AさんとBさん、いずれも産業災害ではないと判定した。

このような勤労福祉公団の判定の根っこには、産業災害に対する厳格な定規がある。産業災害保険は、極めて確実なケースに対してだけ、狭く支援すべきだ、ということだ。しかし、厳格な基準は学術的な論文には適切だろうが、社会保障制度には適切ではない。産業災害保険は、働いて負傷した人たちに対する最小限の社会的な支援だ。厳格な定規で、多くの人たちを社会的な安全網から排除することが、正しい判断か? 大法院も産業災害保険はその趣旨に合うように、厳格な医学的な自然科学的な判断でなく、より幅広い規範的な判断をすべきだと判示したことがある。

Aさんに対する産業災害不承認は、被害者個人にも、社会的にも、妥当でない処置であった。そのためパノリムは、2019年10月に産業災害を再申請した。再申請を準備しながら、Aさんは遺伝子検査まで受けた。以前の申請と変わりがなければ、家族歴の問題が再び提起されることが明らかだったからだ。幸いAさんの場合、遺伝子検査(BRCA 1/2)で変移がないという(=家族歴ではないという)所見が出てきた。パノリムはこれを根拠に、勤労福祉公団に、Aさん産業災害の可否を再び判断して欲しいと要求した。2020年4月、再びAさん産業災害を判断する判定会議が開かれ、今回の結果は産業災害の承認だった。

遺伝子検査の結果があったのに、再申請の判定では、家族歴の主張は依然として強力だった。「それでも家族歴の可能性がある」ということだった。結果は産業災害承認だったが、判定書では極めて留保的な文面に整理された。『家族歴の可能性が完全にないという訳ではないが、遺伝子検査の結果を見れば、家族歴だと断定するのは難しい(原文のままではない)』。このように、現在の産業災害の判断での家族歴の主張は厳格に判断しなければならないという態度は、余りにも強固に存在している。
Aさんは結局産業災害と認定されたが、その過程はあまりにも険しかった。今、産業災害保険は、働いて負傷した人を余りにも簡単に安全網から排除する。厳格に、狭く判断する過程で、家族歴、既往歴、暴露レベル、研究不足など、様々な要素が安全網の「穴」として作用している。産業災害保険が社会的な安全網なら、何よりその目は細かくなければならない。産業災害の判断基準は、できるだけ狭めるのではなく、できるだけ排除される人がないように拡げなければならない。被災した人が単に産業災害保険を受けるためだけに、Aさんのような険しい道のりを通らなければならないとすれば、そこには何か問題がある。

2020年5月18日
半導体労働者の健康と人権守り(パノリム)

産業災害を承認された被害者Aさんの感想

これ以上職業病の被害者が出ないように、サムソンはもちろん、政府次元での積極的な安全対策が緊急で、また産業災害が承認されるまで苦しく戦わなければならない過程には、精神的、肉体的に苦痛が伴います。既に故人になったり、職業病による障害で困難な境遇にある多くの人たちに、より確実な手続きでの迅速な補償と、今後このような被害者がなければ良い、というのが希望です。

パノリムのサイト

http://cafe354.daum.net/_c21_/bbs_read?grpid=1C6KM&fldid=MHzN&contentval=0009Nzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz&datanum=581&regdt=20200518154605