悪質な労災隠しの違法追及:みなとみらいの地下鉄工事/神奈川
1997年1月21日、Hさんは、横浜市のMM(みなとみらい) 21線の大通り付近の地下鉄エ事で左腕を複雑骨折する重傷を負った。しかし、Hさんの労災事故の死傷病報告書が遅延理由書とともに横浜南労働基準監督署に届けられたのは、事故が起きてから1年も経過してのことだった。これで結果的には、事故の補償は労災保険で支払われるようになった。
しかし、Hさんは「それは約束が違う!」と大いに腹を立てた。というのも、無事故無違反で表彰されるまでは労災隠しの片棒を担がせておきながら、 治療が長引き後遺症も残ることがわかると、手のひらを返したように補償を打ち切って労災保険に切り換えようとした元請ぐるみの身勝手なやり方に憤慨したのである。左腕の骨をグシャグシャに潰されただけでなく、危うく命まで落としかねない状況に追い込まれたHさんにとって、あぶく銭を積まれて事故の原因をウヤムヤにされたくないという怒りで
もあった。そして、Hさんは、無資格者に玉掛けの作業をさせていた労働安全衛生法違反の事実を労基署に告発申告することを決断した。
死傷病報告書では、クレーンでブラケットを投入中に吊り荷がH鋼に引っかかって、外そうとしたところブラケットが荷崩れを起こして、下にいたHさんに落下したと、その事故経過が書かれている。
しかし、事故の直接の原因が、危険な2段吊りでブラケッ卜が吊るされていたこと。しかも玉掛け作業の主任者であれば絶対にしない番線でブラケットを縛る方法で行い、それが切れたことにあることは、Hさんが口止めされたままだったら労基署も見逃していただろう。このことは、Hさんの申告に基づいて、横浜南労基署が調査し、玉掛け作業の無資格者就労を労働安全衛生法違反で是正勧告したことで実際にも明らかになった。
Hさんの複雑骨折はその後症狀が固定し、障害等級6級の認定を受けた。Hさんは神奈川シティユニオンよこはまに加入し、同組合と神奈川労災職業病センターとともに元請である大手ゼネコンの錢高組と一次下請けの総成興業、二次下請けの鈴木組に対して損害賠償請求を行った。労基署から是正勧告を受けたこともあり、元請の対応も早くHさんは一発回答でほぼ要求額に近い補償をかちとることができた。
夢のみなとみらい21世紀のかけ声とは、裏腹に工期の遅れが取り沙汰されている工事の現場で、こうした事故が巧妙に労災隠しされていることに労基署をはじめ関係者はもっと目を光らせていかなければならないと思う。
安全センター情報1999年1・2月号