アスベスト指令の実施の支援に関する通知/European Commission, C(2025)4000 final, 2025.12.18

指令2023/2668により改正された労働におけるアスベストへの曝露に関連したリスクからの労働者の保護に関する指令2009/148/ECの実施の支援に関する欧州委員会からの通知

1 はじめに

2021-2027年EU労働安全衛生戦略的枠組み(「EU OSH戦略的枠組み」)は、労働者の労働における健康と安全の高水準の保護の権利を扱った欧州社会権の柱の原則10を具体的な行動に移すことを目的としている。EU労働安全衛生戦略的枠組みにおける優先課題のひとつは、アスベストへの労働関連曝露に対処することであり、これにより同枠組みの主要目標である労働関連死亡・疾病の防止に貢献することをめざしている。
がん撲滅は欧州連合の最優先課題のひとつである。委員会は、アスベストなどの発がん性物質への曝露を効果的に低減することを約束しており、それゆえ欧州がん撲滅計画の目標に沿ってがん予防に大きく貢献している。
アスベストは危険な発がん物質であり、曝露リスクが依然として高いままの様々な部門で多くの労働者に影響を与え続けている。それには、建設、鉱業、採石業、土木工事、廃棄物管理、船舶・列車・航空機・車両・機械の保守、消防などの緊急サービスなどが含まれる。EU域内で依然として410万から730万人の労働者がアスベストに曝露されていると推定されている。
アスベストへの職業曝露は、深刻な健康被害をもたらすことが知られている。吸入された空気中のアスベスト繊維は、中皮腫や肺がんなどの重篤な疾患を引き起こす可能性がある。曝露から最初の症状が現われるまで平均で30年を要し、これらの疾患は最終的に労働関連死亡に至る可能性がある。アスベストへの曝露はEU域内における職業がんの主要な原因であり、加盟国でこの曝露に関連すると認められた職業がん全体の78%、職業性肺がんの88%を占めている。
アスベストは数十年にわたり欧州全域で、とくに建設部門をはじめ多様な用途に広く使用され、公衆衛生への脅威を継続させるとともに、曝露労働者に対する安全で健康的な職場環境の確保を阻害する遺産を生み出した。エネルギー効率化改修がその目標達成に不可欠であることから、欧州グリーンディールの文脈において、アスベストへの曝露からの労働者の保護の強化がとくに重要である。改修の波戦略は、2030年までに年間エネルギー改修率を倍増させることをめざしている。しかし、エネルギー性能の低い建物の多くにはアスベストが含まれているため、改修率を加速させると、改修作業中に建物内のアスベストが放出される可能性があり、アスベスト関連の健康リスクに曝露する人々の数が大幅に増加するおそれがある。アスベストに曝露する労働者の数は、2030年まで毎年4%増加すると予測されている。曝露リスクを管理するためのさらなる対策は、労働者を疾病から保護し、その健康増進を図り、欧州健康連合の強化に寄与するためにきわめて重要である。
過去40年間にわたり、欧州連合は、アスベストの使用を当初は制限し、最終的には全面禁止する重大な措置を講じてきた。1983年から1985年にかけて、6種類のアスベスト繊維の使用を制限した。1991年には、これらうちの5種類の上市及び使用、並びにとくに建設部門で広く使用される製品におけるクリソタイルアスベストの使用を禁止した。指令1999/77/ECは、6種類のアスベスト繊維すべてについて使用及び上市を禁止し、この禁止は2005年に発効した。この指令は、欧州議会及び理事会の2006年の規則(EC)No 1907/2006によって廃止され、意図的に添加されたアスベストは引き続き禁止されている。その付属書XVIIXの項目番号6は、アスベスト繊維、並びに(アスベスト繊維が意図的に添加された)混合物及び物品の製造、上市、及び使用が、EU域内で禁止されることを規定している。労働におけるアスベストへの曝露に関連したリスクからの労働者の保護に関しては、欧州議会及び理事会指令2009/148/ECにより提供されており、同指令は理事会指令83/477/EEC、 理事会指令91/382/EEC並びに欧州議会及び理事会指令2003/18/ECを体系化及び廃止したものである。
いまもなお欧州連合は、加盟国が質の高い雇用を創出し促進するとともに、労働者の安全と健康を守るための公正な労働条件を改善することを支援する強い決意を堅持している。2023年の指令2009/148/ECの改正はこの目標を中核に据えている。欧州議会及び理事会指令2023/2668による欧州議会及び理事会指令2009/148/ECのこの最新の改正は、(0.1繊維/立方センチメートルから0.01繊維/立方センチメートルへ)アスベストについての職業曝露限界を改定したものであり、とりわけこの高度発がん性物質からの労働者の健康と安全のより高いレベルでの保護の実現を助ける。本通知に付随するガイドラインは、アスベストのない未来に関する委員会通知[2022年12月号]及び指令2009/148/ECの改正[2023年12月号]のフォローアップとして提示される。
この点に関連して、指令2009/148/ECを改正する指令2023/2668(EU)の理由29は、その発効日から遅くとも2年以内に、指令2009/148/ECの実施を促進するためのガイドラインを策定及び発行することの重要性を強調している。
本ガイドラインは、この有害物質を実際にどのように取り扱うべきかの具体例を示すことで、労働者をアスベスト曝露からより効果的に保護する必要性に対し、最終的にEUがより効率的に対応することを可能とする。また、とりわけEUの枠組みや規則を簡素化することで意思決定の速度と質を高めることを規定したEU競争力コンパスの目標達成にも寄与する。さらに、本ガイドラインは、委員会の実施及び簡素化に関する通知で設定された目標にも寄与する。具体的には、指令2009/148/ECで言及されている規則をより明確にし、理解しやすく、関係者が迅速に実施できるようにすることで、同指令の実施を改善するものである。

2 目的

アスベスト取り扱いに関するEUレベルのガイドラインは、企業の遵守を促進するとともに、加盟国の執行努力を支援することを目的としており、その包括的な目標は労働者の保護にある。加盟国、使用者(とくにアスベストに関わる企業の99%を占める中小企業)、社会パートナー、及び労働者は、遵守を確保するためのこの追加的な支援から恩恵を受ける。
本ガイドラインの目的は、以下のとおりである

  • 2023年の指令2009/148/ECの改正を含め、最近の法的、科学的及び技術的進展を踏まえ、関係者が労働におけるアスベスト関連の健康及び安全リスクを管理することを支援すること。
  • 使用者及び労働者に対してアスベストを含有する物質を取り扱うリスクに関する認識を高めること。
  • 職場におけるアスベスト管理戦略の概要を提供することにより、加盟国全体でのグッドプラクティスの採用促進を図ること。
  • ガイダンスへのアクセス格差を縮小するため、ガイダンスが不足している加盟国を含む、EU全体の関係者にグッドプラクティスに関する追加情報を提供すること。

本ガイドラインは、労働におけるアスベスト管理のグッドプラクティスの概要を示し、労働者の曝露を低減する実践的な方法を概説するものである。本ガイドラインに示されたグッドプラクティスは、事例として提示されるものであり、EUの労働安全衛生法規を実施する唯一の手段とはみなすべきではない。本ガイドラインは、規模を問わず、公的及び民間双方の、あらゆる種類の組織を対象として設計されており、幅広い部門に適用される。
労働組合、使用者団体、企業、国家機関及び労働安全衛生専門家を含め、すべての関係者は、本ガイドラインを可能な限り広く活用し普及させるよう奨励される。

3 構成

本ガイドラインはモジュール形式で構成されており、読者が特定の関心事項に焦点を当てられるよう配慮されている。内容は2つのパートに分けられる。

  • 初めの12章は一般的な主題を扱い、あらゆる曝露状況に適用されるアスベスト管理全般に関する情報を提供する。
  • 後の5章は特定のアスベスト曝露状況を対象として、アスベストを安全に扱う方法に関する部門別ガイダンスを提供するとともに、必要に応じて一般的な章を参照する。

4 関係者との広範な協議

本ガイドラインは、労働組合、使用者団体、企業、国家当局及び労働安全衛生専門家など、幅広い関係者の積極的な関与のもとで策定された。これには以下が含まれる。

  • 加盟国、EU及び国際レベルで存在する187のガイダンス文書を特定し、そのうち91件を関連性が高いと判断して評価及び詳細に検討
  • ガイドラインの対象分野ごとに焦点を当てた10回のオンラインワークショップを開催(参加者総数850名以上)
  • ガイドライン初稿に対する意見募集を実施し、多様な分野の130以上の関係者から500件以上の回答を得た
  • グッドプラクティスの事例研究作成そのために、関係者と数多くの協議を実施
  • アスベスト曝露状況や活動が幅広い関係者を対象に、9件の現場訪問を含め20件のパイロット協議を実施

広範な協議により、本ガイドラインは、 最新の知見に基づき、実用的かつ現実的であり、利用者の期待とニーズに応えるものとなっている。
本ガイドライン策定のプロセスには、労働安全衛生に関する三者構成諮問委員会の化学物質作業部会に所属する各国政府、使用者及び労働者団体の代表並びに関連する欧州委員会部門が密接に関与した。
5 発行及び普及
本通知はEUR-lexウェブサイトに掲載される。本通知及び付随するガイドラインは、欧州労働安全衛生機関のウェブサイトにも掲載及び提示され、上級労働監督官委員会、欧州社会パートナー(労働組合及び使用者代表)、労働安全衛生諮問委員会を通じて普及及び促進される。
https://employment-social-affairs.ec.europa.eu/document/3d255c84-c216-40f0-aacb-09e122fd07fa_en

安全センター情報2026年3月号