同じ職場での相次ぐ労災事故/スリランカ人2人の労災障害認定●群馬
昨年夏、日本語が話せる在日スリランカの仲間に伴われて、仕事でケガをして闘っているというスリランカ男性2名の相談を受けた。
Pさん(30代)は右手指三本を失い、Jさん(40代)は骨折後に変形した左手二指が硬直して曲げられない状態になっていた。2人は一昨年春に来日し難民申請した。申請後すぐ就労を認められなかった2人だが、生活に困って群馬のとある工場で働きはじめることになった。田んぼの広がるのどかな風景のなか、木陰にひっそり建っている古びた工場で、大袋に詰め込まれた使用済みプラスチック破片を機械でより細かく粉砕し、金属とプラスチックにより分けて再度袋詰めする仕事だった。工場には2人の他にスリランカ、中間出身の労働者が複数働いていた。
最初の事故被害者はPさんだった。工場で働きはじめて数か月経ったある日、Pさんは機械開口部に手を入れて内側を清掃しようとしていた。ところが、なぜか止まっていたはずの機械内のファンが回転しはじめ、慌てたPさんが手を引き出したが、すでに左手の中指、薬指、小指が切断され、落ちた指を機械から回収することもかなわなかった。同僚たちはPさんを車に乗せて慣れない街中を2時間ほど走り回り、何とか病院に駆けこみ入院し手術を受けることができた。その後3か月ほど休業した。会社はPさんに仕事上のケガであることを口止めした。
Jさんの事故は、Pさんの事故から10日ほど後のことだった。Jさんは、材料の投入口に詰まったプラスチック破片を流そうと機械上部によじ登っていった。しかし、足をかけていた機械側面御段から足先がはずれ滑り溶ちそうになり、とっさに機械のコンベアベルトをつかんだところ、その手がベルトに巻き込まれ人さし指と中指を骨折してしまった。会社は、「病院では、家で車の修理中にケガしたと言うように」と指示した。手術を2回にわたり受けたものの、Jさんの指は曲げることができなくなってしまった。
在留資格の面で弱い立場に置かれたPさん、Jさんは一旦は会社の指示に従ったが、事故からほぼ半年後、いまからでも労災事故をさかのぼって手続できるかと相談に来た。労働法では事故当時の入管法上の在留資格によらず、実際に仕事をしたことで負ったケガや病気であるという事実をもって労災補償の対象となり得る。被害のひどさからも労災請求を行うことを勧めた。
問題の工場は7時~18時まで仕事、15分程度の昼休憩がもらう程度で、定休日も決められてないような有様だった。2人は毎日手書きで労働時間を記録したコピーと、事故のあった機械の写真を見せてくれた。本人たちが就労の事実を証拠としてしっかり確保している一方で、かなり悪質な会社が相手であると思われたため、地元の労働組合である交通ユニオンを紹介した。交通ユニオンの支援を受けて、労災請求後も、会社が労基署の問い合わせに逃げ回りずいぶん時間を要したが、先日、三本の指を失ったPさんには障害補償の輝害等級8級、指が曲がらなくなったJさんには10級というかたちで認定された報告を聞くことができた。
文・問い合わせ:東京労働安全衛生センター
安全センター情報2025年11月号


