2025から2029年までの間のIARCモノグラフに関する優先順位を勧告する諮問グループの報告書/International Agency for Research on Cancer (IARC), 2024.11.4
【発表記事】
国際がん研究機関(IARC)は、2025年から2029年までのIARCモノグラフの優先順位を勧告する諮問グループ会議の結果報告書がオンラインで公開されたことをお知らせする。
諮問グループは、感染性因子、生物毒素、複合曝露、粒子及び繊維、金属、医薬品、物理的因子、並びに多様な化学物質を含む200を超える候補因子を検討した。各因子について、諮問グループは、IARCモノグラフの序文で説明されている方法に従って、ヒトの曝露、ヒトにおけるがん、実験動物におけるがん、及び発がんメカニズムに関する証拠を検討した。優先順位は、ヒトの曝露についての証拠の強さ、及び利用可能な発がん性データが新たな評価または評価の更新を支持できるかどうかに基づいて決定された。因子は、高優先度、中優先度、または優先度なしの評価を付けて勧告された。
※https://www.iarc.who.int/news-events/advisory-group-recommendations-on-priorities-for-the-iarc-monographs-during-2025-2029/
【報告書本文(抄)】
057 アスベスト(CAS No.132207-32-0)
現在のIARC/WHOの分類
アスベストは、IARCにより、直近では2009年のIARCモノグラフ第100C巻(IARC, 2012c)で、ヒトに対して発がん性あり(グループ1)として分類された。すべての種類のアスベストへの曝露が、中皮腫及び肺、喉頭、卵巣のがんを引き起こす十分な証拠がある。咽頭、胃、結腸直腸のがんについての証拠は限定的であるとされた。WHO加盟国がクリソタイルアスベストへの曝露の健康リスクを管理するのを支援するために、WHO報告書が発行された(WHO, 2014)。
曝露の特徴
アスベストは、蛇紋石系及び角閃石系の天然鉱物シリカ繊維のグループに対する一般的な商業名称である(IARC, 2012c)。アスベストの過去の曝露状況は、IARCモノグラフ第100C巻及びそれ以前の巻で特徴付けられている(IARC, 1973, 1977, 1987a, 2012c)。多くの国でアスベストのほとんどの使用が禁止されているにもかかわらず、禁止措置を実施していない国でのアスベストの広範な使用の継続(Linら, 2019)、及び、建築物や車両の建設に使用された遺産物質のために、アスベストの曝露は世界中で継続している。したがって、WHOは、1億2,500万人の人々が職業上アスベストに曝露していると推計しており(WHO, 2018)、また、居住曝露も生じ続けると予想されている。
ヒトにおけるがん
IARCモノグラフ第100C巻(IARC, 2012c)のための2009年の会合以降、中皮腫または喉頭、肺、卵巣のがん以外の種類のがん、とりわけ消化管全域のがんとアスベストの関連性に関して、数十の研究が発表されており、それらの結果がここでの焦点である。アスベストへの職業曝露と食道がんとの関連性についてのメタアナリシス(Liら, 2016b)では、20件のコホート研究におけるメタ-SMRが1.24(95%CI、1.13~1.38)であった。アスベスト職業曝露後のCRCに関するメタアナリシスでは、メタ-SMRが1.16(95%CI、1.05~1.29)であり、肺がんリスクの上昇も認めた研究(Kwakら,2019)よりも高かった(メタ-SMR、1.43;95%CI、1.30~1.56)。その後、ロシア連邦のアスベスト市におけるクリソタイルアスベスト労働者の大規模コホート研究(Schüzら, 2024)で、男性について粉じん・繊維曝露範疇にまたがって胃及び大腸のがんの一貫性のない増加が観察され、女性については有意な差は観察されなかった。イタリアの51のアスベスト曝露コホートをプールした研究(Ferranterら, 2024)では、膀胱がんの率の上昇が認められたが、口腔、咽頭または消化器のがんについては認められなかった。
アスベスト曝露と肝内胆管がん(ICC)との関連についても、新たな証拠が現われている。イタリアにおける人口ベースの症例対照研究(Brandiら, 2013)では、職業的に曝露した群において、曝露したことのない群と比較して、ICCのリスクの上昇が観察されました(調整OR、4.8;95%CI、1.7~13.3)。ノルディック職業がん(NOCCA)コホートにおけるネステッド症例対照研究(Farioliら, 2018)では、アスベストの累積曝露(年15.0繊維/mL以上、曝露したことのない群と比較して;OR、1.7;95%CI、1.1~2.6)とICCのリスク増加が報告された。台湾の船舶解撤労働者において、アスベスト高暴露群で肝内胆管がんのリスク増加が認められた(HR、1.60;95%CI、1.08~2.36)。ICC患者を対象とした最近の症例集積研究では、小管型(sd-ICC)及び大管型(ld-ICC)の形態学的亜型に分類した結果、sd-ICCはld-ICCよりもアスベスト曝露との関連性がより高い可能性が示唆された(Vasurirら, 2023)。
メカニズムの証拠
IARCモノグラフ第100C巻(IARC, 2012c)及びその他の研究(例えばKobayashiら, 1987;Ehrlichら, 1991;Brandi and Tavolarir, 2020)で議論されているように、アスベストが呼吸器系以外の組織に到達する可能性を示す証拠がある。肺外組織におけるアスベスト繊維を調べた12の研究の最近のレビュー(Caraballo-Ariasら, 2023)では、サンプルサイズ、繊維濃度及び計数方法に大きなばらつきが認められたものの、胃、小腸、膵臓、脾臓、大腸、肝臓、胆嚢、腎臓、膀胱、及び腹部リンパ節の10の腹部臓器及び組織でアスベスト繊維が検出されたことが確認された。
要約
アスベストと肺外臓器及び組織、とりわけ消化管におけるものとの間の因果関係についての証拠は、最後の評価以降、さらに強まっていると思われる。消化管内での曝露の可能性も付随して高まっている。そのため、諮問グループは、アスベストに関するIARCモノグラフの再評価が適切であると判断した。
勧告:高優先度
(5年以内に評価が可能)
安全センター情報2025年7月号