住宅・商業建物における積極的なアスベスト除去のための政府が支援するインセンティブの選択肢/豪:アスベスト・シリカ安全・根絶機関(ASSEA), 2025.1.20

要 約

2024~2030年アスベスト国家戦略計画(ANSP)の主要な目的のひとつは、建造環境から安全で合法的にアスベストを除去する率を増加させることによる、アスベスト関連疾患の根絶である。アスベスト管理・除去の選択肢の評価(Urbis報告書)は、アスベスト関連疾患による死亡を最大28,000件予防できる可能性のある、規制枠組みの改善及び政府のインセンティブを通じてアスベスト除去率を加速させることによる明らかな経済的・社会的利益を示している。
ANSPには、オーストラリア先住民の住居を含めた、住宅・商業不動産からのアスベスト含有物質(ACM)の安全な除去を促進するインセンティブを開発する諸政府の行動が含まれている。アスベスト・シリカ安全・根絶機関(ASSEA)は、管轄区域によってこのような計画[プログラム]に資金提供・実施する準備の段階が異なるであろうことを指摘しつつ、ANSP実施の一環として、政府がインセンティブを開発するのを支援するための調査研究を完了した。本報告書は、5つの主要なインセンティブの種類、各々の長所と短所、オーストラリア及び海外で活用されているそれらインセンティブ制度の事例に関する情報を提供する。また、アスベスト改善を含めるよう活用することができ、計画の管理・費用を削減することにより効率性を生み出す可能性のある、既存の政府による資金提供計画の概要も含んでいる。
本報告書は、アスベスト除去インセンティブ制度は、効果的に設計・実施されない場合には、例えば除去費用の高騰や安全でない除去作業など、さらなる危害や意図せぬ結果を招くリスクがあることを認めている。インセンティブ計画の設計時に考慮する必要のある諸要因が、過去の政府計画から得られた教訓に基づいて強調されている。それには、需要の増加に対応できるだけの、十分に訓練を受け、認可を受けたアスベスト除去業者や廃棄物処理施設の確保が含まれる。また、不動産所有者が望まれる行動を取ることを現在妨げている障壁を特定・除去することにも、当初から資源を投入する必要があるかもしれない。
本報告書は、諸[連邦・州・地方自治体等]政府が、独自のリスク評価、関係者との協議、費用対効果分析を実施すると仮定したうえで、積極的なアスベスト除去を促進するための具体的なインセンティブを計画及び開発、または既存の計画を活用するのを助けることを目的としている。インセンティブは、個別に、またはセットとして実施することができる。例えば、政府は、インセンティブの選択にリスクに基づくアプローチを採用して、リスクの高い劣化の進んだアスベスト物質を除去する大規模な計画を実施する一方で、リスクの低い状況では、無料のまたは補助金を付けたアスベスト廃棄物の処理など、相対的に低コストの計画が適当であるかもしれない。
インセンティブの設計及び実施をさらに支援するため、ASSEAは、どの金銭的イニシアティブが、自らの不動産から積極的にアスベストを除去するよう、オーストラリアの住宅所有者を促すかを判定するために、オーストラリア政府の行動経済学チーム(BETA)と提携した。この調査研究は、補助金など、自己負担費用を軽減するインセンティブが、住宅所有者にもっとも好まれることを確認した。BETAはまた、住宅所有者が支払うことのできる金額、及び、彼らのアスベスト曝露リスクの理解を含め、アスベスト除去に関するより幅広い意思決定についても調査した。BETAの調査による主な結果は本報告書に記載されており[省略]、BETAの報告書全文は、https://behaviouraleconomics.pmc.gov.au/projects/testing-incentives-encourage-asbestos-removal で入手できる。

なぜアスベスト除去インセンティブが必要か?

過去35年間にわたるアスベスト管理及び除去の改善にもかかわらず、アスベスト関連疾患(ARD)の発生率は予想どおりには減少していない。2003年のオーストラリアにおけるアスベスト全面禁止は、すでに設置されていたアスベスト含有物質(ACM)には適用されなかった。これは、20年が経過した現在においても、公共・商業建物、住宅やインフラに大量の遺産ACM(約620万トン)が残っていることを意味している。
オーストラリアの建物に存在するアスベスト製品は、30年から100年の間に製造されたものである。つまり、ACMは劣化しており、アスベスト繊維への曝露リスクが高まっていることを意味する。オーストラリアで、異常気象やその他の災害の頻度と激しさが増していることは、アスベスト繊維への曝露リスクも高めつつある。それら出来事のなかでACMが損傷・攪乱され、その後の清掃は危険が伴い、時間と費用がかかる。したがって、人々が生活し、働く建物内のACMの劣化により、公衆衛生上の曝露リスクは継続することになる。時が経つにつれ、アスベストは反応的に(例えば災害発生の後)、または、建物の解体・改修時のストック更新の一環として、ご都合主義的に、除去されるかもしれない。しかし、これは改善された規制改革や除去インセンティブの支援なしには、100年以上かかることが予想される。
ASSEAは、Urbis報告書で推定されたインセンティブ費用に情報を追加するとともに、住宅所有者にとってアスベストの除去、処分及び交換の費用が除去の最大の障壁であることを明らかにした、住宅・商業部門におけるアスベスト除去の増加を阻む障壁、動機、誘因及び選択肢に関する以前の研究をさらに拡張するために、国内外の様々なインセンティブ制度を調査研究した。
Urbis報告書は、政府によるインセンティブの実施により、規制枠組みの改善のみの場合よりも5年早い2068年までに、すべてのACMが建造環境から除去されるだろうと予測している。規制枠組みの改善にインセンティブを加えることによる健康上の利益の合計は、現在の貨幣価値で48億ドルと推定され、推定される追加の健康上の利益の7億ドル以上がインセンティブによるものとされている。規制枠組みの改善と政府のインセンティブを組み合わせることで、アスベスト関連疾患による28,000件の死亡を防ぐことができ、最大の質的効果をもたらすことができる。
BETAの調査研究は、多くの住宅所有者が自宅にアスベストがあるかどうかを知らないことを確認した。また、多くの者は、自宅にアスベストがあるかどうかを調べたり、または除去を検討したりするよう動機付けられていない。ほとんどの住宅所有者は、健康上の懸念よりも、リフォームをアスベストの発見・除去のきっかけとしている。これらの結果は、アスベストの把握と積極的な除去を奨励するために、金銭的インセンティブを含めることになるかもしれない、インセンティブのさらなる必要性を示している。

アスベスト除去インセンティブの政策目的

ANSPの目標との整合性を確保するため、政府のインセンティブ計画の政策目標は以下のとおりであろう。

  • 建造環境から安全で合法的にアスベストを除去する率を増加させることによって、アスベスト関連疾患の撲滅を促進する。
  • アスベスト除去についてリスクに基づいた優先順位付けを実施する。
  • 費用対効果に優れ、意図せぬ結果を回避する、アスベスト除去支援を提供する。
  • 計画の実施を、評価、除去、輸送、廃棄及び再構築活動を実施する業界の能力と調整する。

効果的なアスベスト除去インセンティブ計画の必要条件

住宅・商業建物からのアスベスト除去のための政府のインセンティブ計画が成功するためには、以下の条件が前提となる。

  1. Urbis報告書のオプション2Aで提案されたアスベストに関する改善された規制枠組み
  2. アスベスト除去業者と輸送業者の収容力・能力、アスベスト廃棄物処理施設の利用可能性・能力を含め、政府との間の関係者の協議、支援及び協力
  3. 計画設計では、潜在的な経済・市場の歪み・非効率性を考慮・緩和する。COVID-19パンデミック貿易・支援介入の経済効果に関する生産性委員会の報告書を参照。
  4. 計画による支払いは、認可を受けた専門家による安全で合法的なアスベストの除去、輸送及び廃棄の証拠を条件とする。
  5. 計画が、様々な不動産所有者の集団の異なるニーズ・動機に合わせた効果的な教育・コミュニケーションによって支援される。

成功を示す計画の成果

政府が支援するインセンティブ計画の成功は、以下のような成果がもたらすことができる。

  • 「建物内のアスベストは維持管理されていればその場に留めておくことができる」から「その場にあるアスベストは健康・財政上のリスクを増大させる継続的な負債である」へと政府、企業及びより幅広いコミュニティ内での考え方を変えることによって、建物からアスベストを除去する動機を生み出す。
  • 適切な資格を有する者からのアスベストリスクの管理・軽減に関するアドバイスの提供を通じて、住宅・商業建物に存在する具体的ACMと関連したリスクについて、不動産所有者を教育する。
  • リスク優先順位付けされたACMの除去、交換及び廃棄に対するインセンティブを不動産所有者にマッチさせる。
  • 地域社会またはLGA[地方行政区]レベルで、ベースラインの量に対する除去の時間枠・量目標を設定し、目標達成を積極的に監視し、目標未達成の理由や目標時期の再調整が必要な理由を文書化する。
  • 個々の不動産所有者が独自に交渉するよりも規模の経済性とよりよい価値を実現するために、資材の集中調達、取り引きの組織化及び/または作業の入札を促進する。
  • 計画の完全性を維持し、公的資金の慎重な支出を監督するための撤去後の保証プロセスを設け、不動産所有者に作業の品質と業界の慣行について安心感を与える。

インセンティブ・グループの概要

われわれの調査研究は、オーストラリア及び国際的な複数の計画にまたがる5つの主なインセンティブ・グループを確認した。最初の4つのグループは、Urbisの社会経済分析モデリングに含まれている。

  • アスベスト除去作業補助金
  • 不動産所有者に対する税金控除
  • 無利子/低利子ローン
  • 助成・リベート
  • 買い戻し・改善

商業不動産は、すでにWHS[労働安全衛生]法によりアスベストの登録・管理計画の作成が義務付けられていること、また住宅保有者について費用がしばしば言及される障壁であることから、インセンティブ・グループ①は、住宅不動産のみを対象とする。インセンティブ・グループ②から⑤は、住宅または商業不動産に適用できる。完全買い戻し計画(インセンティブ・グループ⑤)については、ACT[オーストラリア首都特別地域]のバラ詰めアスベスト対策委員会から指示的費用が公表されている。
インセンティブは、別々のグループとして示されており、単独のオプションとして実施することも可能であるが、様々な動機や社会的・経済的状況をもつ不動産所有者の集団に対して、それぞれに魅力的なインセンティブの選択肢を複数用意することが、アスベスト除去の積極的な実施につながり、[Urbis報告書の]オプション2Bに基づく除去期間の短縮を実現できる可能性が高いだろう。

1. アスベスト関連作業補助金

政府は、以下のように、様々なアスベスト関連作業の費用を全額資金提供または補助[subsidise]することができる。

  • 1990年より前に建てられた住宅を対象とした、無料または補助金付きの自主的なアスベスト調査(検査)。調査は、開発申請の申請により、または、他の作業中に潜在的なアスベストを業者が発見した場合、住宅所有者が積極的に行う場合、特定の不動産に対して地方自治体の年次課税通知が発行された場合、不動産が売却または賃貸された場合、をきっかけにして行われるかもしれない。調査結果の報告書には、勧告されるリスクランク付けされた管理措置が記載され、関連する政府機関に提出され、一元的に保管されるだろう。住宅所有者は、改善費用を支援するための財政的支援またはインセンティブを受けられる可能性がある。住宅所有者が合法的な除去・処分を証明する有効な証拠を提出した場合には、当該不動産は再検査され、保証されれば、適切な保証書類が発行される。
  • アスベスト廃棄物の無料または補助金付きの処分。例えば、少量の固着されたアスベストの道路脇での回収または認可を受けた廃棄物処理施設への無料持ち込みの許可)

長所

  • アスベスト調査は住宅所有者に、家屋内のアスベストに関する知識を増やし、ばく露を避ける方法についての意識を高める。
  • リスクに基づく除去勧告を含んだ調査報告書は、追加のインセンティブを付けて、またはなしに、住宅所有者に行動を促すかもしれない。
  • 認可を受けた除去業者による安全な除去後の適切な保証を受けることが、資産価値の潜在的な上昇による、さらなる動機付けとなるかもしれない。
  • アスベスト廃棄物の収集・持ち込みは、合法的なアスベスト処理を住宅所有者がより簡単かつ安価に行えるようにし、また、違法投棄による地域社会の健康リスクと地方政府の費用を低減する。これらの回避されたコストは、補助金サービス費用を上回る純利益を地方自治体にもたらすかもしれない。収集・持ち込みはすでに様々な地方自治体で実施されており、同様の計画のモデルを提供している。

短所

  • 調査費用の一部のみを対象とする補助金では、所有者が差額を支払うことができない、または支払う意思がない場合には、計画の利用を減らすかもしれない。
  • 調査により、低所得の住宅所有者が高リスクのアスベストを改善するのを助けるための財政的支援の必要性が明らかになるかもしれない。
  • 調査で高リスクのアスベストが明らかになることは、住宅所有者に潜在的な法的責任リスクがあることを通知することになり、住宅保険の有効性・費用にも影響するかもしれない。その代わりに、所有者は、自主的な計画を回避して、意図せずにアスベストのリスクに関する地域社会の意図的な無知・無視を強化することになるかもしれない。

事例:アスベスト関連活動補助金

オーストラリア
NSW自主的購入・解体計画

1989年住宅建築法に基づき、NSW[ニューサウスウェールズ]州政府は、検査の結果バラ詰めアスベスト保温材がみつかった住宅を対象に、NSWバラ詰めアスベスト保温材登録を維持している。この計画の初期段階には、特定の地方自治体管内の1980年代より前の不動産における、認可を受けた評価者によるバラ詰めアスベスト保温材の無料検査が含まれた。バラ詰めアスベストが確認された場合には、NSW州政府は、不動産の買収、解体及び改善を含め財政的支援を提供し、不動産所有者・入居者と協力する専任のケースマネージャーを提供した。自主的な買収を含めこの計画の一部は現在も継続しているが、不動産所有者は現在、バラ詰めアスベストを検査するために、自らの費用で認可を受けた評価者を雇わなければならない。
アスベスト廃棄物処理:リバプール市議会、パラマタ市議会、カンバーランド市議会は、それぞれの地方自治体管轄区域内の不動産から、最大10m2までの非飛散性の取り外されたアスベストシートを、無料で道路脇で回収する様々な計画を実施している。一部の計画では、不動産所有者が、認可を受けた除去業者により回収されるためにアスベストを道路脇に置くことを求めているが、取り外されたアスベストが不動産の敷地内から回収されるように手配する計画もある。ウエスタンオーストラリア州では、ビンセント市が、日曜日にタマラパークの廃棄物処理施設でアスベストの無料処分を提供している。住民は、包装されたアスベストを165kgまで処分でき、最大5回まで利用できる。ベルモント市は現在、毎年2日間の無料アスベスト持ち込み日を設け、その情報は市のウェブサイトを通じて地域住民に通知されている。計画は通常、時間限定で、収集予約制で提供されている。改修の一環として除去されたアスベストなど、一部除外が適用される。
イラワラ・ショールヘブン合同組織は、NSW EPA[環境保護庁]の助成によって賄われる無料アスベスト回収計画を試験的に実施した。住民は、最大10m2までの固着されたアスベストの無料の除去・廃棄を受けられた。認可を受けた除去業者がアスベストを回収・廃棄した。この計画では、83世帯から5.8トンのアスベストを回収し、合法的に廃棄した。この計画は消費者の気持ちを理解するうえでも有益な洞察をもたらし、調査対象となった84世帯のうち100%が、計画がなければアスベストを処分せず、敷地に保管していたと回答した。この計画は、需要が資金枠を上回るほどすぐに申し込みが殺到した。計画終了後の分析では、違法投棄が55%減少したことにより、参加自治体で大幅な費用削減が実現したことも判明した。ヤリャンビック市議会では、1kgあたり2ドルで、固着されたアスベストを25kgまで持ち込むことが許可されている。アスベストの梱包材も低価格で入手でき、また、PPE(個人用保護具)を備えた梱包テーブルが指定の移転ステーションに用意されており、住民はそこでアスベストを安全に梱包し、ラベルを貼ることができる。

ベルギー・フランダース

フランダース公共廃棄物庁(OVAM)が監督する、2018年フランダース・アスベスト除去行動計画は、フランダース地方の建物・インフラのアスベスト除去を目的としている。この計画のもとで、2034年までにACM屋根とファサードを除去し、その他の状態の悪いACMは2040年までに除去しなければならない。また、フランダース政府は、アスベスト証明書を中央データベースで管理することを義務付ける法改正を行う予定であり、現在の不動産所有者(下記参照)に2032年までにアスベスト・インベントリを完成させなければならないと知らせている。
2022年11月から、2001年より前に建設された建物の譲渡・賃貸を行う売主は、購入者向けにアスベスト。インベトリを作成するために、認可を受けた専門家の関与を義務付けられている。このインベントリは、OVAMが発行するアスベスト証明書に記載される。アスベスト証明書には、アスベストの所在場所、状態及び除去または管理計画が記載される。この証明書は購入者の情報のためのみのものであり、購入者に是正作業を義務付けるものではない。購入者が訴訟を起こした場合、裁判所は、アスベスト証明書なしで不動産譲渡が行われた場合には、その譲渡は無効であると判断するかもしれない。
フランダース建物改修長期戦略は、建物のエネルギー効率改修戦略とアスベスト安全イニシアティブを統合することを目的としている。アスベストを含む不動産を購入した新規所有者がその除去を計画するよう促すため、フランダース政府の戦略には、エネルギー効率の改善に関連したインセンティブが持ち込まれている。インセンティブには、古い家屋を改修する所有者に適用されるVAT[付加価値税]の軽減税率や、住宅建物のエネルギー改修に対するその他の税制優遇措置が含まれる。アスベスト交換の「負担軽減」を目的として、所有者は、啓発情報や、エネルギー効率イニシアティブに関する助言を受けることができる「改修コーチ」のサービスを受けることができる。ACM屋根は改修の対象となり、所有者は改修費用の助成または割引を受けられるかもしれない。OVAMは、ACM廃棄物の共同処理及び/または収集のための地域プロジェクトにも補助金を支給している。集合住宅の共有部分のアスベスト証明書は、2025年までに必要とされることが予想される。具体的にアスベスト除去を目的としたものではないが、フランダース・エネルギー気候庁は、2050年までに民間住宅の改修に関する政府計画の策定を促すためのハンドブックを発行している。とくに関連性が高いのは、ギャップ分析/進捗追跡ツールとロードマップ、及びパイロット都市のケーススタディである。このハンドブックは、オーストラリアのアスベスト除去計画の開発に役立つ可能性がある。

イギリス

一部の自治体では、安全で合法的なアスベスト廃棄を奨励するために、家庭から出るアスベスト・有害廃棄物の無料の道路脇回収を行っている。

2. 不動産所有者に対する税金控除

連邦政府は、収入を生む不動産に対する既存の所得税控除を、1) アスベスト除去・交換を明示的に含める、2)収入を生む不動産であるか否かに関わらずすべての不動産タイプを含める、3)納税者が、発生した年にすべての費用を控除するか、将来の課税年度に繰り越すかを選択できるようにする、かたちに拡大することができる。また、PAYG[Pay-As-You-Gok]納税者は、主たる住居におけるアスベスト是正費用についても控除を請求できる。州及び準州政府は、不動産の改善を行う所有者に対して、土地税または印紙税の減免も検討できる。

長所

  • BETAの調査によると、税金相殺は、高所得の住宅所有者や不動産投資家にとってより魅力的で有益であることがわかった。
  • とくに、納税者が、改善された不動産以外の源泉から得た所得に対して請求でき、及び/または、修復費用を発生した会計年度に全額減価償却するか、または複数年度にわたって繰り越すかを選択できる場合に、計画の高い利用率が見込まれる。
  • すべての建物タイプにおけるアスベスト除去が控除可能な資本的支出として認められる場合に、税務ルールTR2020/2における規制の複雑性は軽減される。
  • 控除を請求する際にアスベストの合法的な廃棄の証拠を提出することが義務付けることで、違法投棄が減少するはずである。

短所

  • 例えば、管轄区域レベルの減免について、所有者である居住者が控除を請求できるようにしたり、アスベスト改善へのより幅広い適用を明確化したりなど、既存の税制ルールの変更が必要となるだろう。
  • 例えば、高所得者よりも低所得者の方が、同じ金額の支出に対して受け取る利益は少なくなり、これは、納税総額との比較では不公平と見なされる可能性があるなど、税金控除による納税者の経済的利益は、所得やその他の関連する状況によって異なるかもしれない。
  • 不動産所有者は、多額の先行出資を行ったうえで、別途税金減免を請求しなければならない。助成または無利子/低利子融資などの追加的な財政的インセンティブがなければ、これもまた困難かもしれない。
  • 商業・住宅投資不動産の所有者については、アスベスト是正により、不動産が賃貸に利用できない間、一時的に家賃収入が失われるかもしれない。テナントは、是正工事中に退去及び/または移転を余儀なくされるかもしれず、及び/または、事業中断を余儀なくされるかもしれない。
  • 年度末の四半期におけるアスベスト除去サービスに対する高い市場需要。
  • 控除を請求することによる税収の損失。

事例:不動産所有者に対する税金控除

オーストラリア

オーストラリア税務署:税務ルールTR2020/219は、収入を生む居住用、すなわち投資用及び商業用不動産について、限定的な環境保護税控除(通常は資本的支出として控除対象外となる)を提供している。現行のルールでは、収入を生む住宅投資及び商業用不動産についてのみ、環境保護活動に関する「唯一または主要な」支出について、所得税の控除が認められている。アスベスト改善費用については、住宅の所有者居住者には同等の税控除は認められていない。

イギリス

土地改善救済計画は、商業・住宅用投資物件のアスベスト改善費用について、最大150%の法人税控除を提供している。この税控除は、的確な改善措置を実施する、アスベスト汚染のある土地や建物を時価で取得または賃貸する(つまり、汚染を理由に割引価格で売却または賃貸するのではない)イギリス法人税の課税対象事業者が対象となる。

イタリア

イタリア政府は、エネルギー効率の向上を目的とした住宅グレードアップを対象に、110%の「スーパーボーナス」と呼ばれるCOVID-19刺激税制優遇計画を導入した。これは、住宅のアスベスト除去にも利用可能であった。この計画は、政府負担が過大(1100億ユーロと推定)となり、また不正利用も多かったため、終了した。

3. 無利子/低利子ローン

このインセンティブでは、認可を受けた金融機関、または政府がそれらの金融機関と提携して、アスベスト改善の全額または一部の資金のために無利子または低利子のローンを提供する。不動産所有者が独自の見積もりを取得することもできるし、または政府が、支払い完了前に作業や品質保証を監督する可能性のある、承認された供給業者の登録簿を作成するかもしれない。低/中所得の不動産所有者に、収入に応じたローン(高等教育費用のための高等教育貢献制度に類似)を提供することもできる。区分所有法人や商業用不動産所有者に、改善費用を資金提供するために異なるローン商品が提供される可能性もある。区分所有法人には、潜在的な複雑性とより大きな費用が関わるため、追加の計画管理支援を必要とする可能性もある。
認可を受けた金融業者が融資返済のリスクを負うが、必要に応じて政府が、商業的利子と相対的に低い利子との差額を補填して、リスクの高いローンを引き受け、及び/または非商業的ローンに対する「最後の貸し手」として行動することも可能である(適切な認可を前提として)。ローンは担保権を設定することができ、困窮した借り手は金融機関の既存の困難な状況にある借り手向けの処理プロセスを利用できる。ローンは不動産の売却により返済されるか、非商業的融資については、一定期間の返済及び/または不動産所有の継続後に免除される可能性がある。

長所

  • ローンは一部の所有者にとって魅力的であるかもしれない。様々な不動産所有者の集団の間のローンに対する意識に違いについては、BETAの調査を参照されたい。
  • ローン計画は柔軟であり、様々な方法で構築することができる。例えば、エネルギー効率の改善と併せて実施すること、伝統的な金融業者を通じて商業的条件でローンを行うこと、または公平な資金調達へのアクセスを確保するために政府または社会的企業を通じて非商業的条件でローンを行うことなどである。
  • 公的支出は、一般的に、認可を受けた金融機関が融資を行い、返済は時間をかけて行われるか、または不動産の売却時に一括して行われるため、少なくて済む。
  • 政府の監督により、アスベスト是正業者の業務の質と費用対効果に対する説明責任が強化され、計画に対する国民の信頼が高まる可能性がある。

短所

  • ASSEAの以前の調査では、不動産所有者はアスベスト改善費用を支払う意欲が低いことが示されており、この目的のために(さらなる)負債を負うことに消極的な人もいる。ただし、上記のBETAの報告書も参照されたい。
  • 現在の生活費の高騰と住宅融資金利により、不動産所有者のアスベスト改善のための借入能力が低下する可能性がある。
  • 金融機関は、政府に対してローンの保証と、実際の奨励金利と商業的金利の差額の補償を要求するかもしれない。資金調達先や採用する融資構造によっては、健全性規制の改正が必要となるかもしれない。
  • 政府資金によるローン、政府が推奨する供給業者の登録、計画管理の支援、計画終了時の品質保証などを含む計画には、多額の政府負担と規制順守、監督が必要だろう。

事例:無利子/低利子ローン

オーストラリア

ニューサウスウェールズ政府:プロジェクト・リメディエイトは、居住用アパート建物の高リスク可燃性外装材の交換のために、10年間の無利子ローンを提供している。この計画では、サプライヤーパネル、計画管理、資金調達などを手配している。同様の計画が他の州や地域でも実施されている。詳細は付録Aを参照されたい。
非営利/社会的企業部門:グッド・シェパード・オーストラリア・アンド・ニュージーランド[慈善団体]は、災害からの復旧を含め、「住宅関連費用」のために、低所得の住宅所有者に、手数料、料金または信用調査なしに、最高3,000ドルまでの無利子ローンを提供している。ローンは最長2年で返済する。この種のローンは、アスベストの除去または廃棄のために追加資金が必要な住宅所有者や、小屋やガレージの屋根など小規模なアスベスト是正計画を抱える住宅所有者を支援するかもしれない。

アメリカ

一部の地域では、低・中所得レベルの世帯を対象に、無利子または低利子の返済免除融資制度が利用できる。テキサス州ダラスでは、住宅・地域再生局が住宅改善・保存計画(HIPP)を管理しており、安全で手頃な価格の住宅を供給することで、より強固な地域社会の構築と地域社会崩壊の防止をめざしている。HIPPの下位計画には、60歳以上の者を含めた低・中所得住民を対象とした住宅改修・再建計画が含まれている。これらの計画では、アスベストの「検査及び処理/除去」を含めた修理費用として、最長10年間無利子で、最大 24,000米ドルまでの免除可能なローンを受けることができる。これらの計画は一般的に、持ち家で主たる住居として使用されている場合のみ利用可能であり、また、不動産の築年数、所有者が現在有効な保険に加入していること、住宅ローンや地方税・連邦税の支払いが滞っていないこと、また、他の市が資金提供する住宅維持計画に参加していないことなどの条件が課される場合もある。

カナダ

「オンタリオ・リノベート」計画(同様の計画がオタワでも実施されている)では、低・中程度の所得住民を対象に、「修理及び改修」作業の非網羅的なリストを含め、住宅の改善や修理に無利子かつ免除可能なローンを提供している。オンタリオ州の計画のもとでは、10年間継続して居住した場合、最大2万5,000カナダドルが免除可能なローンとして提供される。住宅ローンを担保とする場合は2万5,000カナダドルを超える額が提供される。住宅所有者へのローンに加えて、カナダではアスベスト業界の能力向上も奨励している。様々な州、市、地方自治体がカナダ・スタートアップに参加し、アスベスト検査サービスを含め、小規模ビジネスの立ち上げに助成、ローン、税制インセンティブを提供している。

イギリス

一部の都市や町は、地方自治体配送制度(LADS)や地方自治体FLEXなどの計画に参加している。これらの計画は、付随的なアスベスト除去を含め、エネルギー効率改善措置への財政支援を提供することによって、住宅のエネルギー効率を改善し、燃料貧困の削減をめざしている。ウェールズ政府も、アスベストも列挙されたハザード削減を含め、エネルギー効率と住宅の質の改善するために、社会賃貸住宅所有者に奨励する最適化改修計画を実施している。さらに、社会的企業であるLendologyCICは、一部の地方自治体から資金提供を受けて、住宅所有者が、付随的なアスベスト除去を含むかもしれない、エネルギー効率の向上、ボイラーの交換、屋根の修理、その他の必要な修理などの住宅改善のための低金利ローンを提供している。

4. 助成・リベート

政府は、世帯の収入レベルなどの適格基準に基づいて、高リスクなアスベスト材(例えばアスベストセメント屋根・フェンスなど、環境的損傷にさらされているアスベスト)を対象に助成[grant]またはリベート[rebate/割り戻し]を提供することができる。
既存の助成/リベート計画を修正して、アスベスト改善を含めるようにすることもできる(例えばエネルギー効率改善のための助成金)。

長所

▶BETAの調査では、調査対象不動産所有者の間で、アスベスト除去のもっとも魅力的なインセンティブは助成であることをが判明した。
▶経済的な理由で是正が不可能であった場合、高リスクと知られているアスベストを是正するための財政的支援を提供することによって、地域社会の曝露リスクを低減する。
▶助成またはリベートは、スライディングスケール(すなわち高リスクのアスベストには高額)で支給することでき、除去を促し、不動産所有者の自己負担を最小限に抑えることができる。

短所

▶計画の利用率低下を避けるため、助成やリベートは、所有者が全面的な改善費用を負担できるよう、他のインセンティブと組み合わせる必要があるかもしれない。
▶費用の上昇を防ぐために、業界の監督・監視の強化が必要となるかもしれない。
▶地域によって資金調達方法が異なる場合、計画の費用と複雑さが増すかもしれない。例えば、非資産査定に基づく助成やリベートを、アスベストの劣化が進み、健康や曝露リスクが高い地域に対象を絞って提供することが考えられる。しかし、非資産査定は公的支出を増大させ、レントシーキング行動を助長するかもしれない。

事例:助成・リベート

オーストラリア

オーストラリア政府の繁栄する郊外計画では、大都市圏統計地域(GCCSA)における地域社会・経済インフラの資本的支出に対して、50万ドルから1,500万ドルの助成が提供される。この計画のもとでは、適格な地方自治体と法人化された非営利法人が、付随的なアスベスト改善が含まれるかもしれない、青少年センター、スポーツセンター、スイミングセンターなどの既存の地域社会インフラの建設、拡張または改良を申請することができる。政府の成長地域計画は、GCCSAs以外のすべての地域を対象とした同様の計画である。民間所有の建物やインフラを改善するための資本的支出への助成は、これらの助成の対象外であるが、アスベスト改善による地域インフラの再生、地域経済活動の活性化や地域社会の健康増進は、助成の対象として考慮される可能性がある。
ホームビルダー助成計画は、住宅所有者の住宅改築や新築のために住宅建設部門を支援する、オーストラリア政府の新型コロナウイルス感染症対策のひとつだった。2018-19年度には、年間所得が12万5000ドルまでの個人、または年間所得が20万ドルまでのカップルに、1万5000ドルまたは2万5000ドルの助成金が支給された。追加の適格基準があり、また、不動産投資家は対象外だった。ホームビルダーは上限のない需要主導型計画であり、予算への影響は25億ドルと予測されていた。助成金は、ガレージや物置などの独立した住居でない場合には、付随的なアスベスト除去に使用できた。この計画は、社会的不平等や住宅格差を助長し、住宅インフレの一因となったと報告されている。

アメリカ

ワシントン州では、住宅・地域開発局(DHCD)が、低所得の住宅所有者に屋根の修理・交換のための助成として最大2万ドルを支給する一戸建て住宅リハビリ計画を管理している。DHDCは、業務範囲の策定から、認可を受けた業者の選定、建設作業の計画管理まで、費用対効果を確保するための調達プロセスを適用している。ノースカロライナ州にも同様の計画があり、グリーンズボロ市議会は、低所得の住宅所有者に10年間に最大2万ドルの助成金を提供しており、鉛やアスベストの除去が対象であるが、この計画では屋根の修理や交換も対象となっている。この議会は、計画管理を支援する提携機関に対しても提案依頼を発行している。

カナダ

ブリティッシュコロンビア州では、BCハイドロ・アンド・パワー庁が先住民コミュニティ保護計画を監督しており、先住民の自治体に、アスベスト改善を含めた改造を可能にする住宅のエネルギー効率向上のために最高1,500カナダドルを支給している。また、クリーンBCベターホームズ計画は、エネルギー効率の向上の導入の際にアスベスト除去を行う場合、最大800カナダドルのリベートも提供している。無利子/低利子ローンについての前述のとおり、カナダ・スタートアップには、様々な州、市、地方政府が参加しており、アスベスト検査サービスを含む小規模ビジネスの立ち上げを支援するための助成、ローン、税制インセンティブ措置を提供している。

5. 買い戻し・改善

「リターン・アンド・アーン[Return and Earn]」計画

アスベスト材が積極的かつ安全に除去される場合に、不動産所有者が、ACM1kg当たり事前に決定された額を請求できるかもしれない。このような制度を実施するために、政府は以下と提携することができる。

  • 認可を受けたアスベスト除去業界
  • 回収場所を運営するために、廃棄物管理業界
  • ハードウェア供給業者

共同出資モデルには、アスベスト改善による改修作業の増加から大きな収益増加が見込める様々な業界に対する課徴金が含まれる可能性がある。還付金は、可変的(例えば量による)で、認可を受けた除去業者の利用を条件として支払われる可能性がある。

長所

  • 安全で合法的なアスベストの廃棄に伴う費用の障壁を克服できるかもしれない。

短所

  • 安全でないアスベスト除去を助長してしまうかもしれない。
  • 素材をリサイクルすることのできる飲料容器の制度とは違って、現在、回収されたアスベストから価値を活用することはできない。オーストラリアでは代替のアスベスト廃棄物処理解決策が開発中であるが、まだ運用段階には至っていない。循環経済で使用するためにアスベストをリサイクルするには、規制の変更が必要であろう。

自主的な買い戻し[buyback]若しくは政府が資金援助または支援する改善

これは、政府が全額または一部の資金調達措置を提供して、広範囲にわたる高リスクのアスベスト(例えばバラ詰め保温材)を含む建物、及び/または、建物が容認できない地域社会への健康リスクをもたらす建物のアスベストの除去・改善を調整することを意味する。

長所

  • 「最終的な買い手または是正者」として行動する政府は、「除去から処分まで」の完全な解決策を提供する。
  • 公共支出は当初は高額になるかもしれないが、アスベストが建造環境から徐々に撤去されていくにつれて、需要と費用は減少するはずである。
  • 複数の不動産からのアスベスト除去を中央で調整することで、規模の経済性を通じて政府と所有者の費用を削減できるかもしれない。
  • 改善された土地を売却することによって、公共支出を回収できるかもしれず、場合によっては利益を得られる可能性もある。
  • すでに同様の計画が存在しており、モデルを提供している。

短所

  • 多額の公費と政府による監督、管理、改善が必要となる。
  • 過去の買い戻し計画に関連する問題(例えば遅い計画の進行、不公平な評価)に、計画の設計のなかで、また地域社会との協議を通じて対処する必要がある。

事例:買い戻し・改善

オーストラリア
オーストラリア首都特別地域[ACT]政府

アスベスト対応タスクフォースは、住宅内のバラ詰めアスベスト保温材の継続的存在による進行中のばく露を根絶するための自主的な買い戻し、解体、販売計画だった。このタスクフォースは、オーストラリア政府からの10億ドルの融資で賄われた。同様の計画として、NSW州政府による自主的な買い取り・解体計画がある。

ニューサウスウェールズ[NSW]州政府

ニューサウスウェールズ州再建庁のレジリエント・ホームズ[Resilient Homes]計画は、ノーザン・リバーズ地域の洪水リスクの高い地域の住宅の耐性を向上させるために、最大8億ドルの資金を提供している。「レジリエンス[回復力]」の向上は、不動産の買い戻し、洪水に強い設計や素材を取り入れるための家屋の嵩上げに対する最高10万ドルまでの助成、家屋の改造または修理に対する最高5万ドルまでの助成というかたちをとるかもしれない。この計画の副次的な利点として、アスベストを含む古い家屋の積極的な撤去と、災害発生後の将来の緊急のアスベスト除去の防止がある。

NSW政府-リターン・アンド・アーン

飲料容器の「リターン・アンド・アーン」計画は、政府と業界のパートナーシップであり、具体的には、 NSW EPA、飲料業界、制度のコーディネーター、廃棄物管理会社、マテリアル・リカバリー施設(多くの場合地方自治体)である。資金は飲料業界及びその他のサービス契約によって賄われている。消費者は、アクセスしやすい返却場所に容器を返却し、払い戻しを自ら請求するか、慈善団体に寄付することができる。この制度は費用回収モデルに基づいて運営されており、利用しやすい。2023年にはビクトリア州でも同様の制度が開始された。

モリー・プレインズ市議会-2024~2025年焼失・廃屋住宅の強制執行計画

焼失・廃屋住宅の強制執行プログラムは、モリー・プレインズ市における焼失・廃屋住宅の増加に対処するものである。この計画では、既存の強制執行権限と廃棄物処理費用の支援金を活用し、焼失または損傷した不動産の管理と清掃に不動産所有者を参加させ、飛散性及び非飛散アスベストを地域社会と環境から除去した。議会は、この計画を主導する専任の特別計画マネージャーを任命し、2020年以降、NSW環境保護庁、SafeWork NSW、消防局、サービスプロバイダー、不動産所有者と協力して、35件の不動産の清掃を実施した。この計画の成功の鍵となったのは、所有者に有害棄物計画の支援を提供したこと、そして、シドニーを拠点とするアスベスト除去請負業者が複数の現場での清掃を調整し、規模の経済による競争力のある価格を実現したことだった。この計画の開発と成果について、市議会はアスベスト管理部門で2024年ニューサウスウェールズ州地方自治体環境優秀賞を受賞した。

他の計画との相乗効果の可能性

アスベスト除去とエネルギー効率向上を通じて、公衆・環境安全衛生を向上させるための既存の政府によるイニシアティブとの間に、潜在的な相乗効果がある。オーストラリアには、アスベスト改善を含めるように変更することも可能な、建物の品質を向上させるための様々な政府プログラムがすでに存在している。アスベスト管理は、国のエネルギー効率化及び計画的リフォームに組み込むことができ、除去を、開発申請のなかに義務付け、また、エネルギー効率向上インセンティブの適格基準に含めることができる。アグリビジネスや農場経営などの分野を対象とした計画も、ACM除去に活用できる可能性がある。

欧州委員会の経験

欧州建物エネルギー性能指令(2018/844/EU)は、加盟国は「…アスベスト及びその他の有害物質の除去、有害物質の違法な除去の防止などを通じて…エネルギー性能の向上を支援すべきである」と規定している。欧州経済社会委員会は、エネルギー効率とアスベスト除去の相乗効果の確立を強調しており、アスベストも発見・除去された場合には追加のエネルギー改修補助金を提供し、アスベスト屋根が除去された場合にはソーラーパネルの設置で不動産所有者を支援する加盟国もある。欧州加盟国による長期改修戦略の実施に関する最近の概要には、アスベスト除去に関するいくつかの解説も含まれており、一部の国の進捗状況の概要が示されている。
欧州委員会の欧州グリーンディールとがん撲滅計画は、建物の改修率を高めるために協力し(2021年に欧州議会が採択したアスベスト除去戦略との相乗効果で)、有害物質へのばく露によるがん死を減少させることをめざしている。欧州委員会の復興・回復ファシリティは、加盟国に対して、エネルギー効率向上作業の一環としてのACM除去やアスベスト作業員の強化を含め、持続可能性イニシアティブに723.8億ユーロの融資及び助成を提供している。これらのイニシアティブは、改修の波[Renovation Wave]戦略と併せて、2030年までに建物の改修率を少なくとも2倍にすることをめざしている。

アスベスト是正と相乗効果をもつ可能性のある既存のオーストラリアの計画には以下が含まれる。

エネルギー効率性

  • クリーン・エナジー・ファイナンス・コーポレーション及びコモンウェルス銀行(CBA)のグリーンホーム・オファー
  • 中小企業向けエネルギー効率化助成金
  • 省エネローン制度

地域社会の安全&住みやすさ

  • プロジェクト・レメディエイト
  • スライブリング・サバーブ・プログラム
  • グローイング・リージョンズ・プログラム

災害準備

  • 災害対策基金
  • レジリエントホームズ・プログラム
  • 家庭向けレジリエンス・プログラム

これらの計画の詳細については以下のリンクからPDFファイル中の付録Aを参照されたい。

https://www.asbestossafety.gov.au/research-publications/options-government-supported-incentives-proactive-asbestos-removal

安全センター情報2025年4月号