悪性リンパ腫・S状結腸がん業務外/福島●東海第二・福島原発の元労働者

Tさん(現在52歳)は、1991年9月に福島第一原発、1999年6月に東海第二原発で配管保温作業に従事した。さらに、2011年11月~2021年3月には福島第一原発で、作業員に防護服、安全靴、マスクを配布したり、休憩所にシートをはる作業を行った。それ以降、楢葉町や大熊町での除染作業に従事し、2019年7月からは中間貯蔵施設の交通誘導員として働いていた。
2021年7月、体調に異変を感じ地元の病院を受診。精密検査の結果、悪性リンパ腫と診断され、て2023年7月にはS状結腸がんも発症した。
Tさんは、悪性リンパ腫やS状結腸がん発症の原因は原発での放射線被ばくによるものと確信し、富岡労働基準監督署に労災請求した。
電離放射線障害の労災事案については、すべて労基署から厚生労働省にりん何され、「電離放射線の業務上外に関する検討会(以下「検討会」)で検討され、労災を認定するかどうか判断されている。
Tさんの労災請求は、2024年9月9日の第90回検討会にかけられた。9月下旬、同署は検討会の報告書に基づき、Tさんに悪性リンパ腫及びS状結腸がんは労災とは認められないとの決定を通知した。
富岡労基署は、Tさんの労災を認めなかった理由を次のように説明している。

(1) 悪性リンバ腫の発症リスクは白血病の5分の1

悪性リンパ腫は、一般にリンパ性白血病の類縁疾患とみなすことができる。白血病の認定基準(昭和51年11月8日基発第810号)「電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準について」に定められている放射線被ばく線量を参考として判断し、悪性リンパ腫のリスクは白血病のおおむね5分の1に相当するものと判断し、業務起因性を認める場合の被ばく線量は25mSv(5mSv×5倍)×(被ばく業務従事年数)以上となる。
Tさんの累積被ばく線襲は、放射線管理手緩等の記録から6.4mSvと認定。
白血病の認定基準に準拠し、被ばく開始後1年以上は経過しているが、Tさんの累積被ばく線量は25mSvに満たない。
(2) 被ばく線量100mSv未満は業務起因性を否定
結揚がんを含む全固形がんは、被ばく線量が100から250mSv以上において統計的に有意なリスク上昇がみられるが、100mSv未満での健康影響を認めるのは困難であるとされている。業務起因性を認める場合の被ばく電量は100mSv以上、かつ、被ばくから発症までの潜伏期間は5年経過していることが必要。Tさんは、潜伏期間5年は上回るものの、累積被ばく線量が100mSvに満たない。
以上のことから、Tさんに発症した悪性リンパ腫及びS状結腸がんは電離放射線にさらされる業務による疾病とは認められず、労災不支給処分と判断した。

富岡労基署の決定は、「検討会」の報告書どおりに、悪性リンパ腫、S状結腸がんの双方とも、被ばく線量が少ないことをもって業務との関連牲を否定しているのである。
Tさんはただちに労災不支給処分決定の取り消しを求めて、福島労働局の労災保険審査官に審査請求をし、保有偲人情報の開示請求の手続をとった。
幸い、悪性リンパ腫、S状結腸がんの治療も順調に進んでおり、健康状態も良好とのこと。
池田実さん(原発関連労働者ユニオン)と飯田勝泰(東京労働安全衛生センター事務局長)がTさんの審査請求の代理人となり、労災認定の取り組みを支援していく。
引き続き、Tさんの闘いにご注目、こ支援ください。

文・問い合わせ:東京労働安全衛生センター

安全センター情報2025年3月号