振動病取り組みの経験に学ぶ/高知●PFAS、コロナワクチン後遺症等々も~全国安全センター第35回総会

11月3日から4日にかけて高知市で全国労働安全衛生センター連絡会議(全国安全センター)の第35回総会が開催された。全国安全センターは、労災職業病の支援に取り組む全国各地の団体が加入し、省庁交渉等の活動を行っている。名古屋労災職業病研究会からは榊原悟志さんと筆者が参加した。
高知市内のちより街テラスでの総会1日目の冒頭、全国センター議長の平野敏夫医師が「メンタルヘルス、フリーランスなど新しい問題が出てきている。国が賃上げを言うなど、労働組合の存在が薄れてきている。労災職業病をださないための職場での取り組みが難しい。センターが相談を受けてそこから職場に戻れるような活動ができないか考えている」と挨拶した。
この後、化学物質PFASの労働者・住民への健康影響と新型コロナウイルス感染症ワクチン健康被害の労災補償等について発表された。

PFASによる環境汚染

全国安全センター副議長で熊本学園大学教授の中地重晴さんは、有機フッ素化合物のPFASは、泡消火材薬等の製品に含まれ慢性毒性としては、肝臓や免疫系への影響がある。消火剤が流出したことが発覚している米軍嘉手納基地や普天間基地がある沖縄で、市民団体が宜野湾市等6市町村の住民387人の血中濃度を調べたところ、全国平均を上回る高い値がでたことを発表したこと等を講演した。さらに中地さんは、活性炭再生業者が放置した使用済み活性炭が土壌に流出したことにより河平ダム、水道水源が汚染された結果、岡山県吉備中央町の水道水から1400ng/lの基準値を超えるPFASが保健所の検査で検出され、当初、町は未対応だったものの最終的に、水源の切り換え対策のため約1か月間水道水の使用制限がされた事件にもふれた。
吉備中央町の事件では、一部浄水場で高濃度の値が確認されているということだが、本稿執筆中の11月26日、吉備中央町で約800人を対象に公費による血液検査が開始されたことが同日付けの中日新聞で報道された。水道水を継続的に飲んだ約2000人のうち、25日時点で18歳以上の成人710人と、子供80人が検査を希望したということで検査結果は、岡山大学が分析し汚染された水道水を飲んでいない町民と比較してPFASによる影響を検討するということである。国は、血中濃度と健康被害の関係性が不明としているが、町は住民の要望を受け公費による検査の実施を決めた。

新型コロナワクチン後遺症

神奈川労災職業病センターの鈴木江朗さんは、新型コロナワクチン接種後の健康被害の労災補償の問題について、被害が広がっているけれどまだまだ知られていない問題だと話した。集会では、50歳代の女性の新型コロナワクチン後遺症患者のビデオインタビューが流された。
女性は高校の理科教諭だが、2021年9月に1回、職域接種でコロナワクチンを打ったところ、その後、2年間寝たきりになった。予防接種健康被害救済制度の申請を行ったものの、受診した24件全ての医療機関の証明とカルテを取得しなければならなかった。受診証明書は安いところで2、3千円、高いところで1万8千円を超えた。寝たきりだったので友人やヘルパーさんたちの支援を受け準備をしたが、営業妨害だと病院に鍵をかけたり、暴言を吐く医師もおり本当に悲惨な状況であったということだった。半年かけて準備をして市役所に申請をしても受け付けてくれない、戻されるという状況が続き、提出しても1年間置きっぱなしになった。市議会議員を通じて訴えたところようやく審議に入ってもらい、提出してから2年で認められた。女性は、寝たきりのワクチン後遺症の患者が申請をするのは無理。もっと制度を簡素化すべきと話した。女性は、いまでは鈴木さんやひょうご労働安全衛生センターの支援で軽減勤務で復職している。
会場で配布された鈴木さんの資料によると、新型コロナワクチンの予防接種健康被害救済制度の今年10月24日までの認定状況は、認定件数が8267件、死亡認定が878件、障害認定が138件ということである。この後、他のトピックについての報告が続いた。

振動病

会場が高知市文化センターかるぽーとに移された2日目は、きんろう病院院長の近藤真一医師による「高知における労災職業病運動と医療の連携」と題した講演が行われた(表紙写真)。
近藤医師は、営林署でチエンソーまたはブッシュユクリーナーを使用し国有林で木材の伐採などを行ったことから振動病に罹患した12名人の男性が原告となり、自分たちが振動病になった責任は林野庁にあるとして1974年に高知地裁に損害賠償請求訴訟を提起した高知振動病訴訟にふれた。この訴訟は、地裁では原告が勝訴したものの、最高裁で敗訴した事件だった。近藤医師は、この訴訟において、医学が病態を定義づけるのでなく、裁判が病気の定義づけをすることにすり替わる事態が起こったと話した。
振動病は、ソビエト連邦等の東欧学派が主張する全身障害説と局所障害説とのバトルが歴史的にあり、日本に最初、振動病についての情報が入り、山田医師らが研究した時は、全身障害説になっており、振動病の進行段階分類であるアンドレバ・ガラニナ分類もそのようになっていたことから近藤医師もその立場で勉強をしていた。全身障害説とは、手に持った道具の局所振動により全身に障害が拡がるという考え方である。高知振動病訴訟以後、労働省によって作成された振動病に係る分類は、局所障害説に変わり、振動病は、手、腕の病気とされてしまい、脳波や心電図の検査を行っても労災保険で支払われなくなった。近藤医師は、これで、振動病で亡くなるということはなくなったんだなと思ったということでした。
2009年頃になると近藤医師が振動病の診断書を作成し労働基準監督署に提出しても、監督署から患者に愛媛県の新居浜労災病院で全ての検査のやり直しをするよう命令が出るようになったということだった。様々な検査の最後の締めには、FSBP%d(Fing-er Systolic Blood Pressure %)という冷水で指を冷たくして回復するときの血圧を測る検査が行われ、これまで認定になっていたような症例でも、然るべき範囲に入っていないと理由で不支給になるようになったということだった。
高知県労働安全衛生センターと労災不支給取り消し訴訟の取り組みが始まり、近藤医師も訴訟のために意見者や診断書を書いた。訴訟資料を見て、近藤医師は、行政側の様々なぼろを発見したが、不支給事案の中には、右手のみに白蝋(手指の白色化現象・レイノー現象)が出る患者に対して、左手のみにFSBP%検査が行われている過失や監督署員が検査データに加筆している不正があったりしたということだった。近藤医師が協力し、裁判で労災不支給決定が取り消されることがあった。
近藤医師が行政サイドの山陰労災病院の医師に変形性指関節症、手根管症候群、変形性肘関節症、尺骨神経麻痺、正中神経麻痺、肩関節周囲炎、頚椎症、頚椎症性脊髄症など振動病の各病態を、振動病を否定するために小分けにした意見書を書かれ苦労したという話が印象に残った。
高知から帰った筆者は、全国安全センターが1994年9月に発行した安全センター情報に掲載された、熊本大学の原田正純医師の「振動病の病態論を問い直す」の論考や、全国安全センターと労働者住民医療機関連絡会議が発表した「慢性期振動病における調査研究」等を読み、振動病は全身が障害される職業性疾患であるとの認識を深めた。

その他報告・総会議事

2日目は、この他、10月11~12日に実施されたメンタル労災ほっとラインの報告や原発被ばく労働、フリーランスの労災保険特別加入制度をめぐる状況、総会議事が行われ閉会した。

文:名古屋労災職業病研究会 事務局長 成田博厚