労働安全衛生法令策定のためサポートキット(2022.1.13 国際労働機関(ILO)から/02 1.-5.包括的OSH法の範囲と対象
目次
1. はじめに
セクションIIの目的は、以下の3つの基礎について議論することによって、OSH[労働安全衛生]法の適用範囲を定義するための様々な規制アプローチを分析することである。
▶ OSH法が適用されるのは誰か、つまり、義務があるのは誰か、また、法律に基づくそれらの義務を負うのは誰か?
▶ OSH法はどこで、いつ適用されるのか、つまり、上述の義務が生じる場所及び状況は何か?
▶ OSH法における義務によってカバーされる対象は何か、つまり、労働安全衛生とは何か?
これらの各要素を深く検討する前に、次のサブセクションで、国際労働基準に組み込まれている包括的OSH法の普遍性の原則について説明する。
2. 包括的OSH法の普遍性
2.1 包括的OSH法の普遍的対象範囲
包括的OSH法には、経済活動のすべての部門におけるあらゆる労働者に適用される基本的OSH原則が含まれる。誰も法的保護がないままに、またインフォーマル経済のなかに取り残されることないようにするために、あらゆる労働者に法律の対象範囲を広げることが重要である。
【国際労働基準】
-1981年労働安全衛生条約(第155号)
-1981年労働安全衛生勧告(第164号)
-2006年労働安全衛生促進枠組み勧告(第197号)
第155号条約は、普遍的な適用範囲をもっており、経済活動のすべての部門及びあらゆる労働者に対して適用される。加えて、第164号勧告は、必要かつ実行可能な限り、第155号条約に規定する保護と類似の保護を自営業者に与える必要性に言及している。
第164号勧告はまた、最大限可能な範囲内で、すべての経済活動の部門及びあらゆる労働者に対して、第155号条約及び第164号勧告の規定が適用されるべきであると助言している。
第197号勧告もまた、労働者を完全にカバーすることを求めている。「職業上の負傷、疾患及び死亡を予防する観点から、国内制度については、すべての労働者、とくに危険性の高い部門の労働者及び被害を受けやすい労働者(例えば、インフォーマル経済に従事する労働者並びに移民労働者及び若年労働者)の保護のための適当な措置を定めるべきである」(段落3)。
第155号条約は、その普遍的性格にもかかわらず、例外的に、使用者及び労働者の団体との協議のうえで、一定の労働者グループ及び経済活動の部門についての限定的な除外を認めている。しかし、CEACR[条約及び勧告の適用に関する専門家委員会]は、OSH法の適用範囲を漸進的に拡大することの価値を再確認している。CEACRは、次のように指摘している。
「条約中の除外の背景、条約の全体的な目的がすべての労働者を職場の負傷及び疾病から保護することであること、1981年以来労働者のよりよい保護を可能とするかなりの技術的進歩があったことを踏まえて、加盟国及び社会パートナーは職場の負傷及び疾病に対する保護からいずれかの労働者を除外することの継続的妥当性についてより考えるべきであるというのが委員会の見解である」。
2.2 例外的に労働者グループを除外する可能性
第155号条約の第2条(2)は加盟国に、克服または対処することのできない特別の困難の存在する場合に、当局にそれらの困難に対処する時間を与えるために、一部の範疇の労働者を除外することを認めている。このためには、ある範疇の労働者を除外する決定がなされる前に、使用者及び労働者団体との協議を必要とする。第155号条約の第2条(3)はILO加盟国に対して、かかる除外の理由についてCEACRに報告するとともに、より広い適用に向けてなされたあらゆる進展について報告することを求めている。
そうした諸国では、(家事労働者、在宅労働者や自営業者または独立的労働者など)伝統的にインフォーマル経済にいると認識されている労働者や人々にとって、OSH法がこれらの範疇をその適用範囲に含めるかどうかを明確に規定することが有益かもしれない。立法者がこれらの範疇のいずれかを主要な、一般的OSH法の適用範囲から除外すると決定した場合には、これらの労働者のためにOSH問題を規制するかどうか、どのように規制するかを考える必要があり、また、OSH法から除外された特定の範疇の労働者のために独立した法律を発行する必要があるかもしれない。
明確な除外/包含は、これらの範疇の労働状況が法的な宙ぶらり状態に陥ることを防ぎ また、裁判官や労働市場のあらゆる関係者が不正確な解釈をすることを防ぐ。
【検討課題】
除外を設ける前に関係者と議論すべき課題:
- OSH法の適用範囲から除外すべき一定の範疇の労働者がいるか?なぜか?
- それらの労働者を含めるうえでの特別の困難とは何か?
- OSH法の適用範囲がそれらの者をカバーすることができるようにするために、それらの困難に対処する方法はあるか?
- 一定の範疇の労働者がOSH法の範囲から除外される場合、特定の範疇の労働者のための独立した労働/OSH法、労働協約または自主規制など、他のどのような手段を用いることができるか?なぜか?
- あらゆる労働者にOSHの完全適用を達成するためにどのような手段を講じることができるか?
2.3 例外的に経済活動の部門を除外する可能性
第155号条約の第1条(2)は、海運業、漁業等の重要性を有する特殊な問題が生ずる特定の経済活動部門について、条約の一部又は全部の適用から除外することを認めている。それには、ある範疇の経済活動の部門を除外する決定の前に、使用者及び労働者団体との協議が必要である。第155号条約の第2条(3)は、ILO加盟国に対して、かかる除外の理由についてCEACRに報告するとともに、除外された部門の労働者に適切な保護を与えるためにとられる措置について説明し、より広い適用に向けてなされたあらゆる進展について報告することを求めている。
【検討課題】
除外を設ける前に関係者と議論すべき課題:
- OSH法の適用範囲から除外すべき一定の経済活動の部門があるか?なぜか?
- それらを含めるうえでの特別の困難とは何か?
- OSH法の適用範囲がそれらの経済活動の部門をカバーすることができるようにするか、若しくはそれらが他の関連する法律または規範(労働協約、自主規制)によってカバーされるようにするために、それらの困難に対処する方法はあるか?
- 一定の経済活動の部門がOSH法の範囲から除外される場合、特定の範疇の労働者のための独立した労働/OSH法、労働協約または自主規制など、他のどのような手段を用いることができるか?なぜか?
- あらゆる部門にOSHの完全適用を達成するためにどのような手段を講じることができるか?
3. OSH法が適用されるのは誰か?
4. OSH法の義務はいつ、どこで適用されるか?
誰がOSH義務を負うのか、それらの責任を誰に対して負うのかを決定することに加えて、範囲の問題は、それらの責任をどこで負うのかを検討する必要がある。
セクション1で述べたように、初期のOSH法令は、限られた範囲の職場及び産業のみを対象としていた。これは、歴用範囲が、非常に厳密かつ狭いやり方で定義されたことが多いことを意味している。
【国の事例10】[省略]
上述したように、法律の適用を一定の産業に限定する旧来型のアプローチは、第1条及び第2条で、OSH原則が「経済活動のすべての部門」及び「すべての労働者」に適用すると規定した第155号条約によって導入された、普遍性の原則に取って代わられた。
OSH法がいつ、どこで適用されるかを定義するには、いくつかのやり方がある。そのいくつかを以下に紹介する。
【設計オプション】
(i) 法律が適用される場所を示す「職場」の用語を定義する。
(ii) 法律がどこで、いつ適用されるかを示すのに、「労働が行われる場所」及び「労働についていること」という公式を用いる。
(iii)法律が適用される場所または経済活動の部門を列挙する。
第155号条約は、職場という用語を、「労働者が就業のため、いる必要がありまたは行く必要がある場所であって、使用者の直接的または間接的な管理下にあるすべての場所」と定義している。
第155号条約に組み込まれた職場の定義は広範囲なものであり、普遍性の原則に沿ったものでもある。「労働が行われる場所」及び「労働についていること」という表現を使うことも、広い範囲をカバーすることを可能にするかもしれない。
一方、場所または業種を列挙することは、明示的に列挙されていないすべての業種を法律の適用範囲から外すリスクがあることから、重大な制限のある技術である。もし立法者が特定の業種/職場を意図的に除外することを望むのであれば、そうするための相対的に安全なアプローチは、いつ、どこで普遍的にか定義し、また、明示的に当該業種/職場を除外することであろう。これは、OSH法の適用範囲を意図せず過剰に限定してしまうことを防ぐだろう。
【国の事例11】[省略]
5. 「労働安全衛生」という用語の範囲は何か?
第155号条約は、「使用者は、職場、機械、装置及び工程であって当該使用者の管理下にあるものが、合理的に実行可能な限り、安全でありかつ健康に対するリスクがないものであることを確保することを要求される」と規定している。
労働衛生は、労働衛生に関するILO/WHO合同委員会によって、「あらゆる職業における労働者の最高度の身体的、精神的及び社会的福利の促進及び維持を図ること、労働者の労働条件によって引き起こされる健康からの逸脱の防止、雇用している労働者の健康に有害な要因から生じるリスクからの保護、労働者をその生理的及び心理的能力に適応した労働環境に置き、またそれを維持すること、要約すれば、労働を人間に、また各人を自らの労働に適合させること」と定義されている。
結果的にOSHは、身体的だけでなく、労働における精神的安全及び健康も対象としている。多くの国が、このことを、様々なやり方で自国のOSH法令のなかで明示的に明らかにしている。
【国の事例12】[省略]
Support Kit for Developing OSH Legislation ダウンロードページ
https://www.ilo.org/publications/support-kit-developing-occupational-safety-and-health-legislation
安全センター情報2022年10月号