【特集2/過労死等の労災補償状況2023年度】請求・認定件数増加、認定率減少、精神障害認定42%がハラスメント、脳・心臓疾患の時間基準以外認定は減少
厚生労働省は2024年6月28日に、2023年度分の「過労死等の労災補償状況」を公表した(7月18日に訂正が行われた)。
2014年までは、「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」とされていたが、過労死等防止対策推進法の施行を踏まえて変更された。
「過労死等」とは、「同法第2条において、『業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう』と定義されている」。
目次
厚生労働省が指摘するポイント
厚生労働省省自身が指摘する2023年度の特徴は、以下のとおりである。
■ポイント
- 過労死等に関する請求件数
4,598件(前年度比1,112件の増加) - 支給決定件数
1,099件(前年度比195件の増加)
うち死亡・自殺(未遂を含む)件数137件(前年度比16件の増加)
■脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況
- 請求件数は1,023件で、前年度比220件の増加。うち死亡件数は前年度比29件増の247件。(表1、図1-図表番号は上記本稿掲載のもの)
- 支給決定件数は216件で前年度比22件の増加。うち死亡件数は前年度比4件増の58件。(表1、図1)
- 業種別(大分類)では、請求件数は「運輸業、郵便業」244件、「卸売業、小売業」135件、「建設業」123件の順で多い。支給決定件数は「運輸業、郵便業」75件、「卸売業、小売業」29件、「宿泊業、飲食サービス業」25件の順に多い。(表5)
業種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに業種別(大分類)の「運輸業、郵便業」のうち「道路貨物運送業」171件、66件が最多。(支給決定件数-表7-1) - 職種別(大分類)では、請求件数は「輸送・機械運転従事者」200件、「専門的・技術的職業従事者」156件、「サービス職業従事者」135件の順で多い。支給決定件数は「輸送・機械運転従事者」67件、「サービス職業従事者」29件、「専門的・技術的職業従事者」22件の順に多い。(表5)
請求件数、支給決定件数ともに職種別(大分類)の「輸送・機械運転従事者」のうち「自動車運転従事者」183件、64件が最多。(支給決定件数-表7-2) - 年齢別では、請求件数は「50~59歳」404件、「60歳以上」363件、「40~49歳」203件の順で多い。支給決定件数は「50~59歳」96件、「60歳以上」54件、「40~49歳」53件の順に多い。(表5)
- 時間外労働時間別(1か月または2~6か月における1か月平均)支給決定件数は、「評価期間1か月」では「100時間以上~120時間未満」24件が最も多い。また、「評価期間2~6か月における1か月平均」では「80時間以上~100時間未満」54件が最も多い。(表9に改編)
■精神障害に関する事案の労災補償状況
- 請求件数は3,575件で前年度比892件の増加。うち未遂を含む自殺の件数は前年度比29件増の212件。(表2、図1)
- 支給決定件数は883件で前年度比173件の増加。うち未遂を含む自殺の件数は前年度比12件増の79件。(表2、図1)
- 業種別(大分類)では、請求件数は「医療、福祉」887件、「製造業」499件、「卸売業、小売業」491件の順で多い。支給決定件数は「医療、福祉」219件、「製造業」121件、「卸売業、小売業」103件の順に多い。(表6)
業種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに業種別(大分類)の「医療、福祉」のうち「社会保険・社会福祉・介護事業」494件、112件が最多。(支給決定件数-表8-1) - 職種別(大分類)では、請求件数は「専門的・技術的職業従事者」990件、「事務従事者」782件、「サービス職業従事者」579件の順で多い。支給決定件数は「専門的・技術的職業従事者」259件、「事務従事者」154件、「サービス職業従事者」126件の順に多い。(表6)
職種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに職種別(大分類)の「事務従事者」のうち「一般事務従事者」582件、107件が最多。(支給決定件数-表8-2) - 年齢別では、請求件数は「40~49歳」953件、「30~39歳」847件、「50~59歳」795件の順で多い。支給決定件数は「40~49歳」239件、「20~29歳」206件、「30~39歳」203件の順に多い。(表6)
- 時間外労働時間別(1か月平均)支支給決定件数は「20時間未満」が63件で最も多く、次いで「100時間以上~120時間未満」が55件。(省略)
- 出来事(※)別の支給決定件数は、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」157件、「業務に関連し、悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」111件、「セクシュアルハラスメントを受けた」103件の順に多い。(表12)
※「出来事」とは精神障害の発病に関与したと考えられる事象の心理的負荷の強度を評価するために、認定基準において、一定の事象を類型化したもの。
■裁量労働制対象者に関する労災補償状況
令和5年度の裁量労働制対象者に関する脳・心臓疾患の支給決定件数は3件で、専門業務型裁量労働制対象者が2件、企画業務型裁量労働制対象者が1件であった。また、精神障害の支給決定件数は6件で、いずれも専門業務型裁量労働制対象者であった。(表4)
■複数業務要因災害(※)に関する脳・心臓疾患の決定件数は18件(うち支給決定件数5件)で、精神障害の決定件数は11件(うち支給決定件数4件)であった。
※事業主が同一でない二以上の事業に同時に使用されている労働者について、全ての就業先での業務上の負荷を総合的に評価することにより傷病等との間に因果関係が認められる災害。
本誌で紹介するデータ
本誌では、今回公表されたデータだけでなく、過去に公表された関連データもできるだけ統合して紹介している。脳・心臓疾患及び精神障害等については、2001年の脳・心臓疾患に係る認定基準の改正を受けて、2002年以降毎年5~6月に、前年度の労災補償状況が公表されるようになっているが、それ以前に公表されたものもある(脳・心臓疾患では1987年度分から、精神障害では1983年度分から一部データあり)。一方で、公表内容は必ずしも同じものではない(例えば、表1及び表2の2001年度以前には公表されなかった部分がある)。
労災補償状況(請求・認定件数等)に関する表1及び表2の「合計」は2000~2023年度分の合計で、全年度分のデータがそろわない項目の「合計」は空欄とした。
なお、2010年5月7日からわが国の「職業病リスト」(労働基準法施行規則別表第1の2(第35条関係))が改訂されている。それまで、包括的救済規定と呼ばれる「第9号=その他業務に起因することの明らかな疾病」として扱われてきた脳・心臓疾患及び精神障害が、「業務との因果関係が医学経験則上確立したもの」として、各々新第8号、新第9号として、以下のように例示列挙されたものである。これに伴い、旧第9号は第11号へと変更された。
新第8号-長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)若しくは解離性大動脈瘤又はこれらの疾病に付随する疾病
新第9号-人の生命に関わる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病
脳・心臓疾患については、「第1号=業務上の負傷に起因する疾病」として扱われるものもあることから、過去に公表された2001年度以前分については、第1号と旧第9号を合わせた件数、及びそのうちの旧第9号の内数が示されていたのであるが、2002年度分以降の公表は、旧第9号(2010年度以降は新第8号)に関するものだけになっている。表1の「脳血管疾患」「虚血性心疾患等」も、旧第9号=新第8号に係るもののみの数字である。
認定基準の改正経過
2011年12月26日に「心理的的負荷による精神障害の認定基準」が策定され、1991年9月14日付け「心理的的負荷による精神障害等の業務上外に係る判断指針」は廃止された。ここで、「判断指針の標題は『精神障害等』となっており、『等』は自殺を指すものとされていたが、従来より、自殺の業務起因性の判断の前提として、精神障害の業務起因性の判断を行っていたことから、この趣旨を明確にするため『等』を削除した」が、「実質的な変更はない」とされている。以降の厚生労働省の公表文書等においても、「精神障害等」から「精神障害」に変更されており、本誌もこれにしたがっている。
2021年12月7日から精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会において、2011年認定基準見直しの検討行われ、2023年7月14日に報告書を公表。これを踏まえて、2023年9月1日に2011年認定基準が改正された(2023年11月号参照)。「業務による心理的負荷評価表」の見直しが中心であったが、これに先立ち2020年5月29日には、同表に「パワーハラスメント」の追加等も行われている。
脳・心臓疾患の労災認定基準は、1961年2月13日に「中枢神経及び循環器系疾患(脳卒中、急性心臓死等)の業務上外認定基準」として初めて策定され、1987年10月26日に改正されて「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」となり、その後、1995年及び2001年にも改正され(1995年の改正以降「負傷に起因するもの」は除かれた)、さらに2021年9月14日に改正されて「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」となった(2021年10月号参照)。
両認定基準とも2020年8月21日に、複数業務要因災害に係る労災保険制度に対応している。
請求・認定件数
図1及び表2から、精神障害の請求件数が際立った増加傾向にあることが一目瞭然である。2023年度は前年度比892件の増加で、3,575件に達している。表2に含まれていないが、1993年度以前は1桁、1994~96年度が13~18件、1997年度41件、1998年度42件で、判断指針が策定された1999年度は155件だった。2000年度212件から増加を続け、2004年度に500件を超え、2009年度に1,000件、2019年度に2,000件を超え、2023年度に3,000件を超えたわけである。2023年度は、1999年度の16.9倍、認定基準が策定された2011年度(1,272件)と比較しても2.8倍となっている。
精神障害の認定件数も、請求件数の場合ほど急勾配ではないものの、増加傾向が確認でき、2023年度は前年度比173件の増加で883件と過去最高を更新した。表2に示されていない1998年度以前は0~4件、判断指針が策定された1999年度が14件で、それと比較すると63倍になる。2002年度には100件に達し、認定基準が策定された2011年度は325件で、それと比較しても2.7倍である。
精神障害については、1999年の判断指針の策定、2011年の認定基準の策定、2023年の認定基準の改正がいずれも、請求件数及び認定件数の増加につながったことが確認できる。
ただし、図には示していないが、自殺事案に限ってみると、請求・認定件数ともに、そこまで一貫した増加傾向は示していない。換言すると、自殺事案の占める割合は一貫して低下傾向を示している(認定件数では、2002年度の43.0%から2023年度には8.9%まで下がっている)。
これも図には示していないが、性別では、請求・認定件数ともに、女性の方が男性よりも増加傾向が相対的に大きく、請求件数では2021年度と2023年度には女性が男性を上回るようになっている(認定件数については、表6及び表7の「4 男女別」を参照されたい)。
脳・心臓疾患の請求件数が判明しているのは1997年度以降で、1997年度539件、1998年度466件、1999年度493件で、2000年度以降は表1に示すとおり。図1も含めて確認すると、認定基準が改正された2001年度は690件で、2003年度にへこみがあるものの2006年度938件までは増加を続け、その後、2009年度767件を谷にして2011年度898件まで増加、2014年度763件を谷にして2019年度936件まで増加、以降2年連続の減少で、2021年度は753件まで下がった。2022年度は803件、2023年度は1,023件へと増加に転じ、初めて1,000件を超えた。2021年認定基準改正の影響であるかもしれず、増加傾向が維持されるかどうか注目される。
脳・心臓疾患の認定件数は、表2に示されていない1987~94年度は18~34件、1995~99年度は31~90件。2000年度は85件で、認定基準が改正された2001年度143件、2002年317件と連続して増加し、2007年度392件までは微増傾向だったものの、その後2010年度285件まで減少した後、2012年度338件まで持ち直し、以降は減少し続けて、2021年度は172件まで下がった。こちらも、2022年度は194件、2023年度は216件へと増加に転じてはいるものの、過去最高(2007年度の392件)を更新するには至っていない。
ともあれ、2023年度は、脳・心臓疾患と精神障害の請求・認定件数もいずれもが増加した。
なお、脳血管疾患の方が虚血性心疾患よりも多く、性別では男性の方が女性よりも多く、女性の脳・心臓疾患の認定件数は、データのわかる2011年以来ずっと20件未満である。
認定率
本誌では、認定率について、以下のふたつの数字を計算している(表1及び表2参照)。
認定率①=認定(支給決定)件数/請求件数
認定率②=認定(支給決定)件数/決定件数(支給決定件数+不支給決定件数)
認定率②の方が本来の「認定率」にふさわしいわけだが、これが計算できるようになったのは、2002年度以降分からである。図2に、脳・心臓疾患及び精神障害、前者の死亡事案、後者の自殺事案に係る認定率、(いずれも認定率②)を示した。
2002年度から2014年度までは脳・心臓疾患の死亡事案の認定率がもっとも高かったが、2015年度以降は精神障害の自殺事案の認定率がもっとも高い状況が続いている。
脳・心臓疾患の認定率は、死亡事案の認定率よりをやや下回るものの、2002年度から2014年度までは40%を超え(最高は2008年度の47.3%)、30%を前後していた精神障害の認定率を上回っていた。しかし、2015年度には37.4%まで下がり、やや持ち直した後も、2018年度34.5%、2019年度31.6%、2020年度29.2%と3年連続して過去最低を更新した。2021年度には32.8%に、2022年度には38.1%へと2年連続増加し、2021年認定基準改正の効果であることが期待されたのだが、2023年度は32.4%に減少してしまった。死亡事案の認定率も同様の経過をたどり、両者の差はなくなってきている。
精神障害の認定率は、2012年度に過去最高の39.0%までは増加がみられ、2013年度から2016年度は30%台後半を維持したものの、2017年度に32.8%と大きく減少、2018年度も31.8%とさらに減少、2019年度32.1%、2020年度31.9%、2021年度32.2%と、低いレベルにとどまった。2022年度には久しぶりに35.8%に増加したが、2023年度は34.2%に減少した。
2021年度と2023年度には、脳・心臓疾患の認定率が精神障害の認定率を下回っているが、2015年度以降、低い方の水準に収れんするかたちで両者の認定率の差はなくなってきている。
2023年度は、請求・認定件数いずれの増加にもかかわらず、認定率は脳・心臓疾患と精神障害ともに減少した。なお、脳血管疾患の認定率方が虚血性心疾患の認定率よりも高い。
性別では、男性の認定率の方が女性の認定率よりも高い。男性の場合には、全体傾向と同じく脳・心臓疾患の認定率と精神障害の認定率が収斂してきているのに対して、女性の場合には、精神障害の認定率の方が脳・心臓疾患の認定率よりも10%以上高い状況が続いている。女性の脳・心臓疾患の認定率は10%台という低水準である。
審査請求等
2004年度分以降、「審査請求事案の取消決定等による支給決定状況」も公表されており、表3に示した。これは、「審査請求、再審査請求、訴訟により処分取消となったことに伴い新たに支給決定した事案」であって、表1及び表2の支給決定件数には含められていないということである。
また、2015年の公表では、2014年度分のみに限定されていたが、初めて女性の内数データが追加された。これが一定拡大されて継続している。表1-1及び表2-1、表3の2011~2020年度分の括弧内のように、過去に遡って女性の内数データが示されたのである。これによって、「男女別」状況を一定検討できるようになった。
しかし、1996~2002年度の7年分については、「疾患別」(精神障害については「国際疾病分類第10回修正第V章『精神及び行動の障害』の分類」)データも公表されていたことを指摘して、「疾患別」データの公表再開も強くのぞみたい。
データ公表の一層の改善に関連しては、さらに、例えば、平均処理期間等の情報も求めたい。行政手続法で定めることを義務付けられている標準処理期間について、新第9号=精神障害に係る療養・休業・遺族補償給付及び葬祭料に関しては8か月とし、これ以外は他の疾病(包括的救済規定に係るものを除く)に係る標準処理期間と同様に6か月とすることとされている(包括的救済規定に係るものに関しては「定めない」と定められている)(2010年5月7日付け基発0507第3号)。
裁量労働制対象者・個人事業者等
さらに、2011年度分以降、「裁量労働制対象者に係る支給決定件数」も公表され、2014年度分以降は「決定件数」と「認定率」も追加されるようになった。死亡/自殺の内数も示されているが、男女別内訳はない(表4-決定件数は省略)。
業種・職種・年齢・生死/自殺別
表6及び表7には、業種別、職種別、年齢別、生死/自殺別のデータを示した。請求件数・決定件数双方について示されているが、支給決定件数についてのデータのみを示す。脳・心臓疾患は1996年度分から、精神障害は1999年度分からデータがあるが、年度の「合計」欄には、2000~2023年度までの合計値を示した。これらも、2014年度分以降について、「男女別」データが利用できるようになっているが、表6及び表7では、最下欄に2023年度分についての男性及び女性のデータを示した。
「業種別」について、2014年度末労災保険適用労働者数をもとに10万人当たりの2000~2023年度認定合計数を可能な範囲で試算してみた(表6及び表7「※1」「※2」欄)。業種分類が正しく対応しているか定かではないが、「農林漁業・鉱業」、脳・心臓疾患では「運輸業、郵便業」も、高さが際立っているようにみえ、さらなる分析が必要だろう。「職種別、年齢別、生死/自殺別、男女別」等も含めて、このような分析は意味があると考える。
業種・職種の区分名称は公表時期によって多少異なっている。業種区分は、「林業」、「漁業」、「鉱業」がひとくくりからさらに「農業、林業・漁業・鉱業、採掘業、砂利採取業」になり、「電気・ガス・水道・熱供給業」の区分がなくなり、かつての「その他の事業」が「情報通信業」、「宿泊業、飲食サービス業」、「サービス業(他に分類されないもの)」、「その他の事業(上記以外の事業)」に細分されるようになった。「上記以外の事業」に分類されているのは、「不動産業、物品賃貸業」、「学術研究、専門・技術サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」などであるとされている。また、「運輸業」は「運輸業、郵便業」とされている。
職種別では、区分名称の若干の変更に加えて、「技能職」→「生産工程・労務作業者」とされていた区分が、「生産工程従事者」、「輸送・清掃・包装等従事者」、「建設・採掘従事者」の3つに区分されるようになったが、表5及び表6では「技能職」の表示で、上記3区分の合計値を掲載している。
また、2009年度分から、「請求件数・支給決定件数の多い業種・職種(中分類・上位15)」が示されるようになったが、本誌では、表7及び表8に過去5年分の支給決定件数についてのデータのみを示す。空欄は、当該年度に上位15に該当しなかったためにデータがないことを意味しており、表7-1及び表8-1では紙幅の都合から、一部の年度について当該年度に上位15に該当したもので掲載できていない業種・職種があることに注意していただきたい。2009年度以降10年間に支給決定件数の多い上位15に該当したのは、脳・心臓疾患で44業種(表7-1+23業種)、41職種(表7-2+18職種)、精神障害で33業種(表8-1+9業種)、30職種(表8-2+9職種)である。これらも、2014年度分以降分について、「男女別」データが利用できるようになっているが、表8及び表9では示していない。
業種別では、脳・心臓疾患では、「道路貨物運送業」がダントツで毎年度トップ。「飲食店」、「その他の事業サービス業」、「総合工事業」も上位4位以内の常連である。
精神障害では、「社会保険・社会福祉・介護事業」と「医療業」がほぼ毎年度1・2位を占め、「総合工事業」、「道路貨物運送業」、「飲食店」も毎年度上位5位以内に入っている。
業種別では、脳・心臓疾患では、「自動車運転従事者」がダントツで毎年度トップ。「飲食物調理従事者」と「商品販売従事者」が上位6位以内の常連である。
精神障害では、「一般事務従事者」がほぼ毎年度トップ。「保健師、授産師、看護師」、「自動車運転従事者」、「介護サービス職業従事者」も上位15位以内の常連である。
脳・心臓疾患の認定要件別
2007年度分から、「1か月平均の時間外労働時間数別」支給決定件数が公表されている。
脳・心臓疾患については、2015年度分から、「評価期間1か月」のものと「評価期間2~6か月(1か月平均)」の内訳も示されるようになった。これによって、まず、以上から除かれた「異常な出来事への遭遇」または「短期間の加重業務」により支給決定されたものを逆算できるようになった。本誌がそのような計算を示すようになり、2021年度分から「時間外労働時間別支給決定件数」の表に「その他(短期間の過重業務・異常な出来事)」という区分が設けられて、独自に計算する必要がなくなった。
「評価期間1か月」について100時間以上、「評価期間2~6か月」について1か月平均80時間以上のものはそのことをもって支給決定されたものと推定できる。「『評価期間1か月』について100時間以上、『評価期間2~6か月』については80時間未満で支給決定した事案」は、労働時間以外の負荷要因(勤務時間の不規則性(拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、不規則な勤務・交代制勤務・深夜勤務)、事業場外における移動を伴う業務(出張の甥業務、その他事業場外における移動を伴う業務)、心理的負荷を伴なう業務、身体的負荷を伴う業務、作業環境(温度環境、騒音))を認め、客観的かつ総合的に判断したもの、と注記されている。
表9は、以上のようなかたちに加工した=「たんなる時間外労働時間別」ではなく「認定要件別」支給決定件数を示したものである。また、図3-1、3-2では、データのある2015年度以降の推移を示した。
脳・心臓疾患の認定基準をめぐっては、時間外労働時間数の基準を緩和することと、時間外労働時間数以外の心理社会的要因をより重視することが争点となってきたと言える。2021年認定基準改正の主なポイントは、時間外労働時間数が基準未満であっても認定される基準の緩和だった。
その点で、「上記以外」という要件で認定されたものの割合が2020年度10.8%から、2021年度20.9%、2022年度33.5%へと2年連続して大きく増加したことが注目されたのだが、2023年度は22.7%に減少した。死亡事案に限れば、2023年度も若干増加している。今後の経過に注目していきたい。
なお、「男女別」データも利用できるようになっているが、本誌では示していない。
精神障害の認定事由別
精神障害についての「1か月平均の時間外労働時間数別」支給決定件数から読み取れるのは、「160時間以上」のものはそれが「極度の長時間労働」として支給決定されたであろうということだけである。「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」という具体的な出来事のもとで支給決定された件数は、この表からはわからない。「本表の合計件数と支給決定件数との差は、PTSD又は出来事による心理的負荷の程度が特に過重な場合など、労働時間の長さをみるまでもなく支給決定された事案等の件数である」とされていたが、その後、表に「その他」という区分が設けられて、「出来事による心理的負荷が極度であると認められる事案等、時間外労働時間数に関係なく業務上と判断した事案の件数である」、と注記されている。本誌では、この表は省略した。
2009年度分以降、「精神障害の出来事別決定及び支給決定件数」が公表され(表11)、2014年度分以降については、「男女別」データが利用できる(表11-1に、「男女別」の2023年度分及び「合計」データを示した)。
2009年度分は「その他の件数は、評価の対象となる出来事が認められなかった事案や、心理的負荷が極度のもの等の件数である」とされていたが、2010年度分以降、「特別な出来事」の区分が別途設けられ、「その他は、評価の対象となる出来事が認められなかったもの等の件数である」とされる。
2023年認定基準改正によって「出来事」の区分がかなり変わった。改正認定基準の運用上の留意点通達に新旧の対応表が示されており、今回の公表では、2022年度分についても組み替えられた件数も示された。本誌は独自に、2021年度以前のデータについても新基準への組み替えを行った。
旧「大きな説明会や公式の場での発表を強いられた」は、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」または「上司や担当者の不在等により、担当外の業務を行った・責任を負った」またはに、「同僚等の昇進・昇格があり、昇進で先を越された」は、「自分の上司が替わる等、職場の人間関係に変化があった」または「雇用形態や国籍、性別等を理由に、不利益な処遇等を受けた」、のいずれかに組み替えられるが、2022年度分についての厚生労働省による組み替え実績ではいずれも全数前者に組み替えられており、他に材料がないので2021年度以前もそれに従った。
以上を踏まえて、表10では、「認定要件別」支給決定件数を示した。また、図4では、データのある2009年度以降の推移を示したが、煩雑になるので認定要件の数を減らし、5 パワハラ、7 セクハラ、6に含まれる「同僚等からの嫌がらせ等」及び「カスハラ」を合わせた「ハラスメント間連小計」も示した。
図4-1でみると、「3 仕事の量・質」の占める割合がもっとも大きいが、2009年度の35.0%から2023年度は19.3%にまで減っている。
著しい変化は「ハラスメント関連」の占める割合の増加である。2009年度の8.5%から2023年度には42.0%にまで増えている。この間、2020年度からパワーハラスメントの追加で急増し、2023年度からさらにカスタマーハラスメント(顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた)も追加された。
他方、自殺事案でみてみると(図4-2)、「3 仕事の量・質」の占める割合が依然として半分近くあり、「ハラスメント関連」の占める割合は20%未満にとどまり、ほとんどがパワーハラスメントである。
表11から、具体的な個別出来事別の状況もみておきたい(表中には、支給決定件数全体に占める割合は示してはいない)。
2023年度、支給決定件数全体に占める割合がもっとも大きかったのは「パワーハラスメント」で17.8%、次いで、「業務に関連し、悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」12.6%、「セクシャルハラスメント」11.7%、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」11.3%、「特別な出来事」8.0%、「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」6.7%、新設の「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた(カスタマーハラスメント)」5.9%、「業務により重度の病気やケガをした」5.3%、という順になる(以上以外の出来事は合わせて5%未満)。
しかし、女性のみについてみると、「セクシャルハラスメント」が24.3%とダントツに多い。次いで、「業務に関連し、悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」15.3%、「パワーハラスメント」13.3%、新設の「カスタマーハラスメント」10.9%、「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」7.8%、「特別な出来事」7.3%、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」5.8%、という順になっている(同前)。
ちなみに、男性では、「パワーハラスメント」21.7%、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」16.1%、「業務に関連し、悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」10.2%、「特別な出来事」8.7%、「業務により重度の病気やケガをした」8.3%、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」5.9%、「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」5.7%という順で(同前)、「セクシャルハラスメント」は0.6%である。
男女別で状況が異なる点に注意が必要である。
就業形態別
「就業形態別」決定及び支給決定件数も2009年度分から公表されており、表12及び表13に示した。「合計」欄には、2009年度から2023年度までの合計値を示してある。2014年度分以降、「男女別」データが利用できるが、本誌では示していない。
都道府県別
「都道府県別」のデータについては、表15、15-1、15-2、16を参照されたい。支給決定件数の「合計」欄には、2000年度から2023年度までの合計値を示してある。2015年度末労災保険適用労働者数をもとに10万人当たりの2000~2023年度認定合計数も計算してみた。2009年度以降、都道府県別の決定件数が公表されるようになり、認定率②が計算できるようになった。認定率②の「平均」は、2009~2023年度の平均認定率である。「都道府県別」データも、2014年度以降分について、「男女別」データが利用できるようになったが、表15、15-1、15-2、16では示していない。この間、全国安全センターでは、都道府県別の認定率のばらつき=認定率の低い都道府県における改善の必要性を提起しているところであり、より詳細な情報公表及び分析が求められる。
長期療養者推移状況
精神障害の労災認定基準専門検討会の懸念事項のひとつは、「治ゆ」や「療養期間の目安」が取り上げられていること。「長期療養者の適正管理」の名のもとに、振動病等の運動器障害を中心に、「治ゆ」についての社会常識と労災の「症状固定」概念の解離や「労災保険打ち切り」の問題が社会問題化していたのはそう昔のことではない。
内外で調査・文献の実施・収集等もなされたようだが、労災保険事業年報の「傷病別長期療養者」統計に、2020年度版から、脳血管疾患及び虚血性心疾患(負傷に起因するものを除く)、精神障害に係るデータも掲載されるようになった(表14)。これによって、新規認定者数に加えて、前年度末療養中、当該年度に新規に療養開始後1年以上経過者に該当した者、治ゆ及び中断者、死亡、傷病(補償)年金移行者、及び年度末療養中の者の療養期間別内訳がわかるようになった。障害(補償)給付移行者や休業の状況等に関する情報も公表して、療養者の推移をより全体的に把握できるようにしたうえで、状況と課題の分析に努めるべきである。
長期療養者数の推移とともに、治ゆ認定の動向についてもフォローアップが重要である。
安全センター情報2024年9月号