一人親方ではなく労働者です/東京●肺がん・振動障害労災認定裁判開始

会社から「お前はウチの労働者だ」と言われ、社会保険も雇用保険も、もちろん労災保険にも入っていて、会社から仕事の指示も受けてきた。でも、労災申請したら、国から「労働者じゃない」と言われてまともに補償してもらえない。そんな理不尽な事件が起こっている。「厚生労働省は、会社側のおかしな雇い方を見逃さず、労働者を守ってほしい」。そんな当たり前のことを求める裁判が、2023年12月から東京地方裁判所ではじまっている。

労災認定を求めて国を訴える裁判を起こしたのは、建設労働者の中川邦彦さん。中川さんは、2016年から、建設会社E社の下で、アンカー工として働きはじめた。主に、鉄筋コンクリートの天井や壁などにアンカーと呼ばれる金属部品を設置するため、強力な電動ドリルを使って穴を開けていく仕事である。E社は、本当は労働者である中川さんを「一人親方」「事業主」であるかのように偽装して働かせてした。

2019年になって、E社が中川さんに対して「労働者として扱う」と言い出した。しかし、E社は、基本給15万円だけを支払い、残りの賃金について、O社という別会社(社長と所在地はE社と同一)から「施工費」という名目で支払うというおかしな仕組みを取った。これは、E社が、社会保険料の負担を抑えるための「社会保険料逃れ」を図ったためと思われる。

2021年1月、中川さんは、職業病である振動障害(振動病)を発症し、仕事ができなくなった。働けなくなった中川さんをE社はすぐに解雇した。困った中川さんは労災申請したが、労働基準監督署の決定は「労災不支給」だった。その主な理由は、①基本給は、O社が「施工費」を支払う際に回収しているので、E社から賃金者を受け取っているとは言えない、②E社は指揮命令していなかった、という2点だった。つまり、労基署は、会社のおかしな雇い方を放置したうえで、「中川さんは労働者ではなく、一人親方(個人事業主)なので、労災補償の対象ではない」と判断したのである。

これは、建設現場で働く人々の労働者牲を否定し、さらなる社会保険料逃れを助長する判新である。こんな判断が許されるのであれば、今後、さらに多くの建設労働者が同じ被害にあう危険性がある。

東京安全センターでは中川さんからの相談を受け、これまで彼の労災申請を支援してきた。東京労働局への審査請求、労働保険審査会への再審査請求などを行ったが、労基暑の判断が変更されることはなく、不支給決定は変わらなかった。そこで、国を相手に、労災不支給決定の取り消しを求める裁判を起こすことになり、中合・東京建設従業員組合(東建従)とともに、東京安全センターも裁判支援をスタートさせた。

昨年12月に東京地裁で行われた第1回口頭弁論では、東建従の組合員である多くの建設労働者や、全建総連東京都連の役員も支援に駆け付け、40席余りの傍聴席は満員となった。法廷では、原告である中川さんが裁判官に対して意見陳述を行い、「私のように、会社に都合よく使われ、使い物にならなくなったら一方的に不当解雇をされてしまい、『労働者ではない』と言われて、まともに補償もしてもらえない。そんな第2第3の被害者が出る前に解決しなければいけない大きな問題だと思っています」と訴えた。3人の裁判官は、淡々と会社や労基箸のおかしさを訴える本人陳述を熱心に聞いていました。

2024年2月の第2回口頭弁論では、被告である国(厚生労働省)の反論書が出てきたが、労基署の不支給決定に沿って全面的に原告に反論してくる内容だった。今後、裁判はいよいよ本格的な闘いに入っていく。東京安全センターとしても、裁判支援に力を入れて取り組んでいく。

東京労働安全衛生センター

安全センター情報2024年6月号