生徒指導の行為が「私怨」?/東京●審査会は労災不支給処分を撤回、労基署が異例の書面謝罪
千代田区内のO学園(高等学校)に勤務する保健体育の教員Aさん(当時54歳)は、生徒指導も担当していた。
2018年11月某目、退学処分を受け自宅待機となっていた生徒が突然学校にきて、興奮した状態で騒ぎはじめた。Aさんら教員が対応し、生徒を帰宅させようとしたところ、激昂した生徒は複数回にわたりAさんの顔面を殴打した。Aさんは、同僚の教員に警祭に通報するよう指示し、興奮した生徒をつかんで制止し、他の教員に対応を委ねた。
顔面を負傷したAさんは、学園の協力がないまま中央労働基準監督署に労災申請したが、中央労基署の決定は不支給処分だった。その理由は、「暴行を受けた後に請求人は反撃行動に出ていることを踏まえると、お互いの私怨による行為に発展しており、業務との関連伎は失われている」(復命書)というのである。
中央労基署は、Aさんから直接聴取せず、学校現場で生徒指導に苦悩する教員の実状をまったく知ろうともしなかった。
さらにO学園当局は、Aさんに「過剰防衛があった」として懲戒処分し、千葉への異動を命じたのである。
当時O学園では退学者が相次ぎ、暴行事件、いじめが横行していた。保護者からも学校や東京都に対して改善要望が出されていたほど。しかし、当局は効果的な対応策をとらず、生徒指導を現場のAさんらに任せきりだった。Aさんは苦悩しながらも、他の教員とともに職責を果たすため懸命に努力してきた矢先に事件に巻き込まれた。
Aさんは長年、生徒指導を担当してきたが、これまで一度たりとも、生徒に対して行き過ぎた指導により、生徒を傷つけたことはない(同僚証言)。
その後審査請求も棄却。2022年4月に再審査誇求を行った。労働保険審査会の審理には、Aさんとともに飯田、全国一般東京労組の書記長が代理人として出席し、意見糠述した。ともに現場で生徒の対応にあたった同僚の教員は陳述書を提出し、「A先生が生徒に対し行った対応は、決して過剰な行動でも私怨に基づくものでもなく、生徒指導の一環として行った行動だった」、「A先生は生徒から殴打されながらも、冷静に対応し、すでに退学処分を受けている生徒を早くその場から立ち去らせ、生徒に騒ぎが広がることを紡ごうとしていました。本学の体育教員として当然の生徒対応だった」と証言してくれた。
2023年3月、労働保険審査会の裁決は、「本件傷病は、教師及び高校の責任者として、元生徒に対する教育指導を行ったことによるものとして、業務起因性があるものと判断する」として、労災と認定した。当然のことである。本裁決を受け、中央労基署は労災第一課長名で、「この度は混乱を招きましたこと、深くお詫び申し上げます。多大など迷惑をおかけ致しまして誠に申し訳ございませんでした」という書面をAさんに提出した。
中央労基署がまともな調査、判断をしていれば、これほど無用な時間をかけることもなく、苦しまずにすんだはず。その責任はきわめて重いと言わねばならない。
O学園当局は、本裁決が出た後も、懲戒処分と不当配転を撤回しようとしていない。
昨年11月、組合は0学園本部前で不当処分に対する抗議集会を呼びかけ、多くの労働者が結集しました。飯田もAさんの闘いへの連帯をアピールした。
再び元の職場で教壇に立てるよう、A先生の闘いを支援していきたいと思う。
東京労働安全衛生センター事務局長・飯田勝泰
安全センター情報2024年5月号