【特集 アジア・ネットワーク】産業災害への胎内での曝露の長期的な健康及び人的資本影響:ボパールガス惨事の空間差分分析~Gordon C McCord,et al, BMJ Open, 2023.7.13

抄録

目的

グローバリゼーションと工業化は低/中所得国の経済機会を増大させるが その過程で産業災害を増加させ、労働者に危害を与える可能性もある。本稿は、歴史上最も深刻な産業災害事故のひとつであるボパールガス惨事(BGD)の長期的なコホート・ベースの健康影響を検討する。
設計 本レトロスペクティブ分析は、インドの全国家族健康調査-4(NFHS-4)と全国サンプル調査機関による1999年インド社会経済調査の(NSSO-1999)の保健と教育に関する地理位置データを用いて、2015-2016年のマディヤプラデーシュ州在住の15-49歳の男女(女性 n=40,786;男性 n=7,031(NFHS-4)、n=13,369(NSSO-1999))、及びその子ども(n=1,260)におけるBGDへの曝露の健康影響を検討した。空間的差分戦略により,各データセットについて,他のコホート及びボパールからはるかに離れたコホートと比較して、ボパール近郊で胎生であることの比較影響を別々に推定した。

結果

われわれは、当時胎内にいた男性は15年後に彼らの雇用に影響を及ぼす障害を持つ可能性が高く、30年後にはがんの罹患率が高くなり、教育水準が低下することを示すという、BGDの長期的な世代間影響を記録する。1985年に生まれた子供の男女比の変化は、事故から100km離れた場所までBGDの影響があったことを示唆している

結論

これらの結果は、BGDに起因する社会的コストが、直後の死亡率や罹患率をはるかに超えるものであることを示している。こうした多世代にわたる影響を定量化することは、政策を検討するうえで重要である。さらに、われわれの結果は、BGDがこれまで実証されてきたよりもかなり広範囲にわたって人々に影響を与えたことを示唆している。

本研究の長所と限界

  • ⇒本研究は、ボパールガス惨事とその後の健康及び社会的結果の因果関係を明らかにするために、異なる出生コホートと地理的差分戦略を用いている。
  • ⇒この設計は、ボパールに近いところにいた時間的に不変な側面や、特定の出生コホートに属するという側面によって生じる結果の違いを除外している。
  • ⇒あらゆる生態学的被曝の割り当てと同様に、胎内での曝露とわれわれが割り当てた子どもには、一定の範囲のイソシアン酸メチルガスへの実際の曝露が含まれる。
  • ⇒死亡率は、事後的に観察される人口の構成に影響を与える。胎内での最も弱い子どもが、事故によって死亡する可能性が高かったとすれば、われわれの推定値は下限値である可能性がある。
  • ⇒われわれが推定した長期的影響は、曝露による直接的影響と、その後の影響緩和が不十分であったことの両方の結果である可能性がある。

https://bmjopen.bmj.com/content/13/6/e066733

安全センター情報2023年12月号