ベルギーのアスベスト被害者の歴史的勝利/International Ban Asbestos Secretariat, 2023.12.7

ブリュッセルにおけるダビデとゴリアテの法廷闘争で、ダビデが勝利した。この場合、ダビデとは、ベルギー・アスベスト被害者協会(ABEVA)の会長であり、引退したパイロット、中皮腫患者、そしてアスベストに関連する代表的ながんである中皮腫によって壊滅的な打撃を受けた7人家族の一員であるエリック・ヨンケーレのことである。

2023年11月27日、フラマン語圏の第一審裁判所は、かつてのアスベスト複合企業であるエタニット社に対し、「意図的な不正行為」、「故意の違法行為」、「組織的な操作」、「意識的な事実の歪曲」の罪で有罪判決を下した。

エタニット社は、エリックの故郷であるフランダース中央部のカペレ・オプ・テン・ボスでアスベスト・セメント工場を操業し、エリックの父親は、一家が住んでいた家のすぐ近くにある工業団地で働いていた。

裁判所は、ヨンケーレの弁護士ヤン・フェルモンとクエンティン・マリセルの主張に同意し、次のように判断した。

  • 「エタニットは、従業員やその家族、工場近隣の人々がある種のがんに冒されることを受け入れながら…リスクを生む行ないを続けることを選択した。」
  • 「被告は、第三者の犠牲のうえに自らの行ないの有害な結果を受け入れようとした…これは明らかに意図の一形態とみなされなければならない。」
  • 「カペレ・オプ・テン・ボス工場の操業は、工場内とその周辺における、アスベスト繊維の大規模な飛散を無秩序かつ制御不能な方法でもたらした。」

22頁に及ぶ判決によると、エタニットは1960年代からアスベストの健康被害を知っていたが、にもかかわらず「何十年もの間、わずかな防護措置も講じることなく、まったく同じ方法で工場を操業し続けた…」。この判決が成り立てば、エタニットは自社製品の製造と使用がもたらす深刻な危険性を軽視し、政府の措置に反対するロビー活動を展開し、有害な情報の公開を抑圧するキャンペーンに従事していたという判定は、世界的に影響を及ぼした可能性がある。

ブリュッセル裁判所は、同社の行ないに関する証拠を精査した。

「被告が、アスベストがもたらす危険性を組織的に最少化し、隠蔽しようとするアスベスト業界の努力に不当に加担し、とりわけ公衆衛生を守るための立法措置を妨害したことは、共通の認識である。アスベストが現実にもたらした甚大な危険性を認識していたことを考えれば、このような行為は詐欺行為としか言いようがない」。

エタニットがすでに控訴することを表明している-2023年11月27日の判決についてエリック・ヨンケーレは、「故意な違法行為の解釈に新たな光を当てるものだ…危険な製品を使用し、それを販売し続け、その有害性が証明されていることを隠した瞬間から、故意の過失を犯すことになる」とコメントした。

ベルギー・アスベスト基金からの補償金を受け入れたアスベスト被害者は、「故意の違法行為」によって有罪判決を受けたという事実によって、訴訟の門戸が開かれることになる。この補償金はかなり迅速に支払われるが、裁判所が裁定する損害賠償金よりもはるかに低い水準であり-基金申請者は第三者を訴える権利を放棄することを義務づけられる。不法行為者が享受する民事免責の唯一の例外は、請求者が「故意の過失」を証明できる場合である。

カペレ・オプ・テン・ボスの元住民マライケ・ヴァン・ブッゲンハウトも、父親がエタニット社で働き、中皮腫に罹患している。

「非常に象徴的な判決だ。この判決は、アスベスト基金がエタニット社にまったく手を出せないことを意味するのではなく、何らかのかたちで正当性を主張する可能性が残されていることを示すものである。われわれも同じ理由で訴訟を起こせないか検討している。主な目的は、エタニットに非があるという事実をできるだけ多くの文書に残すことだ」。

ヴァン・ブッゲンハウトは、エリック・ヨンケーレやABEVAとともに、汚染者-エタニット社-がその不正行為の代償を支払うべきだという意見に同意している。「企業によって引き起こされた損害について、政府や納税者が支払うことを期待すべきではない」と、彼女はブリュッセル・タイムズに語った。

いまのところ、アスベスト基金は、国、使用者の負担金、自営業者の社会保険料によって支えられている。

2007年にアスベスト基金が設立される以前は、エタニット社は、アスベスト関連疾患にかかった労働者に1人4万ユーロ支払っていた。現在、エタニット社はアスベスト基金に年間9,000ユーロ拠出している。エリック・ヨンケーレとABEVAは、アスベスト基金の運営を根本的に見直し、建築環境からのアスベスト根絶について公開対話を行うよう公けに要求している。

何十年もの間、エタニット社は、レーダーの目をかいくぐることに成功してきた。

ジョンズ・マンビル社(アメリカ)、ケープ・アスベスト社(イギリス)、ジェイムズ・ハーディ社(オーストラリア)、ニチアス(日本)、ウラリタ(スペイン)など、かつてのアスベスト大手企業は、労働者、消費者、一般市民の安全を軽視してきたことが世間に知れ渡り、企業の不正行為の代名詞となった。エタニット社はそうではない。アメリカ、イギリス、オーストラリア、スペインのアスベスト被害者が起こした有名な訴訟により、これらの企業の汚点が暴露されただけでなく、何十億ドルもの損害を被った。これまでエタニット社は、ベルギーの敵対的な法的環境とアスベスト基金による保護のおかげで、支払能力を維持してきた。エタニット/エテックスのブランドは、かつての盟友たちとは異なり、多少の汚点はあるものの、依然として浮遊している。

エリック・ヨンケーレは、この訴訟を起こした動機は、エタニット社、その取締役、経営者、主要株主であるエムセンス家が犯した犯罪を明らかにするためだと常々語っている。聖書のダビデがスリングショットをもっていたのに対し、2023年のダビデは書状、宣誓供述書、法的文書をもっていた。エリックの行動は、父ピエール、母フランソワーズ、そして弟たちの思い出に敬意を表している。[父母、そして弟の]ピエール・ポールとステファンも中皮腫で亡くなった。エタニット社の「詐欺」と「故意の違法行為」を暴くことで、ベルギーやその他の国のアスベスト被害者が同社の責任を追求する道が開かれた。正義は長い間否定されてきたが、もはや遅らせてはならない。

http://www.ibasecretariat.org/lka-historic-victory-for-belgian-asbestos-victims.php

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