脳・心臓疾患の労災認定に係る参考事例集の活用について/事務連絡 2023(令和5)年3月29日(別添・脳・心臓疾患の労災認定に係る参考事例集)
10年保存
機密性1
令和5年4月1日から令和15年3月31日まで
事務連絡
令和5年3月29日
都道府県労働局長労働基準部労災補償課長殿
厚生労働省労働基準局補償課
職業病認定対策室長
脳・心臓疾患の労災認定に係る参考事例集の活用について
脳・心臓疾患の労災認定については、令和3年9月14日付け基発0914第1号「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」により、労働時間のみでは業務と発症との関連性が強いと認められる時間外労働の水準には至らない場合でも、これに近い時間外労働に加えて一定の労働時間以外の負荷要因が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できること等が明確化されたところである。
また、基礎疾患を有する者の業務の過重性の評価について、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者が同種労働者に含まれることから基礎疾患の状況等の健康状態についても考慮しつつ、同種労働者にとっても過重な業務に就労したと認められるか否かという観点から、業務の過重性を適切に評価することが重要である。
これらの判断の参考とするため、認定基準改正後の認定状況等を踏まえ、別添のとおり、「脳・心臓疾患の労災認定に係る参考事例集」を作成したので、脳・心臓疾患の労災認定に活用し、今後、一層適切な認定に努められたい。
なお、参考事例集に掲載した事例は、認定の最低基準を示したものではないことに留意すること。
別添
脳・心臓疾患の労災認定に係る参考事例集
※ 本事例集は、実際の認定例を踏まえ、一部に改変を加えて作成したものであり、あくまで認定の際の参考とするものであって、認定における最低基準 を示したものではない。
目次
1 労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮して業務と発との関係性が強いと評価される事例
(1) 長期間の過重業務
ア 勤務時間の不規則性
【事例1】 建築施工管理者(発症時53歳)
○主な評価項目:労働時間及び休日のない連続勤務
被災者は、建築施工管理業務に従事していた。発症前1か月の時間外労働時間数は36時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前2か月平均の76時間であった。
被災者は、発症前2か月目に14日の連続勤務を行っていた。
被災者は、作業休憩時にまっすぐ歩けずふらつき、段差で躓くなどの違和感を覚え、翌日も足場に前額部をぶつけたため医療機関を受診し、脳梗塞と診断された。
これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
【事例2】 調理師(発症時56歳)
○主な評価項目:労働時間及び不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
被災者は、飲食店で調理師として勤務していた。発症前1か月の時間外労働時間数は87時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前2か月平均の75時間であった。
被災者の休日予定日は直前に変更されることが頻繁にあり、発症前1か月には代替の休日が与えられず、休日は4日であった。遅番(午後5時頃~翌午前4時頃)の翌日が中番(午前11時頃~午後10時頃)になることも少なくなく、日常的に午前4時頃まで、発症前1か月は全労働日について深夜勤務を行っていた。
被災者には高血圧症の既往があった。被災者は、業務中に調理場で片づけをしていたところ具合が悪くなり、救急搬送され、橋出血と診断された。これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
【事例3】 総務職員(発症時55歳)
○主な評価項目:労働時間、勤務間インターバルが短い勤務及び不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
被災者は、運送業の総務全般、点呼業務等に従事していた。発症前1か月の時間外労働時間数は72時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前3か月平均の73時間であった。
週2回程度、早朝点呼のため始業時刻である午前2時頃からの深夜勤務があり、この日の拘束時間は13時間~15時間となっていた。
これら深夜勤務を行う日は前日の午後5時30分頃の終業から翌午前2時頃の始業となり、勤務間インターバルがおおむね9時間未満と短くなっていた。発症前6か月間の全ての月にわたり、各月8回~9回勤務間インターバルが11時間未満となっており、最短は発症前5か月目の7時間47分であった。
被災者は、帰社するための運転途中で意識消失し、路肩に停止していたところを通行人に発見され、救急搬送されたが死亡した。死因は急性心筋梗塞であった。
これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
【事例4】 トラック運転手(発症時49歳)
○主な評価項目:労働時間、拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務及びその他事業場外における移動を伴う業務
被災者は、大型トラックの運転業務に従事していた。発症前1か月の時間外労働時間数は63時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前2か月平均の70時間であった。
拘束時間の最大は発症前3か月目の290時間であり、16時間を超える勤務日が発症前2か月から6か月において16回、発症前2か月及び3か月には、拘束時間が15時間を超える勤務がどの週も2回以上認められた。
発症前6か月間に10日以上連続勤務が7回認められ、発症前1か月には12日連続勤務と13日連続勤務があった。
勤務間インターバルが11時間未満となるのは、発症前6か月で56日、そのうち8時間未満となるのは19日であって、特に、発病前3か月目は11時間未満が12回、うち8時間未満が5回、最短が7時間5分、発病前4か月目は11時間未満が11回、うち8時間未満が3回、最短が5時間35分であった。
被災者は、3日間の行程による長距離輸送を行うことがあり、発症前6か月における車中泊は84日であった。被災者には高血圧症による通院歴があった。被災者は、就寝中に呼吸困難を覚え、医療機関を受診し、亜急性期心筋梗塞と診断された。これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
【事例5】 食品配送作業員(発症時48歳)
○主な評価項目:労働時間、拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務及び身体的負荷を伴う勤務
被災者は、大型トラックによる食品関係の運送業務に従事していた。発症前1か月の時間外労働時間数は51時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前3か月平均の67時間であった。
発症前6か月のうち、拘束時間が275時間超となる月が、発症前1か月~3か月目及び6か月目の4回あり、最大は発症前3か月目の336時間であった。
発症前6か月目に9日間、発症前5か月目に15日間の連続勤務を行っていた。
実態として所定労働時間は定まっておらず、仕事の受注状況によって前日に確定し、その始業時刻も午前3時から正午までの間と差が大きいものであった。
なお、勤務間インターバルは、11時間未満となる日が46回でそのほとんどが10時間30分から9時間程度であった。
被災者は、平均して1日2回から3回程度の積み込み、積み下ろし作業を一人で1回30分程度行っており、フォークリフトを使用した作業のほか、手作業で行うこともあった。
被災者は、業務のためガソリンスタンドで給油、洗車中に倒れ、救急搬送されたが死亡した。死因は心筋梗塞であった。
これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
【事例6】 トラック運転手(発症時62歳)
○主な評価項目:労働時間、拘束時間の長い勤務、深夜勤務、勤務間インターバルが短い勤務及びその他事業場外における移動を伴う業務
被災者は、トラック運転手として勤務していた。発症前1か月の時間外労働時間数は46時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前3か月平均の64時間であった。
発症前6か月のうち、拘束時間が400時間を超える月が2回、300時間を超える月が3回あった。このうち、最大は発症前3か月目の474時間であった。全勤務日に深夜時間帯の運転業務があった。また、勤務間インターバルは、前日が休日であった日以外について、おおむね2、3時間のみであり、1時間未満となる勤務日もあった。
勤務日は、全日、北東北-関東間の長距離輸送をしており、午前中に北東北の事業場を空荷で出発、午後8時頃までに関東の物流センターで荷積み、翌午前3時までに南東北の支店で荷下ろし、午前6時までに北東北の事業場に戻り、その数時間後に翌日の勤務を行うというものであった。
被災者は、物流センターで積み込み作業中、胸が締め付けられるような症状が出現し、救急搬送され、急性心筋梗塞と診断された。これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
イ 事業場外における移動を伴う業務
【事例7】 建設資材配送作業員(発症時48歳)
○主な評価項目:労働時間、拘束時間の長い勤務、勤務間インターバルの短い勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務及びその他事業場外における移動を伴う業務
被災者は、コンクリートブロックを運搬するトラック運転手として勤務していた。発症前1か月の時間外労働時間数は11時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前5か月平均の65時間であった。
発症前6か月のうち、拘束時間が300時間を超える月が2回あり、他にも275時間を超える月が1回あった。また、最大は発症前5か月目の315時間であった。手待ち時間は少なく、労働時間のほとんどが運転、荷積み、荷下ろし等の作業であった。
勤務間インターバルは、発症前6か月で、11時間未満が44回で、そのほとんどが10時間未満であり、発症前2か月目~5か月目については、各月1週を除き、週3回以上勤務間インターバルが11時間未満となっており、最短は発症前5か月目の7時間20分であった。
午前2時頃からの始業が多く、納品先により変動はあるものの、常態として深夜勤務に従事していた。
被災者の配送先は固定ではなく、主たる地域は事業場のある東北地方であったが、関東地方に配送することもあった。長距離輸送により宿泊を伴う勤務もあり、最大で月7回認められた。
被災者は、配送先に納品後、自宅に帰宅した夕方頃から咳が止まらず息苦しさを感じ、更に呼吸困難の症状が悪化したことから医療機関を受診し、心不全と診断され入院した。
これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
【事例8】 トラック運転手(発症時65歳)
○主な評価項目:労働時間、拘束時間の長い勤務、勤務間インターバルの短い勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務及びその他事業場外における移動を伴う業務
被災者は、トラック運転手として勤務していた。発症前1か月の時間外労働時間数は77時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前2か月平均の64時間であった。
拘束時間は、発症前6か月のうち4か月が275時間を超え、最大で発症前5か月目の372時間超であった。
発症前6か月のうち、勤務間インターバルが11時間未満となる日は30回で、発症前1か月目は勤務間インターバルが11時間未満となる日が9回と最も多く、発症前2か月目は7回、発症前3か月目は1回、発症前4か月目は5回、発症前5か月目は6回、発症前6か月目は2回となっていた。発症前2週間では3日連続勤務間インターバルが10時間未満となっていた。
午後11時や午前2時といった深夜時間帯に出発の夜間走行が多く、深夜勤務の頻度が全体の約7割であった。始業時刻があらかじめ定められておらず、始業時刻は日ごとに異なるような勤務形態であった。
配送先は固定ではなく、事業場が所在する関東一円が主であったものの、発症前6か月間では、宿泊を伴う長距離運行が16回あり、移動期間は1泊~2泊での期間が多いが、長い時には4泊で10か所の配送先への移動があった。
被災者は、配送業務中に休憩のため立ち寄ったサービスエリアにおいてトラックの前で倒れているところを発見されて救急搬送され、アテローム血栓性脳梗塞と診断された。
これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
ウ 心理的負荷を伴う業務
【事例9】 助教(発症時44歳)
○主な評価項目:労働時間、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務及び日常的に心理的負荷を伴う業務
被災者は、大学院の助教として研究業務等に従事していた。発症前1か月の時間外労働時間数は80時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前2か月平均の76時間であった。
被災者は、上記の通常業務に加え、事業場医学部付属病院において、医師として日直及び宿直勤務にも従事していた。日直及び宿直勤務は、仮眠時間等の休憩時間も定められておらず、被災者が通常勤務終了後宿直勤務に従事し、その後引き続いて通常勤務に従事している日が発症前6か月で4回認められた。
当該病院の産婦人科ではハイリスクな分娩が多く、心理的負荷を伴うものであった。被災者は、実験室内に心肺停止状態で倒れているところを発見され、救急搬送されたが死亡した。死因は心臓性突然死であった。これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
【事例10】 工場長(発症時56歳)
○主な評価項目:労働時間、勤務間インターバルの短い勤務及び心理的負荷を伴う業務
被災者は、化学工場の工場長として管理業務に従事していた。発症前1か月の時間外労働時間数は21時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前5か月平均の75時間であった。
勤務間インターバルが11時間未満となる勤務は、発症前1か月目に4回、発症前2か月目に11回、発症前3か月目に10回、発症前4か月目に13回、発症前5か月目に13日、発症前6か月目に9回の合計60回あった。そのうち、勤務間インターバルが10時間未満となるのは32回であり、最短は発症前6か月目の7時間で、発病前2か月目や5か月目にも7時間台の日が複数あった。
被災者は、発症前4か月頃に、突発的に実施された抜き打ちの監査で是正指示を受け、工場長として安全管理や労務管理などの業務体制の見直しや改善策の策定を行い、報告書を取りまとめる業務に従事するという心理的負荷を伴う具体的出来事「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が認められた。
被災者は、事業場更衣室で倒れているところを発見されて救急搬送され、くも膜下出血と診断された。
これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
【事例11】 運行管理者(発症時55歳)
○主な評価項目:労働時間及び心理的負荷を伴う業務
被災者は、運行管理業務等に従事していた。発症前1か月の時間外労働時間数は74時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前2か月平均の71時間であった。
被災者は、運行管理者として、日頃よりドライバーの交通事故等の責任を回避する責任があり、運行の安全を確保するための措置等を講じていた。発症前2か月目に、被災者は自治体及び親会社が共同企画する物流倉庫の大規模な移転計画の運送責任者となり、計画立案や人員調整を行っていた。倉庫移転は年末年始に複数の倉庫から荷物を移転するもので、短期間に大規模の移転をしなければならないものであった。また、同時期より、2名で分担していた運行管理者の業務を被災者一人で担当するようになったことも重なり、交通事故回避などの業務の責任を一人で背負うとともに業務量、業務密度ともに負担が増加していた。
なお、発症前6か月において、勤務間インターバルが11時間未満の日数は13日程度であったが、そのうち4日が発症前2か月目に集中し、最小のインターバル時間は9時間であった。
被災者は、事業場内で気を失い転倒し、救急搬送されたが死亡した。死因は心停止であった。これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
エ 身体的負荷を伴う業務
【事例12】 事務兼荷役作業員(発症時56歳)
○主な評価項目:労働時間、勤務間インターバルが短い勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務及び身体的負荷を伴う業務
被災者は、事務員兼ドライバーとして勤務していた。発症前1か月の時間外労働時間数は59時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前2か月平均の65時間であった。
発症前6か月において、勤務間インターバルが11時間未満となったのは30日(10時間未満となるのは16日)あり、発症前1か月目が8日、2か月目が6日、3か月目が4日、4か月目が6日、5か月目が4日、6か月目が2日で、最短は発病前5か月の7時間であった。
午前1時から午前5時に業務開始をした日が発症前6か月で27日あり、そのうち発症前1か月が10日、発症前2か月に4日、発症前3か月に7日であった。
事務の仕事よりトラックによる運送業務を行う割合が徐々に増えていき、発症前6か月で運送業務に従事した94日のうち、63日が発症前3か月以内に行われた。発症前6か月に運送業務に従事した94日のうち、42日は手作業により荷物の積み卸しを行っており、10kg~15kgの荷物を1日100個~400個扱っていた。
被災者は、トラックの運転中、トラックが左側に寄ってしまうことに異変を感じ、家人への電話で呂律が回っていないと指摘されて救急搬送され、アテローム血栓性脳梗塞と診断された。
これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
オ 作業環境
【事例13】 自動車整備士(発症時38歳)
○主な評価項目:労働時間及び温度環境
被災者は、自動車整備士として、トラックやバスの整備作業に従事していた。発症前1か月の時間外労働時間数は77時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前2か月平均の77時間であった。
発症時期は夏季であり、作業場所は、直射日光が遮られシャッターは開放されて扇風機が回っていたものの、冷房は休憩室のみであった。
作業においては、50~60度の高温スチームで整備車両の下廻りの洗浄を1日当たり3~4時間程度行っていた。
被災者は、息切れ等の症状で医療機関を受診していたところ、院内で急性心不全により死亡した。
これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
【事例14】 食品配送作業員(発症時66歳)
○主な評価項目:労働時間、拘束時間の長い勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務、その他事業場外の移動を伴う業務及び温度環境
被災者は、大型トラックで冷蔵や冷凍の食肉加工品を運送する業務に従事していた。発症前1か月の時間外労働時間数は60時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前6か月平均の74時間であった。
発症前6か月の拘束時間は、発症前1か月目が317時間、発症前2か月目が402時間、発症前3か月目が341時間、発症前4か月目が364時間、発症前5か月目が367時間、発症前6か月目が396時間であり、平均拘束時間は364時間であった。
始業時刻は概ね午後5時であり、終業時刻は早い日で午前1時台、遅いと午前11時台と幅があり、常態として深夜勤務に従事していた。
なお、発症前6か月間において、勤務間インターバルが11時間未満であった日は101日であった。
被災者の運行経路は最短で往復330km、最長で往復357kmであった。
被災者は、台車に乗せられた100kg~200kgの積荷を手作業で積み下ろす作業を行っており、また、積み卸し作業では食肉加工用の冷凍庫(-20℃~-25℃)を出入りしており、発症当日においては外気温との寒暖差が40℃以上となっていた。
被災者は、運送業務の合間に仮眠していたところ、体がだるくなり、電話をしていた際に呂律が回らなくなって救急搬送され、脳梗塞と診断された。
これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
(2) 短期間の過重業務
【事例15】 ネットワークエンジニア(発症時45歳)
○主な評価項目:労働時間及び休日のない連続勤務
被災者は、ネットワークエンジニアとして、システム開発等の業務に従事していた。発症当日は出勤しておらず、発症前日の労働時間数は12時間30分であった。発症前1週間の労働時間数は79時間であり、時間外労働時間数は39時間であった。
経営戦略会議に係る発表資料の作成のため、発症前1週間を含んだ12日間の連続勤務が行われていた。
被災者は、自宅ダイニングテーブルの下で倒れているところを家族に発見され、救急要請されたが死亡が確認された。死因は急性心筋梗塞であった。
これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
【事例16】 警備員(発症時79歳)
○主な評価項目:労働時間、拘束時間の長い勤務及び休日のない連続勤務
被災者は、警備員として空調施設等の警備業務に従事していた。発症前1週間の労働時間は51時間で、発症前8日目を含むと67時間であった。
8時始業、翌8時30分終業の24時間30分拘束が原則の勤務形態で、発症前1週間の拘束時間は83時間であった。休憩は8時間であったものの、そのうち夜に仮眠できる時間は3時間程度しか確保されておらず、他の休憩時間も各30分~1時間程度に細分化されていて、夜間に十分な睡眠が取得できる状況ではなかった。
発症前1週間において、夜勤明けはあるものの暦日の休日はないため、発症日は連続勤務11日目となっており、それ以前も1日の休日を挟んで15日連続勤務に従事していた。
被災者は、発症の10年前に心筋梗塞による心臓カテーテル治療を受けていたほか、高血圧症、脂質異常症の基礎疾患を有していた。被災者は、警備業務中に突然倒れて救急搬送され、心室細動に伴う心停止であったと診断された。
これらの状況について、医学専門家は、特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
2 重篤な基礎疾患を有する者で業務と発症との関係性が強いと評価される事例
(1) 長期間の過重業務
【事例17】 トラック運転手(発症時53歳)
○主な評価項目:労働時間、休日のない連続勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務、その他事業場外の移動を伴う業務及び身体的負荷を伴う業務
被災者は、ファロー四徴症を有して出生し、出生直後から心疾患に係る療養を継続しており、身体障害者手帳(心臓機能障害)1級が交付されていた。被災者は、金属製品等をトラックで県外の物流倉庫に配送する業務に従事しており、被災者が身体障害者手帳を有していることを事業場は把握していた。
被災者が発症する前における1か月の時間外労働時間数は50時間、発症前2か月ないし6か月における時間外労働時間数の最大は発症前4か月平均の59時間であった。
また、発症前6か月において7日以上の連続勤務が毎月あった。そのうち、発症前2か月目には27日連続勤務があり、また、発症日は連続勤務19日目であった。
県外の運転業務は東日本が中心であり、1泊2日ないし2泊3日の運行日程であった。県外出張のときはトラック内で仮眠をとっており、1か月間ほとんどトラック内で仮眠をしている月があった。
各地の物流倉庫では、金属製品の積み卸しを20分程度行っており荷の重量が25kg程度の物も含まれていた。被災者の運動強度の許容範囲は運送業務に支障のない程度(2.0METs程度)とされていたが、実際に被災者が行っていた20分連続の荷物の積み卸し作業は6.5METs程度であったと推測される。
被災者は、配送先において荷物の積込み作業中、荷物にもたれかかるように倒れているところを発見され、救急搬送されたが死亡した。死因は心室細動による心停止であった。
これらの状況について、医学専門家は、被災者と同様の健康状態にある同種労働者にとって特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
(2) 短期間の過重業務
【事例18】 梱包作業員(発病時44歳)
○主な評価項目:身体的負荷を伴う業務
被災者は、過去に急性心筋梗塞による冠動脈バイパス手術を受けており、身体障害者手帳(心臓機能障害3級)が交付されていた。また、被災者は、日々派遣労働者としてプレス加工業務に従事しており、主治医から重量物の取扱いは避けるよう指示されていたが、配置転換によりアルミ材の梱包・運搬業務に従事するようになった。
なお、被災者が身体障害者手帳を有していることを派遣元事業場は把握していたが、派遣先事業場は把握していなかった。
被災者が従事していたアルミ材の梱包、運搬作業は、長さ2m、縦横20cm程度の段ボールを組み立てた後、結束されたアルミ材を梱包するもので、重量は軽い物で5kg程度、重い物で10kg程度であった。梱包後の段ボールの持ち運びは7、8歩の範囲内であった。
日々の業務態様においては、別グループの作業終了まで待ち時間が生じるため、休みなく作業に従事していたものではなかったが、被災者の心機能はNYHA(ニューヨーク心臓学会)の心不全分類Ⅱ度、許容運動・作業強度については2.2~2.5METs程度であったと推測され、5kg~10kg程度のアルミ材を持ち上げる業務は、少なくとも4.5METsはあったものである。
アルミ材の梱包、運搬業務への配置換えにより、それまでの日勤のみから深夜時間帯を含む交替制勤務に従事するようになっていた。なお、発症前1週間の時間外労働時間は2時間であり、発症前日、2日前及び4日前は勤務していなかった。被災者は、出勤後の業務開始前にいびきをかいて突然倒れ、救急搬送されたが死亡した。死因は急性心不全であった。
これらの状況について、医学専門家は、被災者と同様の健康状態にある同種労働者にとって特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
【事例19】 商品陳列作業員(発症時50歳)
○主な評価項目:身体的負荷を伴う業務
被災者は、過去に大動脈弁置換術を受けており、身体障害者手帳(心臓機能障害1級)が交付されていた。また、被災者は、日々商品の陳列等の作業に従事しており、被災者が身体障害者手帳を有していることを事業場は把握していた。
発症前1週間に時間外労働はなかったが、被災者は平均的に1日当たり10kg以上の商品を4時間~5時間、10kg未満の商品を2時間程度取り扱っていた。
被災者は、NYHAの心不全分類Ⅱ度に相当していたと考えられ、主治医によれば、激しい運動は避ける、重量物は持たない等の指導を受けており、重量物を持ち上げる等激しい負荷がかかる作業を避けるような就労制限が求められていた状態であった。
被災者に許容される作業強度は、3.5~5.9METs程度であったと推測され、被災者が行っていた重い品物を持ち上げる作業には、6.0METs以上のものも含まれていたと推測される。
被災者は、商品が入った約35kgの箱を持ち上げた際、急に力が入らなくなってその場に転倒し、その後も心臓の動きが速い状態が続いたため医療機関を受診し、心不全と診断された。
これらの状況について、医学専門家は、被災者と同様の健康状態にある同種労働者にとって特に過重な業務といえ、業務と発症との関係性が強いとの意見であった。
安全センター情報2024年1・2月号