ナイロン(=ニセモノ)患者ではなく、本当に苦しい患者です 2023年11月21日 韓国の労災・安全衛生
「私たちを『ナイロン(=偽物)患者』扱いすることに腹が立ちます。 私たちは「ナイロン」じゃなくて、本当に苦しいんです。
サムソン電子LCD事業部で働いて脳腫瘍に罹ったハン・ヘギョンさんは、勤労福祉公団で病気を労災と認められるまでに丸10年もかかった。1995年にサムソン電子器興工場に入社したハン・ヘギョンさんは、2005年に脳腫瘍と診断された。生産職オペレーターとして働きながら鉛とフラックス(はんだ付け時に接着部保護溶剤)・有機溶剤などにばく露したためだ。脳腫瘍は手術で除去したが、後遺症で視覚・歩行・言語障害が生じた。
ハン・ヘギョンさんは2009年に労災申請をしたが、六回も不承認とされた。最初の申請から10年後の2019年、結局、業務上の疾病と認められた。ハン・ヘギョンさんは「毎月労災障害年金を受け取るが、年金のおかげで生活が安定し、自尊心も少しは回復した」と話した。ハン・ヘギョンさんの母親のキム・シニョさんは「10年間、労災を認定しない公団を相手に闘いながら、私たちを『偽』扱いしながら接する態度に、涙もたくさん流した」とし、「労災認定は労働者とその家族にとても大切なことで、より多くの被害者の労災が認められなければならない」と強調した。
被災当事者と家族、労働・市民・社会団体は21日、『労災患者を侮辱する尹錫悦大統領糾弾緊急証言大会』を行った。
推定の原則のせいで労災承認を濫用?
筋骨格系疾患への適用は3.7%に過ぎない
国政監査を基点に、政府と与党は労災保険の財政問題を水面上に引き上げた。与党の議員が「ナイロン患者の牽制装置が消えた」として制度に問題があると指摘すると、雇用労働部は、国政監査直後に公団を相手にした特定監査に着手した。イ・ジョンシク労働部長官は「監査によって、緩い労災承認と療養管理から始まった、いわゆる『労災カルテル』問題を根絶し、労災保険基金の財政不良化問題を根源的に解消する」と明らかにした。
与党議員と大統領室の関係者の発言を総合すれば、保険金着服構造の原因として、労災推定の原則が指摘される。労災推定の原則は、作業期間・ばく露量などに関する一定基準を充足すれば、反証がない限り業務上疾病と認定するという制度だ。労災処理期間を短縮し、被災労働者の立証責任の負担を緩和しようとする趣旨で導入された。2017年に「産業災害補償保険法」(労災保険法)施行令で法制化された。
この日、証言大会に参加した労働者たちは政府・与党の主張に反撥した。あたかも労災推定の原則が適用され、労災承認が濫発され、モラルハザードが発生したように言うが、むしろ労災推定の原則が余りに狭く適用されているという批判だ。筋骨格系疾患の場合、八大傷病が対象だが、職種・勤務期間・有効期間に対する一定の基準を満たさなければならない。実際、昨年筋骨格系の労災申請件数(1万2491件)の内、推定の原則が適用された件数は3.7%(468件)に過ぎない。
金属労組・韓国タイヤ支会のオ・ドンヨン副支会長は「韓国タイヤの労働者は、生産現場のすべての工程で、作業者のすべての身体部位を利用して成形作業と非成形作業をしなければならない」とし、「この作業が長期間行われるため、すべての身体部位に疾病が発生せざるを得ない」と指摘した。タイヤの成形工・圧出工などの関連業務従事者は、八つの内、肩回転筋蓋破裂、肘内(外)上過炎、手・手首三角繊維軟骨複合体破裂の三つの傷病にのみ適用される。
「ナイロン患者とは、当事者と残りの家族への侮辱」
複雑な手続きと長期間の審査で被災労働者は治療に専念し辛いと口を揃えた。障害者活動支援士のAさんは2021年、業務中にセクハラを受けた後、適応障害と診断されて労災を申請した。以後、療養給与内訳と健康診断履歴を10年分など、公団が要求した各種書類を準備・提出するなど、至難な過程を経なければならなかった。申請後七ヵ月が過ぎてようやく承認された。Aさんの労災申請を助けた全国活動支援士労組のコ・ミスク組織局長は「被害者は、見えない傷を証明するために、苦痛の瞬間を繰り返し陳述しなければならなかった。」「彼は事業主と公団(支社)の間にカルテルがあるようだと話した」と伝えた。
労災当事者と家族は「ナイロング患者」といった表現と、労災を見る認識が侮辱的だと批判した。業務中の事故で貨物運転手だった父親を失ったシム・ソンフンさんは「父親が残した助け(労災遺族補償)で家族が生計を立てられるようになったが、残った家族が工夫して生活を維持するには困難がある。」「大統領室の発言は、家族を失って生計を立てている遺族にとって大きな侮辱」と話した。シム・ソンフンさんは続けて「これ以上、遺族に、労災で治療を受ける人々に、傷をつける言葉は使わないで欲しい。」「何より、これ以上家族を失う人々は発生して欲しくない」と付け加えた。
2023年11月21日 毎日労働ニュース オ・ゴウン記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=218392