1万歩歩くと健康に役立ち、3万歩歩きながら働けば? 2023年10月04日 韓国の労災・安全衛生

サムソン電子華城事業場/サムスン電子ホームページ

サムソン電子の華城半導体工場で物流業務を行っているAさん(55)は、12時間勤務する間、ほとんど立ったまま働く。2017年にサムソン電子の協力会社の㈱ミョンイルに入社したAさんは、ウェハー(半導体の原版)を運搬する際に使うフップ(FOUP)ボックス複数を台車に載せ、ラインからラインに移動する業務を行う。昼休みと午前と午後に一度ずつ与えられる休憩時間を除いては、一日中立って働くことが多い。

一日平均3万歩以上歩くというAさんは「椅子に座るのが夢だった」と話した。足が腫れたりつったりするのは日常茶飯事だった。足から始まった痛みは足の甲に拡がり、結局昨年11月には両足の下肢静脈瘤の手術を受けた。同じ業務をしたBさんも「物量が多い時は1秒も座っていることはなかった。」「(家に帰ると)腰がちぎれるように痛かった」と話した。昨年、歩く度に足の裏の痛みが酷くなり、最近、線維腫症と診断されて手術を受けた。

サムソン電子の半導体工場で働く下請け労働者たちは、長時間・高強度の労働に追われ、各種の疾病に苦しめられていると訴えている。よく「一日1万歩歩く」ことを、健康増進のためとして奨励されているが、日常的に過度に多く歩く作業にとっては、適正水準の『運動』ではなく、高強度の『労働』」として、肉体的に過負荷がかかるおそれがあると指摘されている。

12時間交代勤務、重量物の取り扱い、終日立って作業
労災申請労働者「椅子に座るのが願いだった」

<毎日労働ニュース>の取材によれば、サムソン電子の協力業者のミョンイルで働く労働者が訴える疾病は、12時間交代勤務という長時間労働、5kg以上の重量物の取り扱い、休む間もなくラインを行き来しながら立って仕事をしなければならない労働環境と無関係ではない。

ミョンイルは、サムソン電子の器興・華城・温陽事業場で、半導体の原・副資材などを運搬する物流専門会社だ。雇用形態公示制で見ると、ミョンイル所属の労働者は1446人で、この内、正規職と無期契約職は892人、期間制は554人だ。AさんやBさんのようにライン間でフップを移動する労働者は、12時間ずつの交代勤務をする。三組二交代で四日間の昼間勤務の後、二日間休業し、四日間の夜間勤務をする方式だ。昼間組は午前7時から夕方7時まで働く。昼休み(1時間20分)を除き、午前と午後にそれぞれ50分、40分ずつの休憩を取る。Aさんは「本来30分ずつの休憩時間があったが、工場のラインから歩いて出てくる時間、防塵服を脱ぐ時間まで勘案すれば、休み時間が短すぎる」と説明した。

一つのフップの中には最大25個のウェハーを入れることができる。フップが一杯になると、ボックス当り8~9kg程度というのが現場の労働者たちの話しだ。フップ8ボックスを台車に載せ、ラインから他のラインに移して積み込みを繰り返すが、待機時間がほとんどなく、休む暇もなく移動しなければならないという。フップを移動させる自動化設備が設置されているが、ライン間の移動が建物や階を移動しなければならない場合は、機械ではなく人が直接運ぶという。

勤労福祉公団が労災認定「歩く動作は血流循環に役立つ」
「『運動』ではなく『労働』、業務内容を具体的に考えなければ」

Aさんは下肢静脈瘤を職業性疾患だとして勤労福祉公団に療養給与申請をしたが、不承認の通知を受けた。京仁地域業務上疾病判定委員会は「静的に立っている姿勢より、歩く動作は筋肉の反復的な収縮と弛緩で下肢静脈の貯留を減少させ、血流の循環を円滑にするのに効果がある」として、業務と疾病との相当因果関係を認めなかった。Aさんは公団の不承認の決定に審査請求を提起した。Bさんも公団に労災申請をしている状態だ。同じ傷病で労災承認を受けた先例を参考にした。

仕事環境健康センターのリュ・ヒョンチョル理事長は「業務内容を具体的に考えずに、単純に歩く動作が血流循環を円滑にすると判断するよりも、十分な休息を取ったかどうか、実際に立って働いた時間などを総合的に考慮する必要がある」と指摘した。

2020年にKTXの乗務員に発病した下肢静脈瘤が業務上疾病と認められた事例を見ると、被災者は一日1万8千歩以上歩いた。当時、ソウル業務上疾病判定委は、△一日5時間以上立って働いたこと、△列車の振動で下肢に多くの力を加えるしかなかったこと、△不便な靴と服装による疲労の累積など、様々な要因を考慮した。

自動車部品会社で長時間立ったまま作業をして、足底筋膜炎と下肢静脈瘤を発病した労働者が業務上疾病と認められた先例も参考になる。労働者はドアトリムの組立作業をする時には一日10時間以上、週六日働き、一日に1万5千~2万歩を歩いた。一日30箱(1個当たり7~13kg)を積載し、製品を台車に移す業務も行った。金属労組蔚山支部によると、当該の労働者は、公団からは労災不承認の通知を受けたが、その後の行政訴訟で、調停を経て療養不承認処分を取り消され、事実上業務上疾病を認められた。

政策研究所のハン・インイム理事長は「一日1万歩歩くことが適正水準ということは広く知られた事実だが、3万歩以上というのは一般の労働者集団には見られないレベル」で、「運動も適当にしなければならないが、これは労働であり、日常的に人が耐えられる水準以上の労働をすることになれば、多く歩くことも問題になるだろう」と指摘した。更に、「労働時間が長く、交代で夜間勤務をする上に、重量物を取り扱いながら多く歩くとすれば、疲労が累積し、身体的にも大きな負担とならざるを得ない」とした

サービス一般労組

2023年10月4日 毎日労働ニュース オ・ゴウン記者

http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=217555