「基準値以下の有機溶剤にばく露」測定にも労災認定はなぜ? 2023年09月18日 韓国の労災・安全衛生

掘削機の下部フレームを作る工場で、溶接・塗装の工程管理業務をしながら有機溶剤にばく露された労働者・Aさん(発病当時38才)に生じた『全身硬化症』は業務上疾病という控訴審の判決が出た。該当工場の作業環境は雇用労働部告示が定める化学物質ばく露基準以下だと測定された報告書があったが、控訴審は作業環境測定報告書の限界を指摘し、報告書の性格を「事業場が有害要因にばく露されているのか、そのばく露有害要因に関する管理ができているのかを見る基準」と判断したという点で、有意義な判決と評価されている。

ソウル高裁は14日、Aさんが勤労福祉公団に提起した療養不承認処分取り消し訴訟の控訴審で、原告勝訴の判決を行った。裁判所は「法的・規範的な観点から、全身硬化症は原告が多数の有機溶剤などにばく露したことが原因で発生したり、少なくとも他の不詳な発病原因と重なって誘発または促進されたと見るのが合理的」と明らかにした。

Aさんは2009年7月、統一ゴムベルトの依頼を受けて、掘削機の下部フレームを作るキピョンハイテクに生産管理者として入社し、生産管理業務を行った。塗装作業の現場を管理しながら、一日2~3回の現場勤務をした。2015年8月からは現場への常駐を始めた。塗装設備を分解して洗浄する仕事、塗装が上手くできてない部分を筆で修正する仕事は、最初から専門で担当した。

Aさんは2017年6月に全身硬化症の診断を受け、勤労福祉公団に労災を申請した。全身硬化症は皮膚が厚くなり、内部臓器の異常を伴う希少疾患で、有機溶剤にばく露した時に発病する可能性がある。勤労福祉公団と一審裁判所は、Aさんが有機溶剤にばく露されたレベルが低かったため、全身硬化症と業務の間の関連性を認めるのは難しいと判断した。しかし、二審の裁判所は一審の判決を覆した。

控訴審では「原告は生産管理職として採用されたが、事実上、事業場で作業者として業務をしながら、一週間平均69時間も働いた事実、事業場には有機溶剤などの有害要因が発生したが、生産管理者だという理由で原告には保護装具が支給されなかった事実などを見れば、全身硬化症と原告の業務との関連性を認めることができる」と判示した。

控訴審裁判所はまた、有機溶剤など有害因子が労働部告示が定める「化学物質ばく露基準」以下という会社の作業環境測定報告書にも縛られなかった。控訴審では「産業安全保健法上の作業環境測定報告書は、測定された具体的な数値の大きさと、それによる疾病の罹患(病気にかかる)の有無よりも、事業場が有害要因にばく露しているかどうかと、そのばく露有害要因は何であり、これに対する管理はされているかを調べる基準としての役割をする」と判断した。続けて「原告が使用したシンナーに、ベンゼンと一緒にジクロロメタンも含まれており、二つ以上の化学物質に混合的にばく露され、その有害性がさらに増加した可能性もある」とし、「ばく露基準以下の例示資料は、測定がなされた当時の作業環境を示すだけであり、原告が仕事をしていた当時の作業環境を表すことはできない」とした。

2023年9月18日 京郷新聞 キム・ジファン記者

https://www.khan.co.kr/national/labor/article/202309180941001