「遅いとシカト」20代の障害者の療養保護士の自死に『労災』 2023年08月07日 韓国の労災・安全衛生

資料写真/イメージトゥデイ

「無視されて。こうするのも腹が立つし。私はどうしてこんなに生まれたのか・・・」

自ら命を終わらせるために農薬を飲んだ知的障害者の療養保護士のAさんが、2019年5月に集中治療室で妹と交わした対話の一部だ。彼は息を詰まらせながら、妹に『職場内いじめ』を訴えた。妹が「B(同僚療養保護士)さんね。その人がずっと無視したの?」と尋ねると、Aさんは「私は少し手が遅いかもしれないが、動きが鈍いと陰口を叩いた」と訴えた。「お父さんに話す積もりはなかった?」という妹の問いに、「そうしても、その○○たちはもっと悪くなるだろう」と首を横に振った。彼の年齢は24歳に過ぎなかった。

あらゆる雑務に休日勤務、同僚たちは「いじめ」

Aさんは集中治療室に入って三日も経たずに目を閉じた。遺族と同僚は、故人が誠実な療養保護士だったと口を揃える。2013年に知的障害3級と診断されたが、数回の挑戦の末に療養保護士の資格を取得した。青松郡のC療養院での衛生員としての勤務経験と当時の院長の激励が力になった。2017年1月にはC療養所に入社した。毎日2~3キロの道を自転車で通勤しながら誠実に業務を行った。毎月約170万ウォンの給与を受け取り、通帳に1700万ウォンの貯蓄もした。

ところが、院長が変わってから問題が始まった。新しい院長は、Aさんに療養保護士と関係のない仕事をさせ始めた。遺族によると、食材の運搬を始め、廃オムツの処理、療養院の清掃、ボックスの整理などの雑務を押し付けた。また、障害があるから療養院の利用者に被害を与えるかも知れないと夜間勤務から除外し、名節や祝日に勤務をさせた。

同僚の療養保護士のBが日常的に苦しめていた情況も把握された。BがAさんの障害を問題視し、同僚の前で無視する発言をした。同僚の療養保護士もそのよう供述した。これは、Aさんが亡くなる直前に妹に打ち明けた話と一致した。更に、BがAさんの自転車を勝手に使っていたことが判った。自転車に傷をつけ、タイヤに穴を開けて修理に出さなければならなかった。

退勤後に自害、公団は「個人責任」

入社から二年四ヶ月が過ぎた2019年5月15日に事故が起こった。Aさんは退勤後、夕食を抜いて一人で部屋に入った。父親が「どうしたの? ご飯を食べなさい」と言っても返事をしなかったが、「私が障害者だからといって、私の言うことは聞いてくれない」と話した。父親が「私に話して。誰がそう言ったのか?」と再度尋ねたが、Aさんは「父親が行って何か言ったら、私は報復される」と叫んだ。午後9時頃、部屋から変な音がしたので父親が入ったら、Aさんは農薬を飲んでいた。猛毒性で知られるグラモクソンが入った筒が見つかった。

直ぐに病院に運ばれたが、5月18日に多発性臓器不全で亡くなった。Aさんの妹は、院長と同僚の療養保護士のBを、強要と名誉毀損などで告訴した。しかし、検察は同年12月、容疑なし(証拠不十分)で終結した。これとは別に、Aさんの両親は業務上災害として、勤労福祉公団に遺族給付と葬祭料を請求した。

しかし、すべてAさんの「個人的な素因」とされた。業務上疾病判定委員会は「業務的な要因として、自殺を試みるほどの特別な事件(業務過多、いじめ、職場内いじめ、差別など)は確認されておらず、故人が職場内で受けた業務上のストレスのレベルが、正常な認識能力などを明らかに低下させ、自殺を誘発する程だとは考え難い」と判断した。労災補償保険再審査委員会もやはり「客観的な根拠や医学的な所見が不十分だ」として、再審査請求を棄却した。

裁判所「深刻な精神的ストレスが原因」

両親は裁判所に向かった。Aさんが差別や同僚との不和、不当な業務分担によるストレスによって、合理的判断ができない状態で自害行為をしたので業務上災害だと、再度主張した。裁判所の鑑定医も公団の結論を支持した。知的障害3級のAさんは、不和が起こった時にストレスを受けやすいとしながら、差別や不当な業務指示が確認されないとした。

しかし、ソウル行政裁判所は先月25日に遺族の手を挙げた。業務上のストレスによってうつ病の症状が悪化し、それによって正常な認識能力が著しく低下し、極端な選択に至ったと判断した。裁判所は「2019年に院長が変わった後から、故人の表情が暗くなり、口数が減るなどの兆候が発生したと見られる。」「故人が自身の状況に関して、院長と療養保護士からの関心と気配りを受けたと見られるほどの事情は見つけ難く、むしろ妹に話した内容と同僚の陳述から見ると、激しい精神的なストレスを受けていたものと見られる」と判示した。

Aさんが知的障害3級であることも考慮された。裁判所は「故人は精神的な障害を持っており、療養院で受けた感情的な傷を他の人との対話によって癒すことが難しく、なにがしかの抗議をしたい気持ちで、グラモクソンを飲むという異常な方法を選択したものと見られる。」「故人が自害行為をした当時に、死亡という重大な結果がもたらされるということについて正しく認識していたのかを疑問に思う」とした。本来、業務外の業務を担当することになった時に受けるストレスも一般人より高かったと見た。実際、Aさんは旧正月と連休の期間に勤務していたことが確認された。

「すべての国民は人間らしい生活を送る権利」

裁判所が「すべての国民は人間らしい生活をする権利を持つ」と定めた憲法の趣旨を引用した点は注目すべきことだ。裁判所は「国家だけでなく、個別の国民も障害者に対する配慮によって、障害者の権益向上のために努力する義務がある(障害者福祉法第10条)」とし、「故人は精神的障害の限界を克服しようと努力し、これに対する十分な配慮や応援がなければ、障害者が自らの能力を十分に発揮し、自ら一定の役割を果たせる社会環境を造成することを阻害せざるを得ない」と強調した。障害者の権益向上のために努力する義務を、療養院が果たさなかったという趣旨だ。

法曹界は、障害者である労働者に配慮すべき憲法上の義務を幅広く認めたということに意義を認めた。遺族を代理したキム・ヨンジュン、キム・ウィジョン弁護士は、「個人的な脆弱性を、業務と死亡との相当因果関係を判断する時に重きを置いてはならない、という最高裁の態度が再度確認された。」「業務上の災害に対する迅速・公正な補償、勤労者の福祉の増進と勤労者の保護という、『産業災害補償保険法』(労災保険法)の目的を達成するためには、障害者の特性を考慮し、労災保険保障の範囲を狭く判断してはならないということを示した判決」と評価した。

2023年8月7日 毎日労働ニュース ホン・ジュンピョ記者

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