大地震の被災地を訪ねる:インドネシア②●地域社会での取り組み

■山村一瞬に崩壊させた大地震

前回のインドネシア訪問記に続き、2022年11月21日にインドネシア西ジャワ州チアンジュール(Cianjur)市を襲い、死者600人以上そ出した大地震の現場訪問について報告したいと思う。チアンジュールはジャカルタの商南100kmの山間部の町で、保養のために訪れる人も多いところである。今回の地震は朝6時20分に起こり、震源は地下10km、マグニチュード5.6の直下型だった。突然うなるような衝撃が走り大地が盛り上がったそうだ。チアンジュール中心部はほとんど被害がなく電気が1日停まっただけだった。しかし、山間部の村々は崩壊し、いまも多くの人々がキャンプ生活を続けながら、壊れた家の片付けや再建を自分たちの手で行っている。

■被災地域にINA-BANと入る

インドネシアのアスベスト禁止活動を進めるINA-BAN(インドネシア・アスベスト禁止ネットワーク)は、2週間後に現地に入り、アスベストスレートをマスクや手袋をせずに片付ける軍隊や地方自治体の職員の映像を発信し、被災地アスベストの危険性を訴えている。2月15~16日に、被災現地で被災者のためのアスベストワークショップを開くため、INA-BAN代表のダリスマンさんらが現地に入っていた。私は2月10日に彼らと合流し、現地視察に入った。
市内のホテルから車で被災地に向かった。市内から細い山道を上がっていくと、地震で壊れた家々が現われた。30分ほど登ったところで車を止め、付近を歩くことにした。がれきの中には波型スレートが転がっている。分別されている場所もあるが、粉々になってがれきに混じっているところが多くあった。表示はいっさいない。人々はゆっくりしたペースで、がれきを片付けたり、壊れた家を直したり、新しい家を建てはじめている人もいた。

■アスベストリーフレットを提供

2月11日は、ダリスマンさんらとともに、チアンジュール現地でアスベスト問題に取り組むNGOの事務所を訪問した。Habitat Humanity Indonesiaのチアンジュール支部の人たちで、このNGOは生活困難者にシェルターを提供する、衛生教育を行う全国的なNGOだそうだ。インドネシアでは、政府の手が屈かないいろいろな領域で、多くのNGOが活動している。

アスベストの知識がない人たちの健康を心配し、INA-BANと協力して、アスベスト対策ワークショップをするとのことだった。

事務所であいさつを交わした後、東京労働安全衛生センターの活動紹介と、日本での石綿対策の現状を簡潔に報告した。当センターが発行した市民のためのアスベストパンフと、京都精華大学の学生さんたちが出版した、神戸淡路大震災のアニメ=震災とアスベストを贈呈した。日本語のアニメだが、スマホで日本語をインドネシア語に訳し、興味深く読んでいた。

■散乱アスベスト建材が復旧に

その後昨日よりさらに山奥の被災地をまわった。車で1時間くらいかかった。一本道をどんどん登っていくと、崖の広場には大きなキャンプ地が2つほどあり、そのまわりには小さな店舗や子供の遊戯場なども整備されている。被害状況は登れば登るほどひどくなっていく感じがする。道の両脇の家は、奥に至るまでことごとく崩壊している。そして、あちこちにアスベストスレートが散乱していた。また、半倒壊の家では壊れたスレート屋根がそのまま3か月を過ぎたいまでも残っていた。

車を降りていくつかの場所に日本から持ち込んだレーザー粉じん計を置き、写真を撮りながら吸入性粉じんをカウントした。3分間で200~300カウントで、都市部の約2倍の吸入性粉じんが計測された。

壁材はノンアスベストと表示されたものが供給されている家もあったが、屋根にはことごとく新しいものも含めて、波型スレートが再建用に使用されていた。あるお宅では、台所の風よけに波型スレートを使っていた。「発がん物質なので、触れたり壊さないようにしてください」と、INA-BANの人が話した。

被災した住民はほとんどが農民で、マスクを使ったことがないそうだ。ダリスマンさんが、「どんな対策を提案したらよいか」、と聞いてきたので、「波型スレートはラベルを付けて、撤去するまで触らない。再利用しない。ノンアスベスト資材を提供するよう、自治体などにも働きかける。住民同士がグループで話し合って、対策案を作り自治体に要求しては」と話した。

ダリスマンさんは、「地震の直後は大変ですごい粉じんの中で、皆マスクもしなかった。パワーショベルは、水もまかずに倒壊した家々をさらに壊した。飛散したアスベストは水や空気の中に消えた」と怒っていた。

私たちは、同じ地震国に暮らしており、地震被災後はアスベスト除去が大きな問題であるが、人々がアスベストの危険性に理解がうすいことも共通の課題である。今後もできるところから支援と交流をしたいと話して被災地を後にした。

■被災地ワークショップの報告

後日、ダリスマンさんから、ワークショップのレポートが届いた。

「研修は2日間行われ、コミュニティの代表者67人が参加した。
アスベストの危険性、病気、及び個人用保護具と使用方法が、INA-BANのメンバーであるダリスマンさんから提供された。熱心に質問をしてくださった住民もおり、『正直、アスベストが危険だと初めて知った。いままでアスベストは安くて手に入れやすいから使っていた。非常に危険ですね』と語った。
また、アスベスト除去シミュレーシヨンでは、水、特別の収納用袋、警告板、そしてこの地域が危険であることを示す目印であるライン看板などを使用することを学習した。本トレーニングは、アスベストの危険性を被災地域住民にキャンペーンすることが目的で、この試験的トレーニングの後、フォローアップが行われる。」

文・東京労働安全衛生センター 仲尾豊樹

安全センター情報2023年7月号