職場内いじめで流産、労災初認定。9月に流産労災認定基準が出る 2023年06月26日 韓国の労災・安全衛生
働いて流産しても女性個人のせいに
業務上疾病リストには「流産」があるが、労災認定基準は「空白」
2020年9月、警察公務員のAさんは妊娠8週目に子どもを亡くした。結婚5年目にやっとできた最初の子供だった。彼女は妊娠中に上司の叫び声や悪口、過度な叱責に苦しんだ。職場内いじめは妊娠前の2019年中旬から1年以上続いた。Aさんの学歴を嘲弄し、同僚たちに悪口を日常的に言った。内部監査でこのような不正が認められ、加害上司は懲戒された。
Aさんは、流産を公務上災害として認めることを要求した。人事革新処は2月にAさんの公務上療養申請を承認した。職場内いじめによる流産が『職業病』と認定されたのは労災保険でも記録がなく、Aさんの事例が『初めて』だ。Aさんはやっと「希望ができた」と話した。彼女は「自責していた時間が長かった。」「(流産が)私のせいではないという事実を認められ、体も心も落ち着かせる力が出た」と話した。
Aさんのように、多くの女性が働いて流産や死産、早産を経験するが、労災と認められるケースは非常に珍しい。
2017~2021年流産した女性労働者(国民健康保険職場加入者)は平均4万5710人。働く女性の流産の確率は、働いていない女性よりも高い。健康保険の職場加入者と被扶養者の流産比率を比較した時、職場加入者が占める割合は、2017年の55.8%から、2021年の64.1%にまで高くなった。実際、可妊期の女性の中で相対的に健康状態が良い人が賃金労働者として雇用される条件(健康労働者効果)を考慮すれば、働く女性の実際の流産危険は、非就業女性より遙かに高いと想われる。
しかし、流産が労災として承認されるケースは珍しい。最近5年間の流産による労災申請は10件に止まる。この内、業務上疾病と認定された事例はわずか5件に過ぎない。<毎日労働ニュース>が23日、共に民主党のナム・インスク議員室が入手した健康保険公団の『流産関連診療人現況』と、勤労福祉公団の『流産関連労災申請と承認現況』で確認した数値だ。公務員の公務上災害の場合、流産が統計によって把握されていないために正確ではないが、人事革新処の関係者は「最近10年間の承認件数は4件と推定される」と話した。
5年間で流産労災申請10件、承認はたった5件のみ
現行法上、流産は業務上の疾病に当たる。労災補償保険法(労災保険法)施行令34条は業務上疾病の認定基準を定めているが、流産は疾病の範囲に含まれる。
問題は流産に対する具体的な労災認定基準が不在だという点だ。労災保険法施行令34条3項別表3は、脳血管または心臓疾患、筋骨格系疾病など、12種類の業務上疾病に対する認定基準を詳しく指摘している。しかし流産はその他に該当する13号(すなわち1~12号の疾病には該当しないが、疾病と業務とに相当関係が認められる場合)に分類され、具体的な労災判定の基準がない。公務上の災害認定基準もこれと変わらない。
このため、Aさんは申請の過程で困難を経験した。専門家たちも前例がないとして、駄目だろうと口を揃えた。Aさんは「医師たちは、ストレスによる流産のようだと言いながら診断書も書いてくれなかった。」「弁護士たちも認定事例がないと受任を躊躇した。事件に執着するなと戒める弁護士もいた」と言った。費用負担に否定的な反応まで加わって、申請までには長い時間がかかった。
Aさんを支援したユ・ヨンジュ公認労務士は「(労災認定に対する)ガイドライン自体がないので、どのように申請するかで困った。流産を起こすに値する要因を一つひとつ探し回りながら進めた」と言う。更に「Aさんの場合、流産の原因となった職場内いじめが先に認められていたため、業務関連性を比較的容易に立証することができた」と評価した。
基準不在の中で右往左往して業務上流産の判定
不明な基準のせいで、労災判定はスムースにはいかなかった。高麗大産学協力団は、昨年11月に「女性勤労者の流産に対する労災判断などに関する研究」で、2010~2021年までに申請された流産労災補償関連の認定(8件)・不認定(11件)の事例を分析し、「同じ職種、同じ有害要因に対して、認定・不認定の判定が一貫していなかった」と指摘した。この研究は雇用労働部の委託研究によって行われた。
夜間・交代勤務が原因となった場合、不規則・夜勤勤務をした看護師の自然流産は認められたが、夜9時まで勤務した看護助手の自然流産、災害の三日前から三日間交代・夜間勤務をした看護助手の早産は認められなかった。長時間勤務の場合、時間外勤労をした塾講師の早産は認められた。一方、週平均60時間勤務したコック長と一日10時間病棟勤務をした看護師の自然流産は認められなかった。
業務上ストレスが原因だった場合、保護者の暴言に苦しめられた看護師の自然流産、保護者の繰り返される不満に曝された塾講師の早産は認められた。一方、患者と摩擦があった看護師と、職場の上司の不合理な業務指示に苦しめられた顧客カウンセラーの自然流産は認められなかった。
業務関連性に対する基準が曖昧な状況で、医学的に流産の原因を突き止めるのは難しいという意見が強調された。研究陣は「産科学、職業環境医学など、医学的に原因が明らかになっていない、または自然流産の場合、胎児染色体異常などが妊娠初期によく発生するというのが、不認定の主な判定意見だった」と分析した。
産婦人科専門医として研究に参加した高麗大学医学部のチェ・スンア予防医学教室副教授は「医学的にも、流産が何時、どのように発生したのかは正確には判り難い。」「医師が病気を治すことだけに集中しているため、流産の環境的な問題、業務関連性まで判断するのは難しい」と話した。流産に対する医学的な究明が不完全だからといって、流産と業務との因果関係がないとは断定できないということだ。
今年9月、「流産労災認定基準」が発表される
流産労災認定基準の不在問題は、労働当局も認識している。労働部は9月頃、流産の業務上の疾病認定基準を設ける計画だ。労働部の関係者は「流産労災の具体的な認定基準を盛り込んだ労災保険法施行令の別表3の改正案を、9月に発表する予定」と話した。
流産労災の認定基準を研究した研究陣は、労災保険法施行令別表313号に、流産・死産・助産を追加する改正案を提案した。業務関連性の基準は大きく、①化学物質、②騒音・放射線・振動・温度変化・圧力など、③生物化学的な原因、④その他、産婦に影響を及ぼす有害因子あるいは業務、などに区分できる。海外の研究と流産を経験した労働者10人に対する深層面接をベースに、勤労基準法施行令別表4「妊婦などの使用禁止職種」と、労災保険法施行令別表3「脳血管疾病または心臓疾病」等を反映した。
特に、多数の災害申請者が訴えた労働条件、姿勢、業務ストレスなども認定基準に含ませることを提示した。△身体を激しく伸ばしたり曲げたりする業務、△身体を持続的に曲げたり前かがみになる業務、△連続作業で5kg以上、断続作業で10kg以上の重量物を取り扱う業務、△業務に関し、突発的で予測困難な程度の緊張・興奮・恐怖・驚き、△業務の量・時間・強度・責任及び業務環境の変化、夜間勤務などによる肉体的または精神的負担の増加、△業務関係での暴力・暴言・その他いじめ行為などだ。
女性労働者の再生産権を保障するためには
議論が労災承認の可否に限定されてはならないという指摘も出ている。申請自体が低調なためだ。医学的に流産に対する因果関係が不明な状況では、流産に対する責任はほとんど女性個人に転嫁される。女性自身も、母性に危険な環境よりも自身の『過ち』と認識する傾向が高い。研究に参加した韓国労働保健研究所のイ・ナレ常任活動家は、「流産は筋骨格系疾患と性格が違う。深層面接で会った10人全員が、流産も労災であると認識できなかった。」「女性労働者の労災申請率が男性に比べて極端に低いことからが問題の始まり」と指摘した。妊娠と出産が女性個人の問題と看做される社会で、女性は権利を要求したり保障された経験がないということが、流産労災の認定基準の空白に影響を与えたという説明だ。
流産が労災と認められても、実は、実益は大きくない。勤労基準法上、有・死産休暇を5日保障しており、自然流産の場合、他の業務上疾病に比べて、治療期間や治療費に対する負担も大きくない方だ。
Aさんも流産から二年後の昨年9月になって、ようやく公務上災害の申請をした。その間、女性疾患、脳血関係疾患など、流産の後遺症で苦労した。チョ・スンギュ公認労務士(パノリム)は、「精神的な部分を補償しない現在の労災保険体系で、流産労災は簡単ではない問題」で、「単純な治療期間だけでなく、日常を回復する期間も更に保障する方式が必要だ」と話した。
根本的に、女性労働者が健康に働ける環境が作られなければならない。Aさんは「妊娠した事実を知らせたにも拘わらず、追加勤務をし、重い荷物を移動させなければならなかった。」「妊娠した女性労働者が自らを保護できない状況に置かれれば、仕事をあきらめるしかない。子供と仕事のどちらかかを選択せざるを得ない状況に追い込んではならない」と強調した。
2023年6月26日 毎日労働ニュース カン・ソクヨン記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=215828