入社六か月の「事務職」の息子、なぜフォークリフトを運転中に亡くなったのか 2023年05月23日 韓国の労災・安全衛生

4月初め、江陵市の鏡浦湖で大型桜祭りが開催された。コロナ禍で四年振りに開かれた桜祭りに集まった数多くの青年たちは、お互いに写真を撮り合って笑って騒いだが、江陵に住むA(60)さんは息子の遺品の帽子を被ってその傍を通り過ぎた。11日に江陵の労務法人チャムト嶺東支社の事務室で会ったAさんは「子供のような若者たちの笑顔に向き合うのがイヤだった」と話した。

Aさんの息子(29)は、桜祭りが開かれる直前の3月27日の午後、東遠グループの物流の系列会社・東遠ロエックスの利川物流センターで、立ち乗り式フォークリフトの転倒事故で亡くなった。厳しい就職準備期間を経て、事務職の正社員として入社して六ヵ月目だった。同じセンターで働いていた息子の友人から連絡を受けて、江陵から利川に駆けつける車の中で、Aさんは「息子が亡くなった」という医師からの電話を受けた。

息子はセンターから少し離れた倉庫の前の下り坂で事故に遭った。下り坂を走行していたフォークリフトは、道路の境界石にぶつかって倒れた。フォークリフトの下敷きになって大怪我をした息子は、結局死亡した。

息子の突然の死亡にも慌てることなく葬儀を行ったAさんは、息子がどうして事故に遭ったのかを知りたかった。会社は事故原因と経緯をきちんと説明しなかった。Aさんは会社を訪ねて直接資料を求め、フォークリフトと安全管理に関する情報を集めた。事故の経緯を調べるほど、Aさんには疑問だけが募った。

事務職の息子はフォークリフトを運転してはいけなかった。荷役は下請業者が担当する作業だった。息子も東遠ロエックスに入社する前にこの下請け業者で働き、フォークリフトを運転したことがあるが、入社後は事務管理と電算管理、顧客のクレーム管理などを配分された。当然、フォークリフト関連の安全教育も受けていない。しかし、息子は何度もフォークリフトを運転していたことが判った。

新入社の息子が、誰かの指示もなく、業務でもないフォークリフトを運転をすることはできないとAさんは考えた。亡くなった息子の携帯電話には、フォークリフトの運行の前後に、誰かに業務を報告した情況が残っていた。息子は2月4日、上司に「フォークリフトに乗っていたがボックスが破損した」と、カカオトークメッセージも送っていた。Aさんが確認した事故当日のCCTV映像には、事務室に座っていたのに、誰かからの電話で出て行く息子の姿が映っていた。

事故が起きた傾斜路には「フォークリフト運行禁止」という文字が・・・業務指示の有無について会社は「確認できない」と話した

3月27日、フォークリフトの転倒事故が起きた東遠ロエックスの京畿利川物流センターの傾斜路から、車が降りてきている。/遺族提供

息子は1階で品物をフォークリフトに載せる前に、携帯電話のカメラで返送品を撮影し、カカオトークのグループチャットルームに載せた。「(写真を撮ったのは)誰かの指示を受けて、報告するためではないか」とAさんは話した。

事故の後、会社の関係者たちは、フォークリフト運転の指示があったかどうかというAさんの質問に、「業務ではない」とごまかすだけで、明確な答えをしなかった。Aさんは「息子は昨年12月、トラックを運転して、近所に油の配達もした」とし、「油の配達のような雑多な業務までさせながら、息子のフォークリフトの運転を知らないというのは嘘だ」と話した。

疑問はもっとあった。息子が乗った立ち乗り式フォークリフトは、もともと傾斜路で使用してはならないものだ。立ち乗り式フォークリフトは車輪が小さく、通常はブレーキなしで、アクセルペダルを踏んだり離したりして加速・停止を操作する。このため、転倒の危険が大きく、主に平坦な室内で作業することになっている。しかし、息子が事故に遭った場所は下り坂だった。事故当時、安全帽や安全靴も着用していなかった。

事故が起きた後、センター側はカカオトークのグループチャットルームに「管理職員フォークリフト運行絶対禁止」という公示を出した。事故が起きた下り坂には、雇用労働部の指示でやや遅れて「立ち乗り式フォークリフト運行禁止」という蛍光色の文字とスピード違反防止用の段差が設置された。

東遠グループの職員だけが利用できる匿名コミュニティーブラインドには「系列会社の職員の死亡の知らせをニュースを見て知ったということで、話にもならない」「(社内)掲示板では何も言わず、もみ消せば良いと思ったのか」等の公憤が続いた。遺族も、会社が責任を回避し、事故を縮小しようとしているのではないかと指摘した。

青年世代の就職難が続き、Aさんの息子と同年代の多くの青年が物流センターに集まっている。2022年の国家人権委員会の「生活物流センター従事者の労働人権状況実態調査」によれば、単一の品目を扱う物流センターの従事者の72.0%が30代以下だった。しかし、増えた規模に比べて、安全管理はまともに行われず、青年たちが危険にさらされている。2016~2020年の倉庫業・その他保管業では、732人の被災者が発生した。

Aさんの息子も、二年間で5回の資格試験を受けるほど真面目に就職の準備をした。大企業に就職した後の厳しい職場での生活にも、家族には苦しそうな表情を見せなかった。粗末な寮に住む息子が気の毒だったAさんが、ワンルームを手に入れると言った時も、息子は断った。息子は節約して金を貯めて、自分でワンルームを契約した。事故前日の3月26日だった。

Aさんの知人たちは彼を誠実で思いやりのある人だと記憶していた。息子と一緒に働いた協力会社の職員はAさんに「(息子が)礼儀正しく、仕事も確実に処理してくれて、いつもありがたく思っていた。」「みんなが口惜しくて泣いた」と携帯メールを送った。

東遠グループの関係者は「フォークリフトの運行業務をしてはいけない方で、(事故が起きた道は)立ち乗り式フォークリフトは通れない道路だった。」「調査結果が出なければ判らないが、現在まで(会社の)業務指示は確認されていない」と話した。この関係者は「安全管理を完璧にできず、不祥事が発生したことには深く反省し、遺族との対話と関係機関の調査には誠実に臨む」と話した。

2023年5月23日 京郷新聞 チョ・ヘラム記者

https://www.khan.co.kr/national/labor/article/202305232056015