「差別のない診療のためには労働者・労組を保護せねば」 2023年2月15日 韓国の労災・安全衛生

イム・サンヒョク緑病院院長が10日にソウル市中浪区の緑病院院長室で<ハンギョレ>とインタビューをしている。イム院長は最近、外注業者所属の労働者56人を直接雇用した。/パク・ジョンシク記者

労働組合が「公共の敵」になった世の中だ。大統領までが乗り出して、労組を腐敗勢力に追い立て、産業現場の平和を破る暴力集団、既得権集団に追い込む。労働市場の二重構造を改善すると言って、実は労組を嫌悪する声が溢れている。その中で違った試みをする労働現場がある。源進財団付設・緑色病院は平等な労働を旗印に掲げ、ここ一年半の間に、外注業者の所属だった療養保護士、調理師、環境美化労働者56人を直接雇用した。彼らのほとんどは労働組合にも加入した。任祥赫(イム・サンヒョク)緑色病院長(58)は、「すべての患者に差別のない診療をするためには、病院が労働者を差別してはならない。労働組合に加入する権利も保護しなければならない」と話す。10日、<ハンギョレ>がソウル市中浪区にある緑色病院でイム院長と会った。

イム院長は56人の直接雇用に取り組んだ背景について、「緑色病院は差別のない診療を標榜する。そのためには、この病院で働く労働者が差別されてはならない。病院経営とは、一緒に働く職員の労働権を保護する役割もするべきだ」と話した。「差別のない職場」と同時に労働権の核心となるのは、労組に加入する権利を保障することだ、というのがイム院長の説明だ。緑色病院は、源進レーヨン労働者の職業病闘争の成果で作られた源進職業病管理財団が2003年に設立した民間型の公益病院だ。

イム院長は民主労総の保健医療労組、そして所属の正規職労組である緑色病院支部と意見をまとめ、2021年7月に社会的協同組合・ドヌリに所属する療養保護士を直接雇用に転換した。組合所属の療養保護士5人が転換に同意し、8人は追加で正規職として採用した。このような方法で、2022年1月に調理師と栄養士1人、今年1月に美化員16人を直接雇用に転換した。

最初は病院の内外からの懸念の声が少なくなかった。正規職に身分が変わった労働者が業務指示に従わないのではないかということ、費用が大きく増えるということなどだ。憂慮とは違って、結論的には「勤務態度がさらに良くなった」とイム院長は話す。

正規職化後、労働者の賃金は多くは上がらなかった。5~9%ほど上昇したと病院側は説明した。しかし、雇用が安定して身分が保障される利点は、労働者に心の安定を与える。環境美化労働者の定年は65歳に引き上げた。定年で退職した後は1年単位の嘱託職となる。現在、緑色病院で働く労働者565人の内、521人が正規職だ。43人は期間制労働者だが、定年退職後に嘱託職として「継続雇用」をする人が21人で、残りは育児休職代替要員など、季節的な業務をする人たちだ。

緑色病院のイム・サンヒョク院長が10日、ソウル市中浪区の緑色病院の院長室でポーズを取っている。/パク・ジョンシク記者

労働者の満足度は概ね良い。正規職になった療養保護士のキム・ミジョンさん(57)は「派遣から正規職になると、緑色病院に所属感が生じ、心理的な安定感が大きくなった。」「今は少し休んでも一定の月給を受け取れるおかげで、年次休暇を思う存分使える自由ができたのも良い」と話した。緑色病院のチョ・ユンチャン支部長は「正規職化は当然にすべきこと」で、「転換されて組合員になった方たちにとって『具合が悪ければ休む権利』が重要だ。今は定時出勤、定時退勤してください。」「その方たちの権利だから」と話した。

営利を追求しない緑色病院には、診療の際の健康保険の非給付項目が多くない。それほど過剰診療をしないということだ。正規職化の過程で増えた費用を追加で確保することも簡単ではない、というのがイム院長の説明だ。ただし、色々な労働組合が支援してくれる寄付金と連帯基金は大きな力になっている。

9月、緑病院は開院20周年を迎える。イム・サンヒョク院長は「駐車場の場所に必須医療を担当する新館を建てようと思う。このため、約20億ウォンの募金を始める計画だ」と話した。

■ 緑色病院はどんな病院?

緑色病院は1970~90年代、合成繊維の製造工場の源進レーヨンで働いていた労働者が、人体に致命的な二硫化炭素に長期間ばく露し、2023年の現在までに300人余りが死亡し、数百人が労災で病気なった事件から始まる。生き残った労働者たちも、脳梗塞、末梢神経損傷、腎臓損傷と四肢麻痺、精神異常などで苦しんだ。源進レーヨンは1993年6月に閉鎖された。以後、被害労働者と家族のために非営利法人源進財団が設立され、財団付設で、京畿道の九里に緑色病院がオープンし、2003年9月にソウル市中浪区に移転した。

緑色病院は、運命のように低賃金の不安定労働者と地域住民にレベルの高い医療サービスの提供を指向する。傷ついて疲れた労働者が多く訪れる。特殊雇用職労働者、プラットフォーム労働者をはじめとする非正規職と、医療サービスに接近しにくい移住労働者が常連客だ。金属労組巨済統営高城下請け支会のユ・チェアン副支会長、公共運輸社会サービス労組貨物連帯のイ・ボンジュ委員長など、長期の断食闘争を終えた労働者のほとんどが訪れるのが緑色病院だ。

COVID19のパンデミックを迎え、全部で400病床の内、80病床をコロナ感染症の患者に提供するほど、地域の拠点病院としての役割を充実しようと努める。現在も35床をコロナ感染症患者のために空けている。国内では初めて、病院に人権治癒センターを解説し、難民、性的少数者、国家暴力の被害者など、医療サービスから疎外された社会的弱者のために必要な医療を提供し、医療費の支援も行っている。

2023年2月15日 ハンギョレ新聞 チョン・ジョンフィ記者

https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/1079622.html