ジアセチルへの曝露-香料産業だけでなく、コーヒー製造等でも健康被害の可能性-イギリスは新安全警報発出、日本は職業病リスト搭載も見送り

英HSEが安全アラート

イギリス安全衛生庁(HSE)は2023年1月16日に、「食品・飲料製造におけるジアセチル蒸気への曝露」と題したセーフティアラート(安全警報)を発出した。その全文は、以下のとおりである。

●問題

香料としてよく使用されるコーヒー焙煎の副産物であるジアセチルの蒸気への曝露は、重篤かつ不可逆性の肺疾患を引き起こす可能性がある。ジアセチルが混合物や香料の中に低濃度存在する場合であっても、その蒸気への曝露は、安全な職場曝露限界値(WELs)を超える可能性がある。

●問題の概要

HSEの科学研究によると、ジアセチルを一定の温度以上に加熱すると、大気中の濃度が著しく上昇し、安全な職場限界値を超える曝露の可能性があることを示している。

コーヒー製造におけるリスク

豆の焙煎及び破砕時の曝露レベルは、WELsを超える可能性がある。豆を挽く際に自然に発生するジアセチルの量は、温度に依存する。焙煎豆がまだ温かい状態(約40℃)で挽かれた場合、濃度は著しく高くなり、焙煎から挽くまでの間に室温(約16~20℃)まで冷却されると、濃度は減少する。

香料製造におけるリスク

低濃度(5%未満)であってもジアセチルを含有する香料混合物を加熱したり、高温の工程に追加したり、スプレードライ[噴霧乾燥]すると、大気中濃度及び安全な職場限界値を超える曝露の可能性が著しく高まる。

曝露のリスクは、以下の間に生じる可能性がある。
・ジアセチルまたは香料の容器の開封
・デカンタージュ及び計量
・混合
・粉末混合物を製造するためのスプレードライ
・梱包
・容器または流出物の洗浄

有害物質職場曝露限界値(WELs)

ジアセチル(CAS:431-03-8)は、2,3-ブタンジオンとしても知られ、天然由来の有機化合物であるが、合成でも製造されている。ジアセチルの蒸気は、コーヒー豆の焙煎・破砕の際に副産物としても生成され、また、一部のビールの醸造中に存在することもある。合成ジアセチルは有害物質に分類されている。吸入すると有毒であり、接触により皮膚刺激や眼損傷を引き起こす可能性があり、飲み込むと有害である。

ジアセチルのWELsは、EH40/2005「職場曝露限界値」で発表された。限界値は、8時間時間荷重平均(TWA)で20ppbまたは0.02ppm、15分のTWAで100ppbまたは0.10ppmである。ジアセチルまたはジアセチル含有混合物に関する供給業者の安全データシートには、これらのWELsが記載されているはずである。2002年健康有害物質管理(COSHH)規則(改正後)は、使用者に、労働関連曝露がWELsを下回るように評価、予防または適切に管理することを義務づけている。

●求められる対策

リスクの評価

工程に、ジアセチル、ジアセチルを含有する食品香料の使用が含まれる場合、またはジアセチルを生成する可能性がある場合には、リスクアセスメントを実施しなければならない。リスクアセスメントは、曝露の可能性に関連するハザーズを特定し、誰がどのような危害を受けるかを理解し、リスクを評価し、予防策を決定するために役立つ。

安全データシートの確認

(ジアセチルを含有する可能性がある)食品香料の安全データシートにジアセチルの記載がない場合には、供給業者に連絡してジアセチルの有無を確認する必要がある。

サンプル

ジアセチルに曝露する可能性がある場合には、サンプリングと分析を行って、曝露がWELを超える可能性があるかどうか確認する。

代替

より安全な代替製品に代替する。代替品は、2,3-ペンタジオンのようなジアセチルに類似した化合物を含有していてはならない。

曝露リスクの管理

代替が実行可能でない場合(例えばジアセチルが天然の副産物である場合など)、厳格な管理を実施しなければならない。

1. 香料を低温(4℃未満)に保つことで、気化を大幅に抑制する。

2. 発生源でジアセチル蒸気を管理するために、工程を密閉して抽出を使用する。

3. コーヒー製造については、挽く前にコーヒー豆を冷却する(少なくとも20℃未満)。

4. ジアセチル香料の製造及び使用については、製造の最終段階で、密閉式または自動化されたシステムを通じて、香料を添加する。

5. 上述した管理によって曝露をWEL未満に抑えることができない場合には、適切な呼吸保護具(PRE)を含む適切な個人保護具(PPE)の提供を検討しなければならない。

健康監視

ジアセチルにより労働者が危害を受けるかもしれない合理的な可能性がある場合には、健康監視計画を導入する必要がある。リスクアセスメントがそれが必要であるか判断するのに役立つだろう。健康監視計画は、労働衛生提供業者と協議のうえ作成しなければならない。

●一酸化炭素(CO)

一酸化炭素は、コーヒー加工における副産物としても知られている。密閉及び抽出によるジアセチルの管理は、CO排出の抑制にも役立つ。HSEは、リスクアセスメント過程の一環として、さらにCOについての管理が必要かどうか確認するためのサンプリングを実施することを勧告する。

職業病リスト・曝露限界値

イギリスで発行されている「ハザーズ・マガジン」は第101号(2008年1-3月)に「食品の香料が私の肺をむしばんだ」という記事を掲載している。

「アメリカの食品労働者は、一般的な食品香料によって引き起こされる潜在的に致死的な疾病である『ポップコーン肺(閉塞性細気管支炎)』による被害を被ってきた[最初の事例は2000年に発見された]。この問題は10年来、アメリカだけの問題であるかのように思われてきた。ところが、ヨークシャーの[香料]工場で働くマーティン・ミュアーさん(38歳)の肺が、80際の老人並みであることが検査で明らかになった…以下省略…」。
この記事は、ジアセチル問題の経過年表等もつけて、アメリカからイギリスへと問題が広がった状況を詳しく解説している。

イギリスでは、職業病(prescribed industrial diseases)リストが2011年に改正されて、「C31」として、
(a)ジアセチル、または
(b)ジアセチルを含有する食品香料、または
(c)ジアセチルを含有する香料が添加された食品
の製造におけるジアセチル(ブタンジオンまたは2,3-ブタンジオンとも呼ばれる)の使用または取り扱い、若しくは曝露による閉塞性細気管支炎、が規定された。

一方、2014年に欧州委員会職業曝露限界値委員会(SCOEL)が「ジアセチルに関する勧告」(SCOEL/SUM/149)を発行し、2017年の「職業曝露限界値に関する欧州委員会指令」(2017/164/EU)で、ジアセチルについて、8時間時間荷重平均(TWA)0.07mg/m3/0.02ppm、短時間(15分)曝露限界(STEM)0.36mg/m3/0.1ppm、が定められた。

これに対してイギリスでは、「既存の科学的な測定方法は、そのようなレベルの曝露を測定するのに必要な感度を欠いている」ということで、HSEが2018年に「吸着管と昇温脱離を利用したジアセチルの測定方法の検証」(RR1138)を発行、2018年にイギリスで2017/164/EUが実施されている。

EH40/2005「職場曝露限界値」は、2020年1月に発行されたものである。

なお、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)は、ジアセチルについて、TLV-TWA(1日8時間週40時間)0.01ppm/0.04mg/m3、TLV-STEM(15分)は0.02ppm/0.07mg/m3の職業曝露限界値を設定している(2011年)。

なぜ、この時期のアラート発出なのか。2022年3月16日に「Sollutions from HSE」にアップロードされた「コーヒー製造におけるジアセチル」という記事は、次のように言っている。

「ジアセチルは、多くの食品に含まれるバターのような匂いのする天然由来の物質である。アメリカのNIOSH(国立労働安全衛生研究所)は、ジアセチルを含有する蒸気への曝露と肺機能の低下及び疾病との関連性を報告している。ほとんどの研究は、香料産業におけるジアセチルの曝露に集中してきたが、最近の報告では、コーヒー製造、とりわけ焙煎と破砕における、ジアセチル及び関連化合物2,3-ペンタンジオンへの曝露の可能性も強調されている。…しかし、これらの物質の大気中濃度に関する情報が不足しており、職場における労働者の個人曝露の可能性を評価することを困難にしている」。

ちなみにアメリカでは、保健福祉省疾病管理予防センター(CDC)とNIOSHが2015年に「コーヒー焙煎・梱包施設における曝露評価及び呼吸器衛生」を公表して、コーヒー豆の焙煎、梱包、撹拌及び移動の過程においてジアセチルや2,3-ペンタンジオンを含む有害化学物質が大気中に放出され、適切な管理対策を講じなければ、労働者のこれらの有害化学物質への曝露が危険なレベルに達する可能性があると警告している。

日本でも初の労災認定事例

日本では、香料製造会社で働く労働者の閉塞性換気障害が、労災申請から2年もかかって2020年12月に初めて業務上疾病として認定された。本誌2021年7月号で、「ジアセチルによる閉塞性肺疾患の労災認定-東京●あいまいな認定理由で周知・調査・予防促進なし」として報告している。

また、熊谷信二・毛利一平氏が「産業衛生学雑誌」64巻4号(2022年7月)に「ジアセチル曝露労働者に発症した閉塞性肺疾患」を報告しているので、合わせて参照していただきたい。

また、わが国では、2017年2月21日に公表された「平成28年度化学物質のリスク評価に係る企画検討会報告書」が、「ACGIHが曝露限界値を勧告するなど国際的に一定の有害性が認められた物質」として、ジアセチル(別名 2,3-ブタンジオン)他を労働安全衛生法によるラベル表示・安全データシート(SDS)交付・リスクアセスメントの実施等の対象物質に追加することを勧告し、同年8月3日に同法施行令の改正が行なわれて、2018年7月1日から施行されている。

厚生労働省の職場のあんぜんサイトの「GHS対応モデル・モデルSDS情報」では、2015年11月30日作成、2020年3月13日改訂のジアセチルの安全データシートを提供している。「危険有害性情報」としては、「引火性の高い液体及び蒸気/皮膚刺激/アレルギー性皮膚反応を起こすおそれ/重篤な眼の損傷/吸入すると有毒/発がんのおそれの疑い/呼吸器の障害/長期にわたる、又は反復ばく露による呼吸器の障害」が記載されている。
そこに初の労災認定事例が出たのであるから、周知、実態把握や予防対策の促進に動くべきだと思うのだが、厚生労働省の動きはにぶかった。

2021年3月に阿部知子衆院議員から提出された「食品香料ジアセチルによる呼吸器疾患の労災認定に関する質問主意書」に対して、政府は、「現時点において2,3-ブタンジオンにさらされる業務と疾病との因果関係が必ずしも確立されていない」と回答する始末であった。

ようやく2021年6月7日付けで厚生労働省は日本香料工業会に対して、基安化発0607第5号/基補発0607第1号「ジアセチル(別名:2,3-ブタンジオン)による健康障害の防止対策及び労災保険制度の周知について」を発出し、労災認定事例があったことを知らせたが、一般的な健康障害防止対策についての周知と、閉塞性肺疾患等の呼吸器疾患を発症した労働者(退職者等含む)を把握した場合には、労災保険制度の周知等を行うよう要請したにとどまっている。

検討前から職業病リスト搭載否定

一方、2019年から労働基準法施行規則第35条専門検討会化学物質による疾病に関する分科会による、わが国の職業病リストの見直し作業がはじまっており、第10回(2021年9月27日)~第12回(2022年1月24日)分科会で「ジアセチルによる呼吸器疾患」が検討された。

しかし、その前に前述の阿部知子衆院議員質問主意書に対する政府回答のなかで、職業病リストへの掲載について、「因果関係が必ずしも確立されていないため、同令に規定することは現時点では考えていない」と答えてしまっている。専門家に検討を依頼しておきながら、検討がなされる前に、政府が結論を出してしまっているのでは、何のための検討か。不誠実きわまりない対応である。

検討経過をたどっておくと、第10回分科会に初めて「ジアセチルによる呼吸器疾患に係る検討について」という文書が示された。

前回検討時には「症例報告の件数や有用な文献がないとの理由から[業務上疾病に関する医学的知見の収集に係る調査研究]報告書への掲載が見送られ、本分科会においても検討対象としていなかった」が、認定事例が出て、関係団体に通知も行なっており、「今後の同様の事案に対して適切に対応するためには、ジアセチルによる肺疾患に関して業務と疾病との医学的因果関係を整理しておく必要があるため、本分科会において大臣告示への追加の必要性の有無について検討を行う」。

検討方法としては、「平成23(2011)年以降のジアセチルと閉塞性細気管支炎に関する18の医学文献を対象とし、大臣告示に追加すべきかどうか検討を行う」。検討に当たっての主なポイントは、以下の2点とされた。なお、18文献には、上記熊谷・毛利論文も含まれている。

○国外における症例報告等から、国内においても通常労働の場において発症し得る状況であると言えるか。

○疫学研究において、因果関係を認める報告が十分にあり、業務と疾病との間に医学的因果関係があると言えるか。

また、日本国内におけるジアセチルの取り扱いは、以下のとおりとされている(※は日本香料工業会「香料使用量に関わる調査研究」(平成29年3月))。

〇ジアセチルの主な用途-有機合成中間体、香料、

〇国内におけるジアセチルの取扱事業場数(平成27年)※-35社

○国内におけるジアセチルの使用量(平成27年)※-2,396.58kg

2021年11月8日の第11回分科会には「化学物質評価シート(ジアセチルによる呼吸器疾患)」が提出され、5人の委員の評価は、〇(追加すべき)が2人、△(評価保留)が2人、△~〇?が1人で、×(現時点では評価する必要はない)はいなかった。議事録も含めて、「国内における通常労働の場で発生し得る状況であると言えるか」という問題が指摘されているが、因果関係についてはむしろ肯定的な意見だけで、政府回答に言う「因果関係は必ずしも確立されていない」という意見は示されていない。

しかし、結論は労災認定事例に関する資料を見てから出すということになった。2022年1月24日の第12回分科会に、「ジアセチルによる労災認定事例の判断理由」等が示されたが、ウエブサイトには未掲載で、また、ジアセチルを検討する際には「個別の労災認定事案の詳細に言及するため、非公開(傍聴者は一旦退室)」とされた。したがって議事録でも検討内容は「非公開」とされているが、要旨以下のような座長のまとめが示され、「異議なし」とされたと書かれている。

「閉塞性細気管支炎というのは難病に指定されており、今後、発症機序とか診断の関係の研究が待たれるところである。労災認定事案の曝露状況については、海外の文献と比較するうえで不明な点が多いと思っている。ということで、大臣告示には今回は見送り、引き続きジアセチルによる労災事例を注視していきたいと思います。それでよろしいでしょうか」。

結果的に、2022年3月18日に発表された分科会検討結果報告書もこのまとめに沿ったものとなって、職業病リストへの追加は見送られてしまった。

厚生労働省交渉でのやりとり

全国安全センターが2022年9月6日に実施した厚生労働省交渉でも、再度この問題を取り上げていので、要約して紹介しておきたい。

〇安全センター(天野):私は、ジアセチルによる閉塞性肺疾患の労災認定事案の当事者の方の支援に3年ほどあたってきています。職業病リストに掲載していただきたいという要請に対して、2022年3月の分科会報告書を引用して職業病リストに載せる必要はないという回答ですが、本当にそれでいいのかということなんです。国内で労災認定された事例が1件しかないということですが、その1例がどれほど深刻な職業病であるのか、厚生労働省としてちゃんと把握しているのか?当事者の方は30歳の女性で、いま在宅酸素が必要でまったく動けないです。呼吸機能がやられてしまって、主治医からはもう両肺の肺移植しかないと言われて、肺移植に向けた検査をいま受けてるところなんです。それくらい深刻な職業病なんです、ジアセチルによる閉塞性肺疾患というのは。たった1例だから職業病リストに入れなくていいとか、そんな判断をしてほしくないです。そんなことで本当にいいんですか。まず考え直していただきたいということです。

しかも、海外では多数の事案がアメリカやオランダ等で報告されています。厚生労働省も本件の労災認定事案のときに、海外論文を多数収集しているのでわかっているはずです。こういったものを踏まえて、判断すべきところです。「医学的知見の収集等に努めてまいります」と言いいますが、では具体的にどういうことをされているのか、これもご回答ください。

〇厚生労働省(補償課):貴重なご意見をいただきましたとおり、ジアセチルについは、1例、労災認定された事案がございます。こちらについては、われわれも調査のなかで十分そういう重大性を鑑みまして、今回労災認定に至った経緯でございます。労災認定の考え方としては、たしかにおっしゃるとおりで。重大性とか深刻度もそうですし、業務との因果関係も当然考慮に入れて判断するものでございます。労災認定の際には、おっしゃるとおり、まさにそうでございます。

ただ、労働基準法施行規則別表第1の2の例示列挙の考え方なんですけれども。今回まさに検討しております専門検討会におきまして、資料として掲載させていただいているんですけれども、業務との間に因果関係が確立している疾病について例示列挙することとなっております。こちらは、基本的に何を目的にしているかというところなんですけれども、例示列挙させていただくことによって、国民の皆様に、ジアセチルというものに関しましては、業務との間に因果関係があると認められますので、労災を受けていただいたりですとか、対処していただきたいですというふうに、広く周知するものでございます。ということがございますので、こちらに関しましては、件数のほうが大事になってきまして。国内で多数(例が)あるような化学物質に関しましては、当然これから先も請求が見込まれますので、こうした事例に関してましては、別表に記載することによって、われわれからプッシュ的に広報するということにしております。というのがひとつ。

ただ、そうでない場合にでもですね、労災請求されることもございますので、そちらに関しましては、もちろんジアセチルについて発症したとか、当然、別表に記載されている化学物質に限っているわけではございませんので。業務との因果関係があると考えているんですということであれば、監督署にご相談いただいて、ちゃんと労災請求していただく。そちらが重要になると考えているところでございます。

〇安全センター(天野):話をそらすのはやめてほしいんですね。労災請求一般の話じゃないんですよ。件数が重要だとおっしゃるけども、そうやって機械的に件数で切るのはおかしいということをわれわれは要請してるんです。よろしいですか。だから、あなたの回答はまったく回答になってないんです。それからもうひとつ追加で言っておきますと、この方は今その実際に働いていた会社に対して、認定された後に現場で安全対策はどうなっていますかと。いまでもジアセチルを使ってるんです。それから、労災認定されたことについてどう考えていますか、というふうに会社と話し合いをしています。そのとき、会社が何と言ってるかというと、労災認定されたからといってジアセチルが原因だと特定されたわけじゃないんだと開き直っているんです。安全対策も何をやっているか何も言えません。回答を拒み、あなたの病気は原因不明だと会社は考えておりますと公然と言っているんです。

厚生労働省が件数だ何だというくだらない基準で、職業病リストに載せないとか、そういう腰抜けな対応をすると、現場ではそうやって会社側が開き直って、肺移植が必要な深刻な患者に向かって、あなたの病気は原因不明だと言ってのけるんですよ。あなた方は規則に則って行政をやってると思っているかもしれないけれども、手ぬるいことをやっているので現実にはそういうことが起こっている。あなた方はそういういい加減な会社に加担してるも同然なんです。言うことを聞かせていただきたい。だから件数で切るとかはやめて、たとえ1件であっても、内容が深刻な職業病であれば、これは掲載すべきじゃないかと、ちゃんと検討してほしいんです。

(さらにしばらくのやりとりの後)

〇厚生労働省(補償課):おっしゃるとおりだと思います。最初は1件だというのは当然です。石綿に関しても放射線障害に関しましても、最初に認定された事件が1件からはじまるというのは当然でございます。今回に関しても、1件発生しているというのも承知しております。われわれとしても、この1件は重く受け止めておりまして。今回の報告書の結論は永久に追加しないということではございませんので、また引き続き収集させていただいて、ジアセチルの国内外の事例、海外でも多数発生しているとさっきおっしゃっていただいておりますので。引き続き検討させてください。

いずれにせよ、わが国のこのような対応が、対策を講じれば回避することのできる職業病の被害者をこれ以上増やさないためにも、労災認定事例の如何に関わらずセーフティ・アラートを発出したイギリスの今回の事例等を紹介させていただく次第である。

安全センター情報2023年3月号

本ウエブサイト上の化学物質関連情報