「施行簿」という行政通達文書名リストの欠陥/厚生労働省●答申受けても実態調査もなし、周知だけ

2022年9月6日に衆議院第一議員会館で行われた全国安全センターと厚生労働省との交渉に参加した。そのうちの公文書の管理(情報公開)について報告する。

議題のひとつは、「施行簿という行政通達文書名リストの欠陥問題」である。
通常の労働基準行政の問題に比べ分かりにくいが、行政運営の根幹にかかわる、統計改ざんに匹敵する大問題である。
交渉の内容より行政の文書管理がどの程度の精度で運営されているのか、その実態を明らかにすることを重点に報告する。
概略は、

-厚生労働省労働基準局監督課の行政通達の文書名、番号、発出日、担当名などは施行簿という帳簿に記載しなければいけないにもかかわらず、複数年度にわたり、何件もの通達名が掲載されていない。そもそも文書番号もまともに管理していない。これが他の部署、保険局でも発生している。これを指摘しても審査請求で問題化するまで何も対処しなかった。いまだに指摘した労働基準局と保険局以外はチェックすらしていない。そのため、公文書管理法に違反しているのみならず、通達名を知らない国民はその惇在を知ることすらできない。-

というもの。

従来より、全国安全センターでは、前年度の労働基準行政の通達のうち、厚生労働省HPのデータベースなどで公開されていない非公表の通達を情報公開請求で入手している。そして、その準備のために、労働基準局の各課が発出しだ前年度の通達文書名リストを開示請求して入手してきた(2010年度までは「発議文書台帳」、2011年度から「施行簿」に帳簿名が変わった)。
入手した施行簿に掲載されている通達名のうち、重要と思われる通達の本文をあらためて関示請求で入手して(毎年300通弱)、行政の動きを把握してきた[安全センター情報2022年9月号55頁]。毎年6か月以上を費やす作業である。
ところで、通達には文書番号が付番されている。例えば、労働基準局長が4月1日に発出した文書ならば「基発0401第1号」、監督課長が発出した文書ならば「基監発0401第1号」というように、部署名略字+日付+その日の番号1番から順につける決まりがあり、番号は翌日また1番から始める。
同じ日の同じ課の施行簿なら、第1号、第2号…と番号が飛ぶことなく続き、その日の文書数と同じ番号で終わるはずである。しかし、通達を作文する時に担当職員が番号を先に取ったけれど、その通達は作文せず廃棄したり、他の文書と合わせて1件にするなどすれば、先に取った番号が欠番になり飛ぶことはあり得る。
実際に、2014年頃「文書管理システム」が導入される前は、紙の施行簿台帳で管理しており、欠番の行は無造作に手書き横線2本で抹消されていた。紙の施行簿を開示請求で入手して見ると、何番が欠番かが分かった。
2014年に総務省が「文書管理システム」を作り、各省が順次これを導入。通達を作成して発出すると、条件に従って自動的に施行簿(という名の文書名一覧のデータベース検索結果表)が作成できるようになった。その後も全国安全センターは毎年、施行簿の関示請求を続け、文書番号の跳び番は上記の事情による欠番だろうととらえていた。
ところが、私が総務省の「文書管理システム」マニュアルを入手して読んでみると、予約して使わなかった番号は、手動で次の文書に付番できる仕組みがあることが分かった。また、厚生労働省の文書取扱規則では、担当課が、「文書番号を管理」し、決裁を終えた文書を施行簿に記載することが定められていた。
そこで、私が文書番号自体の管理簿を新たに開示請求したところ、そうした文書はそもそも作ってないとの理由で不開示決定が出た。電話で聞いてみると番号管理は「施行簿しかない。施行簿がすべて」との回答だった。
実は、私が個人的に開示請求で入手している保険局や年金局など厚生労働省の他の部局の施行簿でも番号の飛びは頻繁にあり、本当に欠番なのか、もしかしたら、(システムの仕組み上、一部の文書名を削除した施行簿の作成が司能だから)何らかの事情で本来掲載されるべき文書名が落ちているのではないか、と考えるようになった。
全国安全センターでは未公表の通達は施行簿からピックアップするだけではなく、「〇〇の通達に関する留意事項の詳細を指示した文書」などと、個別の施策に絞った関係行政文書の開示請求や、他の組織が受け取った文書のリストなども参照しながら、労働基準行政の動きをチェックしている。
そこで、すでに以前入手済みの2018年度分から2020年度分の監督課施行簿を再チェックし、現存する通達で施行簿に掲載されていない通達がないか、突き合わせてみた。
その結果、各年度とも施行簿未掲載の重要な通達が複数あることが分かった。
それでも、入手して以降に訂正、追加掲載されているかもしれないとの期待を込めて、あらためて開示請求してみた。結果は変わらず、未掲載通達名は追記されないままの欠陥帳簿のままだった。
問題点を公にしないと改善しようとしない姿勢は放置できないので、私は情報公開法による不服申し立てとして情報公開・個人情報保護審査会に審査請求した。
その答申は「令和4年8月8日令和4年度(行情)答申第186号」である。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000829285.pdf
結果は予想どおり棄却だった。
「番号が飛んでいる文書名を含めた全部の通達名を掲載している施行簿があるべきだから出せ」と私は主張したが、「欠陥施行簿」しかないのだから、当然に請求は棄却された。無いものは無い、である。
問題は厚生労働省の言い分。

・ 「必ずしも文書番号を連続させなければならない必然性はない」(答申P8)
・ 「件名等が記載されていないものが一部確認された。」「決裁を終えたとき、施行明細登録を行う必要があるところ、これが遅れていたものが一部あった。このため、(中略)施行簿に記載されていないものがあった」(答申P7)
・ 「記載されるべき決裁文書については、順次、施行明総登録を行っているところである。」(答申P8)

審査会事務局職員への説明では

・ 「今回の事例を受けて、所管課において同様の事例が起きないよう、大臣官房総務課から省内全部局ヘ周知の徹底を図っている。」(答申P10)とも回答している。

改善に動き出すならばそれでよいが、本当に(世間でいう意味で)「きちんと」改善するのか、交渉で確認することにした。
主な質問は3つ。
(1)施行明細登録が遅れだ理由は?
(2)省内の他の部局で同様の登録遅れがあったのか、その実態は?
(3)文書番号が連続する必要はないとしているが、そうであれば登録が遅れないためのチェック方法は?

回答。
(1) 「決裁文書については、順次、施行明細登録を行ってまいります(理由は答えない。)。」
(2) 「省内の複数の部局において、施行明細登録が遅れており、順次、当該登録を行っていく必要があるものであると承知しております。」「今後、各部局に対し(中路)施行明細登録を着実に行うよう改めて指示し、改善を図っていきたいと考えております。」
(3) 「現在、定期的に実施している研修や点検、文書管理に関する職員向けの周知等を通じて各職員に対して周知徹底を図るとともに、先ほど申し上げた改善の取組みを行ってまいります。」

よく分からないので、さらに問うと、(2)の回答の「省内の複数の部局」とは、問題化し答申でふれた労働基準局と保険局のことで、結局、他の部局で同様の誤りがあるかどうか、実態調査をしていないことが分かった。
施行簿を完成させるための施行明細登録の漏れを回避する具体的対策は皆無で、研修、周知に留まるという姿勢である。
実は、施行簿を作るべく施行明細登録をする前の対象文書は発出、送信する前に決裁を終えなければならない。「文書管理システム」上は、その文書のデータベースとして「決裁簿」という一覧表があるようである。取扱い文書名全体を把握するためには、これまでの施行簿ではなく、「決裁簿」を開示請求すればいいのではと考え、問うてみたが、「文書取扱規則上、施行簿は調整しなければならないので、きちんと登録、管理していきます。」と逃げた回答だった。
そこで、今回の指導等は、文書管理規則にある定期監査や、文書取扱規則にある官房長や総務課長などによる監督や点検として進めたのか。また、この問題を提起してから、官房長、総務課長、監督課長それぞれ同一人物が在任したが、監査、点険は機能したのか。これを問うたところ、そうした定期の監査としては「答申を受けて今後取り組む」旨回答しただけで、監査も点検も機能していなかったことが分かった。
行政機関は、何か不具合を指摘されると、その部署のその問題だけは調査して改善させるけれど、全省で実態を調査するのではなく、全省に対しては一般的な注意として、今後ともきちんとやってください的アナウンスに終始するのが常態である。
今回の施行簿の欠陥問題は、直接国民の生活や生命に影響を及ぼすものではないかもしれない。彼らの業務に必要だったツールが不要になったのでテキトーに放置しただけというのが職員の本音かもしれない。だから、アスベスト関係の個人の労災補償に関する調査資料を平気で捨ててしまうのだろうと私は想像している。
実際にあのまま放置していたら、10年保存の通知など比較的保存期限の短い行政文書は仮に担当職員の手元に残ってたとしても、施行簿に文書名が残らず、組織的に共有する行政文書としてはすでに存在しないものとなっていただろう。
国の行政機関が、比較的最近の過去の種々の誤りが発覚して報道されても、すぐに事実を明らかにしないのは、そもそも管理がいい加減で、誰もよく分からないから事実を確定できない、構造的欠陥を内包しているからである。
この問題を交渉後も引き続き追っている。
答申で厚生労働省がやると言っていた「大臣官房総務課から省内全部局ヘ周知の徹底」を図る文書を開示請求で入手したところ、発信日、発信元、宛先など何も記載がない、「文書管理システム」上の施行明細登録の簡単なフローチャートのみが書かれた、正体不明のA4用紙一枚だけだった(別掲図)。

書類の位置づけを確認したところ、指摘を受け、急ぎ、省内各局の文書管理担当課へその一枚を持参して説明したもので、後日正式な発出文書にしたそうである。また、年明けには各局からの実態報告も上がってくるとの説明も受けた。
具体的に指摘し続ければ改善を促すこともあるので、引き続き開示請求、入手してチェックしていく。

文:情報公開推進局・榊原悟志

安全センター情報2023年3月号