ウイルス禍の激務で死亡した公務員、初の『危険職務殉職』認定 2023年1月30日 韓国の労災・安全衛生
コロナウイルス感染症に対応する激務に苦しみ、極端な選択をした保健所の公務員が、裁判所で『危険職務殉職』を認められた。「コロナ」関連の業務が危険職務に認定されたのは初めてだ。裁判所は、警察・消防のように直接的に危険に曝されていなくても、感染症の危険に置かれたという趣旨で判断した。類似の業務を遂行して死亡した公務員の事件にも波及力が大きいものと見られる。
29日、<毎日労働ニュース>の取材によると、ソウル行政裁判所は、釜山東区保健所で看護職公務員として勤務していて死亡した故リ・ハンナ(死亡当時33歳)さんの夫と両親が人事革新処に起こした、危険職務殉職遺族給付不支給処分取り消し訴訟で、原告勝訴判決を行った。イさんが亡くなって1年8ヵ月目の一審の結論だ。人事革新処が控訴するかどうかは決まっていない。
裁判所は、公務員のコロナ対応業務が『危険職務』に該当すると判断した。裁判所は、「故人はコロナウイルス感染症への感染の危険という高度の危険を冒しながら『感染症の拡散防止』活動を行い、高度の身体的な危険と感染の恐怖、過重な業務量と心理的な圧迫感によって認識能力が低下した状態で自害行為を行って死亡に至ったもので、危険職務殉職公務員に該当する」と判示した。
コロナウイルス感染症の大流行下で六ヶ月間「460時間」の超過勤務
事件は国内にコロナウイルス感染症が急速に拡がった2020年の上旬頃に始まった。2015年11月に看護職公務員に任用され、4年以上働いたイさんは、コロナウイルス感染者の対応業務を並行して行った。特に六ヵ月間は、週末も選別診療所での勤務と疫学調査を行うことも多かった。その年の2月から翌年の5月まで、選別診療所で84日間勤務し、管理した自己隔離者も1千人を超えた。
イさんは2020年12月から六ヶ月間、月平均、少なくても68時間、多ければ97時間の超過勤務を行った。規模の大きな疫学調査を担当する時は、夜10時を過ぎて退勤することも多かった。特に、2021年5月18日に、管内の病院の入院患者が感染者と接触した事実が確認され、コホート(同一集団)隔離病院に指定されて状況は悪化した。イさんは三日後の5月21日、コホート隔離管理担当者に指定されると、週末の翌日に事務室に出勤し、午後8時まで業務を行った。
彼女はコホート隔離管理業務を担当して、5日後に命を絶った。イさんは5月23日午前8時頃、住んでいたアパートの11階から飛び降りた。遺族はコホート隔離を担当した以後、業務についてを話す頻度が極端に減ったと証言した。イさんは家族に悩みを打ち明けなかったが、状態は深刻だった。公務員労組・釜山本部が真相調査団を構成して死亡経緯を調査した結果、深刻なストレスに苦しめられていた情況が判った。
コホート担当から5日後に死亡、不安感を訴える
イさんはコホート隔離管理を引き受けた直後、上級者に自信がないと心情を打ち明けた。死亡する前日には、SNSのチャットルームで、同僚たちに「(コホート隔離)病院に行ってきたので、とても心に負担になる」と吐露していた。死亡する前日、保健所長と交わしたSNSでの対話でも、危険の兆候は明確だった。「途中でできないと言うと、責任感がないと感じられる」と言う所長の発言に、イさんは「心が苦しくて判断力がなかった。これ以上失望させないようにする」と話していた。
イさんはポータルサイトでも、『うつ病』『社会不安障害』『公務員疾病休職』等といった単語を検索していた。遺族は、イさんには個人的な問題がなかったため、コロナウイルス感染症の対応が死亡した原因だったと主張した。イさん夫婦は新婚生活中で、子供の計画も立てていたためだ。同僚たちもイさんが普段から肯定的で闊達だったと供述した。
人事革新処の判断を覆し「危険職務殉職」認定
遺族は『公務上災害』と主張し、2021年9月に殉職が認められた。ところが人事革新処は『危険職務殉職』ではないと判断した。コロナ関連業務と過労、ストレス、極端な選択との間の因果関係は認めたが、公務員災害補償法の危険職務殉職要件には該当しないとした。法律によれば『危険職務殉職公務員』は、生命と身体に対する高度な危険を冒して職務を遂行して災害に遭い、その災害が直接的な原因となって死亡した公務員をいう。
遺族は危険職務殉職を認めて欲しいと、2021年12月に訴訟を起こした。『感染症の予防及び管理に関する法律(感染症予防法)に基づく感染症患者の治療または感染症の拡散防止公務員』は、危険職務殉職公務員の要件に該当するという法律条項(5条9号ハ目)を根拠に挙げた。
裁判所は人事革新処の判断を覆して遺族の手を挙げた。法律要件の一つに該当するからといって、直ちに危険職務殉職とは言えないとしながら、イさんがコロナ対応に関して、過重な業務とストレスに苦しめられたと見て、危険職務殉職を認めた。裁判所は「公務員の自害行為が原因で死亡した場合でも、生命と身体に対する高度の危険を冒して行われる活動、または職務に関した理由で正常な認識能力が明確に低下した状態での自害行為であれば、危険職務殉職公務員でいう災害に該当し得る」と説明した。
裁判所「防疫担当者にとってストレスが高い業務が原因」
イさんが1年以上担当したコロナ対応業務の強度が、危険職務殉職の判断を後押しした。裁判所は「故人はコロナウイルス感染症が二次大流行を起こした2020年12月頃から超過勤務をする時間が急激に増加し、最大月100時間に達する程度の超過勤務もした。」「更に、退勤以後も、10件を越える業務関連のカカオトーク団体のチャットルームを確認する業務を行ったとも見られ、実際には、もっと長い時間を働いたものと見られる」と判示した。
それと共に、防疫担当者の精神的なストレス強度が高かったはずだと強調した。裁判所は「故人はいつでもコロナウイルス感染症にばく露する恐れがあるという負担を抱えて、感染の恐怖と戦いながら働かなければならず、明確な防疫指針が決まっていない状況で、感染の拡散を最大限に防がなければならないという圧迫感の中にあった」と判示した。
特にコホート隔離業務は、感染の疑いがある人と直接向き合い、より大きな感染の危険に曝されたものと推定した。ポータルサイトに本人の健康状態を認知して検索した単語でも、仕事量の増加に対する解決方法を見つけられず、深刻な不安障害に陥ったと判断した。裁判所は「感染症の拡散防止の業務以外に、故人が自害に至らしめるほどの個人的な動機や理由を見つけることはできない」とした。
類似事例への影響の見通し「危険職務殉職の範囲が拡くなる」
遺族は判決を歓迎しながらも心を痛めた。イさんの夫は<毎日労働ニュース>との電話連絡で「妻が業務の悩みを表現せず、ただ(コホート業務が)峠だとだけ考えて積極的になだめることができなかったことに対して、今でも罪悪感を感じる。」「身体的な傷害でなくても、感染症の予防業務によって精神的な傷害を受けたとすれば、危険職務殉職が認められるのが適当だ」と話した。
法曹界は、今回の判決が類似の事例にも影響を与える可能性が高いと見ている。感染者の暴言と過労に苦しみ、2021年9月に自ら命を終えた仁川富平区保健所所属の故チョン・ミヌ主務官も、イさんと同様に、昨年7月頃、人事革新処で危険職務殉職が認められなかった。遺族は昨年10月に行政訴訟を起こした。
イさんの遺族を代理したソ・ヒウォン弁護士は「人事革新処はこれまで、危険な職務を行って、実際に感染症に罹ったり、火傷を負って亡くなったケースなど、内在した危険が現実化した時にだけ、危険職務殉職に該当すると見てきた。」「しかし、公務員が自害行為が原因で死亡した場合にも、職務に関連して認識能力が明確に低下した状態であれば、危険職務殉職と認められると裁判所が判断した。危険職務殉職の認定範囲が更に拡くなったということに意義がある」と評価した。
2023年1月30日 毎日労働ニュース ホン・ジュンピョ記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=213198