公務非正規で働く女性たちの現実/東京●はむねっとのアンケート調査から

2月4日、東京労働安全衛生センターの定例セミナーの一環として『公務非正規で働く女性たちの現実~「公務非正規労働従事者への緊急アンケート調査」からみえてきたこと~を開催し、リアル参加とオンライン参加、合わせて70人あまりの方が全国各地から参加した。

近年、新自由主義の広がりの中で、国や地方自治体の現場では非正規雇用の公務員など不安定な雇用で働く労働者が増加してきた。いま、公務非正規の労働者の多くが、低賃金や不安定雇用の中で過重な責任を背負わされ、女性差別や非正規差別、パワハラ・セクハラなどの折り重なる差別と搾取に直面している。今回のセミナーでは、そうした実態を取り上げ、この状況を変えていくために何が必要なのか、参加者も交えて語り合った。

公務非正規の全体像

セミナーではまず、昨年前半に、公務非正規で働く人々を対象としたアンケート調査を行った「公務非正規女性全国ネットワーク」(はむねっと)の瀬山紀子さんから、調査結果を基にした実態の報告をしていただいた。

現在、公務非正規の労働者は、国(基幹業務職員など)や地方自治体(会計年度任用職員など)だけでなく、委託・指定管理・派遣などの形で公共サーピスを担う民間の労働者も増えている。その職場は、官公庁や市役所にとどまらず、学校、保育、学童、DV被害者支援、生活相談、図書館、美術館など多岐にわたっている。その数は、国の非正規公務員が約15万人、地方自治体の非正規職員は約112万人にのぼり、職員の4割が非正規という地方自治体もある。1年間の有期雇用で、正規職員との聞に給与をはじめとして大きな待遇格差がある。また、こうした公務非正規労働者の8割が女性である。

現場では、非正規労働者が恒常的に公共サービスの基幹業務を担うという実態があり、10年以上にわたって基幹業務を支えるベテラン非正規労働者も数多く存在する。とくに専門職でその傾向が強いと言う。総務省の地方公務員に関する実態調査でも、地方公共団体の中で「10年以上同一人を繰り返し任用している」と回答した団体は、保育所保育士では41.1%、消費生活相談員で31.8%、給食調理員で31.2%、看護師で25.3%などとなっていて、エッセンシャルワークと呼ばれる職種で、多くのベテラン非正規労働者が現場を担ってきたことがわかる。しかし、国のこれまでの調査では、回答に答える地方自治体側の言い分しか見えず、実際に働いている公務非正規の女性たちの実態はなかなか見えてこない。

緊急調査で見えてきた実態

昨年4~6月にかけて、はむねっとが行った緊急アンケート調査には、全国から1,200件を超える回答が寄せられた。回答者の約92%が女性で、約82%が地方自治体で働いている方だった。回答者の雇用契約期間は11年以下」が約94%を占めていた。待遇については、回答者の2人に1人が年収200万円未満であり、4人に3人以上は250万円未満だった。また、回答者の約94%が1年以下の雇用契約期間だった。

地方公務員の場合、フルタイムより労働時間が週15分短いとパートタイム職員という扱いとなり、給与など待遇面で大きな格差が出てくる。地方自治体の側は「業務内容に応じて勤務時間を積み上げた結果」として、職員のパートタイム化が起こっていると主張する。しかし実際には、人件費者削減するためにフルタイム職員を強引にパートタイム化している。今回のアンケート調査でも、「仕事内容は何も変わらないのに、フルタイムにしないために15分減らされた」、「無理やりパートタイムにするために勤務時間を短くされ、それを補うためにさらにパートタイム職員を採用するという本末転倒な有様」という当事者の声が寄せられている。

基幹業務を担っているにもかかわらず、1年以下のきわめて不安定な雇用契約で、低賃金をはじめ正規職員との待遇格差も非常に大きい。こうした過酷な状況のため、心身の不調在感じる労働者も多く、今回のアンケートでも回答者の3割以上が身体面での、4割以上がメンタルの不調を感じている。また、回答者の9割以上が「将来への不安」を感じると回答している。「更新への不安で、春は抑うつ感が強い」、「立場が弱くハラスメントを受けやすい」、「上の人とうまくいかないと切られるのではないかという不安は常にある」などの声が寄せられた。

公務災害についても、公務非正規の労働者にとっては制度が複雑で使いにくいのが現状だ。職場のパワハラで自死した北九州市の非常勤職員のケースでは、同市の公務災害に関する条例で非常勤職員に請求権がないとされ、遺族が国に制度改善を訴えてようやく条例が改正されるという事件が起こっている。

さらに、自治体の現場では、非正規職員であっても正規職員と同様に災害対応などを求められるという現実もある。今回のアンケートでは、「予算がないからとヘルメット等が正規職員分しか用意されなかった」、「コロナ禍においても、非正規職員は当たり前のように最前線にいる」など切実な声が寄せられている。

こうした点を踏まえて、様々な現場で非正規職員のいのちは守られておらず、「いのち」の格差が生じていると、瀬山さんは指摘した。

「公務の民間化」から生じる問題

瀬山さんの報告に続いて、同じはむねっとのメンバーで、NPO法人参画プラネットの渋谷典子さんが、公共サーピスの現場を担っているNPOの立場から報告した。

渋谷さんはNPOの代表として、10年あまり、業務委託や指定管理者として公共サービスを担ってきた。その中で、公共サービスのアウトソーシングを進め、行政責任を縮減する行財政改革の論理を感じてきた。同じ公共サービスを担っているのに、公務員と民間との待遇格差は大きく、「いのち」の格差が存在すると言う。

渋谷さんは、民間の指定管理者として公共施設の管理運営にあたってきたが、クレーマー対応では公務員とみなされて、クレームの矢面に立たされることも。台風や大雨の際には施設に待機して対応にあたり、ときには避難所として対応する必要もある。民間でありながら、公共サービスの重い責任を負い、労働安全衛生上のリスクも抱えている。

渋谷さんは、民間事業者と自治体が対等な立場で協働事業の条件を決めることや、公務との均等待遇を踏まえた適切な対価基準や継続雇用の確保などを、各地の自治体で作られている「公契約条例」に盛り込んではどうかと提言する。

公共サービスの担い手の労働環境が適切でない現状のままでは、公共サービスの担い手自身が不安定な生活に陥り、公共サービスの質も劣化していく。このような持続可能性のない政策を変えていくことが重要だと、渋谷さんは指摘した。

活発な意見交換

お二人の報告の後で行われた質疑応答・意見交換では、全国各地からの様々な立場の参加者から活発な意見が出された。

「いまの自治体は非常勤なしでは回らない状態なのに、処遇を上げようとはしない現状がある。専門職を雇っておきながら、信じられない低賃金に低処遇。時々、全員辞めてやれと叫びたくなる」という当事者の切実な声。「会計年度認容職員の期末手当の減額をしないよう反対したが、押し切られた」という地方自治体議員の指摘。また、「自治体の職員組合に聞いても、何も声が来ていないという回答だった。つおじしゃから問題を訴える声があがっていないはずがない。労働組合が公務非正規の労働者の声を聞こうとしていないのではないか」との指摘もあった。地元の自治体に公契約条例がなく、制定を求めて活動しているが難しい、という声もあった。

「毎年の任用のはずなのに、『15年以上でないとできない職』という矛盾だらけの職種もある」との指摘も。5年以上の経験が必要な職種なのに、任期1年で毎年公募が行われるという矛盾した人事が行われている。2020年に全国の地方自治体で会計年度任用職員の制度が導入されて以降、現場での矛盾はさらに深まり、公務非正規の労働者にその矛盾が集中している様子が伝わってきた。

今回はとくに、地方自治体の議員の方の参加が目立ち、地元の議会で公務非正規の問題を取り上げて格差是正を求めていきたい、との声も少なくなかった。はむねっとも、昨年の緊急アンケート調査以降、総務省に質問や要請を行うなど、様々な取り組みを続けている。3月にははむねっと発足1周年の集会も予定されている。東京労働安全衛生センターとしても、公務非正規で働く女性たちの状況改善のために、今後も連帯して取り組んでいきたいと思う。

文/問合せ:東京労働安全衛生センター

安全センター情報2022年7月号