労災企業の「厚かましい」不服訴訟、5年間に114件 2022年10月11日 韓国の労災・安全衛生

毎日労働ニュース資料写真

最近5年間で勤労福祉公団を相手にした療養給付関連の訴訟は3千件余りだ。その中には労災と認められた労働者の『労災承認』を取り消して欲しいという企業の図々しい訴訟も少なくない。労災を起こした企業は「所属の勤労者ではない」とか「業務による疾病や事故ではない」と主張して訴訟を提起しているが、最近5年間確定した判決(85件)の内、たった3件を除けば全てで敗訴した。公団が労災承認の敷居を高めたせいで、裁判所で労災不承認判定が覆されて労働者が勝訴したケースは多くても、労災承認判定が取り消される事例は非常に珍しい。労災企業が敗訴する確率が高いのに労災取り消し訴訟を起こす理由は、何だろうか。

「不法な労務管理による精神疾患」
柳成企業「不法争議行為のため」として6件の訴訟

共に民主党のユン・ゴンヨン議員が勤労福祉公団から受け取った『療養給付関連訴訟資料』によれば、2017年から今年8月までに公団を相手に提起された訴訟は2952件だ。訴訟の96.1%は個人が提起した訴訟だ。公団の労災不承認処分や、労災の延長または追加の労災に対する不承認処分を取り消せという訴訟だ。同期間に公共機関や民間企業が提起した訴訟もそれぞれ2件と112件だった。

公共機関や民間企業が提起した訴訟の趣旨は、主に公団の労災承認を取り消せということだ。この中には「労組破壊シナリオ」で悪名を馳せた柳成企業が提起した訴訟が6件で最も多い。柳成(ユソン)企業は2014年から、適応障害、重症のうつ病、不安障害といった精神疾患を業務上疾病と認定された労働者6人の判定を取り消して欲しいという訴訟を起こした。労災ではないので療養給付を与えるなという趣旨だ。

柳成企業は労働者の精神疾患が「不法な労組活動または争議行為と関連しているだけで、業務によって発症したわけではない」と主張した。会社の労組弾圧と懲戒に悲観して自ら命を絶った事件が2件発生し、集団精神疾患事態が社会問題になって、雇用労働部が臨時健康診断実施命令を出したが、会社は労災取り消し訴訟を継続した。その結果、6件の訴訟はいずれも柳成企業が敗訴した。柳成企業が最高裁まで引きずった事件が3件、一審敗訴後に柳成企業が訴訟を取り下げた事件が3件だ。

裁判所は「事業主の支配・管理下にあるとは見られない不法な労組活動、または使用者と対立関係にある争議行為の段階で発生した災害は『業務上災害』に該当するとは見られない」としながら、「(柳成企業の精神疾患災害者)が受けた精神的ストレスの最も主要な原因は、正常な業務遂行中に経験した労使・労々葛藤と会社の不当な経済的な圧迫、強化された監視と統制のため」として労災と判断した。

15年間、カジノ機械300台を雑巾で拭いた労働者
肘の主関節断裂は仕事ではなく、年齢のせいか?

ユソン企業の次に労災取り消し訴訟を多く提起したのは江原ランドの子会社の江原南部住民㈱だ。江原南部住民は、江原ランドのカジノとホテルの清掃・防疫業務を担当しているが、清掃労働者4人の肘管節部分損傷と手首の重心前方腱炎に対する労災承認を取り消して療養給付をしないようにという訴訟を4件提起した。労働者のほとんどは2001年入社し、2015年退職するまでの15年近く、1日8時間ずつ三交代で24時間、手拭きでホテルの窓ガラスに客の指紋が見えないように磨き、床の大理石の光沢を出す仕事をした。特に夜11時から明け方7時までの徹夜勤務をする時は、カジノ300台を30~40分間で雑巾で拭かなければならなかったが、脱水機で雑巾を絞る時間がなくて、バケツで雑巾を洗った。

それでも会社は、彼らは「業務ではなく、年を取って退行性疾患になった」と主張した。裁判所は「江原南部住民での勤労者健康相談処理日誌を見れば、手首の痛みと肩の痛みを訴え、相談と処置を受けた清掃労働者が少なくなく、裁判所の診療記録鑑定嘱託医も業務上災害に該当するレベルと判断している」として、公団の判定が正しいと判決した。

けしからんと取り消し訴訟を起こす事業主

過労や深刻な業務上ストレスで脳心血管系疾患に罹った労働者に、むしろ「けしからん行為」として労災の取り消し訴訟を起こす事業主も少なくない。ソウル江東区の大衆浴場の事業主は、一週間に70時間、タオルとガウンの洗濯と清掃業務をした労働者が脳出血で倒れて業務上疾病と認められると、取り消し訴訟を起こした。事業主は「午前8時から午後8時の間、被災者は理髪師や洗身士たちと一緒に自由に休息を取りながら仕事をし、自律的な雰囲気で単純な労務を提供したので過労ではない」と主張したが、裁判所は「この事業場に登録された労働者は、被災者だけでなくとも事業場に24時間居続けて洗濯と清掃業務全般を行った」として、業務と相当因果関係を認めた。

昌原の空気浄化装置製造業者のD社は、定年退職後に、嘱託職として重量物の組立作業を発病前の3ヶ月間、週当り60時間以上働いた女性労働者の脳出血の労災認定に従わず、労災取り消し訴訟を起こして、敗訴した。この会社は、「同僚の勤労者と比較すると過重とは見られず、退勤後に自宅で発生し、普段から高血圧を患っていて、労災ではない」と主張した。裁判所は「過労認定基準に該当し、血圧は多少高いが正常範囲であり、休日勤務直後に自宅で倒れたもので、業務と時間的な延長線上にある」と、会社の主張を棄却した。

釜山の病院の泌尿器科の診療部長として働いていたA氏は、脳出血で右半身麻痺と言語障害が発生して労災を申請した。公団は労災と認めたが、該当の病院は「特別な業務上の過労やストレスはなかった」として、「労災ではない」と訴訟を起こした。A氏は週6日40時間勤務したが、病院の経営が悪化し、月給を受け取るために病院に代って貯蓄銀行から融資を受けてその利子まで払い、医療用品も病院が購入してくれないため本人が直接買って診療を行った。また、賃金不払いの問題を解決する過程で、眠れないほどストレスを受けたと陳述した。裁判所は「高血圧が、激しい業務上のストレスによって急激に悪化したものと見られる」として公団の手を挙げた。

労災隠蔽しようとする建設会社、「取り敢えず労災取り消し訴訟」

現代建設もこの5年間に3件の労災取り消し訴訟を起こしたが、敗訴したり、訴訟を取り下げた。勤労福祉公団が、25年目の型枠大工の右膝軟骨損傷を労災と認定したが、現代建設は「55歳で退行性疾患が、180cm、85kgの巨体によって自然悪化した」として訴訟を起こした。一審の裁判所は「被災者が災害発生を立証できず、重い体重のせいで悪化した可能性が高いが、公団が温情主義的な措置で労災を承認をした」として、現代建設の手を挙げたが、二審の裁判所は、「型枠大工の業務の中にはしゃがんで仕事をする過程が多い」として「退行性の変化がある状態で、小さな衝撃で軟骨板が断裂した可能性が高い」として一審の判決を覆した。労災取り消し訴訟を起こした企業では、建設会社が半分を越える。公共工事の入札時に労災発生が減点になり、個別実績料率にも影響を及ぼすため、判決の結果に関係なく取り敢えず取り消し訴訟を提起することが多い。

ユン・ゴンヨン議員は「企業が勤労福祉公団に訴訟を起こして勝訴する比率は3.5%の水準で、全療養給付関連の訴訟で、公団が敗訴した比率の4分の1に過ぎない」、「労災認定はそれ自体で容易ではないのに、既に承認された労災認定まで取り消してくれと、会社が訴訟を起こして被災者を苦しめる行動が統計でも確認された」と指摘した。ユン議員は「会社が業務上の疾病ではないと言っただけでも、なぜ労災なのかを立証するのは労働者の責任になるのが現実」で、「敗訴率が圧倒的に高いのに訴訟を起こすのは、他の目的がある無責任な行動だ」と批判した。

2022年10月11日 毎日労働ニュース キム・ミヨン記者

http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=211339