「労災隠し」20代の建設労働者「ゴールデンタイム」逃したか 2022年8月4日 韓国の労災・安全衛生

昨年6月、労災事故で死亡したノ・チモクさん(死亡当時28歳)が運転していたショベルカーが倒れている。/遺族側提供

建設労働者の労災死亡事故を、会社側が縮小・隠蔽をしようとした情況が一年目に明らかになり、問題になっている。遺族側は119救急隊に通報が遅れて、生存できる「ゴールデンタイム」を逃したと主張している。会社代表と関係者を不作為による殺人の容疑で告訴することを検討している。

工事現場でショベルカーが転倒し、運転技師が死亡

「毎日労働ニュース」の取材を総合すると、慶尚南道泗川の土木工事会社・A建設の労働者の故ノ・チモクさん(死亡当時28歳)は、トレッキングコースの造成工事現場の巨済のイス島で、昨年6月19日に労災事故で亡くなった。

釜山地方雇用労働庁統営支庁の捜査結果報告書と裁判所の判決によると、事故は掘削機運転手のノさんが、事故当日の午後、作業を終えた後、約117kgの作業道具を積んで事務室に帰る途中に発生した。ショベルのブームが回転する途中、資材の重さに耐えられなかったショベルが倒れてノさんを襲った。この事故で、ノさんは病院に搬送され、午後5時41分、血腹腔による多発性損傷(腸・肺・腹壁の損傷)で亡くなった。

遺族側が確認した119救急隊の通報録取を見ると、会社が事故発生直後に通報をしていなかった情況が明らかになった。造園工の日雇い労働者のBさんは、その日午後4時20分頃に119に通報した。しかし、事故現場の近くにいた観光客の証言によると、事故発生時間に多少の違いがあることが分かった。

事故発生から30~50分が経過して119に通報

事故の目撃者である観光客のCさんは、掘削機の転倒が、119に通報した時間より約20~50分前に発生していたと供述していたことが確認された。Cさんは「イス島を散歩するために宿舎を出た午後3時から約30~50分程が過ぎた時、既にショベルは転倒していた」と話した。Cさんの陳述によると、事故は午後3時30分から3時50分の間に発生し、それから約30~50分が過ぎてから、会社が申告したと推定できる。

当時、Cさんたち一行3、4人がノさんの移送を助けたとも伝えられた。現場にいた会社の関係者たちは、島で事故が起きたため、ひとまずノさんを事故現場の近くに止めておいたトラックに移し、陸地にある病院に移送しようとした。ところが「ノさんを簡易担架に乗せて運ぶ間に、申告する様子は見られなかった」というのがCさんの陳述だ。

結局、午後4時20分頃に通報され、30分後に救急隊員が到着して、移送する途中に心停止になった。会社が事故発生の直後に119に通報していれば、生存の確率が高かったと遺族側は主張した。

実際、ノさんの診療を担当した医師も、早く病院に着いていれば生存の可能性があるという趣旨で話していることも確認された。遺族が医師と話した録音記録によると、医師は「もし病院の前で負傷した事故なら(生存の)可能性はあった」とし、「しかし、ノさんは既に死亡した状態で到着した」と話した。

ノさんは両肋骨のほとんどが折れて、腹部に血液が溜まる危急な状態だった。しかもこの日の119の返信結果によると、当時、ヘリは飛ばすことができる状況だったという。

昨年6月、掘削機の下敷きになって死亡したノ・チモク氏が事故に遭ったイス島から病院までの距離は約18キロだ。遺族側は事故発生直後、119通報があれば、早く病院に搬送されたはずだと主張している。/ネイバー地図

119には「山で転んだ」、労働部への申告も「遅滞」

119への通報内容が事故現場と違っているという主張も出てきた。119の録音記録を確認した結果、造園工のBさんは「山で転んだ」と電話した。そして、「位置は展望台に上がる入口だ」と言った。事故現場は展望台の方ではなかった。警察地区隊の状況報告書にも「上記の患者は、イス島を散歩中に3メートルの高さから墜落し、119に通報した事項」と記載されていた。会社の工事次長も、病院で警察が「散歩中に事故が起きたのか」と尋ねると「はい」と答えたという。

雇用労働部への申告も事故の発生直後には行われなかった。会社の現場所長のDさんは、ノさんの死亡(午後5時41分)以後、2時間程が過ぎた午後7時58分に、労働部の統営支庁に電話して、重大災害の発生申告をした。産業安全保健法(54条2項)は、「事業主は重大災害発生の事実を知った場合、直ちに雇用労働部長官に報告しなければならない」と定めている。それについて遺族側は、会社が「遅滞なく」申告しなかったと主張した。

しかし労働部は、「検事と電話した結果、警察に偽りの陳述をした事実があっても、重大災害の発生を申告し、積極的に隠す別途の行為や、虚偽内容を作って労災発生の事実を解らないようにしたわけではない」とし、「労災隠し」としては処罰しにくいという結論を出した。労働部の労災隠蔽と報告義務違反の調査指針に違反したとは見難いという意味だ。

遺族側「不作為による殺人」で告訴を検討

遺族側は、建設会社の代表を含む10人を、産業安全保健法違反の疑いで告訴した。しかし労働部は、現場所長のDさんとI建設の法人だけを起訴意見で検察に送致し、残りは容疑なしで不起訴の意見を出した。

その後、Dさんだけが裁判に付された。彼は、具体的な作業方法と作業段階別の安全措置を書いた作業計画書を作成せず、信号手を配置していないなど、安全措置義務に違反したという疑惑を受けた。一審は6月7日、Dさんに懲役10月・執行猶予2年と、罰金1500万ウォンを宣告した。これと同時に、80時間の社会奉仕と40時間の産業安全事故予防講義の受講も命じた。検察とDさんのいずれもが控訴している状態だ。

遺族側は「労災隠し」疑惑に関して、会社の関係者を「不作為による殺人罪」で告発することを計画している。会社に救護義務があるにも拘わらず、これを履行しなかった疑いを問うということだ。遺族側の代理人のキム・テヒョン弁護士は「現場の労働者たちは、故人の事故発生直後に119に申告せず、20~50分程度の時間を浪費した」とし、「これが故人の死亡に決定的な影響を与えたと見られる。未必の故意や不作為の適用が可能かを検討中」と話した。

会社側は、「労災隠し」は根拠のない主張だと反論した。現場所長のDさんは<毎日労働ニュース>との電話で「警察と労働部などの調査によって客観的な事実は全て出てきた状態」とし、「事故当時は余裕がなく、申告者が事故場所を『展望台』と話したが、実際に工事現場は展望台の近くで、事実と異なる部分はない」と話した。事故の発生時刻も、午後4時前後だろう」と主張した。それと共に「ノさんは普段は仕事が上手だったが、よりによってその日、作業を終えて帰る途中に、ショベルのブームを海の方向に向けたのかが解らない」とし、「裁判所もノさんの一部過失を認めた」と抗弁した。

筆跡が違う署名に「勤労契約書偽造」の疑惑まで

問題は「労災隠し」疑惑だけではない。一審の宣告以後、ノさんの「勤労契約書偽造」の情況が新しく明らかになった。勤労契約書の署名がノさんの筆跡と違うという主張が提起された。実際、韓国法科学研究院は、「標準勤労契約書の勤労者の部分の筆跡とノ・チモクさんの筆跡はそれぞれ違う筆跡と考えられる」という鑑定所見を明らかにした。

遺族側はこれを根拠に、誰かが代わりに作成した勤労契約書を勤労福祉公団に提出したと主張した。馬昌・巨済労災追放運動連合は「偽造の時期は明らかではないが、会社の行為に照らしてみれば、故人の死亡以後ではないか」とし、「被害者が受け取った日当が逸失利益の基準になるので、これを土台に労災補償を超過する損害賠償請求の責任を一定程度避けようとする目的の可能性が高い」と主張した。キム・テヒョン弁護士は「勤労契約書の偽造は私文書偽造行使罪に該当するので、遺族たちが告訴することにした」とし、「勤労福祉公団の業務を妨害した業務妨害の疑惑の適用も検討している」と話した。

韓国法科学研究院は、労災事故で亡くなったノ・チモクさんの筆跡が違うという鑑定所見を出した。/遺族側提供

2022年8月4日 毎日労働ニュース ホン・ジュンピョ記者

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