配電労働者の「甲状腺がん」初の業務上災害認定 2022年8月3日 韓国の労災・安全衛生

資料写真/チョン・ギフン記者

活線作業をして特高圧電磁波にばく露し、甲状腺がんを発病した電気労働者が、裁判所で業務上災害を認められた。配電工の白血病は2018・2019年に労災と認定されたことがあるが、甲状腺がんに対する法的判断は今回が初めてだ。裁判所は「研究結果が足りないという理由だけで業務上相当な因果関係を簡単に否定してはならない」と判断した。電気労働者の職業性がんの認定が拡大する契機になるものと評価されている。

『極低周波磁場』ばく露に、感電の危険のストレス

「毎日労働ニュース」の取材を総合すると、ソウル行政裁判所は先月20日、配電電気工のA(53)さんが勤労福祉公団に提起した療養不承認処分取り消し訴訟で、原告勝訴の判決を行った。訴訟が提起されて1年6ヵ月振りのことだ。公団が控訴するかどうかは決まっていない。

Aさんは1995年から2020年までの約20年間、配電電気工として働き、活線作業に従事した。初めの3年間は停電状態で作業したが、『無停電作業』方式が一般化し、1998年から電気が流れる電信柱に上がり、送・配電線路の維持・補修を担当した。

直接充電部で作業する『直接活線工法』が採用され、一人で活線作業車を運転して配電工事を行った。多い時は一日に電柱20~30ヶ所の機材を交換し、電柱7~8ヶ所の電線を交換した。電柱が倒れたり、夏場の電力需要の増加で変圧器が故障すると、随時、電柱の点検に投入された。

長期間活線作業を行ったAさんは、2015年11月頃『甲状腺乳頭がん』の診断を受けた。2万2千ボルトの特高圧電気が流れる状態で、超低周波磁場のような電磁波にばく露し、がんが生じたと推定できる状況だった。Aさんは普段、これといった基礎疾患もなかった。

Aさんは2020年3月、公団に療養給付を申請したが、不承認の決定を受けた。極低周波磁場のばく露と甲状腺がん発生との因果性を裏付ける研究が不足しており、甲状腺がんと関連があると知られている有害因子の職業的ばく露はないというのが理由だった。また、電気工に甲状腺がんが特異に高く発病していないと、公団は判断した。

Aさんは昨年1月に訴訟を起こした。Aさんは「約18年間、活線工法を使って、電気が通じている状態の電柱で『無停電作業』に従事し、電磁波にばく露した」として「感電事故の危険の中で、電気資材を移す高難度作業をしながら、強迫感と深刻なストレスに苦しめられた」と主張した。

「労働者への証明責任要求は不当で、労災保険制度の目的を考慮すべき」

裁判所は活線作業と甲状腺がんの相当因果関係を認め、Aさんの手を挙げた。裁判所は「Aさんが配電電気工として勤務している間、継続してばく露した極低周波磁場が、体質などの他の要因と共に複合的に作用して、甲状腺がんを発病させたり、少なくとも発病を自然経過以上に悪化させた原因になったと推定できる」と判示した。

目を引く部分は「研究結果」に対する判断だ。公団は、磁場ばく露と甲状腺がん発生との因果性の研究が不充分だと主張した。しかし裁判所は、「因果関係を明確に究明することが現在の医学と自然科学の水準では困難でも、それだけで因果関係を簡単に否定することはできない」とし、「労災補償保険制度の目的を考慮しても、勤労者に責任のない理由で事実関係がきちんと究明されていない事情に関して、劣悪な地位にある勤労者に証明責任を厳格に要求することは不当だ」と指摘した。労災保険制度導入の趣旨を反映しなければならないという意味だ。

合わせて、十数年間『直接活線作業』に従事した電気工は非常に制限され、研究結果が少なくなるしかないとした。直接活線作業は2017年から禁止され、配電電気工は現在スティックで活線を調整して作業をする『間接活線工法』を使っている。これに関して裁判所は、「高密度の電磁場にばく露する職業群の健康影響に対する科学的な結果を導き出すだけの資料自体がないのに、医学的・科学的な根拠がないと解釈し、勤労者に不利に判断することは妥当ではない」と強調した。

電気工の磁場の数値、一般会社員の26倍

配電電気工が極低周波磁場にばく露した数値が高いということも、労災判断の核心的な根拠になった。産業安全保健研究院が2017年に実施した『活線作業者の健康状態と関連実態調査』によると、活線作業者の極低周波磁場の平均数値は1.3μT(マイクロテスラ)と測定された。一般会社員(0.05μT)の26倍に達し、半導体労働者(0.73μT)と変電所労働者(0.43μT)の平均値よりも高かった。特に、配電電気工の磁場の最高値は1671μTで、半導体(123μT)やLCD工場(43.5μT)よりはるかに高いと記録された。

裁判所は「配電電気工の平均ばく露レベルは、欧州環境医学学術院が2016年に発表したばく露勧告下限(平均0.1μT)の13倍に達する」とし、「ソウル地域業務上疾病判定委員会は、Aさんが瞬間的に100~300μTの範囲で頻繁にばく露し、ICRP(国際放射線防護委員会)とACGIH(米国産業衛生家協会)が公開した最高値である1000μTを超過するばく露もあったと推定した」と説明した。

Aさんが特高圧電流を扱いながら受けたストレスと、疾病の間の因果性も認められた。裁判所は「A氏は約18年間、一日8時間以上,高圧の電流が流れている活線を扱い、小さなミスでもすれば、あっという間に致命的な感電事故に遭う恐れがあるという極度の緊張感の中でストレスを受けてきたことが十分に認められる」とし、「業務上の過度なストレスが免疫力に悪影響を及ぼすことによって、甲状腺がんの発病や進行を促進する原因の一つとして作用した」と判示した。

労働界・学界は「前向きな判決」
集団労災申請の見通し

労働界と学界は職業性疾患に対する「前向きな判決」という意味を付与した。朝鮮大学のイ・チョルガプ教授(職業環境医学科)は、「公団は今まで、医学的・自然科学的な研究結果が足りないという理由で労災を認めなかった」が、「裁判所は研究結果だけで簡単に因果関係を否定してはならないとし、労災保険制度の目的を明確にした」と評価した。

特に、サムソン電子LCD工場の労働者の多発性硬化症に関する2017年8月の最高裁判決よりも、進んだ判決だと見た。当時、最高裁は「疫学調査方式自体に限界があり、事業主などが有害物質に対する情報を公開しなかった点も考慮するべきだ」として、多発性硬化症を労災と見ることはできないと判断した原審を破棄していた。

イ教授は「サムソン電子事件で、最高裁は希少疾患の研究結果が十分でなくても、因果関係を否定できないと判断したが、今回の事件では、具体的な論拠を羅列して補充した」とし、「公団は甲状腺がんだけでなく、知られていない疾患に対しての療養給付の承認が社会保険制度の目的に符合するという点を根拠に、認容の決定をすべきだ」と強調した。

配電電気工の職業性疾病にも、今回の判決が基準点になる可能性が開かれている。韓電の下請け業者所属の配電労働者たちは、昨年2月、肺がん・マルトリンパ腫・脳脊髄がんなどの職業性疾患を認めろという集団労災申請をしているという経緯がある。建設労組のパク・セジュン労働安全局長は、「今回の判決で、類似の訴訟が続くと見られる」とし、「皮膚癌や筋骨格系疾患も労災を申請している状態だ。集団労災申請によって配電労働者の劣悪な状況が改善される契機になるようにする」と話した。

建設労組が先月12日、勤労福祉公団ソウル本部の前でソウル配電電気労働者の筋骨格系疾患と関連して、集団労災を申請する記者会見を行っている。/建設労組

2022年8月3日 毎日労働ニュース ホン・ジュンピョ記者

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