「使命の人」(ベルギー:エリックさんの新たな闘い)-International Ban Asbestos Secretariat(IBAS), 2022.4.28
2022年4月28日、彼の友人たちが長い間恐れていたことが、世界に告げられた。エリック・ヨンクヒールが、父ピエール(1987年)と母フランソワーズ(2000年)、そして彼の兄弟たち、ピエール・ポール(2000年)とステファン(2009年)の命を奪った同じアスベストがん[中皮腫]に罹っていたのだ。
この心痛むニュースは、彼の家族の死に責任を有する会社に対する裁判の開始と同時に発表された。アスベストの多国籍企業、エタニットは、他社がアスベストを使用しない製造方法に移行した後も長い間、その有害な技術で利益を上げ続けた。
ベルギー・アスベスト被害者協会(ABEVA)が発表したプレスステートメントのなかで、同日早くにエリックと彼の代理人のジャン・フェルモンとクエンティン・マリサルは、エタニットに召喚状を送り、その工場から飛散したアスベストへの曝露の結果エリックががんに罹患した、カペレ・オプ・テンボス工場の操業による汚染を防止することができなかったことについての故意の違法行為の容疑に対して回答するためにブリュッセル第一審裁判所に出廷するよう命じたことが明かされた。メディアリリースによれば、ABEVAは、エリックによる提訴と、ベルギーで進行中のアスベストについての不正義に光を当てようとする彼の決意を支持している。
フランソワーズがアスベスト曝露に関連した指標がんである中皮腫と診断されたときから、エリックは使命感に燃える人だった。フランソワーズは、エタニットの犯罪行為を暴露することを決意し、ベルギーで初めての環境アスベスト曝露についての訴訟を開始した。死の床で彼女は5人の息子たちに、エタニットの責任を追及する闘いを続けるよう頼んだ。
2017年3月28日にブリュッセル控訴裁判所が、フランソワーズ・ヴァンノーベーク・ヨンクヒールを死亡させた環境アスベスト曝露についてこのベルギーのコングロマリットを非難した判決を支持し、彼らは母親との約束を果たした。15頁に及ぶ判決のなかで裁判官は、エタニットは1970年代からアスベストが発がん物質であることを知っていながら、労働者や地域の人々を危険な曝露から守らなかった結果、カペレ・オプ・テンボスの同社工場の近くに何十年も住んでいたフランソワーズが致死的ながんである中皮腫に罹患したと結論づけた。
この判決は、アスベスト汚染のない生活を送るという人権の輝かしい承認として歓迎された。利益よりも人々を優先させて、この判決は、ベルギーのエタニットの被害者だけでなく、日本、コンゴ、インドなど、エタニットのアスベスト事業が人間の健康と環境を損なった国の他の被害者のための先例となるものだった。
2022年4月28日に開始さされた訴訟は、フランソワーズの事件で確立された先例に基づいて、アスベスト関連疾患の全国的な流行においてエタニットが果たした役割を公けにすることを目的としている。ベルギーのアスベスト補償基金(AFA)は、自営業者やリックのような環境曝露を受けた被害者が補償を受けやすくしている一方で、請求者は補償を受ける代わりに、訴訟する権利を放棄することを強いられることから、基本的に会社の罪を糊塗するものである。しかし、ひとつだけ例外がある。新たな訴訟が主張するように、会社に故意の違法行為があれば、訴えることは可能である。この事件は、それがつくる判例としてだけでなく、ひとつの家族の5人が同じ会社の行為によって致死的ながんに冒されたというヒューマンストーリーとして、大きなメディアの注目を集めるに違いない。エリックは、母フランソワーズと同じように、自分にふりかかった運命について黙ってはいないようだ。
フランソワーズの遺志を継ぐことを決意して、エリックは、ヨンクヒール家の歴史を記録した。エタニットの従業員とその家族の日常生活、そしてエタニットの致死的粉じんに毎日さらされたことのヨンクヒール家に対する恐るべき結果を、彼は丹念に詳しく書いたのである。一撃一撃、一息一息、筆者は読者に対して何も惜しまずに、彼の家族の一人ひとりが愛する人たちとより長い時間過ごすためにいかに闘ったか書いた。弟たちの死は、2人の妻と6人の子どもを残した。
ベルギーにおける数十年にわたるアスベスト生産の破滅的な影響を強調するために、エリックの故郷の街でエタニットが引き起こした人々の悲劇と公けの大惨事を収めた短編ビデオの英語版もつくられている(https://youtu.be/VbpmM30bqpQ)。
http://www.ibasecretariat.org/lka-a-man-on-a-mission.php
[編注]2008年3月号、2012年4月号、2015年10月号、2017年5月号も参照されたい。