【COVID-19と安全衛生・労災補償⑮】労災請求3万件、認定2万件突破/急増で処理率急落、認定率98.5%-2021年度認定数は前年度の4倍(2022年5月10日)
目次
労災請求件数等の公表は173回目
新型コロナウイルス感染症に関する労災請求は、2020年3月に最初の1件の請求があったという。2020年5月15日に厚生労働大臣が、初めての支給決定2件があったことを公表した。厚生労働省は以降、平日ほとんど毎日、労災請求件数等の情報更新を続けた後、2020年12月4日現在分以降は毎週、2021年10月31日現在分以降は毎月に切り替えて、情報更新を続けている。2022年4月19日に、同年3月31日現在の状況が公表された。2020年4月30日現在分の公表以来、173回目となる。
新型コロナウイルス感染症は最大の職業病
表1は、月別及び年度の状況である。2020年度は、請求8,472件、認定(支給決定)4,746件、不支給決定193件という状況だった。認定率(支給/(決定=支給+不支給))は96.1%、処理率((決定=支給+不支給)/請求)は58.3%だった。
「令和2年度業務上疾病の労災補償状況調査結果(全国計)」によると、2020年度の職業病認定件数合計は13.920件で、うち新型コロナウイルス感染症が4,545件、それ以外が9,375件であった。2019年度の合計数は9,359件だったから、それ以外の職業病認定件数は変わっていないところに、新型コロナウイルス感染症が加わったために、全体が約1.5倍に増加したということである。
2021年度は、請求22,851件、認定19,264件、不支給決定160件という結果だった。認定率は99.2%、処理率は85.8%ということになる。
2021年度の新型コロナウイルス感染症の労災認定は19,264件で、前年度の約4倍に増加した。それ以外の認定件数が変わっていなければ、合計認定件数は2019年度の約3倍になっているだろう。
累計では、新型コロナウイルス感染症の労災請求31,324件、認定23,817件、不支給353件。認定率は98.5%、処理率は77.2%という結果である。請求件数は2022年3月31日現在で3万件を突破、認定件数は同年1月31日現在で2万件を突破した。なお、請求件数のうち遺族請求(死亡)に係る件数は166件で、請求全体の0.5%となっている。
職業病でもっとも多い業務上の負傷による腰痛(災害性腰痛)でも年間認定件数は3千件前後であり、また、非災害性職業病でもっとも多いじん肺及び合併症の1979~2020年度の累計認定件数が46,695件であるから、新型コロナウイルス感染症はまさに最大の職業病と言えるだろう。
報告されているのに未請求が多い
暦年で2020年の死傷者数は131,156人で、うち6,041人が新型コロナウイルス感染症によるものだった(全体の46.0%)。これは事業者が届け出た労働者死傷病報告を集計した者であり、表1から同期間の労災請求件数を計算すると2,652件である。事業者が労働災害であるとして6,041件報告しているにもかかわらず、労災請求がなされたのはその43.9%にすぎないということになる。
この2020年の死傷者数は、2021年4月30日に公表された「令和2年の労働災害発生状況」によるものであるが、本稿執筆時点で「令和3年の労働災害発生状況」はまだ公表されていない(「令和元年」分の公表は2020年5月27日だった)。
表1から2021年の労災請求件数を計算すると20,842件である。同期間中に事業者が労働災害であるとして報告した件数が公表されたら、ぜひあらためて比較していただきたい。届け出られているのに未請求という問題が続いているのではないかと懸念している。ちなみに、2022年1月速報値では、新型コロナウイルス感染症り患による労働災害の件数を除く休業4日以上の死傷者数は、2020年110,794人から2021年117,875人へ6.4%増加している。
2022年3月の請求急増で処理率急落
労災請求件数等の推移をみると、2022年1月が少なかった一方、同年3月には5,835件(表1による)と、過去最高だった2021年3月の2倍を超える急増。このため、処理のペースが大きく落ちたわけではないのに、処理率が最高89.2%から77.2%にまで急落してしまっている(図1の請求件数、認定件数及び処理率の各カーブで確認していただきたい)。
表2は、20222年3月31日現在の累計で、医療従事者等、医療従事者等以外、海外出張者の別に業種別の労災請求件数等を示している。
医療従事者等については、労災請求20,443件(全体の65.3%、以下同じ)、認定15,601件(65.5%)、不支給225件(63.7%)。認定率98.6%、処理率77.4%。請求のうち死亡は26件で、請求全体の0.1%。業種別では、医療業が請求で全体の41.9%、認定の42.1%、不支給の53.8%。社会保険・社会福祉・介護事業が請求で全体の21.7%、認定の21.7%、不支給の9.3%。その他業種が請求で全体の1.7%、認定の1.7%、不支給の0.6%を占めている。
医療従事者等の不支給事案は、実は新型コロナウイルス感染症ではなかったという事案であると思われる。
医療従事者等以外については、労災請求10,831件(34.6%)、認定8,176件(34.3%)、不支給128件(36.3%)。認定率98.5%、処理率76.7%。請求のうち死亡は116件で、請求全体の1.2%。
業種別では、社会保険・社会福祉・介護事業、製造業、医療業、建設業、運輸業・郵便業、卸売業・小売業が多いが、多くの業種にまたがっていて、認定率はいずれも95%を超えている。
海外出張者については、労災請求50件(0.2%)、認定40件(0.2%)、不支給0件(0%)。認定率は100%、処理率は80.0%。請求のうち死亡は9件で、請求全体の18.0%。
請求全体に占める死亡の割合は、医療従事者等以外で医療従事者等の12倍、海外出張者で以外の18倍となっている。死亡事案以外の請求が相対的に少ないことを示しているのかもしれない。
請求件数についての2022年3月分の増加5,862件の内訳は、医療従事者等4,225件(72.1%)とその他1,636件で、前者が急増の主体であった。
公務員災害補償は相対的に少ない
人事院はウエブサイトの「新型コロナウイルス感染症」ページで「一般職の国家公務員に係る新型コロナウイルス感染症に関する報告件数及び認定件数」を公表している。毎月更新を続けていて、2022年3月31日現在の状況を4月19日に公表(表4)。公務外認定はゼロである。
地方公務員災害補償基金も地方公務員の「新型コロナウイルス感染症に関する認定請求件数、認定件数について」毎月公表していたが、2022年1月31日現在分の公表が2月9日に行われた後、更新されていない(表3、図2)。公務外認定はゼロ。
国家公務員、地方公務員とも、労災保険の場合と比較しても、請求・報告が少ないと思われる。
感染経路「職場」が3.3%という参考資料
東京都の新型コロナウイルス感染症モニタリング会議が、2020年7/28~8/3の週以降、2022年3/22~3/28の週までの週単位の「濃厚接触者における感染経路」別割合がわかる資料を公表している。「濃厚接触者」は「接触歴等判明者」のことで、別の資料から日毎の新規陽性者数、接触歴等判明者数、接触歴等不明者数が得られるので、1週間ごとの新規陽性者数に対する割合を計算することができる。この結果を示したのが図3である。
新規陽性者のうち「職場」を感染経路とする者の割合は、2020年7月28日から2022年3月28日までの全期間では3.3%。感染経路判明者に対する割合だと8.7%である。なお、新規陽性者のうち感染経路が判明した者の割合は37.9%という状況である。全般的にこれらの数字は減少傾向にある。
もちろん、感染の拡大の各段階における変化を含めて、この「感染経路」調査の有効性・信頼性については慎重であるべきである。また、感染経路が「職場」ではなく、「施設」等他の区分に区分されていたり、感染経路が判明しなかったものの中にも、労働者として業務上感染したものが含まれていることは確実である。とはいえ、貴重な情報であることは間違いない。
2022年3月31日現在の感染者は6,504,873例、死亡者は28,010人(0.4%)とされており、各々の3.3%に相当するのは214,661例と924人である。いずれにせよ、本来は労災補償を受けられるべき者から請求がなされているとは到底言い難い状況は変わっていないと考えざるを得ない。
安全センター情報2022年6月号掲載予定