労災事故死亡は減ったものの、まだまだだ 2022年3月18日 韓国の労災・安全衛生
雇用労働部が15日に発表した『2021年労働災害事故死亡現況』によると、昨年、828人が労災事故で命を失った。1年前より54人減った。事故死亡万人率は0.43と史上最低の水準だ。しかし、移住労働者と高齢者の死亡の割合は増え、小規模事業場の死亡者の割合は依然として高い。死亡者の減少に満足してはならないと、専門家たちは口を揃えて強調している。
特殊雇用職・移住労働者の対策を出せ
文在寅政府の『事故死亡を半分に減少』は結局守られなかった。半分どころか、2017年の963人から2021年には828人へと、15%の削減に止まった貧弱な結果だ。依然として50人未満の事業場で80%以上が発生し、5人未満の事業場ではむしろ増加した。重大災害処罰法の国会審議の過程で、『5人未満の事業場の重大災害が減少しなければ、適用除外を削除する改正に同意する』というのが、労働部・中小ベンチャー企業部など、政府の立場だった。政府と国会は、重大災害処罰法の全面適用に向けた法改正に直ちに取り組まなければならない。
何よりも残念なのは、建設機械・配達などの特殊雇用労働者と移住労働者の事故死亡が増加したことだ。労働部は労災保険の適用拡大による統計への反映の増加、配達物量の増加を原因だと説明しているが、事実をごまかしているのだ。2018年の産業安全保健法の全面改正で適用対象となった特殊雇用労働者は、『専属性』を要件に職種も制限され、安全保障措置も一部のみの適用とした。事故の多い建設機械装備のような特殊雇用労働者の労災予防のための元請の責任には適用されなかった。民主労総は下位法令が議論される2019年に全面適用を要求したが、受け容れられなかった。結局、事故の割合の高い掘削機やダンプなどの建設機械装備の元請の責任は明示されず、配達運送労働者の仲介事業主に対しては、安全運行情報を告知する水準で導入された。韓国人労働者より30%も多く発生する移住労働者の労災は増加し続け、昨年は102人が亡くなった。死亡者全体の12.3%を占めている。数年間、特別な対策を要求してきたが、放置されているのだ。
建設機械の装備、特殊雇用労働者、移住労働者に対する危険を、数年間提起してきたにも拘わらず受け容れない政府は、今日のこの死にどう責任を取るのか、イライラする思いだ。
重大災害処罰法は、処罰の強化によって構造的な問題を改善し、産業災害を減らしていく出発点だ。この出発が予防による労災の減少に繋がるように、政府は重大災害処罰法の全面適用、特殊雇用労働者の産業安全保健法の全面適用、配達運送労働者の安全配達のための構造的な制度改善、移住労働者の労災予防特別対策を直ちに樹立しなければならない。また、対策作りには経総・建設協会などの事業主団体も全面的に同意しなければならない。今回も阻むことになれば、『予防が重要だ』と頑なに主張してきた事業主団体の嘘が、再び明らかになる。労働者・市民はこれ以上座視しない。
正確な労災統計、効果的労災予防政策の必須条件
労働部は2021年の労災事故死亡統計を発表して、事故死亡の万人率が過去最低の水準だと明らかにした。しかし、労働部の労災統計の実状を少しでも知れば、このような分析には到底同意しがたい。
労働部も報道資料で自ら明らかにしたように、労働部の労災死亡統計は労災保険承認統計に全面的に依拠している。したがって、今回発表された労災死亡統計は『2021年に発生した労災死亡統計』ではなく、『2021年に労災保険で承認された労災事故死亡統計』と見るのが正しい。
実際に今回の統計では、2021年に死亡したが、遺族が未だ産災保険の遺族給付を請求していない事例、2021年に死亡し、遺族が労災保険遺族給付を請求したのに、2021年に承認されていない事例は除かれている。一方、2021年以前に死亡したが、2021年に労災保険で承認された事例も多く含まれている。結局、今回発表した統計は、2021年に発生した労災死亡事故の現状とは認めがたい。
問題はこれだけではない。今回の労働部の統計には、教師・公務員・軍人は含まれていない。労災事故死亡統計を構築した目的は、業務に起因する事故死亡の実態を正確に把握することである。ところが、教師・公務員・軍人が除外された統計によって、果たして労災事故死亡統計だと命名できるのか、極めて疑問だ。
労災統計に関しては、かつてこの紙面で強調した主張を繰り返さなければならないようだ。限られた予算と人員で、効果的な労災予防政策を樹立し執行するためには、労災の実態を正確に把握しなければならない。自分が足を踏み入れて立っている場所がどこなのかも分からない人が、どうして道を正しく見付けられるだろうか。正確な労災統計は、効果的な労災予防政策のための必須の条件だ。正確な労災統計のための制度改善が急がれる。
厳正な重大災害の捜査と果敢な支援が必要
昨年、労災事故の死亡者が小幅ながら減少したが、目標だった労災事故の死亡者を半分に減らすことには失敗した。
毎年発表される労災事故死亡の特性はほとんど変わっていない。小規模事業場、不安定な労働形態、高齢者、移住労働者など、劣悪な環境で働く脆弱階層の労働者が最も多く職場で死亡した。
変化のない最も核心的な理由は、政府がいつものように安逸に労災予防政策を樹立して進めているためだ。産業安全保健法が全面改正され、重大災害処罰法が制定されたのに、労働現場では安全保健が定着できていない。
特に、労災死亡事故の81%を占める50人未満の事業場は、重大災害処罰法が24年まで適用猶予されたのに、小規模事業場に対する政府の支援はほとんどない。小規模事業場の労災予防を支援する予算拡大と画期的な政策が必要だ。また、適用除外とされた5人未満の事業場も、重大災害処罰法の適用対象となるように、法律を改正しなければならない。
大統領選挙が終わるやいなや、財界は重大災害処罰法を後退させるための建議書を新政府に提出すると言っている。重大災害処罰法は、重大災害という結果の発生と、経営責任者の安全保健確保義務遵守の間に因果関係がある時にだけ処罰する法律だ。産業安全保健法よりも強化された処罰条件を前提にしているが、これすら後退させるということは、重大災害処罰法を死文化させるということだ。
次期政府が労災予防のためにすべきことは、財界に合わせて重大災害処罰法を死文化させることではない。今まで労・使・政が合意してきた労災予防予算を果敢に拡大し、重大災害が発生した企業に対する厳正な捜査によって、実質的な労災の予防と減少を実現させることだ。
小規模事業場の安全保健管理体系の構築に集中する
労災保険の承認を基準に、2021年の労災事故死亡者は828人、事故死亡万人率は0.43を記録した。事故による死亡者は前年より54人減少し、万人率は0.03%低下した。1999年に労災事故死亡の統計を取り始めて以来、最も低い水準だ。職場の安全は改善されたが、労災事故死亡の半減という目標達成には遠く及ばなかった。政府としては、国民に、何よりも死亡した労働者と遺族に申し訳ないと思う。
昨年の死亡事故の現況を見ると、建設業・製造業での死亡事故が比較的減少したが、サービス業、特に運輸倉庫物流関連の分野で死亡者が増加したことが判る。コロナ19の状況によって、オンライン流通、宅配物流の需要が急増し、同時に従事者のリスクも増加したと言える。また、基本的な安全規則を遵守すれば大半が予防できる、落下、挟まれ事故の削減は不十分だった。高齢者、外国人労働者の死亡も増え続けている。それらの職場の大半が、危険な建設現場と中小メーカーだ。
昨年の労災事故死亡の減少は重大災害処罰法制定の影響圏にある。重大災害処罰法が制定され、韓国社会の安全意識も大きく高まった。特に、現場の労使の安全認識は変わりつつある。働く人たちの安全と健康が保障される体系が基本にならなければならない。安全保健管理システムが構築されるように、政府は様々なガイドラインと独自の点検マニュアルを作成・配布し、現場支援団によるコンサルティングなどを支援した。また下半期には全国の2万6千ヶ所余りの現場を一斉点検し、基本的な安全規則が定着するように措置した。安全投資革新事業によって、中小の現場における危険な器具・機械、工程を改善するための財政支援も大幅に拡大した。2021年7月に労働部内に産業安全保健本部が発足し、政府の監督・捜査と支援体系の基盤もさらに強固になった。
しかし、最近までの重大災害事件を見ると、多くの企業の安全保健管理システムの構築は遅れているようだ。同時に、建設・製造業の現場では、依然として基本的な安全措置や健康のための保健措置が不十分なケースが多く、現場の労働者の認識変化ももっと必要である。政府は業種別に、小規模事業場の安全保健管理改善のための技術財政支援に更にに集中し、事業場の監督と捜査も更に体系化する予定だ。合わせて、現場に安全文化が定着するように、教育コンサルティングや戦略的な広報も強化する計画だ。
2022年3月18日 毎日労働ニュース 編集部
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