3Dプリンター由来のナノ粒子状物質で息子を亡くした父親「どうか労災を認めて」 2022年1月28日 韓国の労災・安全衛生

職業性・環境性がん患者探し119

人工知能(AI)やビッグデータ、ブロックチェーン、ロボット、3Dプリンターは、四次産業革命の代表ランナーだ。この内、実物がはっきりしている3Dプリンターは、四次産業革命の花のように見えた。コーディング教育といった四次産業革命の言語を学ぼうという動きが活発になり、学校現場の随所に3Dプリンターが続々と進入した。政府も応えた。朴槿恵政府時代の14年に、未来創造科学部が情報通信振興基金を活用して支援予算を初めて編成した。この結果、2020年現在、小・中・高校の5222カ所に3Dプリンター1万8324機が普及した。そして、3Dプリンターはトゲを現した。

超微細粒子より小さいナノ粒子、
鼻粘膜を突き破って脳まで直接浸透

「息子を救えない罪人になり、息子の涙声が聞こえるようで、明け方になると目が覚めます。」

ソ・ジョンギュンさんの声が震えた。彼は2020年7月29日に稀貴肉腫癌で27ヵ月間闘病して終にこの世を去った京畿道のある科学高校の教師、故ソ・ウルさんの父親だ。彼は27日、カン・ミンジョン議員の主催で開かれた「3Dプリンター(3Dペン)の実態と職業性癌災害認定改善策」の討論会に出席するため、国会議員会館を訪れた。

当時は知らなかった。3Dプリンターが噴き出す有害物質が、息子の体をどのように突き刺したのか分からなかった。息子は3Dプリンターに触るのが好きだった。2013年に特性化高校に在職した時から、生徒たちとサークル活動をしながら3Dプリンターを活用したソ・ウルさんは、3Dプリンターを「打ち出の小槌」と呼んだ。あっという間に目の前で物が作られるのが見えた。政府予算で作られた学校の「無限想像室」は、3Dプリンターの「打ち出の小槌」を振り回し、宝物の壺を思い通りに作り上げるところだった。

その過程で排出される有害物質は、当然、眼には見えなかった。超微細粒子、その中でも小さいというナノ粒子レベルの物質だったからだ。普及型の3Dプリンターはフィラメント素材に高熱を加えて印刷する方式だ。この時、ナノ粒子(100nm以下)と有機化合物などの有害物質が発生する。このような超微細粒子はあまりにも小さくて、鼻粘膜のような人体の機能を無力化し、脳にまで直接浸透する。世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究所が、ナノ粒子より大きな粒子状物質を1群発がん物質に分類しているほどだ。更に、このナノ粒子レベルの超微細粒子にくっ着いて人体に吸入される様々なフィラメント添加物がある。どの添加物がどれほど付着しているかは、未だ検証された研究もない。見えないトゲに刺されたソ・ウルさんは、発病率が0.01%程度の稀貴肉腫癌の診断を受けた。ソ・ウルさんは亡くなる2カ月前の2020年6月27日に、寝ていた父親の部屋に来て、「お父さん、死にたくない」と涙声で話したという。ソ・ジョンギュンさんが忘れられないその明け方だ。

資料写真/イメージトゥデイ

教育部、昨年の独自調査で114人の有症状者を確認
公務上災害の認定も、有症状者の調査もしない政府

ソ・ジョンギュンさんが息子の死と3Dプリンターの関係を知ったのはその後だ。同じ学校の教師と慶尚南道の別の科学高校の教師が同じ肉腫癌を患った。いずれも3Dプリンターで授業をしていたと判った。数回にわたるマスコミとのインタビューによる問題提起が続いた。昨年5月、教育部が5754ヶ所の学校を調査した結果、有症状者が114人いることが判った。ソ・ジョンギュンさんは昨年2月、人事革新処に公務上の災害を申請した。

現在政府は、科学技術情報通信部を中心に、教育部と中小ベンチャー企業部・環境部・雇用労働部が合同で、対策を準備している。学校や産業現場に3Dプリンターの有害性を知らせる作業をし、各種のガイドラインを発表し、再び練り直している。特に、何の根拠もなく「親環境素材」だと広報している3Dプリンター素材の改善を急いでいる。

しかし、トゲに刺された被害者の救済は遠い話だ。来月は、ソ・ウルさんが公務上の災害を申請してから一年になる。人事革新処は、「未だ、ナノ粒子が肉腫がん発病の原因だという科学的な根拠がない」として、公務上の災害を認めていない。ソ・ウルさんだけでなく、114人の追加的な有症状者の実態調査の計画もない。

ソ・ジョンギュンさんは討論会で、政府の対策作りと息子に対する公務上の災害認定を要請した。「政府は、息子と抗がん治療を受けておられる先生がた、そして授業を受けた学生を探し出して原因を究明し、安全で快適な無限想像室が運営されるように制度を改善してほしい。」「息子の死を労災と認めてくれることを切に訴える」と話した。

2022年1月28日 毎日労働ニュース イ・ジェ記者

http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=207198