中国の日系企業における白血病事件が和解:二審段階で一審判決を上回る補償額支払い/2019年5月
古谷杉郎(全国安全センター事務局長)2020/05
2019年ANROEVソウル会議は、現地でのNGOの状況の厳しさを反映して、中国本土からは予定していた全員は参加できず、また、参加者の安全にいつも以上の配慮をせざるをえないため、公けに報告できることは多くない。しかし、2018年12月号で紹介した中国の日系企業におけるベンゼンによる白血病の事例のその後の経過を報告しておきたい。
ANROEV中国ネットワークのメンバーから2018年5月に支援要請があったもので、被害者は湖南省出身の現在38歳の女性。宮城県に日本本社のある別の日系企業の深圳工場で、電子部品の顕微鏡検査部門で働いた。2013年5月の会社定期健診で体に不調のあることがわかり、同年8月に広東省職業病防治院でベンゼンに起因する白血病と診断された。9月に深圳市人力資源社会保障局より職業病と認定され、2015年8月には深圳市労働能力鑑定委員会から3級障害と鑑定された。3級障害は労働能力完全喪失レベルで、中国の労災保険条例の規定により、毎月国の社会保険基金から約2,990元の労災補助が支払われる。しかし、治療費のうち社会保障を上回る部分の支払いと2人の子女の養育費、2人の親の扶養費、自分自身の家賃と生活費を支払うにはまったく不十分である。
会社に賠償を求めたが、弁護士に委託しているからと交渉を拒絶された。しかたなく2018年1月に労災仲裁を申し立てた。そのなかで深圳工場が倒産のため清算手続中であるが、賠償問題が未解決のため手続に支障が出ていると知った(大連工場は操業中)。裁判官は和解協議を促したものの、会社が委託した弁護士は裁判官の前で、裁判が継続する限り自分の弁護料が支払われ続けるため、調停には応じられないと公言したという。
日本の社長がこうした事情を知らないのではないか、自分の手紙を届けたいということで、早速要請に応じた。添え書きもして、電話とメールで連絡をとろうとしたが、居留守を使われた模様。
被害者は6月4日に深圳市の人民法院に約94万元の損害賠償を求める訴訟を提起した。手紙が少しは効いたのか、8月1日の審理では会社の代理人弁護士が代わり、30万元での和解を打診してきた。被害者側は早期決着を願って最低限の要求として60~70万元を提示。他方、白血病の治療費に毎月3万元前後必要なところ、これまでは会社が立て替えたうえで社会保障局から還付されてきたものが、8月は会社が立て替えをしてくれなかったという連絡があった。再び手紙を書いて、速やかな和解と立て替え払いを求めた。結果、立て替え払いは再開された。しかし、和解のほうは進展せず、9月14日に人民法院から会社に約60万元の損害賠償の支払いを命じる判決が出された。
控訴期限は2週間ということで、再々度、控訴せずに判決を受け入れるよう求める手紙を送ることにした。9月18-19日に香港で開催されたANROEV東アジア会議の参加団体に連署を求めた。AMRCとANROEV、それに中国、香港、台湾、韓国、日本の14団体の名前を連ねて届けたのだったが、結果的に会社は控訴してしまった。
深圳市の二審は労災関係の訴訟ではほとんど労働者側の訴えを聞かずに、会社側に有利な判決が出るのが常と聞かされやきもきしていたが、幸い、二審が調停で和解し84万元(約1,350万円)の補償金が得られたとの連絡が2019年5月にあった。中国の支援者によると、以前の悪徳弁護士から弁護士が代わったことが転機になったとのことで、この間の私たちの日本本社宛ての働きかけが影響していると考えているとのことだった。