ANROEV2019 ソウル会議/アジアの労働・環境被害者 「ノーモア被害者」へ連帯

目次

能動的なサバイバー文化の創造を宣言

古谷杉郎 (全国安全センター事務局長)

労災・公害被害者の権利のためのアジア・ネットワーク(ANROEV)の会議が2019年10月28-30日、韓国・ソウルのソウル国立大学湖巖(ホアム)教授会館で開催され、海外から20か国約90名に地元韓国からの参加者も加わって開催された。

全体会議 1.
オープニング

  • オープニング・セッションでは、ANROEV2019ソウル会議のメインテーマ「ノーモア被害者」が、安全衛生問題に対する被害者の考えに基づいて、被害者自身の声で語られる。
  • 安全と健康は技術よりも価値のあるものとして発表されるだろう。
  • 「被害者のための」「被害者による」各セッション、「被害者と家族」の違いが強調されるだろう。

歓迎挨拶:ペク・トミョン(白道明)(ソウル国立大学教授、環境保健アジア市民センター)

会議では、私たちの社会政治的・経済的構造に埋め込まれ、持続・反復されてきた構造化されたリスクとかかる構造化されたリスクを克服する「サバイバー(生存者)」というコンセプトを検証したい。労働において事故、疾病や傷害を経験して、その疾病、社会的偏見や悪習に対抗して立ち上がった人々がいる。こうした「サバイバー」、「オーバーカマー(克服者)」あるいは「エンパワーされた活動家」は、構造化され埋め込まれた安全衛生リスクにおける変化の可能性を私たちに示してきた。私たちは、彼らの物語を聞き、彼らが家族、労働、地域社会のなかでその役割を果たすことができるように私たちが援助する方法を議論したい。

祝辞:ヨブ主教

最近バチカンはアマゾン地域を保護するためのキャンペーンを展開している。フランシスコ教皇は地球を保護する私たちの共通の責任を強調している。私は、カトリック教会の立場からみた本会議の課題・問題に光をあててみたい。私たちの労働を通して地球を保護することは神の意志である。労働は私たちの個人的成果と社会的発展にとって基本である。雇用の安定が最優先事項とみなされる社会を創造することは私たちの義務である。私たちの時代の真の進歩のためには、経済的及び技術的発展だけでは不十分である。もっとも価値のある資源は人間であり、それが経済的及び社会的諸活動の中心及び目的であるし、あらなければならない。それゆえすべての命、とりわけ障害のある者や環境被害の被害者が、ユニークで独立した存在として尊敬されなければならない。ジョセフ・カーディン枢機卿は「すべての若い労働者は世界の黄金すべてよりも価値がある」と言っている。

祝辞:キム・ミョンファン民主労総(KCTU)委員長

私たちは労働における生命の損失をなくすという共通の目標をもっているが、韓国の全般的状況は非常に残念なものである。約370人もの労働者が過重労働によって亡くなっているのに、政府は弾力的な労働時間制度を推し進めている。セウォル号沈没事故、加湿器殺菌剤事件、サムスン工場の職業病やラドン事件での多くの無辜の死の後でさえ、韓国はOECD諸国中最大の労災被害者数を示している。同時に、韓国の約150万移住労働者は低賃金、長時間労働、劣悪な労働条件や転職の自由がない状況に直面している。世界中の労働者が団結して、このような悪習に立ち向かう努力に加わらなければならない。

開会挨拶:キム・ミスク(韓国:キム・ヨンギュン財団)

私の息子キム・ヨンギュンは、発電所の子会社で働いていた。彼の死後、私は会社から、ユンギュンは作業手順を守らなかったから死んだと聞いた。しかし本当は、会社が彼を適切な安全教育も必要な保護具もなしに危険な職場に押し込んで、作業手順をすべて守ったにもかかわらず亡くなったのだった。多くの活動家からの支援を受けて、私は政府と発電所を相手に闘い、合意書への署名をかちとった。数日前に、より安全な職場をつくり、社会的不正義と闘うために、キム・ヨンギュン財団が設立された。

開会挨拶:チョ・スンミ(韓国:加湿器殺菌剤被害者団体)

この技術進歩の時代に、加湿器殺菌剤を含めあふれかえる日常品が私たちの誰かに多大な危害を加えてきた。私は2008年から2010年に加湿器殺菌剤を使用して被害者になり、約10年間深刻な症状に苦しんでいる。政府と加湿器殺菌剤会社は問題を解決することを第一に考えず、多くの被害者が死んでいっているのに、患者である被害者は名乗り出ることができなかった。加湿器殺菌剤は韓国で1994年から2011年まで幅広く、とりわけ赤ん坊や病人のために使用された。それは様々な種類の致死的疾病を引き起こした。これまでに報告された被害者の数は6,578人で、約1,450人が死亡事例。しかし、加湿器殺菌剤被害者として認められたのは約670人だけである。販売された加湿器殺菌剤の量を考えれば、報告された数は氷山の一角にすぎない。私は香港その他の国を訪れて、加湿器殺菌剤や他の化学製品の危険性を知らせるデモンストレーションを行ってきた。私たち全員がもっと注意を払って、互いに助け合うべきだ。

開会挨拶:坂本しのぶ(日本:水俣)

私は母の子宮のなかで水銀に汚染され、水俣病をかかえて生まれた。母は水俣病の加害者であるチッソを相手に裁判を提起した。私は国際社会に水俣病について伝えるために1972年に国連人間環境会議に参加した。私たちは枯れ葉剤(オレンジ・エージェント)被害者を支援するためにベトナムも訪問した。水俣病は治らない。水俣病は終わったという者もいるが、終わってはいない。被害者の健康状態は日ごとに悪化している。何人かは亡くなってしまった。私の母は94歳のときに裁判所で証人として証言をしている。いつも被害者は決して心を失ってはだめだと言っていた。彼女は今年10月13日に亡くなった。まさに母が言ったように、被害者は心を失ってはならない。皆さんが母のメッセージを心に刻んでくれることを希望します。

全体会議 2.
ネットワーキングのための各国報告

  • 各自の関心に基づいたネットワーキング
  • 事前に送ってもらった以下の三点に関する活動の簡単な紹介
    ① 簡単な背景情報
    ② 自らの経験に基づいた、もっとも困難かつ基本的な問題と考えられる安全衛生状況の変化に関して
    ③ 各自の活動がいかに最終的な変化に貢献できるかに関する見方

参加者の簡単な紹介

チョードリー・レポン(ANROEVコーディネーター/バングラデシュOSHEF)

今年ANROEVは設立20周年を迎える。20年間にこのネットワークは、数多くのグループの積極的な参加を通じて、被害者の権利及び社会の安全衛生の改善に貢献してきた。前回の第16回ANROEV会議は2017年にネパールで18か国120名が参加して行われた。この会議の後様々な取り組みが行われてきた。活動家のための医学・法律トレーニング(南アジア)、医師のためのトレーニング(東南アジア)、過重労働・ストレス・自殺問題での東アジア・キャンペーン、南アジアと中国での様々な職業病に関するメディカル・キャンプ(現場健診)、労働安全衛生法の制定(東南アジア)、診断基準に関する比較研究(中国)、化学物質と鉛・ベンゼンの影響に関する研究(東アジア)等である。(2017~2019年の)ANROEV事務局がかかわった他の主要な取り組みには、ニューズレター(OSH Right #41~44)、メーリングリストによる情報共有や積極的なソーシャルメディアの活用、4月28日キャンペーンの促進がある。ネパールの後、スリランカ・ニゴンボでの南アジアOSH会議、フィリピンでの東南アジア戦略会議、香港での東アジアOSH会議と、3つのサブリージョナル会議も開かれた。
今回、19か国から報告を受け取った。

  • バングラデシュ(労働安全衛生環境財団(OSHEF)):職場における労働安全衛生関係法令の執行の不十分さ、弱い労働監督、労働災害・職業病の増加、関連する文化の不適切な文化について報告
  • カンボジア(建設林業労連(BWTUC)/ソリダリティ・センター(SC)):補償制度の諸問題と不十分な医療サービス。国レベルで主要なOSH課題を改善するための努力がなされている。
  • 香港(工業傷亡権益会(ARIAV)):労働災害が増加。過労死や安全の問題が継続的課題。
  • 中国(中国労働者支援ネットワーク(CLSN)):企業の安全衛生の監視が不十分、労働災害の2.7%しか報告されず。不十分な法令と貧弱な執行率、社会の認識の欠如。
  • インドネシア(FSPMI[労働組合]/LION[安全衛生団体]/LIPS[労働者教育団体]):OHS被害者の掘り起こしと支援における困難。
  • 日本(全国労働安全衛生センター連絡会議(JOSHRC)):労働災害防止5か年計画の更新と労働時間規制の見直し。ハラスメント防止法制化もILO条約と比較して不十分。
  • マレーシア(安全衛生助言センター(HASAC)):過去2年間に化学物質分類に関する企業実施基準の制定及び騒音対策規制の強化。しかし、使用者中心の労働環境が建設現場の安全問題を浸食。
  • ネパール(GEFONT[労働組合]):最近、労働安全衛生法草案が国会に提出。認識、実施、監督及び効果的なコーディネーションの不足。
  • スリランカ(レッドフラッグ・ユニオン):労働者のOSHが優先事項とされていない。
  • 台湾(工作傷害受害人協会(TAVOI)):労働災害発生件数改善するも、欧米日本と比較して不十分。予防対策や医学的進歩がさらに必要。
  • タイ(労働環境関連患者ネットワーク(WEPT)):法令執行における諸問題、司法における正義の欠如、不十分な補償制度。労働者は16項目の要求を政府に提出した。

各国報告① インド

ラナ・セングプタ(鉱山労働者保護キャンペーン(MLPC))

2009年に実施された調査によれば、鉱山労働者のうち珪肺について知っているのは49%だけ。かかる悲劇を防ぎ、彼らに適切な補償を提供するためにインド全国人権委員会(NHRC)が2010年に、鉱山被害者の22家族の調査を2年間実施した。しかし、「誰が責任をとるべきか」は依然課題である。2013年に[ラジャスターン州]政府が初めてじん肺患者に対する補償を承認した。2014-15年の調査の後、同政府は、職業病として認定されたじん肺に約200万ルピーの補償の基準を策定。同調査では、じん肺患者の診断を促進するために9回の医師講習が行われた。2019年に同政府は被害者を支援し、そのリハビリテーションを支援するための最初の幅広い計画を作成した。しかし、正確なデータやよく訓練された医療専門家の欠如、政治的利害による労働組合の参加が積極的でないことなどが課題である。

各国報告② フィリピン

ナディア・デレオン(労働安全衛生開発研究所(IOHSAD)/労働者支援センター(WAC))

2017年に38人の労働者が犠牲になった悲惨なケンテックス工場火災が発生したとき、政府は初めての労働安全衛生法の制定を強いられた。この法律は、知る権利や不安全な作業を拒否する権利、個人保護器具を使用する権利などのいくつかの重要なOSH権利を規定していることから、私たちのキャンペーンを前進させる積極的な一歩である。しかし、この新しいOSH法では経済特区におけるOSH違反の監視はできない。また、OSH基準違反に対する刑事罰に関する条項を含んでいない。最高2,000米ドルの行政的罰金を課すだけである。私たちは、11月の国会でこの問題の修正をめざしている。キャンペーンのなかで2つの価値のある教訓を得た。第1に、OSH基準違反の刑事罰化のためにはより多くの労働者の参加が必要である。第2に、新しいOSH法成立にサバイバーと彼らの家族が果たした決定的な役割を認識した。OSH法のほかにも2つの重要な法律が成立した。60~105日の有給休暇を認める出産休暇拡張法と労働者メンタルヘルス計画を要求するメンタルヘルス法である。

各国報告③ 韓国

コン・ジョンオク(SHARPS:パノリム)

SHARPS/パノリムは、サムスン半導体工場で働いて白血病で亡くなったファン・ユミの事件を支援するために2007年からはじまった。彼女の父親であるファン・サンギは、ハイテク産業における職業がんの問題を提起した。私たちは他の事例を見つけ出そうとし、12か月で600件以上と驚くべき数の事例を報告した。しかし、さらにどれくらいの被害者がいるか、どれくらいがすでに亡くなって報告されていないのかはわからない。加えて、143件がSHARPSの支援を受けて、また8件が独自に、補償を受けただけである。職業病と認定されて法的補償を受けたのは、さらにそのなかの40%未満にすぎない。最初の被害者、ユミは約7年後に政府による認定を受けた。裁判に介入しようとするサムスンの度重なる企てと政府の注意不足にもかかわらず、私たちは裁判所から非常に有望な結果を達成した。第2に、いまやがんは職業病の原因のなかに含められている。第3に、事件調査で労働者の証言を無視したものであったことを見出してから、ある判決は一定の事例を職業病と認めた。労働組合や市民団体、補償を求める労働者らの声のおかげで、認定される職業がん事例の率は増加している。最近の政府の調査によれば、認定件数に大きな改善があった。ハン・ヘギョンの物語、彼女がサムスン電子で働いてどのように脳腫瘍を発症したのか、また、最高裁による7度の拒否の後に彼女の事例がどのようにして最後に職業病として認定されたのかは、大きな希望を与えてくれている。最後に、SHARPSとの交渉のなかでのサムスンの妨害についてもう少し言わせてほしい。しかし、私たちは一度も打倒も買収もされなかった。私たちは、電子労働者の健康のための特別のセンター建設への寄付の約束を含め、サムスンがその約束を実行するのを監視し続ける。

ワークショップ 3.1.
移住労働者

移住労働は、グローバリゼーションとともに世界のどの場所においても着実に着実に拡大している。アジアでは、アジア諸国から他のアジア諸国への労働者の移住が、移住の主要な特徴である。移住労働者が相対的に高い安全衛生リスクに直面していることを除いて、私たちは彼らが様々な諸国で直面している具体的な問題をわかっていない。しかし、韓国における移住労働者問題の憂慮すべき事実のひとつは、特定の労働者グループでは労働死者の3分の1が自殺によるものだということである。また、移住労働者が行使できる管理の程度によって、安全衛生の結果は違ってくる可能性がある。
ここで、移住労働者の安全衛生リスクの基本的メカニズムは再び、受け入れ国によって強いられる条件による「労働の管理」である。しかし、移住労働者による労働の管理は、様々な理由により、ほとんどすべての国で大部分の労働組合によって無視されてきた。また、移住労働者自身はもちろん、送り出し国の労働者と受け入れ国の労働者の相互作用や相乗作用が、労働者自身による労働の管理について追求または熟考されたこともない。
このプログラムは、移住労働者の安全衛生状況と安全衛生リスクの根底にあるメカニズムをレビューするとともに、移住労働につく者やまた賃労働につく者一般についてのいくつかの管理の戦略を見つけ出す。

韓国における移住労働者と安全衛生問題の経緯

イ・ジュヨン(韓国:ソウル国立大学、源進労働環境保健研究所)

リクルートの仕組みと安全衛生状態を中心に、韓国における移住労働者問題のいくつかの特徴についてふれてみたい。韓国政府は移住労働者の数を厳しく管理してきた。結果的にその数は時が経ってもあまり変わっていないが、現実の移住労働者数は増加してきた。2019年7月までに移住労働者の数は百万を超えている。韓国におけるリクルートの仕組みについては、移住労働者は雇用許可や労働許可、民間雇用エージェンシーを通じて、あるいは季節労働者として韓国にやってくる。4年と10か月が最長滞在期間で、永住は技術的に不可能である。移住労働者が直面する2つの重大な問題がある。最初の問題は移住費用である。移住労働者は語学試験や雇用訓練、健康診断等を受けるために多額の費用を支払わなければならず、その額は2018年には970米ドルに達している。次の問題は、職場を変えることを禁止されていることである。居住・食事環境の悪さ、家族帯同の禁止、人種差別を含めた暴力など、移住労働者が直面する他の問題に加えて、職場の変更の禁止が死亡や労働災害の率を劇的に増加させている。1982~2017年の統計によれば、労働災害・職業病の数は、職場を変更する権利をもたない移住労働者において群を抜いて高くなっている。

移住労働者の安全衛生問題と韓国移住労働者組合(MTU)の政策要求

ウダヤ・レイ(韓国:移住労働者組合(MTU)議長)

韓国における移住労働者の労働災害は増えているものの、報告される数は現実よりも著しく少ない。移住労働者の保険加入は全体的に低く、現状で男性の69%、女性の47%にすぎない。とりわけ中小企業で加入率が低い。結果的に多くが適切に処理及び補償されていない。統計によれば、どのように申請すればよいか知らないために労働者の65.5%が労災保険に申請していない。労働災害の原因には安全上の脅威があり、労働安全教育や安全機器の支給が不十分な中小企業が含まれる。職場変更の禁止がすでに困難な状況をさらに悪化させている。ネパール人労働者のケシャブ・シュレスタは職場変更の制限のゆえに自殺した。別のネパール人労働者スラジュはトラクター事故のなかで自らを傷つけた。雇用者は彼が拒んだにもかかわらず運転を無理強いした。彼は事故後に障害をかかえることになったが、雇用者は保険に入っていないからと責任をとることを拒否した。ミャンマーからやってきたツエ・リンマウンは雨水ポンプ場における事故で死亡し、ネパールからきたビマラBKは労働災害に遭ったのに雇用者はそれを労災と認めなかった。後に彼女は労災認定され補償の一部を受け取った。労働災害予防教育や職場安全訓練、老朽施設・器具の改善、移動の自由の保障、従業員5人未満の事業所向けの強制保険などの状況を改善するための措置がとられなければならない。

労働者の証言とネパール人移住労働者のショートフィルム紹介

(韓国:労働と健康)

私は2017年に機械を変更しているときに労働災害に遭った。ボスはすぐに救急車を呼んで、私は病院に運ばれた。40日間入院した後で別の医師が診断した。ある医師は腕を切断しなければならないと言い、別の医師は切断せずに治療できると言った。別の病院に移されて6か月間治療を受けた。現在、腕は動くものの指は動かない。雇用ビザが切れてしまったため2年間の医療ビザで韓国に滞在しているが間もなく切れてしまう。新たなビザを申請するために必要な文書を準備するのに大変な思いをしなければならない。被災移住労働者がイライラさせられるのは、ビザと適切な治療を受けるには出入国管理、労災保険、医療機関の3者が同意しなければならないという事実である。これは大きなジレンマである。この状況が韓国政府に報告されることを希望している。

マレーシアにおける差別的な職場慣行

ジャヤバラン・タンビャッパ(マレーシア:安全衛生助言センター(HASAC))

労働安全衛生のために働いてきた医師として、マレーシアにおける差別的な職場慣行と劣悪な労働条件について話したい。マレーシアには-合法または違法な労働力のどちらかの-670万の移住労働者がいる。最近のあるテレビ・ニュースは、マレーシアとバングラデシュの移住労働者は現代の奴隷のように扱われていると指摘した。ほとんどの場合、彼らは、職場を離れたらただちに不法とみなされるために、自由に移動する権利をもっていない。国籍を問わない保険適用の恩恵を受けられる政府の病院に行こうと思っても、登録されていないために行くことができない。雇用者はパスポートその他の書類を取り上げて労働者が逃げ出さないようにしている。病院が移住労働者に高額の医療費を請求するために彼らは適切な治療を受けることができない。子供たちに治療の機会はなく、妊娠した労働者は母国人のコミュニティから追い出される。彼らは訓練もなしに不衛生な職場で働いている。マレーシアにやってくる前に、自費で高額な健康診断を受けなければならない。彼らはまた劣悪な住居のために高い家賃も払う。より重要なことは、移住労働者が保護機器なしに危険な化学物質を取り扱うリスクの高い仕事に追いやられていることである。受傷または死亡したり、自殺する者もいる。

討論

ディン・ハアン(ベトナム:移住労働者のための行動ネットワーク)

農村や工業地域で移住労働者の支援をしている、ベトナムの非政府組織であるM[移住労働者]ネットで15年間働いている。多数の法律違反の事例があり、労働者は賃金が低く、結社の自由をもたず、安全機器なしに働いている。そのために2017年には8,956件の労働災害が報告され、890人の労働者が亡くなっている。この数は自主的報告に基づいているため、実際の数を解明することはできない。とりわけ、労働訓練がないために若い労働者がより労働災害に巻き込まれている。政府は毎年ひとつの業種を選んで移住労働者の状況を監督しているが、結果が公表されたことはない。そのため、移住労働者にインタビューすることが彼らの暮らしを調べるための唯一の方法だろう。私たちは2年間労働者に会ってインタビューを行い、約400件の暴力の事例を確認した。ベトナムは韓国、日本、サウジアラビアなどに大勢の労働者を送り出している。相互に支援し合えることを期待している。

ワークショップ 3.2.
大気汚染と市民の健康

大気汚染による若いモンゴル人の健康問題

クラン・ツェレンクハンド(モンゴル)

ウランバートルで最大の大気汚染源はストーブで(60%)、自動車(20%)、暖房ボイラー(10%)、発電所(10%)がそれに続く。PM2.5とMNSについてウランバートルとWHO基準を比較すると、ウランバートルではどちらもWHO基準を超えている。大気汚染はウランバートルの子どもたちが直面しているもっとも重大な環境リスクである。ウランバートルの大気汚染は子供たちに深刻な健康リスクを引き起こす一方で、早産、低出生体重、認知機能子宮内発達障害、認知発達障害や自然流産さえも引き起こしている。排出を抑制するとともに、伝統的なストーブを低煙型のものに代えたり、2016年にはゲル地区の家庭に夜間割引電気料金を提供するなど、人々に電気ストーブの利用を促進する努力がなされてきた。子供たちがきれいな空気のなかで遊べるようにできるいいアイデアを心から希望している。

インドにおける大気汚染と市民の健康

モヒット・グプタ(インド:エンビロニクス・トラスト)

参加型調査研究、地域社会に根差した活動、企業開発やコミュニケーション訓練などに取り組んでいる。活動領域には、労働安全衛生、石炭などの化石燃料、ヒマラヤの気候危機コミュニティとの協力、起業家精神の育成やジェンダー問題が含まれる。インドでは1981年に大気法が成立したものの、執行はいまなお弱い。2016年の環境パフォーマンス指数はインドを180か国中の141位にランクしている。カーンプル、ガヤ、バラナシーがとりわけ汚染された地域である。今年インドは2024年までにPM2.5とPM10の20~30%削減を目標にした国家空気清浄化計画を開始した。この計画はインドの102の都市で展開される予定である。大気汚染の主要な原因は産業用車両排出、バイオマス作物残渣燃焼と建設作業である。呼吸器疾患をかかえる患者の数は増加しており、約6.500万人が慢性閉塞性肺疾患(COPD)に罹患している。毎年300万人がこの病気によって死んでいる。気候変動の影響をもっとも受けやすいのは老人、子供、妊娠中の女性、屋外作業労働者やアスリートである。2019年7月はかつてない暑さで、インドの人口の65.12%が摂氏40度以上にさらされた。グリーンピースの報告書は、NASA OMI(オゾン監視装置)によって検出された人為的二酸化硫黄(SO2)ホットスポット全体の15%がインドにあり、インドを最大のSO2放出国にランクした。大気汚染を悪化させている要因にはNIMBY(我が家の裏には御免)シンドローム、巨大都市の汚染問題への関心の集中とそれ以外の都市/小工業都市の監視ステーション不足や機能していない監視ステーションなどがある。私たちはいくつかの高度工業化地域で汚染レベルを評価するために複数の場所に大気汚染モニターを設置してきた。大方の注意は首都地域に偏って向けられているものの、アサンソールやサンバルプルのような都市のほうがデリーよりも汚染されていることがわかった。以上を踏まえて、これら地域の地域社会が汚染レベルについて一層知らされ、注意が払われるべきである。次のステップは監視努力の強化と大気汚染の組成を究明する試料分析である。

香港と中国における大気汚染問題

ニナ・ラウ(香港:アジア・モニター・リソースセンターAMRC)

推計平均PM2.5濃度レベルでソートすると中国は12位(41.2µg/m3)で香港は40位(20.2µg/m3)である。もっとも汚染されている12都市は中国にあるものの、中国本土の大気汚染は採炭を含め重工業が所在する地域に集中している。大気汚染の悪化に対処するため中国はきれいな空気に関する国家政策を実施し、李首相は2013年に大気汚染との戦争を開始した。2018年に国務院は「青空戦争に勝利」するための3か年計画を発表した。しかし、方針は国レベルであるものの、地方/地域レベルでの実施の有効性には疑問が残る。有効な法執行にはリアルタイムの監視、特別の対策、地方政府のパフォーマンスについての環境監督、共同執行や執行方針が必要である。Airpocalypseと名付けられた北京の写真はメディアの関心を集めた一方で、中国政府は「代替、抑制そしてチェック」のスローガンで天然ガスと電気の利用を促進している。しかし、この政策はしかるべき批判も招いている。政府が代替よりも解体を選択したことから、住民はなんの代替もなしに石炭燃焼暖房を失い、凍てつく天気に苦しまざるを得ないでいる。香港の場合、高いレベルのPM2.5とPM10及び二酸化窒素に苦しんでいる。しかし、政府の無対応が調整機関の欠如とともに問題の解決を困難にしている。別の問題は屋内大気汚染である。それは最近の運動による催涙ガスに起因するもので、屋外大気汚染と同様に深刻で、公衆と環境に致命的なリスクを生じさせている。

韓国における微小粒子状物質の特徴と健康被害

ハン・ヘリュン(韓国:ダストアウト(Dustout))

ダストアウトは普通の市民によってつくられた市民団体である。ダストアウトのオンライン・カフェの10万人の会員の70~80%が家族に微小粒子状物質問題によって引き起こされた皮膚の症状に苦しむ者がいる。ダストアウトの会員はWHO基準を満たす厳しい大気環境基準を求めて韓国政府に対してデモンストレーションを行っている。ダストアウトの4年間の努力の結果、国の大気環境基準はついにWHO勧告のレベルに改善され、粒子状物質問題レベルの30%低減は文在寅大統領のキャンペーン公約のトップになった。市民が声を上げることが問題に対処する推進力になったと信じている。

韓国における微小粉じんと健康問題に関する市民の見方

ヨン・ジヒョン(韓国:韓国環境運動連合、微小粒子状物質センター)

世界中で大気汚染は毎年700万の人々を殺しており、そのうち400万がアジアである。韓国だけで大気汚染は17,000人の命を奪っている。微小粉じんは韓国人の最大の公衆衛生問題であり、その多くが中国を韓国の大気汚染の背後にいる主要な犯人として指摘している。韓国のPMレベルは着実な増加を記録した後に最近増加がとまった。2.5年間平均濃度レベルは2016年までWHO勧告値よりも高かった。中国と韓国は大気汚染レベルについて同じ上昇/下降傾向をもっているように思われる。しかし、中国は、キャンペーンや前ニュース・アンカーによる映画「アンダー・ザ・ドーム」などのドキュメンタリー映画によって大気汚染の減少にいくらかの進歩を示してきた。政府に対する裁判では、東京の市民が大気汚染による損害を主張するとともに汚染物質放出の禁止を求めてて裁判を提起した。最近、韓国の市民団体が大気汚染について韓国政府と中国に対する裁判を提起した。最初の答弁期日は2018年10月12日だった(中国には送達されず、大韓民国に対して提起された)。韓国政府の姿勢は、政府は問題に対処する様々な措置をとってきたのだから責任を負わされるべきものにはならないというものである。しかし、原告は、政府は基準を満たすのを怠ってきたのだから責任を負うべきであると主張している。フランスやオランダなどで政府を相手取った大気汚染関連訴訟が成功していることから、韓国でも同様の結果がみられる可能性はある。

ワークショップ 3.3./4.3.
若いインターン労働者

今日のテイラー主義労働システムのなかでは、労働の時間と質を管理できるようにするために、生産ラインのすべての動作がミリ秒単位でチェック・測定されている。このシステムでは、若くて健康的な実習生のような、最強のものだけが生き残ることができる。このため、若い労働者は、学校に通いながら、大変な労働への十分な訓練や社会的支援なしに、身体能力の絶頂期に、巨大名門企業に現場実習生としてリクルートされている。
このセッションで私たちは、巨大電子企業におけるインターン(見習い/実習生)労働の状況を検証するとともに、メイン社会へのインターン労働者の入場を安全にするための対策を見つけ出したい。

韓国の職業高等学校の状態と問題点

イ・スッキョン(韓国:労働安全保健研究所)

韓国における若い労働者の特徴:若い労働者は若者全体の約1%を占め、彼らが働く理由は主として生計と関連している。彼らの人権は文書化されない労働契約、不払い賃金や最低賃金違反などによって侵害されている。彼らはそれでもなお何の抵抗せず(35.3%)あるいは辞めもせず(26.4%)に働いた。2011~2017年の間に毎年約1人の職業高等学校生が殺されている。彼らはたいてい卒業する前に雇用に就いて、労働法違反や危険な労働条件の認識も予防措置もない状況を体験している。政府も学校もこの不正義にあまり注意を払っていない。私たちの活動には若者の労働者の権利教育、追悼行事、改善に向けた制度議論や被害者家族の集まりなどが含まれる。私たちは各国における若い(インターン)労働者の強制労働を監視するとともに、ILOに若い労働者のための国の基準を設定させ、また、根絶のためのキャンペーンを共有し合うことを提案する。

中国の電子製造部門における低賃金労働力-学生インターンとしての「学生」

ピル・ユチェン(香港:多国籍企業の労働実態を監視する学生と学者の会(SACOM))

私たちは製造工場、とりわけ中国のアップルやユニクロなど多国籍企業を監視してきた。2005年に中国の賃金は上昇し、企業は低賃金のインターン労働者を雇いはじめた。フォックスコン[Foxconn-鴻海科技集団]は、同社の若い労働者が自殺した後に賃金を上げたが、より安い賃金を探し求めて内陸部に移動した。内陸部では地方政府がビジネスの移転を支援し、安い賃金で学生を提供した。工場では職業訓練校も委託運営された。2007年以来さまざまな団体がこうした若い労働者の労働条件を改善するための努力をしてきた。2016年に雇用者責任の強化、時間外・強制労働の禁止やインターン雇用を10%未満にすることなどの法改正がなされた。私たちの活動には労働者の権利教育、SNSを通じた情報と相談、報告書の発行、デモンストレーションやオーストラリア・パリでの様々な連帯活動が含まれる。私たちは、製造業とサービス産業の双方の非製造労働者や非正規労働者の学生インターンの人権を守ることも重要だと言いたい。

ベトナムの工業団地の若い女性労働者:潜在的リスク

トラン・ホアン(ベトナム:開発におけるジェンダー・家族・環境研究所(CGFED))

韓国を含め129か国がベトナムに積極的に直接投資してきた。女性労働者が多数派であり、その大部分は電子・紡織部門の15~24歳の労働者である。多くの女性労働者が週11時間、月100時間以上残業している。休憩時間であっても休める場所がない。それが当たり前であるために、彼らは流産にあまり関心を払っていない。多くの場合に企業は罰金が保険費用よりも安いことから、社会保険を提供していない。またベトナムでは、多くのセクシャルハラスメントや言葉による虐待がある。

パネルプレゼンテーション①若い労働者のメンタルヘルス

カン・ソッキュン(韓国:現場実習被害者協会)

CJジンチョン鎮川工場で職場ハラスメントによって亡くなったキム・ドンジョンの母の事例報告(2014年1月)があった。彼女は、自殺などのメンタルヘルスはクラッシュなどの事故として非常に重要であると指摘した。

パネルプレゼンテーション②労働組合の重要性

ハン・ヘギョン(韓国:パノリム(SHARPS))

彼女はサムスンに1995年から2001年まで6年間働き、2005年に脳腫瘍と診断された。また、脳腫瘍の後遺症としていくつかの障害を負っている。サムスンで働いていたときは交替労働者で、熱い機械から何かの臭いがするのを嗅ぎながらはんだ付け作業を行ったのだったが、SHARPSとともに10年間闘った後にようやく労災保険給付を受け取った。彼女は、企業に労働組合があることが重要であり、労働者の安全は企業の利益より優先されなければならず、また、労働環境によって病気や障害を負う者があってはならないと指摘した。

ワークショップ 4.1.
リスクの外注化と移転

このグローバル化された経済のなかで、最も安い源への労働の分業化と外注化はグローバル・スタンダードになってきた。しかし、労働の分業化と外注化の多重のステップのなかで、労働に内在するリスクも、最初の元々の使用者から、次に二次または三次以下の下請け業者に移転される。これは、ひとつの大きな施設のなかで様々な管理次元の多数の業者が混在する状況を生み出している。韓国は死亡労災がもっとも多い国のひとつであり、最近ではこうした死亡の大部分が、下請け、移住及び臨時労働者において発生している。
この「労働の外注化」による「リスクの移転」の問題は、典型的にはフォーマルセクターからインフォーマルセクターへという、ひとつの国のなかだけではなく、さまざまな国を越えても起きている。「インフォーマル」セクターの安全衛生問題の根底にあるメカニズムは、「フォーマルセクターにおける下請労働者へのリスクの移転」の問題と共通している。リスクの移転の問題はまた、様々な諸国を越えた労働の分業化でも同じである。これらすべての諸国間、諸部門間、または企業間の移転の場合において、企業または国の境界内及び境界を越えた「リスクの移転」と「労働の外注化」の問題は同じメカニズムを共有しており、それは経営者のフィードバックからのリスク責任の切り離しである。
この移転に対する解決策には、リスクと経営者責任の間のフィードバック・システムの復元が含まれる。韓国でいま追求・検討されている代替策は、①少なくとも政府や公共団体によって所有される企業での、一定のリスクの高い労働の下請化の禁止や、下請化が禁止されるリスクの高い労働のリストの拡大から、②下請け業者や外注化の境界を越えた経営者の安全衛生リスクに対する責任の拡大や、委託化や下請化のフィードバックの体系的な統合までの範囲に及ぶ。他の解決策もあるかもしれず、韓国はいま積極的に答えをみつけ出そうとしている。
このプログラムは、自国及び世界的にこの問題に取り組む方法を扱おうするものである。ひとつは、外注化労働における真の変化がないままなぜ同じ災害が繰り返されるのかのメカニズムについての研究に関する者、もうひとつは、外注労働における阻害された労働者の問題についての労働組合の闘いに関するものの、ふたつの報告が準備されている。

外注化された労働における隠れたリスク:発電所下請労働者のリスクと彼らの闘い

チョン・ジュヒ(韓国:韓国労働安全保健研究所&特別調査委員会メンバー)

2018年12月にある発電所の下請労働者キム・ヨンギュンがコンベアベルト事故で亡くなった。彼の死は外注化(アウトソーシング)の危険性について社会関心を高めた。過去70年間にグローバル・アウトソーシングは急速に世界中に広がり、アジアを「世界の専門下請け工場」に変えた。国際労働組合総連合(ITUC)によれば、世界の上位50社によって必要とされる労働力人口の94%がインフォーマル及びイレギュラー(非正規)労働者によるものである。元請け業者と下請け業者の間の複雑なチェーンを維持するために、国レベルの法律やときには政策や軍隊の暴力が介入し、労働者を法的保護の外にある見えない労働力にしている。このプロセスのなかで韓国政府と民間企業は、超国家的資本によるグローバル・チェーンに積極的に参加してきた。韓国の労働者は急速に間接雇用に変わり、グローバル・サプライチェーンのアウトソーシングの国内版を形成しつつある。同時に、雇用不安と低賃金が現象となり、職場における労働者のリスクが急激に高まってきた。故キム・ヨンギュンの事例から私たちが学んだように、労働災害は下請労働者に集中した。キムの死の後、「危険の外注化」というコンセプトが広く認められるようになった。彼の同僚下請労働者、労働組合、市民団体や専門家が特別委員会を形成して、労働安全監督の結果を提出した。しかし、元請けも下請けも責任をとらないことから、この努力は有効であったとはいえない。キムの同僚労働者も継続して火力発電所施設のリスクに対処しているが、彼らの声は無視された。これまで雇用者は事故の原因を被害者のせいにして、労働者が安全規則に従わなかったと非難している。しかし、危険のエッセンスは元請けと下請けの間の構造及び労働者の声の無視からきている。韓国におけるリスクの外注化に対する闘いは困難なものである。それを予防するためには、サプライチェーンのトップの資本に直接責任を求め、リスクの外注化の制度化された慣行をやめるよう政府に要求する必要がある。また、この努力は国際的レベルに拡張されるべきである。

ある若い非正規労働者の死

チョ・ソンエ(韓国:民主労総)

韓国では毎日労働災害によって3人の労働者が命を失っている。キム・ヨンギュンの死の後、特別委員会は現場を調査することを決定し、雇用労働省に以下のことを要求した。調査への労働組合の参加、調査前の発電所の完全停止、委員会への労働組合の参加、同僚労働者へのトラウマ治療の提供である。現場調査のなかで労働法違反の事例が確認され、事故現場の写真とビデオが撮られ、ログブックと公式発表が収集された。調査後もキャンドルライト運動や全国規模の追悼行事、記者会見、責任者の処罰と実態調査を求める全国労働者大会など、国中で多彩な抗議が続けられた。長い闘いを経て2019年3月に労働安全とキムの事故の事実調査に関する特別調査委員会が設立された。同委員会は、すべての非正規労働者の正規労働者の立場への変更と労働者の権利の促進を強調した、22の勧告を発表した。勧告では、所有者の責任の強化、中央健康サービスセンターの設立や労働安全衛生法の改正、労働災害の企業処罰に関する法律の制定、補償制度の改正を求めている。実施を監視するための監視委員会が設立されるべきである。

インフォーマルセクターにおける構造化されたリスクに対する戦略:30年の経験

ジャグディシュ・パテル(インド:民衆訓練研究センター(PTRC))

インドでは労働力の過半数である非正規労働者は労働におけるリスクの増大に直面している。私たちはこの不平等な社会のなかで均等な権利と均等な機会を期待することができるだろうか?現代の民主的社会においてさえ私たちは、貧しく教育を受けていない者たちが深刻なあるいは生命を脅かす危険のもとで厳しい肉体労働に従事している現実を生きている。危険な産業は開発途上国に移転した。アスベストや電子産業も相対的に貧しい諸国に移った。産業シフトは法律がまったくないか法律の効果の少ない諸国に向かって進行している。より広い文脈のなかでは私たちは女性の差別、少数者の抑圧、移住・臨時・契約労働者の不公平な取り扱いを目撃している。こうした攻撃されやすいグループは結局ハイリスクな労働を引き受け、労働によってケガをしたり、亡くなる者もいる。私たちの社会と環境を変えるには、患者とともに挑戦し続けなければならない。変化は努力なしには来ない。ネットワークを活用し、地域社会を組織し、世論を創り出し、他の者たちと協力する必要がある。私たちはインドや他の国で変化が来るのを目撃してきた。金銭は重要な役割を果たし得る。被害者に対する補償は使用者がより安全な職場の創造に投資するのを促進するかもしれない。

討論① 韓国多国籍企業による人権侵害への対処

キム・ドンヒュン(韓国:多国籍企業ウォッチ(KTNC))

韓国多国籍企業ウォッチは国際企業による人権侵害への対処に献身してきた。韓国は二重の立場にいる。多国籍企業の本社が所在する場所であると同時に、そのような侵害が起こる場所でもある。KTNCは両方のケース、とりわけ造船業における労働災害に取り組んでいる。造船業は上位3社の造船業者のすべてが所在する韓国の主要産業のひとつである。しかし、この産業は、重大な労働災害が継続して発生しているにもかかわらず、世界の比較的小さい注意しか引いていない。例えば現代重工業では、大部分の労働者がアウトソースされたなかで、多数の労働災害が起きている。惨事を引き起こす韓国造船業の2つの特徴を指摘したい。第1に、異なるスキルの労働者が狭い場所で一緒に働いている。異なる企業に雇われて、彼らは、情報の共有や共通の作業訓練もなしに-溶接や塗装など-異なる種類の作業を行う。第2に、この産業は、特定の期間だけ集中的に作業するために約10~15の下請け業者が一時的に集まる、労働供給チームを使っている。こうした労働者は保険未加入の非正規労働力であり、過重労働や潜在的リスクに直面する。2017年にサムスンの2台の巨大クレーン車が衝突して、50人の非正規労働者の命が犠牲になり、同僚労働者に深刻なトラウマを残した。この事故はリスクの外注化と移転の危険性を警告するよい実例である。雇用者-サムスンと欧州の造船業者-は当該労働者を直接雇っていないからと責任を否定した。これは正規労働者の場合とはっきりと対照的である。この事件は現在訴訟になっている。

討論② 労働組合とNGOの協力を

ビプルクマー・パンジャ(国際建設木産労連(BWI)インド)

独立して新しい経済システムがインドに確立して以来、作業環境、産業安全、社会安全、その他の領域で様々な問題が生じてきた。労働組合とNGOは作業慣行を改善し、労働者の権利を強化するために声を上げた。先進国の企業が経済開発と投資のためにインドに押し寄せ、労働者の権利を無視し、労働力の外注化を広げている。労働組合とNGOは労働力の外注化に反対して戦うために協力しなければならない。

討論③ 労災責任を取らせる法を

ヤン・ティ(カンボジア:建設林業労連(BWTUC))

私は建設労働者として働いている。カンボジアの建設業で目撃した問題にふれたい。建設業の労働力は大幅に外注化されている。結果的に、元請け業者と下請け業者が彼らの責任を認めずに、労働災害に誰が責任をとるのか決めるのが困難である。建設作業中のビルの崩壊が多数の被害者を出したときは常に、雇用者たちが協力しないために補償の要求がほとんど拒絶される。アウトソーシングに対する関心のなさが最大の障害である。労働組合は継続的にシステムの是正・改善を要求する書簡を送っているが、返事はない。関連する労働法を成立させるまで取り組み続けなければならない。

討論④ 連帯して闘おう

ナジル・アジズ(パキスタン:全国労働組合連盟(NTUF))

これまでの報告で、資本がいかにその利益のためにアウトソーシングの慣行を使っているか、また、私たちがこの慣行をやめさせるためにいかに取り組むか学んだ。工業国は安い労働力を求めて貧しい国に押し寄せ、労働者を搾取している。国際的な協定はあるものの、労働者は自らの与えられた権利を行使することができない。組織されている労働者の数は限られている。アウトソーシングの慣行は続いている。労働組合と人権団体は強い意志をもち続け、資本に対して闘わなければならない。集中した努力を通じて、世界中の労働者がアウトソーシングと闘わなければならない。

ワークショップ 4.2.
工業団地とコミュニティヘルス

ソウルから移転した工場によって引き起こされた金浦の小さな村における健康問題

キム・ウイキュン(韓国)

この問題に関するメディアの集中的報道にもかかわらず、金浦市政府当局者は金浦の小さな村の周囲の多数の工場によって引き起こされた健康問題を無視している。村の化学物質の高い毒性レベルが国連の監督チームによって確認されても、多数の村民が主として家具工場や鋳物工場の違法廃棄物焼却炉によるがんを含めた病気に罹っているにもかかわらず、問題は解決していない。同市の農地に鋳物工場を建設することは違法であるにもかかわらず、市役所は建設許可を発行した。疫学調査でホルムアルデヒド、クロムやベンゼンがみつかったが、市当局者はその結果を無視し、抗議者らは法を侵していると発表した。村民は関係政府当局に損害に関する文書を提出して補償を要求したが、彼らは1人当たり19,000ウォン(約1,800円)を申し出ただけである。

製鉄所都市と浦項(ポハン)の環境問題

チョン・チム(韓国:浦項)

浦項の大企業POSCOは1968年に創設され、韓国の経済成長に貢献してきたことで知られている。しかし、同社は韓国における「最大の汚染者」「企業殺人者」と呼ばれている。POSCOの焼結プロセスによって生み出される汚染物質は浦項の汚染物質全体の50%に達する。このため市民は同社によって引き起こされたかつてない大気汚染の悪化と臭気にたえず苦情を申し立て、POSCO有毒化学物質対策委員会を結成した。彼らはこの問題を取り上げて約500回抗議活動を行い、POSCO製鉄所でのアスベスト使用の禁止を要求してきた。にもかかわらずPOSCOは最近火力発電所を建設しようと企んで失敗した。地元経済に対する同社の経済貢献を踏まえて人々が問題に目を閉ざして以来、大企業によって引き起こされた大気汚染は半世紀にわたって見落とされてきた。しかし、いまこそ労働者、住民、市民団体、企業や地方政府がPOSCOの被害者をみつけ、問題を解決するためにともに取り組むときである。

唐津(ダンジン)における石炭発電所その他の汚染源近くのがんの村

ユ・ジョンジュン(韓国:唐津)

唐津には火力発電所、天然ガス発電所やバイオマス発電所がある。火力発電所の総発電能力は9,389.9MWに達している。発電能力6,040MWの唐津火力発電所は世界第3位の火力発電所である。2018年まで、ともに唐津にある現代製鉄と唐津火力発電所は、韓国で大気汚染物質放出において各々第1位と第8位で、唐津は韓国の全行政区域のなかで大気汚染について第1位にランクされている。唐津における深刻な大気汚染は呼吸器疾患やがんを引き起こし、住民の健康に大きな被害を与えている。24人の住民ががんを診断されているものの、病気と汚染の因果関係を証明することの困難さのゆえに、補償を受けられた者はいない。住民は火力発電所の増設に抗議し、キャンペーンを行ってきた。石炭フリーの環境実現に向けては5つの課題がある。①唐津火力発電所に対する市民環境監視センターの活動の強化、②石炭火力発電所の住民の影響に関する分析の対象の拡大、③唐津の地方財源と施設税を特別会計化と健康と環境のための予算の増額、④火力発電所の設計寿命の短縮、⑤石炭から太陽光エネルギーへの転換の促進、である。

なぜ韓国の母親は学校アスベスト問題に怒っているのか?

ユン・エスン(韓国:学校アスベスト保護者ネットワーク)

WHOによってクラス1発がん物質と定義されたアスベストの使用は、韓国では2009年に全面禁止された。しかしそれはとりわけ、かつて屋根や天井に用いられた古いアスベスト含有建材として、古い学校建物のなかでいまなお深刻な健康リスクを引き起こしている。そのような状況のなかで政府は、韓国の合計2万の学校のうち13,000校でアスベスト除去プロジェクトを進めてきた。夏季や冬季の休みの間にアスベスト除去が行われた。しかし、メインテナンス時の安全性などに対する配慮を欠き、人々は清掃や労働者の健康及び作業後の建設残渣の除去について問題を提起した。それに応じて李洛淵首相はアスベスト残渣に関する調査を行うよう命じるとともに、指示と勧告を出したが、大きな変化はなされなかった。そのためソウルと京畿道の、またその後龍仁、慶北や釜山の保護者たちが、除去プロセスを監視し、みつかった問題点をメディアや国会に報告するために保護者ネットワークに加わった。2018年12月までに除去されたのは学校のアスベスト区画の33.2%にとどまっている。保護者ネットワークはより多くの人々がアスベスト問題に関心をもち、アスベストの危険性に対する国民意識を高めようとしている。

工場集中のゆえの制度と住民の健康関心の限界

チェ・ジェホン(韓国:弁護士事務所ジャヨン)

韓国の朴正煕政権(1961~1972年)が国の経済発展を推し進めるにつれて、都市と工業団地が成長し、また汚染が工業地帯に集中していった。その後、政府は古い都市の機能の一部を緩和させるために新たな都市の開発をはじめた。このイニシアティブは1971年の都市計画法の改正につながり、翌年には非都市部のための土地利用規制法が制定された。工場を建設しようとする者は土地利用規制法に従うことを義務付けられている。金浦の場合、毎年300社が市に登録され、金浦における登録工場の合計数は2018年10月までに6,354に達している。この増加に寄与した主要な要因のひとつは工場登録のための要件を規定した条項の緩和/廃止である。元は200平米以上の規模の工場は当局による承認の対象だったが、1996年に500平米以上のものに緩和された。その後2008年に商業省が環境汚染につながる可能性のある工場の立地を制限することのできる条項の削除を行い、国土省が計画管理地域における55の産業規制を廃止した。このような規制の廃止や緩和が工場に居住地域に近い地域への参入を容易にし、環境汚染をめぐる紛争を悪化させた。金浦における登録工場の状態とその住民の健康に対する影響に関する第1次及び第2次疫学調査によると、調査対象地域の死亡率は平均の約2倍であり、バイオマーカー検査の結果は重金属について比較対象の95%の上限を超える高度曝露住民が多数いることを示している。大気汚染防止の法的枠組みについては、環境保全法の制定と以前1970年代に「特別有害物質」と呼ばれた16種類の指定以来、いまでは「特別大気汚染物質」と呼ばれるものの数は36種類にまで増えた。近年環境省に排出基準を欠くことの責任をとらせる法的試みがあり、環境汚染に関する一連の訴訟も継続している。しかし、補償を受けられたのはじん肺被害者だけであり、肺炎、喘息や皮膚疾患の多数の被害者は疾病と環境汚染の因果関係を立証することが困難であるために承認されていない。

ワークショップ 5.1.
公害と地域社会のエンパワーメント

ボパール災害の声

ラチナ・ディングラ(インド:ボパール情報・活動グループ)

ボパールは2つの大惨事を蒙った。ひとつは40トンのMIC(イソシアン酸メチル)その他のガスに曝露したことにより7,000~10,000の人々を殺したもの、もうひとつは土壌が有毒科学物質に高度に汚染された14地域の25,000人が影響を受けたものである。二大惨事による汚染が今にいたるまで人々を苦しめているにもかかわらず、なされてきた努力は多くはない。アメリカ司法省は会社の側につき、国連は意図的な沈黙と無対応を続けている。国連児童基金もあまりにも多くの子どもたちの死を見て見ぬふりをしている。それは企業犯罪、多国籍不法行為そして利益を人々の生命や健康の上に置くことに関するものである。この問題に対して市民はきれいな水を要求して街頭に繰り出し、ついにきれいな水を手に入れた。政府に対する抗議の一部として彼らは、汚染された水をふるまう温和なビュッフェへの招待状を政府当局者に送ったこともある。未解決な重要問題にもかかわらず、ダウケミカルはインドにいかなる意味のある投資もしてこなかった。そのため人々はダウケミカルとそのCEOたちにそれを個人的なものにするために立ち上がり、ダウケミカルのロゴをロンドン・オリンピックから外させた。長年にわたるそのような努力の結果、人々は政府に臨床調査を実施することを説得することができ、被害者の治療のための統合的医療サービスを実現し、また彼らはその物語を共有するためのリメンバー・ボパール・ミュージアムも建設した。私たちはみな、すべての人のために有毒物質のない未来をつくるための努力に参加すべきである。

63歳の被害者生活:胎児性水俣病の場合

坂本しのぶ(日本:水俣)

私は1972年に国際社会に水俣病の被害を知らせるためにストックホルムでの国連環境会議に母と一緒に参加し、最近では2017年にジュネーブでの水銀に関する水俣条約の第1回締約国会議(COP1)に参加した。水俣サバイバーは歩行や食物消化など生活のあらゆる側面で困難に直面しており、私はまた毎日次第にからだが弱くなっていると感じている。私は母がいかに強かったかを思い出し、サバイバーのみなに強くあり続けようと訴えている。

水俣病被害者の証言

佐藤スエミ(日本:水俣)

私は1955年にある漁村で生まれた。父は漁師で6人の姉妹がいた。夫の3人の家族も水俣病サバイバーで彼の母親はもっとも重症である。水俣病の原因はチッソから排出された排水だった。しかし会社はこの問題を是正するいかなる適切な措置もとらなかった。私の夫は2007年に同社を相手取った裁判の原告団長になった。熊本地方裁判所は3人の原告を水俣病患者と認めたが、5人については棄却された。夫と私は水銀中毒の損害を明らかにするために闘い続けており、裁判の最後まで闘いを続けるだろう。

失敗した物語:韓国の温山(オンサン)病

キム・ジャンヨン(韓国)

韓国の朴正煕政権は1970年代に国家経済を現代化するために重化学工業の促進を推進した。その経済開発5か年計画の一部として温山に多数の工業団地が創出された。国レベルで住民に対する適切な補償がないまま個々の企業はでたらめなやり方でこの地域に入り、いくらかの住民はこの場所にとどまり続けた。数年後住民の間に身体的異常が現われ、彼らは政府に温山から出ていくのを支援するよう要求した。メディアが住民の病気に関心を払うようになったことから、人々は温山の住民が罹患している病気について知るようになった。あるメディアレポートは、ある学級の52人の生徒のうちの26人が原因の分からない皮膚の症状や痛みをもっていると報じた。人々は皮膚壊死や骨訴訟症など様々な深刻な医学的症状に苦しめられた。股関節手術を受けた者もいた。

ワークショップ 5.2./6.2.
アジアにおける過労死と自殺

グローバル化する経済におけるあらゆる変化にともない、労働の管理またはタクトタイム[ひとつの製品生産に要する時間等]、マンアワー[時間当たり作業量]やワークペース[作業速度]の管理は、ほとんどの部門において経営者によってきつくされてきた。合理化の措置とか労働のフレキシビリティと呼ばれるものを含め、多くの様々なやり方を通じて労働強化が追求されてきた。最近では、あまりにもきつくされたため、多くの労働者が、身体的及び/または精神的に圧力を感じたり、極端な対象にされいると感じるようになっており、それは時とともに耐えられないものになる。いまやわれわれは、世界の多くの部分で、それが過重労働による死(過労死)を引き起こしているのを見ることができる。ペースについていくことのできない者にとっての別の問題は、ハラスメントや職場における孤立であるかもしれない。これはまた、過労(過重労働)による自殺を引き起こしている。労働の強度が増してくるにつれて、極端に押しやられる者は行き場がないと考えるようになり、結果的に家族は、補償することはできないが予防することのできる喪失に取り残されることになる。人間の適応能力は限られているが、自己管理の範囲外の要因によって極端に押しやられている。
ここで、こうした問題の根底にある基本的問題は、誰がどのような手段によって労働を管理するかということである。韓国では、労働時間の法定限度が2018年から週52時間に減らされた(労働基準法)。また、労働におけるハラスメントを禁止する新たな規則が2019年から加えられた(労働基準法)。しかし、被害者の家族にすれば、こうした変化は「非人道的な労働の管理」の核心的問題に対処するには十分ではないかもしれない。
このプログラムでは、過労死や過労自殺の問題の基本的メカニズムを被害者家族の立場からレビューするとともに、労働強化の世界的傾向に直面するなかでどのような対案を追求すべきか議論する。

  • 日本と韓国に次いで、過労死や過労自殺は中国や台湾でも重要な課題になってきている。
  • とりわけ日本と韓国では、残された遺族たちがこの問題を解決するために闘っている。
  • アジアにおける過労死・過労自殺問題の状況と被害者の経験を共有する。
  • 「労働文化」を変え、アジアにおける過労死・過労自殺を予防するという共通の課題を模索する。

日本における過労死防止法制定後の変化

北出茂(日本:NPO法人「働き方ASU-NET」、過労死防止大阪センター)

私は過労死や労災、雇用の問題に取り組んできた。日本の労働組合の力は弱く組織率は17%にとどまる。賃上げや労働時間短縮もままならない。日本の地域労働組合が成し遂げたひとつの成果がブラック企業問題を社会問題化するために団体交渉を行い、悪質な事案をメディアに公表することだった。もうひとつのうまくいった進展は過労死防止法の制定である。52万筆の署名を集め、世論が国会を動かしてこの法律が制定された。日本では30年前には人々に過労という概念はなかったが、いまでは法律も改正されて月に100時間という時間外・休日労働の上限も設定された。しかしこの数字は現場ではしばしば役に立たないこともある。私たちは「過労」という言葉が存在しなくなるまでさらなる対策を求めていく必要がある。

台湾における過労死の事例

チェン・チュリン(台湾:労働安全衛生(OSH)リンク)

台湾では近年過労関連障害の事例が現われつつある。1991年の労働関連精神障害認定ガイドラインは、台湾政府が初めて過労の存在を公式に認めたものだった。2006年に過労死が労働災害として認められた。しかし、死亡が労災認定されるためには自殺を含め被害者の死亡が職場で労働している間に生じたものでなければならないことから、労災認定率はきわめて低い。2011年と2018年にガイドラインが改訂されてから、619人の労働者が過労の被害者として認定され、毎週約1人の労働者が過労による病気にかかっていることになる。しかし、過労の証明を提出できたのは30%だけであることから、現実の被害者の数ははるかに多いだろう。証拠を求められることは補償率を低くするもうひとつの障害である。2012年に最初の過労自殺が認定された。2018年の労働省の報告書によれば、前年の平均労働時間が2,033時間で台湾人は世界で4番目に長い時間働いた。労働力の97%がフルタイムで働いていることから、台湾における平均労働時間は増加している。

韓国における過労死家族の経験

ベ・ゴウン(韓国:過労死被害者・家族の会)

韓国過労死・過労自殺家族の会は2017年にはじまった。定期的な集まりのなかで遺族らは法的、社会学的、医学的観点から過労死・過労自殺の問題を学び、また心理的ヒーリングセッションに参加している。過労問題に取り組むためにこの問題に関する全体的政策を用意する緊急の必要があり、政策をつくるさいに私たちは遺族の声に特別の関心を払うべきである。遺族が直面する困難について示したい。何よりも第1に、家族は死亡または自殺が過労によるものであることを証明する責任がある。第2に、家族は身体的及び精神衛生的問題に苦しむ。自殺を防げなかったことに罪悪感を抱く者もいる。第3に過労死・過労自殺に対するネガティブな社会的認識が家族をくじかせる。前述したとおり遺族はもっと声を上げ、適切な心理的治療を受けるべきである。国レベルで過労死・過労自殺に関する教育とキャンペーンが強化されなければならない。

香港における過労死と自殺

シウ・シンマン(香港:工業傷亡権益会(ARIAV))

香港の労働者は長時間労働、過重負荷や大きなプレッシャーに苦しめられている。20年間も議論されていながら、香港では基準労働時間が設定されていない。とりわけ不動産管理、保安・清掃サービス、陸上運送や小売業の者は週に72時間以上働いている。過重な労働負荷によって毎年100人以上の命が失われ、多くの者が病気になっている。にもかかわらず政府は過労と労働者の死の間の関係性を説明できないでいる。この問題に関する公式なデータもない。私たちは過労によって亡くなったある女性労働者のショートフィルムを作製した(上映)。このフィルムから学んだように、弁護士や医師は労働時間と死の因果関係を証明するのに苦労している。要するに香港の過労死問題にはデータも調査も補償もない。私たちは2020年に発表される予定の報告書を待っている。

追加報告① 会社に抗議した息子の努力を継いで

イ・ホングァン(韓国:ハンビ・メディアセンター)

放送会社でドラマ・プロデューサーとして働いていたイ・ハンビの父です。彼のスタッフの97%近くが非正規労働者で時間外労働や他のサービス労働にさらされていた。私の息子はこの問題について会社に抗議し、その努力が失敗したときに自殺した。私たちは会社を相手に闘い、補償と放送労働組合の権利のためのセンター(ハンビ人権センター)設立のための基金を受け取った。日本や台湾に同様の事例がないかどうか、他の労働者の時間外労働について使用者に抗議して亡くなった者がいないかどうか。

追加報告③ 時間外労働「証明」問題

リン・シュチェン(台湾:工作傷害受害人協会(TAVOI))

私自身労働災害の被災者で、現在TAVOIで働いている。1992年に設立されて以来TAVOIは労働災害の被害者と家族を組織してきた。台湾では1991年に過労死に関する議論がはじまったものの、この問題は広く受け入れられはしなかった。2017年に84人の過労死の被害者が報告され[脳・心臓疾患の労災認定件数]、翌年には41,200人の労働者が過労のために治療を受けた[労災認定件数は69件]。実際の数ははるかに多いだろう。過労死はあらゆる業種でみられるが、TAVOIは若い事務労働者に焦点をあて、看護士と客室乗務員がより多く過労に苦しめられていることを見出した。過労死被害者の事例を検討すると、彼らまたはその家族が行うことを強いられた目に見える時間外労働を証明することができないために大部分が補償を受けられないでいる。調査が進行中であるとはいうものの、障害がある。使用者の側の労働時間の計算方法が政府のものと違っている。医師の証明はもうひとつの問題である。さらに被害者またはその家族自身が証明を提出しなければならない。台湾は日本や韓国から学んで、使用者に違法な時間外労働に対する刑事責任を課すべきである。

ワークショップ 5.3./6.3.
エレクトロニクス

台湾工作傷害受害人協会(TAVOI)からは、企業に対する闘いにおけるNGOの継続的関与が紹介され、RCA台湾における汚染された地下水飲料による被害の裁判の経験を共有した。最高裁判所で多数の労働者の補償のための重要な成果が達成された。裁判所は、因果関係の立証における労働者の困難を認め、原告の主張を否定するには会社側が立証しなければならないものとし、結果的に労働者に有利な結論を下した。
韓国のSHARPSは、自らのサムスンとの闘いを例に挙げて、連帯の重要性を強調した。また、すべての被害者を補償を受けられ、加害企業の謝罪が内実のあるものになることへの期待を表明した。
台湾のRCA元労働者自救会/TAVOIと韓国のSHARPSは、ANROEVを通じて知り合い、長年交流・連帯を継続している。
インドネシアからは、どの化学物質が身体のどの器官に影響を及ぼすか確認するための、労働者のリスク分析とトレーニングの事例が紹介された。バイオモニタリングが労働組合やNGOによって実施されるのはめずらしい。
ベトナムからは、ハノイをベースにするNGOによって実施された携帯電話産業の女性労働者に関する調査の結果が紹介された。それは、呼吸器症状や疲労、痛みなど、労働者の健康に対する化学物質の影響を調査し、労働者が自らの化学物質曝露のレベルをチェックできるようにするモバイル・アプリケーションを開発した。

ワークショップ 6.1.
生活環境と化学物質安全

ネパールにおける日常生活の重金属問題

ラム・チャリトラ(ネパール:公衆衛生環境開発センター(CEPHED))

公衆衛生環境開発センター(CEPHED)は他の団体とともにアスベストに関する環境衛生キャンペーンを展開し、2014年にネパールは南アジアで初めてアスベストを禁止した国になった。国は環境大臣等を先頭に人々の関心を高めるために新たなIEC(情報・教育・コミュニケーション)マテリアルを導入してきている。CEPHEDはまたリップスティックに含まれる鉛や美肌クリームに含まれる水銀など日常使用される化粧品に含まれる化学物質の検査も行い、ネパール政府は私たちが提案した化粧品基準を採用した。CEPHEDはIPEN/BRIの支援を得て魚と漁師、歯科医師の水銀について調査を行い、結果を彼らに報告した。これに基づいてネパール政府、保健人口省はネパールの保健業におけるすべての水銀ベースの機器の輸入、購入及び使用を禁止した。その後彼らは水銀含有歯科用アマルガムの使用も禁止した。CEPHEDは塗料中の水銀含有量の低減とネパール政府による鉛塗料基準の制定にも貢献した。

韓国における加湿器殺菌剤災害で10年以上苦しむ患者である夫の物語

キム・テジョン(韓国)

加湿器殺菌剤の被害者パク・ヨンスクの夫。1994年9月に加湿器殺菌剤含有CMIT・MIT[有機窒素硫⻩系殺菌剤]が販売されて以降、それは6,500人の被害者と1,450人の死につながってきた。私の妻は2007年10月14日に加湿器殺菌剤を購入した。この製品の原料はSKケミカルズによって開発され、製品自体は愛敬(エギョン)インダストリアルズとEマートによって製造された。彼女はそれを2014年3月まで使用していた。肺機能49%と診断されてパク・ヨンスクは、2011年11月に加湿器殺菌剤被害者としての認定申請をしたが、2014年3月に棄却された。彼女は18回入院を繰り返し、肺機能は13%にまで落ちてしまったために人工呼吸器または介護者の援助なしには暮らしていけない。私はいま誰の助けも受けずに民事訴訟を行っている。化学物質は製造者による徹底的な安全チェックの後に上市されるべきであり、政府はこのような惨事の再発を予防すべきである。

WHOグループ1発がん物質であるラドンと韓国におけるラドン・ベッド問題

ホ・ビュンスク(韓国)

ラドンは土壌、地下水や建材中に容易にみつかる鉱物であり、肺がんや皮膚がんを引き起こす発がん物質である。韓国では合計28種類のマットレスがラドンを含んでいることがわかり[含まれていたモナザイトがラドンを放出]、私のマットレスで検出されたラドンのレベルは基準レベルの18倍を超えていた。私は2007年にこの問題のあるマットレスを購入し、2018年に2回の子宮頸がんの手術と2018年に乳がんの手術を受けた。現在抗ホルモン剤を服用している。約10万人がラドン含有マットレスを使用し、4千人以上の被害者が2018年に民事訴訟を提起した。会社はマットレスをリコールしただけで、損害を補償する措置はとっていない。私は被害者の健康被害に関する調査が実施されるべきであり、会社と国はその社会的・法的責任を果たして、被害を補償する措置を講じるべきであると思う。

韓国における特別調査委員会と加湿器殺菌剤問題

チェ・エヨン(韓国:特別調査委員会副委員長)

(ビデオ上映)2011年春に韓国のとりわけ妊娠中の女性や幼児に肺疾患がみつかり、保健福祉省は肺疾患の原因が加湿器殺菌剤であると発表した。1,528人の加湿器殺菌剤の被害者のうち239人が死亡している。問題を引き起こした会社は大法律事務所の弁護士を雇って被害者の主張を否定し、オキシー・レキットベンキーザー韓国に課せられた罰金はわずか5千万韓国ウォン(約476万円)だった。現在検察が、企業がその製品の危険性を知りながら加湿器殺菌剤を販売していたかどうか調査している。加湿器殺菌剤に関する特別調査委員会は政党から推薦された9人の委員と調査者としての40人の市民で構成されている。その多くが市民団体で働いた経験があり、様々な省からの20人の政府職員も支援者として働いている。委員会は公聴会を開催し、調査を実施し、また加湿器殺菌剤事件についてさらに調査するために起訴を求める権限をもっている。その3つの使命は事実の確認、被害者の支援及び再発の防止である。それが韓国と日本における事件であることから、長期的努力が機会(例えば政権交代)によって満たされれば希望の光が見出されるかもしれない。

全体会議 7.
ワークショップ報告

各ワークショップ報告の後、以下のショートフィルムが上映された。

  • インド民衆訓練・研究センター(PTRC)作成-珪肺
  • フィリピン労働安全衛生開発研究所(IOHSAD)&ケンテックス被害者ネットワーク作成-ケンテックス工場火災
  • バングラデシュ労働安全衛生環境財団(OSHEF)&ラナプラザ・タズリーン被害者ネットワーク作成-被害者からリーダーへの進化

全体会議 8.
エンパワーメントのための
被害者と家族の役割

雇用、移住や結婚など、他の社会的/政治的/経済的慣行とともに、安全衛生リスクはそれらの諸慣行のなかに構造化され、埋め込まれる。このように、われわれは、危険な労働が、労働それ自体のためではなく、それらを通じて労働が危険になる社会的/政治的/経済的プロセスのゆえに危険になることをみることができる。
ここで、構造化されたリスクは、こうした社会的/政治的/経済的構造のなかに埋め込まれ、凝結され、またそのために、構造化されたリスクは持続し、時とともに繰り返される。この意味で、本会議で私たちが検討するリスクのほとんどは構造化され、災害や疾病が生じなかった時代に戻ったとしても、私たちでなかったとしても誰かの死や障害の発生をなくすことは不可能であった。
こうした構造化され、埋め込まれたリスクのもとでは、現状を打ち破り、私たちのこうした構造に反射のサイクルを開始することができるのは彼らだけであるという理由から、被害者自身を除いて誰もこの構造を変えることはできない。したがって、被害者だけが、繰り返される事故や疾病の不条理や、究極的には繰り返されるリスクの隠された国際性を指摘することができる。このセッションで私たちは、いかにして被害者が立ち上がり、生き残った者としてこうした役割を行うことができるかを理解したい。

  • 被害者及び/または家族の物語
  • 彼らが直面したもっとも困難な問題
  • 問題の根本原因
  • どのようにして彼らが現在のステージに達したのか、また彼らの役割は何か
  • 社会にとって前進するために必要なことは何か

被害者の役割

チョ・スンミ(韓国:加湿器殺菌剤被害者)

Q(以下Qはすべて、ペク・トミョン氏) あなたはいつ加湿器殺菌剤による喘息に罹っていると知りましたか?
A 2015年に喘息と診断されましたが、政府が加湿器殺菌剤の問題について発表したときにそれが原因だったと気づきました。

Q あなたは加湿器殺菌剤の被害者と認定されませんでした。こんなに長い間、加湿器殺菌剤と喘息の関係性を信じ、あなたに活動を続けさせたのは何だったのでしょう?
A 私の病気と加湿器殺菌剤の間の因果関係に疑いをもったことはありませんし、他の被害者たちと一緒に取り組んできたことによって活動を続けることができました。

Q 他の被害者と会ってコミュニケートするなかで、あなたはエンパワーされました。私はこれは非常に重要だと思います。
A そのとおりです。政策についてであろうと他の情報であろうと、私は他の被害者らから得ることができました。

Q あなたは外国でも活動をしてきたそうですが、なぜ海外でそのような活動を行ったのですか?
A 私は喘息ですが、加湿器殺菌剤は肺の症状以外の病気も引き起こすことを知っています。外国で他の活動家たちに会うことによって、彼らは私が活動を続けられるようインスパイアしてくれました。

ソンブーン・シリカムドッケア(タイ:綿肺被害者)

Q あなたは1950年代生まれで、工場で働き労働組合運動に関わるようになり、20代のときに綿肺と診断されました。使用者はあなたを被害者と認めなかったと聞いていますが?
A 使用者は、原因を明らかにしようとした約100人の労働者を訴えました。

Q あなたのモチベーションは何でしたか?職業病の被害者と認められるのを待っていたのですか?
A 私は病気が職業病であると証明するために15年間闘い、また他の被害者たちと一緒に活動しました。

Q あなたは1994年に被害労働者のネットワークをつくりました。なぜネットワークを立ち上げたのか説明してくれますか?
A 私は強さは団結からくると信じたから、また彼らとアイデアや意見を共有したいと思ったのでネットワークを構築しました。労働者はともに行動することによって相互に支援し合うことができると思います。ネットワークはいまタイの17州で活動しています。

家族の役割

ラジュ・デヴィ(インド:珪肺被害者家族)

Q 夫が亡くなってからのあなたの長い闘いについて話していただけますか?闘いのなかで一番困難だったことは何ですか?あなたの村の話もしていただけますか?
A 私の夫は鉱山労働者で子供が生まれてから3~4か月のときに亡くなりました。当時長男は10歳で、家族が暮らしていくために鉱山で働きはじめました。私たちは夫を珪肺のために亡くした妻たちのグループをつくり、鉱山経営者と会おうとしましたができませんでした。そこで私たちは全国人権委員会を訪れ、調査官が村にやってきて私たちの話が事実であると確認しました。私たちは監督官庁の建物の前でデモンストレーションを行いました。デモは1か月続きましたが、彼らからは何も聞けませんでした。ついに監督官庁は私たちを助けることを決めましたが、補償額が十分ではなかったため、私たちは抗議を続け最終的に賃金の5年分相当の補償を受け取りました。私たちは夫を亡くした未亡人のための基金を創設しました。

Q なぜ他の人たちを助けるのですか?
A 私はもう被害者を見たくありません、子供たちが鉱山労働者になるのを見たくないのです。

ローズマリー・マグレーシア(フィリピン:ケンテックス工場火災被害者家族)

Q あなたは使用者を訴えたものの、あまりうまくいかなかったとか…
A 私たちは刑事裁判を追求しましたが、証拠が足りないという理由で退けられてしまいました。

Q あなたに闘いを続けさせたものは何でしたか?何が推進力でしたか?
A 私は正義のために闘い続けました。私は母親です。娘にあなたの面倒をみると約束しました。私は他の母親や労働者が苦しむのを防ぐために闘いを続けました。彼らの安全を確実にしたいと願っています。

Q 制度と無視に対してどのように闘うことができますか?
A 私たちは正義、安全と健康のために闘っています。労働者のために団結しています。

イ・ホングァン(韓国:ハンビ・メディアセンター)

Q ハンビ・メディアセンターにはあなたの息子の名前がつけられています。あなたの息子は大きな放送会社で番組ディレクターとして働いていましたが、そのことは韓国では有望な仕事とみなされます。メディア産業における問題について話していただけますか?
A 韓国のメディア産業の労働者は以前は労働法から除外されていました。彼らは非常に低い賃金で週20時間以上超過労働していました。私の息子の死の後で放送会社の脚本家たちが労働組合を結成しはじめ、ついにメディア労働者が労働法の対象になりました。
Q あなたの息子さんの事例は認定されませんでした。なぜ認められなかったのですか?
A 私の息子は放送会社に労働者の労働条件を改善するよう要求した後に自殺しました。私はそれが労働災害と認められるのがいかに難しいか体験しました。とりわけ自殺の場合は労働災害として認められるのが難しいのです。息子の場合、長年にわたる闘いの後、私は会社からの公式の謝罪と息子の死に対する補償を受け取りました。
Q 労働災害の被害者を支援する方法について、あなたの意見を聞かせてもらえますか?
A 私たちは労働災害を誰にでも起こり得ることと認めるべきです。全員の努力と国際連帯を必要とするようでは問題です。労働災害はすべてをぶち壊します。トラウマセンターを通じて愛する者を失った家族を支援することも重要です。そのような精神的支援を必要としている人がたくさんいます。私は他の人たちのためにこの闘いを続け、みなさんも努力に加わることを希望します。

活動家の役割

ジャヤチトラ・セラムバラム(スリランカ:レッドフラッグ・ユニオン)

Q あなたは労働組合できわめて重要な役割を果たしてきました。労働組合で女性のリーダーをみるのはまれなことだと思います。活動家としてまた労働組合リーダーとしてのあなたの役割について聞かせてください。
A 私は動員者として労働組合で働きはじめました。スリランカでは女性の労働組合リーダーは多くありません。非常にまれです。しかし私が所属するレッドフラッグ・ユニオンは農業部門を代表しており、他の労働組合のように政党と結びついていません。私は先輩たちから労働組合について多くのことを学びました。現在レッドフラッグ・ユニオンの書記長を務め、責任を果たすために一生懸命がんばっています。書記長に選ばれたとはいえ、私には能力を証明する必要があります。私は女性が労働組合リーダーになれることを証明したいと願っています。

Q 労働組合におけるあなたの役割について知りたいです。
A 私の責任には能力開発のための教育の提供、アドボカシー活動や人々の関心を高めることが含まれます。国の労働安全衛生法案が11月に審議される予定です。

Q ここには10人ほどいますが、最初の列では男性は3人だけです(最初の写真)。ジャヤチトラは古いシステムのブレーカー(打ち破る人)のようです。

ジャグディシュ・パテル(インド:民衆訓練研究センター(PTRC))

Q あなたは安全衛生問題で非常にがんばってこられました。何年活動されていますか?
A 約30年になります。
Q しかし、あなたは被害者ではありません。技術者の経歴をもっておられます。どのようにしてこの領域に関心をもったのですか?
A 私は労働組合の積極的なメンバーでした。自然に労働者の安全に関心をもつようになりました。
Q 珪肺については診断等に関して多くの難しさがあります。問題を解決するためにはこの問題に対して取り組むことが重要ですし、活動家として私たちはそれ以上のことを必要としています。
A 私たちは労働者が珪肺を含め職業病について理解するのを助け、被害者が診断を受け、職業病の被害者として認められるのを助ける必要があります。
Q あなたは可能性のある代替策や他の選択肢をみつけるうえで専門家が被害者を助ける役割があることを思い出させてくれました。
A そうです。私たちは被害者が戦略的に選択することを助け、また彼らが勇敢に闘い続けるのを助けなければなりません。

クォン・ヨンジェウン(韓国:パノリム(SHRAPS))

Q あなたはどれくらい活動家として働いてきましたか?
A 5~6年です。
Q 活動家としてパノリム(SHRAPS)は2007~8年に問題の提起を開始しました。ですから10年以上になります。その間にパノリムはサムスンとの間でいくつかの合意を達成しました。
A 私たちはサムスンと交渉して合意に達しましたが、その後サムスンは秘密裏に合意ではなく独自の基準に基づいて補償を提供しました。だから私たちは同社に対する抗議活動に突入したのです。
Q なぜあなたは抗議活動に参加したのですか?
A 実際、状況について人々やメディアに知らせることが唯一の効果的な方法だったからです。
Q あなたは抗議活動が唯一の闘う方法だったと?そうですか?
A 私たちは人々の関心を高めるためにポスターやリーフレットを作成し、またサムスンとの話し合いもも持ちました。しばしば私たちはデッドロックに突き当たり、またターニングポイントも見出しました。例えば朴槿恵が大統領職から罷免されたとき、それはサムスンが被害者に適切な補償の提供を怠っている一方で青瓦台(大統領府)に賄賂を贈っていたという事実を人々が理解するのに役立つ機会でした。
Q 最後の質問ですが、同じような問題の再発を防ぐための対策に関するあなたの考えを聞かせてください?
A 最も重要なことは被害者の声を聞くことです。注意深く聞けば多くの災害が避けることができたことがわかります。私たちは12年間「ノーモア被害者」と大きな声で訴えてきましたが、私たちが学んだ重要な教訓は被害者の声を聞くこと以上に重要なことはないということです。

全体会議 9.
ソウル宣言

私たちは災害の被害者ではない。私たちは災害を乗り越えたサバイバー(生存者)である。それゆえ私たちは、以下のことを宣言するためにここに集まった。

  1. 原因なき事故はない。根本原因をしっかりと究明せよ。災害によって起こる災害はなく、災害は根底にあるシステムによって引き起こされる。
  2. 繰り返される災害は犯罪であり、労働における死亡は殺人である。
  3. 責任のない人災はいまやなくさねばならない。すべての責任をしっかりと問え。政策決定者のあらゆるヒューマンエラーは完全に責任を負わせる必要がある。
  4. 補償を越えて、サバイバーのリハビリと復帰をしっかりと行え。補償を越えて、私たちサバイバーは、適切なリハビリテーションと労働復帰を求める。
  5. 恩恵を越え、被害の調査、責任究明、補償においてサバイバーの積極的な役割と権利を保障せよ。受動的な慈悲を越えて、私たちサバイバーは、調査、起訴及び補償に参加する完全な権利と能動的な参加を求める。
  6. いまやすべての制度に先立ち、消極的被害者文化でなく、積極的サバイバー文化を創れ。ルールや規則の前に、私たちは社会のすべてのメンバーに、受動的な被害者ではなく、能動的なサバイバーたちの文化を期待するように変わることを求める。

ソウル宣言採択の前に参加者は、5月5日に急逝した香港工業傷病権益会(ARIAV)の陳錦康を追悼し、彼の労働安全衛生の権利、被害者とその家族に対する献身をたたえる時間をもった。
ボパールの代表はボパール災害35周年にあたり世界各地で連帯行動を組織するよう訴えた。
香港からの参加者は、中国深圳で湖南省からの出稼ぎ労働者の権利、とりわけじん肺に罹患した労働者の支援を行ってきたiLabourネット/新世代ウエブサイトの3人の若い編集者(ヤン・ツェングン、ウエイ・ズィリ、ケ・チェンビン)が逮捕され家族や弁護士もアクセスできない状態に置かれていることを報告し、国際的支援を訴えた。
また、夕食後には有志の参加による香港における抗議活動の報告を聞く連帯の夕べも催された。

2グループ/合流
フィールドビジット/抗議行動

最終日に海外参加者は2グループに分かれ、ひとつはソウル近郊のモラン(牡丹)公園烈士墓地からソウル市内の源進緑色病院をまわり、もうひとつは洪城(ホンソン)の旧アスベスト鉱山地域を訪問。
その後2つのグループが夕方に江南(カンナム)で合流してサムスン本社前で抗議行動、またその後、汝矣島(ヨイド)のオキシー・レキットベンキーザー本社前で抗議行動を展開した。
今回、韓国では様々な課題に取り組む多くの労働・環境団体が、各々の責任担当を確認しつつ協力してプログラム全体をつくりあげたようだが、最後までその特徴がきわだった濃密な内容であった。
ANROEV2019関係資料等はおつてインターネット上で入手できるようにされる予定である。
ソウル会議後にANROEVネットワーク次期コーディネーターの立候補・選挙が行われた結果、バングラデシュOSHEFのチョードリー・レポンからネパールCEPHEDのラム・チャリトラに代わった。今後の発展を期待したい。