週労働40時間以上雇用者で、週60時間以上の割合5%以下に/勤務間インターバル制度導入企業15%以上に-過労死等の防止のための対策に関する大綱を変更-2021.7.28
厚生労働省は2021年7月30日、「『過労死等の防止のための対策に関する大綱』の変更が本日、閣議決定されました~働き方の変化等を踏まえた過労死等防止対策を推進~」と発表した。
大綱は、2014年に制定された「過労死等防止対策推進法」に基づき、おおむね今後3年間における取り組みについて定めるもので、2018年に続き2回目の変更になる。「過労死等防止対策推進協議会」において、2020年11月から2021年5月にかけて4回にわたり検討されたもの。厚生労働省の「過労死等防止対策」特設ページで関連資料を入手することができる。
■新たな大綱に定めた主な取組等
厚生労働省発表は、「新たな大綱に定めた過労死等防止対策の主な取組等」として、以下を掲げている。
- 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う対応や働き方の変化を踏まえた過労死等防止対策の取組を進めること。
- 新しい働き方であるテレワーク、副業・兼業、フリーランスについて、ガイドラインの周知などにより、過重労働にならないよう企業を啓発していくこと。
- 調査研究について、重点業種等※に加え、新しい働き方や社会情勢の変化に応じた対象を追加すること。また、これまでの調査研究成果を活用した過労死等防止対策のチェックリストを開発すること。
※自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療、建設業、メディア業界 - 過労死で親を亡くした遺児の健全な成長をサポートするための相談対応を実施すること。
- 大綱の数値目標で、変更前の大綱に定められた「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」や勤務間インターバル制度の周知、導入に関する目標などを更新する。なお、公務員についても目標の趣旨を踏まえて必要な取組を推進すること。
■通達で示された主な変更内容
また、基発0730第1号「過労死等の防止のための対策に関する大綱の変更について」は、「主な変更内容は下記のとおり」としている。
- 「第3 国が取り組む重点対策」(以下「第3」という。)の「1 労働行政機関等における対策」の各項目に、公務員に関する取組を明記したこと。
- 自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療、建設業、メディア業界に限らず、これらと同様に長時間労働の実態があるとの指摘がある音楽や映画、演劇等の芸術・芸能分野の業態等についても、社会情勢の変化に応じて、調査研究の対象に追加する必要があることを「第2 過労死等の防止のための対策の基本的考え方」(以下「第2」という。)の「1 調査研究等の基本的考え方」(以下「第2の1」という。)に記載したこと。
また、新型コロナウイルス感染症の影響下における労働時間等の状況、テレワーク等のオンライン活用、先端技術の進展に伴う影響等についても分析を行うことを第2の1及び第3の「2 調査研究等」(以下「第3の2」という。)に記載したこと。
さらに、調査研究等の成果を活用し、事業場における過労死等の防止に資するチェックリスト等の開発等を行うことを第3の2に記載したこと。 - 長時間労働の実態があり、勤務間インターバル制度の導入やメンタルヘルス対策の取組が進んでいない中小規模の企業等に対する支援を第3の柱書き及び第3の「3 啓発」(以下「第3の3」という。)に明記したこと。
また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う働き方の変化による過労死等の発生を防止するため、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の新しい働き方であるテレワーク、副業・兼業、フリーランスに関する取組を第3の3に記載したこと。
さらに、顧客や発注者からの取引上の都合により生じる長時間労働の削減のため、民間企業間の取引のほか、行政機関と民間企業の間の取引についても、適正な納期・工期の設定等の商慣行改善に向けた取組を第3の3に記載したこと。 - 過労死で親を亡くした遺児の健全な成長をサポートするための相談対応を第2の「3 相談体制の整備等の基本的考え方」及び第3の「4 相談体制の整備等」に記載したこと。
- 「第5 過労死等防止対策の数値目標」について、所要の見直しを行うとともに、公務員についても目標の趣旨を踏まえて取り組むことを明記したこと。
■新たな大綱の主な変更・追加箇所
「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(2021年7月30日)の目次は、次のとおりで、下線が新たに追加された項目である。
いくつか特徴的な内容を指摘しておきたい。変更・追加された箇所に下線を付しておく。
第1の「1 これまでの取組」末尾に、以下が追加された。
「大綱見直し後においては、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行等により各種の取組が進められたところであるが、そうした取組が進められている中でも、働き過ぎによって尊い生命が失われたり、特に、若年層の心身の健康が損なわれる事案が増加するといった、痛ましい事態が今もなお後を絶たない状況にあり、過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現にはほど遠い。
さらに、世界的な流行となった新型コロナウイルス感染症は、令和2年1月に、国内で最初の感染者が確認され、この対応等のために発生する過重労働によって過労死等が発生しないよう、その対策をより一層推進する必要がある。
また、国際機関から長時間労働が生命と健康に与える影響と長時間労働対策の必要性についての指摘もなされている。
こうしたことから…新たな大綱を策定するものである。」
また、「第2 過労死等の防止のための対策の基本的考え方」の冒頭に以下が追加された。
「法第7条に基づいて、初めて大綱を策定してから6年が経過したが、過労死等の件数は近年高止まりの状況にある。この間の調査研究等により、一定の必要な取組が明らかになっていることから、国、地方公共団体、事業主等の関係者の相互の密接な連携の下、過労死ゼロに向けた取組を進めていく必要がある。また、過労死等が多く発生している又は長時間労働が多いとの指摘がある職種業種の調査研究が一巡したことから、調査研究の成果から実効性のある過労死等防止対策につなげるとともに、その結果を検証し、フィードバックして、より高度な調査研究を進めることによって、過労死を発生させないための更なる対策を講じていく必要がある。
これらを踏まえ、「調査研究等」、「啓発」、「相談体制」、「民間団体の活動支援」のそれぞれについて、これまでの実績や成果を検証するとともに、なお不十分な点や必要な事柄を明らかにし、今後3年間における過労死等の防止のための対策に活かしていくものとする。
また、これらについて、都道府県労働局、労働基準監督署又は地方公共団体等の「労働行政機関等における対策」に反映させ、労働行政機関等の効果的な過労死等防止対策を着実に推進していくことが必要である。
なお、新型コロナウイルス感染症の影響で、行政においてもデジタル化への対応がより一層求められている。行政のデジタル化は、従来、直接出向くことにより対面で実施していた業務もオンラインで取り組むことができ、事業者等の利用者の利便性の向上や行政の効率化の観点だけでなく、利用者と行政双方の時間短縮にもつながるものであり、長時間労働削減の観点からも、推し進めていく必要がある。
一方で、デジタル技術を活用した働き方であるテレワークについては、業務に関する指示や報告が時間帯にかかわらず行われやすくなり、労働者の仕事と生活の時間の区別が曖昧となり、労働者の生活時間帯の確保に支障が生ずるおそれがあることにも留意する必要がある。このような点にかんがみ長時間労働による健康障害防止を図ることが求められている。」
第2の「1 調査研究等の基本的考え方」では、
「新型コロナウイルス感染症の影響下における労働時間等の状況の把握を行うとともに、感染拡大を契機として活用が進んだテレワークやウェブ会議等のオンライン活用等における影響、先端技術の進展に伴う影響等にも目を向ける必要」や、重点業種・職種に限らず「音楽や映画、演劇等の芸術・芸能分野」の業態等についても調査研究対象に追加する必要性等が追加されている。
また、「第3 国が取り組む重点対策」の「1 労働行政機関等における対策」の各項目には、公務員に関する取組についての記述が追加されている。
第3の「2 調査研究等」には以下が追加された。
「(4) 過労死等防止対策支援ツールの開発等
過労死等の事案の分析、疫学研究等、過労死等の労働社会分野の調査分析の成果については、これまでも白書やホームページへの掲載等を通じて周知を行ってきたところであるが、これらの研究成果が各事業場における過労死等防止対策に活用されるようにすることが重要である。そのため、事業者、労働者、専門家の意見も踏まえて、これらの研究成果を基に、事業場における過労死等防止対策の定着を支援するチェックリスト等のツールの開発等のための研究を行う。」
次に比較的大きな変更・追加のめだつ第3の「3 啓発」の(8)~(10)の内容を以下に紹介する。
「(8) 職場のハラスメントの防止・解決のための周知・啓発の実施
過労死等に結び付きかねない職場におけるハラスメントの対策として、パワーハラスメント、セクシャアルハラスメント及び妊娠出産育児休業等に関するハラスメントの防止・解決に向けた取組を進めるため、ポータルサイト「あかるい職場応援団」、リーフレット、ポスター等、多様な媒体を活用した周知・啓発を行うとともに、長時間労働が行われている事業場に対する監督指導等の際に、厚生労働省で作成したハラスメント防止対策パンフレット等を活用し、パワーハラスメント対策の取組内容について周知を行うほか、12月を「職場のハラスメント撲滅月間」と定め、集中的な周知・啓発を行う。
また、実効性ある対策を推進するため、全ての都道府県において、人事労務担当者向けのセミナーを実施するとともに、令和4年4月よりパワーハラスメント防止措置が義務付けられる中小企業に対して、専門家による訪問支援等を実施する。
さらに、いわゆるカスタマーハラスメントへの対策を推進するため、対応事例を含めたカスタマーハラスメント対策企業マニュアルを策定し、広く周知を行うなど具体的な取組支援を行う。
なお、新型コロナウイルス感染症への対応として、テレワークやウェブ会議等のオンライン活用が進んでいることから、これらを利用した場合におけるハラスメントについても留意する。
また、職場のハラスメントに関する実態調査結果を参考に、引き続き必要なハラスメント防止対策の推進を図る。
加えて、仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する条約(ILO第190号条約)について、世界の動向や国内諸制度との関係を考慮しつつ、締結する際に問題となり得る課題を整理する等、具体的な検討を行い、批准を追求するための継続的かつ持続的な努力を払う。
(9) ウィズコロナ・ポストコロナの時代におけるテレワーク等の新しい働き方への対応
使用者が適切に労務管理を行い、労働者が安心して働くことができる良質なテレワークの普及促進に向けて、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」、安全衛生を確保するためのチェックリストの周知やテレワークに対応したメンタルヘルス対策の手引き等の作成を行うとともに、中小企業への助成金やテレワーク相談センターにおける相談対応等の各種支援策を推進する。
働き方改革推進支援センターにおいて、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の新しい働き方を踏まえ、テレワーク相談センターと連携した支援等を行う。副業兼業については、企業も労働者も安心して取り組むことができるよう使用者による労働時間の通算管理に当たってのルールの明確化等を行った「副業兼業の促進に関するガイドライン」の周知を行うとともに、事業者による副業兼業を行う労働者の健康確保に向けた取組が進むよう、一般健康診断等による健康確保に取り組む企業に対する助成金等の支援策を推進する。
フリーランスについては、内閣官房公正取引委員会中小企業庁厚生労働省が連名で策定した「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」の周知等、フリーランスが安心して働ける環境の整備に取り組む。
(10) 商慣行・勤務環境等を踏まえた取組の推進
長時間労働が生じている背景には、個々の事業主が労働時間短縮の措置を講じても、顧客や発注者からの発注等取引上の都合により、その措置が円滑に進まない等、様々な取引上の制約が存在する場合がある。このため、業種業態の特性に応じて発注条件発注内容の適正化を促進する等、取引関係者に対する啓発働きかけを行う。
特に、大企業の働き方改革に伴う下請等中小企業への「しわ寄せ」防止に向けて、令和元年6月に取りまとめた「大企業親事業者の働き方改革に伴う下請等中小事業者への『しわ寄せ』防止のための総合対策」に基づく取組の推進を行うとともに、大企業と中小企業が共に成長できる関係の構築を目指し、大企業と中小企業の連携による生産性向上に取り組むことや望ましい取引慣行の遵守を経営責任者の名前で宣言する「パートナーシップ構築宣言」の作成公表に向けた周知や働きかけを実施する。
さらに、国や地方公共団体等の行政機関との取引の中には長時間労働につながっている場合もあるとの声を踏まえ、各府省等に対して、長時間労働につながる商慣行改善に向けた取組の実施について協力依頼を行う。
加えて、「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」に基づき作成されている「中小企業者に関する国等の契約の基本方針」に、国等が物件工事等の官公需契約の発注を行うに当たっては早期の発注等の取組により平準化を図り、適正な納期工期を設定するとともに、常設されている「官公需相談窓口」において、受注者から働き方改革に関する相談があった場合には、適切な対応に努めることなどを盛り込み、その徹底に努めてきているところ、引き続きその遵守徹底を図るものとする。併せて、国は地方公共団体においても国等の契約の基本方針に準じた取引が行われるよう要請を行う。
また、業種の枠を越えた取組を進めるべく、事業主団体経済団体による「長時間労働につながる商慣行の是正に向けた共同宣言」が平成29年9月に取りまとめられた。
こうした動きや勤務間インターバル制度の導入が努力義務となったこと、新型コロナウイルス感染症の影響により負担が増していると考えられること等にも留意しながら、業種等の分野ごとに以下の取組を推進していく。」
(10)には続けて、(ア)トラック運送業、(イ)教職員、(ウ)医療従事者、(エ)情報通信業、(オ)建設業、(カ)その他に関する記述が続き、そちらもかなり変更・追加されているので、確認していただきたい。
なお、第3の3の「(5) 勤務間インターバル制度の導入促進」では、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律により改正された労働時間等の設定の改善に関する特別措置法により、平成31年4月から、勤務間インターバル制度の導入が努力義務となっている」こと等が追記された。
第3の「4 相談体制の整備等」には、以下が追加されている。
「(5) 過労死の遺児のための相談対応
過労死で親を亡くした遺児の健全な成長をサポートするために必要な相談対応を行う。」
■新たな大綱の数値目標
見直されて新たな大綱で掲げられた数値目標を次の表に示した。公務員についても目標の趣旨を踏まえて取り組むこととされている。
「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の数値目標の見直し
過労死をゼロとすることを目指し、以下の数値目標を設定。公務員についても、目標の趣旨を踏まえ、必要な取組を推進。
旧大綱(平成30年7月24日閣議決定) | 新大綱(令和3年7月30日閣議決定) |
1 週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下(令和2年まで)【平成29年:7.7%→令和2年:5.1%】 なお、特に長時間労働が懸念される週労働時間40時間以上の雇用者の労働時間の実情を踏まえつつ、この目標の達成に向けた取組を推進する。【平成29年:12.1%→令和2年:9.0%】 | 1 週労働時間40時間以上の雇用者のうち、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下(令和7年まで) ※少子化社会対策大綱(令和2年5月29日閣議決定)、第5次男女共同参画基本計画(令和2年12月25日閣議決定)等において、週労働時間60時間以上の雇用者の割合5%(令和7年)を目標設定。 |
2 労働者数30人以上の企業のうち、 (1) 勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を20%未満(令和2年まで)【平成29年:37.3%→令和2年:10.7%】 (2) 勤務間インターバル制度を導入している企業割合を10%以上(令和2年まで)【平成29年:1.4%→令和2年:4.2%】 | 2 労働者数30人以上の企業のうち、 (1) 勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を5%未満(令和7年まで) (2) 勤務間インターバル制度を導入している企業割合を15%以上(令和7年まで) 特に、勤務間インターバル制度の導入率が低い中小企業への導入に向けた取組を推進する。 |
3 年次有給休暇の取得率を70%以上(令和2年まで)【平成28年:49.4%→令和元年:56.3%】 特に、年次有給休暇の取得日数が0日の者の解消に向けた取組を推進する。 | 3 年次有給休暇の取得率を70%以上(令和7年まで) ※少子化社会対策大綱(令和2年5月29日閣議決定)、第5次男女共同参画基本計画(令和2年12月25日閣議決定)等において、年次有給休暇取得率70%(令和7年)を目標設定。 |
4 メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上(令和4年まで)【平成28年:56.6%→平成30年:59.2%→令和2年:61.4%】 | 4 メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上(令和4年まで) |
5 仕事上の不安、悩み又はストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合を90%以上(令和4年まで)【平成28年:71.2%→平成30年:73.3%→令和2年:69.2%】 | 5 仕事上の不安、悩み又はストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合を90%以上(令和4年まで) |
6 ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上(令和4年まで)【平成28年:37.1%→平成30年:63.7%→令和2年:66.9%】 | 6 ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上(令和4年まで) |
※数値目標の4~6については、第13次労働災害防止計画に位置付けられている目標であり、第14次労働災害防止計画において新たな数値目標が設定された場合には、その目標の達成に向けた取組を推進する。
編注:厚生労働省発表資料をベースに、5月24日の第20回過労死等防止対策推進協議会資料及び4~6について7月21日に公表された令和2年の数字を追加した。
安全センター情報2021年10月号