被害者の72%が退職「性暴力によるキャリア断絶」知っていますか 2021年9月10日 韓国の労災・安全衛生

KTメージバンク

#1.会食後、家に帰ったら代表から電話が。セクハラ電話だったんですが、代表からの電話だったので切るに切られず。鼾が聞えたのでやっと切りました。一晩中悩んで、翌日このことを代表に話したら、自分はそんなことはしていないと言って、「自作自演だ、辞めろ」と言われました。本当に解雇されたらどうすれば良いのでしょうか。

#2.会社の代表にセクハラ行為をされたので避けていたんです。すると代表は、私のことを、「仕事ができない」などと陰口を言い回って、数カ月前からは些細なことで私を怒るんです。精神的にとても辛いので辞めたんですが、退職してみると悔しいです。この悔しさを晴らす方法はないでしょうか。

-ソウル女性労働者会の2020年電話相談事例集「働く女性の権利を取り戻す話」から

「キャリア断絶女性などの経済活動促進法」は、「キャリア断絶女性」を「婚姻、妊娠、出産、育児、家族構成員の介護などで仕事を辞め、非就業状態にある女性」と定義している。しかし、女性たちは法律がまったく知らないもう一つの「キャリア断絶」を強いられている。職場内で性暴力の被害に遭って自発的に退職して生じる、いわば「性暴力によるキャリア断絶」がそれだ。

ライフサイクルで最初のキャリアを開発・管理し、自己啓発を図るうえで最も大事な時期にある20~30代の女性が、職場内で性暴力の被害にあって退職したり、解雇されたりするケースは少なくない。にも拘わらず、その現状と規模を示す国の統計も支援政策もないのが実情だ。

先ず、女性家族部が会社員を対象に実施した「セクハラ実態調査」でも、「性暴力によるキャリア断絶」は扱われていない。この調査は、公共・民間部門の30人以上の事業体の一般職員とセクハラ予防教育業務の担当者1万904人を対象に、職場内のセクハラの実態を把握するため三年毎に行われているが、「在職者」だけを対象としている。セクハラ被害を受けて職場を去らなければならなかった「退職者」の声は聴くことができないのだ。

女性家族部は三年毎に「キャリア断絶実態調査」も実施しているが、断絶の理由の選択肢は、結婚▽妊娠▽出産▽家族の介護▽子どもの教育▽その他のみで、「職場内セクハラ」による退職は、単に「その他」とされている。

国の統計からは知ることができないが、職場内の性暴力に加えて、会社を辞めざるを得ないという二重苦のキャリア断絶の類型は、厳然として存在する。ソウル女性労働者会が2016年に職場内セクハラの被害者103人に対して行ったアンケート調査によると、回答者の72%がセクハラ被害を受けて退職していた。このうち57%は一カ月以内、11%は三カ月以内、14%は六カ月以内、18%は六カ月以降に退職していた。半年以内の退職者の割合は82%になる。ソウル女性労働者会のシン・サンア会長は本紙の取材に対して、「女性家族部の実態調査は在職者のみを対象としており、二次的な不利益についての調査が足りないため、職場内でのセクハラによる雇用断絶を把握するには限界がある。職場内のセクハラ被害者のかなりの数が六カ月以内に退職していたという事実は、事業主の被害者保護措置がキチンと作動していないことを端的に示している」と述べた。

在職者のみを対象としているとはいえ、「セクハラ実態調査」もキャリア断絶の要因として、職場内の性暴力が作用している可能性を確認させる。最も最近の2018年の実態調査では、女性の回答者の14.2%がセクハラ被害を受けたと答えている。これらの回答者のセクハラ被害経験による影響についての設問に対する回答は、多い順に、特別な影響はない(36.5%)、▽職場(内のセクハラ予防政策、文化など)に失望を感じた(33.8%)、▽労働意欲の低下など、業務に対する集中度が低下した(25.9%)、▽ストレスによって健康が悪化した(10.6%)、▽(セクハラ事件で)職場を辞めたいと感じた(9%)。退職の意向を直ぐに示した人の割合は高くはないが、職場に対する失望、労働意欲の低下、健康の悪化などは、結局、被害当事者を退職へと追いやる要因となっている。

性暴力によるキャリア断絶を減らすためには、被害者の保護措置が必要不可欠だ。男女雇用平等法は事業主に対して、被害者の保護を始め、事件の調査、懲戒などの義務を規定している。しかし、肝心の雇用主が加害者であるケースが多い。ソウル女性労働者会が2018年から2020年7月までに報告された864件の職場内セクハラの新規相談事例を分析したところ、社長によるセクハラは205件(25.3%)だった。これこそ、被害者の保護どころか、非自発的な退職または解雇という二重の被害が強制される背景だ。50人未満の事業所が企業総数の98.8%(2019年現在)を占める構造にあっては、職場内の性暴力被害者が保護されず、キャリア断絶に直面するケースは更に多いと思われる。上司によるセクハラは55.4%に昇る。職場内セクハラの加害者の10人中8人は、上司か社長だった。このような環境においては、主に下級者の地位にある被害者は、自分の権利をまともに主張できず、キャリア断絶に追い込まれがちだ。

専門家は、勤労監督官の役割の拡大が急務だと指摘する。シン会長は、「事業主による保護措置が不十分だと、被害者は雇用労働部に届け出る。そこで勤労監督官が真相把握に乗り出すが、通常はその行為がセクハラかどうかを判断するだけだ。事業主が事件の調査を不当に引き延ばして被害者を苦しめていないか、被害者の二次不利益はないか、などについては十分に調べない。こうした部分にまで幅広い調査が行われるよう、雇用労働部は制度を点検、整備する必要がある」と述べた。

2021年9月10日 ハンギョレ新聞 チェ・ユナ記者

https://www.hani.co.kr/arti/society/women/1011075.html