安全靴・安全帽を着けて、写真を撮って署名・・安全教育終わり 2021年7月20日 韓国の労災・安全衛生
KTの外線整備の労働者はなぜ命を失ったのか
家庭で韓国通信(KT)が提供するインターネットを使おうとしても、突然使える訳ではない。KTの拠点から出た光ケーブルが土の中や電信柱を通って、その家にまで繋がらなければならない。光ケーブルを土の中に直接埋めて、電信柱から空中で繋ぐのは人間だ。家の近くに電信柱がなければ、電信柱を立てなければならない時もある。14日に浦項で光ケーブルがぐるぐる巻きにされた417㎏のドラムに敷かれて死亡したキムさん(57)は、このような仕事をするKTの外線整備工の労働者だった。
17日に大邱のある葬儀場に整えられたキムさんの葬儀場で会った同僚は、キムさんが亡くなった現場は安全措置が不十分だったと話した。
キムさんはKTの外線整備の仕事をするが、所属はテジョン通信建設という中小企業だ。労働者が朝の食事を終えて事務室に上がると、現場の所長がその日に作業をする図面を配って、トラックに資材を載せろと指示する。事故当日も、クレーンでケーブルをトラックに移し換えるところだった。別の事業場では、ケーブルを鉄の輪で固定してクレーンで挙げるが、この事業場は鉄の輪ではなく縄で括った。綱が解けてキムさんがケーブルの下敷きになり、現場で死亡した。
安全管理者や信号手はおらず、労働者は保護帽を着用していなかった。事故が起こった後で、クレーンの後方から錆の付いた鉄のリングが発見された。事故当時、キムさんと一緒に働いたAさんは「ケーブルを挙げるワイヤーやリングは見たことがなく、どこにあるのかも知らなかった。」「いつも使う道具はよく見えるように置いておくべきではないか」と言った。テジョン通信建設は9人が2チームで仕事をしたが、クレーンは一つで、一つのチームがクレーンを使えば、他のチームはクレーンなしで仕事をするやり方だったと言った。その日に終わらせなければならない業務量は決まっているが、装備と人手は足りず、作業方法についての会社の明確な指針が労働者に伝えられたり、管理はされなかった。
普段、安全教育を受けたことがあるかという質問に、Aさんはこのように話した。「安全帽を被って、安全靴を履いて、野積場に立っているところを写真で撮ります。そして、なぜか、一回ずつサインをしに事務室に上がって来いと言います。上がってA4の用紙にサインしろと言われて、私の名前が記載されたところにサインをすれば終わりです。それで終わりです。そんなにして座っている姿も写真に撮りましたよ。」安全管理者に指定された人が誰なのかも知らなかったと言った。同じ通信建設の仕事をしてキムさんを知ったBさんも、「現場には安全管理者はおらず、作業マニュアルや安全教育もない。」「安全帽を使えという一般的な話だけ」と言った。キム・ヨンギュンさんやイ・ソノさんたち、労働者の産業災害による死亡が大きな社会的な議論になって、重大災害処罰法まで作られたのに、現場では相変らずチャンとした安全教育さえされていないということだ。この事業場は50人未満なので、重大災害処罰法施行後も3年間は適用が除外される。
Bさんはケーブルの下敷きになって労働者が死亡したという話を聞いて、目の前がまっ暗でぼんやりした感じだったと言った。「『私が知っている人だ。5年前にも(近くで労働者が働いていて死亡する事件を)経験したが、また起きたんだな』と思いました。チャンと直さなければまた起きて、また起きるでしょう。」Bさんは「常に事故は起こるものと考えて働く」と言った。彼は「土の中にはガス管や電気なども埋設されていて、特別な装備もなく、人がシャベルで土を起こしてケーブルを入れる。」「劣悪な環境で働いている」と言った。Aさんも「装備が足りなくて、電信柱も人が立てなければならない状況で、電信柱が古くて揺れることもあるが、支える人もいない。」「人をもっと多くしたり、支援をもっとすべきだが、そんなことはせず、作業量は必死にしなければこなせないほどだ」と言った。
民主労総公共輸送労組は、テジョン通信建設はもちろん、『危険の外注化』が事故の根本原因だとし、KTが元請けとしての責任を負うべきだと主張した。一方KTは、『工事を発注』しただけで、安全管理責任はKTではなく、テジョン通信建設にあるという立場を明らかにした。発注とは工事全体を特定の業者に任せてしまうことで、該当事業場での産業災害にも責任はないという趣旨だ。
KTの関係者は「テジョン通信建設はKTから発注されたので両者は対等な関係で、一つひとつKTが指示する関係ではない。」「テジョン通信建設が安全管理を含むすべてのことを処理し、安全管理費用が発生した時にはKTに計上を要請する形で、要請された安全管理費はすべて支給した」と説明した。またKTは、Aさんが死亡した場所はKTの所有だが、テジョン通信建設に賃貸した場所で、KTは関係ないと話した。
労組は、キムさんが死亡する前に安全管理を要求したが、テジョン通信建設が『KTが費用をくれない』という理由で断ったと明らかにし、話しは行き違う。公共輸送労組のソ・ドンフン労働安全保健局長は、「KTが発注者なのに、外線建設の現場でどんなことが起きるのか、何が必要なのかには関心がない。」「決まった金だけを渡して、(下請け)業者が適当に処理しろというので、業者は金額の範囲中だけで仕事を終わらせれば良く、(安全管理などに)悩んでいない状況」と言った。
産業安全保健法は発注者も危険要因の減少方案を入れた文章を作成するなど、一定の産業災害予防措置を執るように規定している。ただし工事金額が50億ウォン以上にだけ適用される。重大災害処罰法の原案には、発注した事業場での危険も事業主と経営責任者が防止するようになっていたのに、制定の過程で削除された。発注者が施工者を選定する時、安全の力量を確認するようにするなど、発注者の安全管理責任を強化する建設安全特別法は、国会に発議されたままという状態だ。公共機関だけが企画財政部の指針によって、工事を発注した現場も安全管理の対象施設に含ませ、死亡事故の発生時の経営評価が減点される形で制裁されている。
忠北大のウォン・ジョンフン安全工学科教授は「民間の個人がする小規模発注工事に対して、すべての安全管理責任を問うことは容易ではないのが現実だが、KTのように通信業を専門的にする会社が発注した工事に対してまで責任の例外に置くべきかについては、考えてみることが必要だ。」「死角地帯に置かれている」と話した。
キムさんの妻のCさんは、夫は困難な仕事を他人に任せず、自らする人だったと話した。ある週末の夕方、労働者が仕事中に死亡したというニュースを夫と一緒に見ていて交わした対話が思い出されたと言った。『あんなに仕事で死ぬ人が多いのに、人が死んでしまってから対策を出すのか』というCさんの話に、夫は『会社が金を惜しもうとすればそうなる』と答えたという。Cさんはニュースを見て残念だと思っていたのに、自分が当事者になるとは思わなかったと言った。「現場の安全管理がチャンとしていれば、このような人命事故はなかったのではないか。事故が起きると今更のように、会社は今後このようことがないようにすると言うが、人の記憶から消えれば、また安易に行くのでしょう。うちのおじさんはこのように亡くなったが、二度と再びこうしたことがないようにが私の希望です。労働者がちょっとした怪我することはあるだろうが、折角の生命を失わないように、安全なところで働ける世の中になったら良いですね。」産業安全保健公団によれば、今年に入って19日までに産業災害で死亡した労働者は214人だ。
キムさんの葬儀は19日に行われた。労組とテジョン通信建設は、事故の原因が会社の安全管理不足にあることを確認し、再発防止のための措置を施行することで合意した。安全管理者の配置、クレーン作業時に作業半径内に労働者が入らないようにフェンスと信号手の配置、安全工具の定期的な点検などが合意された。
:2021年7月20日 京郷新聞 イ・ヘリ記者
https://www.khan.co.kr/national/labor/article/202107200600001