「K防疫」の主役、医療従事者「栄光はなく、傷と孤独だけが残った」 2021年7月16日 韓国の労災・安全衛生

12日、ソウル市陽川区のパリ公園に設置された「コロナ19訪ねて行く選別診療所」で、一人の医療スタッフの顔に汗が流れている。/聯合ニュース

「私たちは人手、装備、物品などの基本的な支援を受けられないままコロナ時代を迎え、使命感一つで、2年近く防護服を着て、隔離区域で8時間もトイレにも行けず、重症患者たちと死闘を繰り広げる。しかし、先制隔離室に勤務する私たちに栄誉と栄光はなく、傷と孤独だけが残っている」(全国保健医療労組組合員、看護師のAさん)
この1年間、コロナ禍の最前線で戦ってきた全国保健医療労組所属の医療従事者の記録だ。同労組は13日、『コロナと戦った1年、私たちの汗と涙』と題する手記集を出版し、看護師や医療技師、准看護師などの苦労と哀歓を25の文章に綴った。
15日に目を通した手記集には、膨大な業務量と精神的なストレスに苦しむ医療従事者の奮闘がありのままに描き出されている。檀国大学医療院の集中治療室で22年間勤務してきた看護師のキム・ヒョンジョンさんは、「4つの保護具(ガウン、マスク、ゴーグル、手袋)を着用し、ドアを閉め切った空間で、数え切れないほど多くの器具を扱いながら患者を看護していると、ゴーグルの中に湿気が籠もって汗が流れ、非常に辛い。マスクによる息切れ、食事の時間になっても食事に行けない患者の救急状況など、コロナ患者を看護する現場の状況は、目に見えるよりもずっと大変だ」と話す。釜山大学病院の消毒看護師シム・ボファさんは「手術を行っている患者に、新型コロナウイルスの感染が疑われるという電話連絡を受け、手術中だった部屋にいた医療スタッフが全員隔離されるという事件もあり、医療機器メーカーの納品を受け取るために5分ほど対面した業者の職員が感染者だったという連絡を受け、手術室の看護師が隔離されるということもあった。」「私たちは初めて経験する予測不能な環境にさらされ、余りにも大きな身体的・精神的なストレスと重圧に苦しんだ」と吐露した。
コロナ検査を受けるために、あるいは陽性の判定を受けて病院を訪れた患者たちの暴言にも、医療従事者は無防備に曝されるしかなかった。ある地方医療院の看護師のBさんは、「コロナ検査の実施後に陰性ではないと癇癪を起こしたり、陰圧隔離病棟から看護師を押しのけて出て来て、看護師室を指差して暴言を吐いたりする患者もいた。血液透析が必要な自己隔離患者が『監視カメラで私を監視するのか、家に帰る』と言って、毎回看護師に暴言を吐くケースもあった。」「勤務中に突然暴言を浴びると、『この人たちの感情のゴミ箱になるために私はここにいるのか』という気がして、宿舎に帰って一人で涙を流して眠ることもあった」と語る。
危険な「感染源」だという烙印を周囲の人から押される現実に対する、寂しさと無念さも吐露されている。看護師のAさんは「アパートでエレベーターに乗るのだが、医療院に勤めているという理由で階段を使うよう言われたという同僚の看護師、医療院に勤めているという理由で、担任の先生から子どもを学校に来させないで欲しいと言われたという同僚の看護師の話を聞いた時、胸が痛んだ」と語る。
感染症専門病院に指定された公共病院や、圏域応急医療センターの持続可能性に対する懸念も書かれている。公共病院に所属するある医療労働者は、「感染症専門病院になったことで辞めていった専門医は、無視できない割合を占めており、現在、空席となっている診療科目もある。貧弱な現在の賃金水準と、コロナ患者だけを看る状況の長期化が、病院を去っていく医師の増加を招いている」と指摘し、「専門病院の最初の1年は、一般患者を一人も受け入れることができなかったため、病院の絶対的な収益が減って一方で、今までの人件費はそのまま支出することになって、ひどい赤字になった」と懸念を示す。
ある大学病院の救急室の看護師Cさんは、「コロナの感染が疑われる患者が、救急室の隔離区域に入室できなければ病院の建物の外で待機しなければならないが、(こうした状況で)患者を待機させたら、自分のせいで悪化するのではないか、救急室に入室させてコロナ陽性が出たらどうしよう、というジレンマに陥ることもある」と語る。
彼らの切実さは一つの願いへと収れんされる。「せめて、これからは体系的な公共医療システムの拡充と十分な医療要員の拡充によって、崩壊しかねない医療システムを立て直して欲しい」(救急室の看護師Cさん)

2021年7月16日 ハンギョレ新聞 チャン・イェジ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://news.yahoo.co.jp/articles/4ecd3bbe8335bfe2695ecd56d81dacf88415ef26

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1003704.html
猛暑特報が出された14日、ソウル広場の臨時選別検査所で医療スタッフが熱を冷ましている。/聯合ニュース