宝塚市立病院・作業環境測定不正事件隠蔽との闘い~シックハウス症候群公務災害認定の真実~宝塚市職員組合

職場の声を無視し、不正・隠蔽を行っていた病院

2020年7月22日に宝塚市立病院の検査技師が発症したシックハウス症候群が公務災害認定されたという神戸新聞記事を紹介し、シックハウス症候群、化学物質過敏症についての本サイトで引用・関連記事を掲載した。

ところが、この「宝塚市立病院検査技師シックハウス症候群公務災害認定事件」の経緯詳細が、当該労働組合の宝塚市職員労働組合によるひょうご労働安全衛生センター機関誌「ひょうご労働安全衛生」9月号への寄稿で明らかにされた。

本件の原因、背景には使用者である病院側の作業環境測定不正や多くの法令違反、職場の声を無視し続けてきた実態があった。まだまだ目が離せない現状であることがリアルに伝えられている。

以下その全文を紹介する。

宝塚市民病院・作業環境測定不正事件隠蔽との闘い/宝塚市職員労働組合

◆「シックハウス症候群」発症

2019年7月、宝塚市立病院の病理検査担当の臨床検査技師がシックハウス症候群を発症の臨床検査技師がシックハウス症候群を発症した。

被害者は4年ほど前(2016年)から、病理検査室に出勤すると鼻水が出るという症状があった。2019年7月下旬からは、鼻水・のどの痛み・目の痛みといった症状が日に日に強く現れだした。同年8月8日の出勤時、病理検査室内の切り出し※室入り口付近に行くと、粘性の鼻水が大量に出だし、のどに違和感を覚えた。また、他の職員も同時期から頭痛を感じていたことが判明した。8月30日、アレルギー科で「揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド、キシレン等)によるシックハウス症候群」、「約1ヵ月の自宅療養が必要」と診断され、医師からは「今後、日常生活(引越し、家の新築等)でも症状が出る可能性があるので注意が必要」と言われた。

※切り出し=検査に必要な組織片を切り取る作業

被害者の通報により、2019年8月26日に西宮労働基準監督署が立ち入り検査を行い、市立病院は同年9月13日に労働安全衛生法に基づく是正勧告と改善指導を受けた。

被害者は労働組合とともに事故に至った不正行為を含む事実関係の確認と公表、適切な謝罪を求めてきたが、病院側は不都合な事実を隠蔽しようとし、被害者に向き合おうとしてこなかった。それどころか、被害者の訴えに対して「環境を整備(改修工事)するのに、それ以外に何の問題があるのか」とし、他の職員に対して事実関係を説明することもなかった。

2019年8月に公務災害認定申請を行ったが、病院側の報告は事実と異なり、被害者は労働組合の協力のもと、追加資料を提出し事実関係を説明することを余儀なくされた。そして、一年近くかかり2020年7.月17日にようやく、被害者は公務災害の認定を受けた。これは被害者救済の一歩ではあるが、被害が業務に起因することが認められたにすぎず、不正行為の事実と被害に至る経緯が明らかにされたわけではない。

◆放置された排気装置の不具合

この事件の本質は、被害者らの職場改善要望が長年無視され、作業環境測定(ホルムアルデヒド等の濃度測定)の不正が続けられ、排気装置の不具合が放置されてきたことにある。

被害に至った原因として病院側は、

  1. 当時、被害者の作業量が一時的に増加したこと
  2. 換気装置の不具合により一時的に作業環境における化学物質の濃度が上昇したこと

として一過性の問題という認識を示した(2020年6月17日議会における明石病院事業管理者の答弁)。

また、病院側は排気装置の不具合を放置してきた理由について、「年2回の作業環境測定において、第1管理区分※の結果が出ていたので、早急に改修しなければならないとの認識がなかった」としている(2019年11月1日、是正勧告の事実についての新聞記者発表)。

※第1管理区分=適切であると判断される状態
 第2管理区分=改善の余地があると判断される状態
 第3管理区分=不適切であると判断される状態

過去の記録によると、病理検査室では2007年11月に初めて作業環境測定が実施され、以来2010年7月までの7回の測定において(2009年5月測定の「第2管理区分」を除く)「第3管理区分」が続いた。この間、様々な試みがなされたが改善することなく、2011年3月に換気・排気装置の改修工事が実施された。

ところが、その直後(2011年3月29日)の作業環境測定では、切り出し作業が行われていない状態で実施されたにもかかわらずなお「第2管理区分」となった。

この時の測定結果について病院側は「一定の効果を得た」と評し、安全衛生委員会に改善状況として報告された。改修工事と測定結果の関係を精査することなく、その後に追加工事が行われることはなかった。

宝塚市立病院(同病院HPより)

◆隠蔽される不正行為

病院側は、作業した状態で作業環境測定を受ければ「第2管理区分」以上の結果が出る可能性を認識していたと考えられる。

このことは、上司の証言「第3管理区分が続き、切り出し室の大規模な改修工事(2011年3月)があった。その後、環境を整えているのに基準値を超えるということは作業の仕方が悪い、と指摘されると思った(2019.11.5)」が裏付けている。

局所排気装置の制御風速は、2015年9月の測定開始以来ずっと基準値を下回っていた。被害者と病理医が繰り返し上司に相談してきたが、「金銭的な問題」と「作業環境測定で第1管理区分」を理由に、上司の判断で放置されてきた。

病院側は、作業環境測定の測定値を抑えるために不正行為(前日からの換気、測定前に作業しない指示のもと9時頃に測定)を続け、「第1管理区分」を維持しようとしてきた。

2016年3月の作業環境測定は、上司が測定日を失念していたと思われ「第3管理区分」となったが、この点について明石病院事業管理者は2020年6月議会で、「測定前にホルマリンをこぼしたことが測定値に影響した」との上司の証言をもとに事実関係を確認するとした。

ところが、被害者、上司ともこぼしておらず、証言者である上司は誰がいつこぼしたかわからないという不可解なことになっている。被害者や他の証言者と上司の見解が異なるにもかかわらず、「上司が測定日を失念していた」という証言には言及せず、病院側に都合のいい「ホルマリンをこぼした」という上司の極めて不自然な証言を基本に調査する態度を示した。

「第3管理区分」となった直後、「局所排気の改修が困難」との理由で、上司は「再び第3管理区分になると検査室が使えなくなる」とし、引き続き不正行為を指示した。

一方で、病理医や被害者の指摘もあり、測定時にカモフラージュとしてボトルに入った小さい検体のみの処理がなされていたが、前日からの換気や朝9時過ぎからの測定は続いた。

◆「市立病院の闇」は明けるのか

2019年11月1日に是正勧告の事実が新聞報道されるや、病院側は第三者による調査をすることを示した。

病院自ら不正行為を含む事実関係の調査をして公表する責任を放棄し、「第三者」を隠れ蓑にしようというものである。その後、事件の風化を待つかのように、一向に動き出す気配がないまま時が流れた。

当初、病院側は調査メンバーの氏名を非公表としてきたが、2020年6月議会において、調査メンバーとして弁護士と大学教授の名をあげた。ところが、この大学教授が市立病院と近しいことを議員に指摘され、後に市長の求めにより弁護士を含めて再選考するに至った。

今回の事件を受けて今年度、市立病院は兵庫労働局から「衛生管理特別指導事業場」に指定され、有害業務を行う放射線技師と臨床検査技師の職場を中心に安全衛生改善計画がまとめられる予定である。調査の過程で、専任の衛生管理者の不在や、衛生工学衛生管理者の未選任といった法令違反が指摘されている。また、事件が発覚するまで、特定化学物質や有機溶剤を扱う職場で必須の作業主任すら選任されていなかった。これらの違法行為が不問にされてきた病院の体質が、今回の災禍を招く土壌となっていた。

現在、病理検査室では、労働基準監督署の指導による改修工事が7月末に完成し、1年近くにわたる防毒マスクをつけての作業からは解放されようとしている。一方で、都合の悪いことは隠すという病院の姿勢は今も変わっていない。

第三者による調査はようやく今年8月になって開始された。公正な調査結果を待ち、市立病院の再生に向けた一歩としたい。

シックハウス症候群とは
住宅の高気密化や化学物質を放散する建材、内装材の使用等により、新築/改築後の住宅やビルにおいて、化学物質による室内空気汚染等により、揮発性有機化合物放散量の多い家(シックハウス)では異常発汗、頭痛、めまい、落ち着きがない、疲れやすい、冷え、不安、不眠、欝、記憶力減退、知覚異常、のどの渇き、食欲不振、湿疹、不整脈、目がチカチカする、ふるえなど、自律神経障害症や体調不良の症状を感じるが、現場を離れると症状がとれてしまう。症状が多様で、症状発生の仕組みをはじめ、未解明な部分が多く、また様々な複合要因が考えられることから、一般的にシックハウス症候群とよんでいる

「ひょうご労働安全衛生」2020年9月号1-3頁引用

記事・問合せ/ひょうご労働安全衛生センター