グルタルアルデヒドなど含む殺菌消毒剤にばく露し労災認定された元看護師の化学物質過敏症発症、後遺症を認め大阪地裁が病院に賠償命令-2006年12月25日
厚生労働省が、医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康障害防止について/2005年2月24日基発第0224007号を発出するなどして健康障害防止を呼びかけているグルタルアルデヒドなど医療現場の殺菌消毒剤を原因とする化学物質過敏症を発症し、後遺症に苦しむ元看護師が、病院に対して損害賠償を求めた裁判で大阪地裁が元看護師の訴えを認めた。
元看護師は労災認定されているが、使用者に後遺症や慰謝料の支払いを命じた判決は初めてで、医療現場におけるばく露防止対策強化によい影響が期待される。
以下、報道記事を紹介する。
化学物質過敏症の元看護師
後遺症を初認定、大阪地裁賠償命令
「病院、対策怠る」化学物質グルタルアルデヒド(GA)を含む殺菌消毒剤を使って消毒・洗浄作業中、化学物質過敏症になったのは勤務していた大阪掖済会病院(大阪市西区)が対策を怠ったためとして、同区の元看護師、岡沢丸美さん(51)が病院を運営する社団法人日本海員掖済会(東京都中央区)に慰謝料など2488万円を求めた訴訟の判決が25日、大阪地裁であった。大島眞一裁判長は「防護マスクやゴーグルを着用するべきだった」と病院側の安全配慮義務違反を認定。後遺障害の逸失利益などを含む1063万円の賠償を命じた。
毎日新聞大阪本社2006年12月26日
労働者の化学物質過敏症による後遺障害分も認めたのは初めて。労災認定でも基準がなく、判決は同じ症状を訴える患者の救済の枠組みを広げそうだ。
判決によると、岡沢さんは94年から同病院に勤務。検査課に配属され、換気が不十分な部屋でGAを含む薬剤で内視鏡等の洗浄などをしていたが、98年頃から口内炎や、目、鼻、の異常が起き、01年に退職した。その後も排ガスやたばこの煙などでも症状が出て、04年に化学物質過敏症と診断された。
大島裁判長は、化学物質過敏症を「GAに曝露した結果」と認定。その上で、▷GAの危険性は95年の医療従事者へのアンケート調査などで具体的に指摘されていた、▷同病院の医師が98年、岡沢さんが訴えた鼻の刺激症状からGAが原因と推定していた-ことなどを挙げ「刺激症状が一過性か、より重篤になるかは定かでなかったのだから、原因の除去や軽減措置を講じるべき義務があったのに、防護マスクの着用などを指示しなかったのは,使用者としての適切さを欠く」とした。損害額の認定では、勤務が不能になったことなどを考慮し、後遺障害等級12級に相当する逸失利益(517万円)や後遺障害慰謝料(280万円)を含め支払いを命じた。
同病院側は「化学物質過敏症は原因解明が十分でなく、因果関係を判断する根拠がない」と主張していた。岡沢さんは労災認定され治療費の給付決定は受けていた。
(大島秀利、遠藤孝康)
大阪掖済会病院の話 判決を見て対応を検討したい。
「最高のクリスマス」
岡沢さん 画期的判断に喜び
大阪・過敏症訴訟判決
「クリスマスの日にすごくいいプレゼントです」。労働者の化学物質過敏症による後遺障害の損害賠償を初めて認めた25日の大阪地裁判決。今も後遺障害に苦しむ原告の元看護師、岡沢丸美さん(51)は「過敏症に悩む人はたくさんいるはず。泣き寝入りせず、これまでやってきてよかった」と画期的判断を喜んだ・(河内敏康)
この日、岡沢さんは活性炭入りのマスク姿で判決に臨んだ。ペンキやたばこなどから出る化学物質を吸うと、呼吸が苦しくなるからだ。疲労感が強く、仕事にも就けない状態が続いているという。会見中も目がチカチカするため、まばたきを何度も繰り返しながら、「病院の責任と後遺症が認められてすごくうれしい」と、ほほ笑んだ。
岡沢さんは、病院の検査科に配属された98年から、口内炎ができるなどの症状に悩まされ続けた。「病院の薬剤に対する管理が全然できてなく、強く訴えても何ら対策をとってくれなかった」といい、「病院は責任を果たし、働く人たちのための環境整備をしてほしい」と注文した。
国の対応も、昨年になってようやく問題のグルタルアルデヒドの空気中の管理濃度を設けるなど遅れてきた。同様の症状に悩む看護師も多いとみられるだけに岡沢さんは「自分の職場環境にも目を光らせ、体を壊さないようにして欲しい」と呼び掛け、「表に出て訴えないと何も変わらない。しんどいとは思うが、ぜひ声を上げてほしい」と話した。
労災認定の見直しを
【解説】殺菌消毒剤を吸うなどして化学物質過敏症になった元看護師について、25日の大阪地裁判決は後遺障害に対する病院側の賠償責任を認めた。この病気がもたらす被害の深刻さに対し、理解がすすむきっかけになることが期待されるが、原告側は「仕事選びが大幅に制限されるのに、障害等級の認定として不十分」と訴える。
化学物質の被害では、単体の物質に暴露して一定の症状が表れるものについてはリストに基づき労災認定などがさっる・化学物質過敏症は、最初に大量に浴びた化学物質で急性症状が表れた後、やがて微量の他の化学物質でも症状が慢性的に表れる症状がある。通勤や通学をはじめ日常生活で深刻な制約を受けるが、労災認定では明確な基準がない。
判決では、障害等級は12級(労働能力喪失14%)相当とした。原告は9級(同35%)と主張していた。看護師での再就職が絶望的になるなど、仕事上の損失は決して小さくない。労災補償など既存の障害等級の基準についても、化学物質過敏症による具体的な被害実態を念頭に見直しが求められる。(大島秀利)