職業がんをなくそう通信 1/第4回職業がんをなくそう集会・記念講演・三星化学、新日本理化職場報告
2017年8月1日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/
目次
第 4 回職業がんをなくそう集会/大阪で開催 25 団体 40 名が参加
2017 年 7 月 17 日第 4 回職業がんをなくそう集会が大阪・PLP 会館 4 階中会議室で開催され、25 団体 40 名の参加がありました(研究者2名 弁護士 2名含む)
【記念講演】 職業と化学発がん
鰐渕英機教授 (大阪市立大学大学院医学研究科)
鰐渕英機教授(大阪市立大学大学院医学研究科都市医学講座分子病理学)が「化学物質の職業ばく露による環境発がん」を講義されました。
はじめに、化学物質のヒトでの発がん性予測はヒト集団における疫学的調査と動物を用いた発がん性試験に基づくこと、国際がん研究機構 (IARC) がアスベスト、ヒ素やオルトトルイジンなど 32 物質を職業上の発がん性物質に指定していると述べられ、1,2- ジクロロプロパンやジクロロメタンによる胆管がんやオルトトルイジンによる膀胱がん、粉じん等によるじん肺や石綿肺、中皮腫等職業がん・職業病を作業現場や細胞、臓器の画像で解説され、職場での化学発がん物質ばく露による発がん(IARC,2014) の表を紹介されました。
また日本では死因別死亡数の割合でがん死亡が29%を占め(心疾患15%)その割合は年々増加し年間がん死亡数は 37 万人にのぼる (H27年人口動態統計より)と指摘されました。
次に腫瘍の定義や悪性腫瘍の特徴、リンパ行性・血行性・幡種性転移および早期発見の重要性等について図解で説明され、がんに関連する遺伝子 ( がん遺伝子・がん抑制遺伝子・アポトーシス遺伝子・テロメラーゼ遺伝子)とそれらの異常によるがんの原因として外因 ( 化学的・物理的・生物的がん因子 ) と内因(年齢・性・人種・家系)があることを示されました。
イギリスの外科医Pottが 1775 年煙突掃除夫に陰嚢がんが多くその原因は煤であろうと推測し、1895 年ドイツの Rehn が合成染料フクシンの製造作業員に膀胱がんが多く原因はアニリンであろうと考えたことを紹介され、化学物質の発がん性は特定の物質に高濃度・高頻度でばく露される労働者を観察することで発見されてきたこと(疫学研究による発見)、1918年山極勝三郎がウサギの耳にコールタールを反復塗布することで発がん性を証明したことを示されました。
実験動物を用いた発がん性試験の解説では、長期 (2 年)試験は信頼度が高いものの期間と費用がかかるため、中期試験では発がんを誘発した後に化学物質を投与するなどで 40週以内に情報を得られることを紹介されました。
最後に職業がんの早期発見のための特殊健康診断と膀胱がんの検査と治療の解説をされました。参加者アンケートでは、難しいことをわかりやすく教えて戴いたと大変好評でした。
【基調報告1】 田中康博氏 ( 三星化学工業支部 )
田中氏は最初に昨年12 月21日に労災認定されたことを報告し、この間多くの皆さんによるご支援の賜物であると感謝を述べました。
膀胱がんの発生状況は 40 名程度の工場で 40 代から 60 代の現役労働者 6 名、40 代から 70 代の退職者 3名、ばく露歴は7年~ 28 年で全て製造部門、発症時期は2014 年2月~2017年 2月、取り扱った芳香族アミンは多い順にアニリン、オルトトルイジン、2,4- キシリジン、オルトアニシジン、オルトクロロアニリン、パラトルイジンなどとなっています。
何故、三星化学で膀胱がんが多発したのかについては、職場の実態から考えると
- いじめの横行。作業差別(気に入らない者は乾燥工場に配置される) と賃金差別(差別を受けた者は評価給により生活保護レベルの賃金)
- 経営者の神格化。
- 遵法意識の欠如。管理職が労基法・労安法を知らないし守らない。
- 加害者意識の欠如。
- 労使対等原則の欠如。
などがあげられます。
問題ある会社の姿勢として、
- 化学物質を取り扱う会社だという認識の欠如。
社内 BBQ 大会のかまどはオルトトルイジンのドラム缶を使用していた。SDS( 化学物質安全データシート) を工場長のデスク背面のキャビネットに置いたままにして作業者に閲覧させないし教育もせずに来た。 - これだけ問題が発生しても経過や原因究明、被災者や家族への謝意や補償の考え方を文書で示さない。
などを指摘しました。
経営者を神格化し労働者の人権を無視した結果、前近代的支配体制が確立され、「吐き気がする。食事がとれない。めまいがする。血尿が出た、膀胱炎になった。」など現場の生々しく切実な訴えが無視され、日常的なパワハラやみせしめ人事と賃金差別が横行し少なからぬ労働者が退職に追い込まれる中で職業性膀胱がんの多発に至ったことが参加者に切々と伝わってきました。
【基調報告2】川上健司氏 徳島県
( 職業がんと闘うオルトトルイジンの会代表 )
三星化学工業の膀胱がん多発事案を受け、新日本理化では 2016 年 1 月中旬から 2 月にかけ退職者に対し会社負担による膀胱がん検診勧奨が郵送されてきましたが、案内漏れや未検診が半数以上あり対応に問題がありました。その後10月1日付で検診勧奨の案内が届きましたが、2 回目以降は自己負担でと変更されており、退職者は切り捨てられるとの危機感を覚えていたところ、記者から徳島工場 1 名と他事業所1名から膀胱がんの労災申請が出されていると聞き、退職者の家庭訪問や電話での問い合わせをする中で「膀胱がんを発症し労災申請したのは自分である」と本人が教えてくれました。
昨年1 月の検診で膀胱がんが発見され4月に手術を受けて現在は回復し会社の勧めで労災申請を行い9 月頃受理されたとのことでした。この間会社へも問い合わせをしましたが個人情報を根拠にして丁寧な説明はありませんでした。
三星化学の労災認定がされると会社から「10 月 1 日付文書を撤回し会社負担で検診を春と秋の 2 回実施する」旨の電話連絡があり文書を求めましたが未だ送付されてきません。会社から詳細な説明もなく、膀胱がんを発症するかもしれないという不安や恐怖がわかっていないのではと思います。
このような経過から本年 1 月 25 日新日本理化徳島工場でオルトトルイジンの生産に従事していた退職者 20名が結集し「職業がんと闘うオルト-トルイジンの会(OTの会 )」を結成。役員会を毎月 1 ~ 2 回開催し取り組みに関する話し合いと手書きニュースの発行 ( 現在 5 号 )を行っています(現役時代7000号を発行したOBが尽力)。
2 月 6 日徳島労働局に以下申し入れたが、「労安法及び諸規則は現役労働者が対象であり、皆さんのような退職者は該当しない」と労働局側が言い放った場面があり退職者の社会的地位の低さを思い知らされましたが負けるわけにはいかんと更に決意を固めました。
職業がんと闘うオルトトルイジンの会よりの要請事項
- 我々の仲間の労災申請に対し早期認定をされること。
- OT 生産従事者に対し健康手帳の発行をすること。
- OT による膀胱がん発症の経過説明及び情報提供を行うこと。
- 特化則の変更内容の説明をすること。
- 全ての芳香族アミンを特化則に指定すること。
2 月 6 日徳島労基署に対し上記と同様な要請を実施。3 月 7 日徳島労基署に OT の会作成の作業実態をまとめた文書を提出。4月 21 日新日本理化労組との懇談を実施し会社とのパイプ役をお願いしたいと伝えました。
4 月 26 日徳島労基署に前述要請に加え追加資料「徳島工場における経皮ばく露の背景と実態」を検討資料とすることを要請。5 月1日「職業がんをなくそう」の旗を掲げメーデーに参加。5 月 9 日労災申請者と共に働いていた M さんに追加調書作成依頼が労基署担当者からあったがこれまでの OT の会作成資料をM さんの資料としたい旨の意向がありましたが多くのメンバーで作成した資料であることからそれはできないとし M さん調書に OT の会資料として添付されることになりました。
報告にはかつての爆発事故に関する労働者への責任転嫁を図る事件があり裁判闘争で完全勝利したお話もあり、闘ってきた労働者たちの姿が目に浮かびました。