日常化している「労災隠し」:労災職業病ホットライン2000大阪報告
全国安全センターが毎年行っている全国一斉電話相談が10月2日から3日間行われた。関西労働者安全センターもこれに参加、地域労働安全衛生センターがあるところなど全国で16か所で相談電話が開設された(安全センター情報1999年12月号)。
やめよう労災隠し
全国安全センターでは、「厳しい経済・雇用情勢とその中で相次ぐ事故災害の多発等を反映してか、各地のマスコミ媒体にも例年以上に取り上げていただき、過去最高の210件の相談が寄せられた」と総括している。
関西労働者安全センターでは、「やめよう労災隠し」をサブテーマにし、新聞各社が取り上げてくれたことで去年を上回る45件の相談が寄せられた。
また今回は、建設労働者のじん肺に着目して大阪市内の一部の地域でチラシを新聞折り込みで配布した。
労災隠しに関連したものでは次のような相談があった。
- ぎっくり腰。会社には「悪いようにはせんか向と言われ健保扱いされていた。知人の世話で労災扱いになったものの、退職を強要されて退職願を書いてしまったが、退職を取り消したい。
- プレス加工工場で椎間板ヘルニアになり社保で治療して治った。労災に切り替えたいが、会社も医者も協力してくれない。
- 10年前に親指と示指を切断。今から労災補償を受けられないか。
- 工場内で機械の構造上の欠陥が原因で事故。協力会社が労災隠しをしようとした。3か月休業した。「だまっていてくれ」、「いいようにする」と協力会社で言われたが、納得できず労基署に行った。身のまわりでも労災隠しが多い。
- 従業員が転落事故に遭ったが、元請は「ええようにしてやる」と言ってそのままになっているという建設会社の下請会社の経営者からの相談。
- 手の指を負傷したが、元請が労災で治療をするなと言ったのではじめそれにしたがったが、4か月たってから管轄の労基署に通報し、発覚させて労災を適用させた。
- 清掃会社のパート。社員の人たちが仕事で骨折したり、手を切ったりしているのに労災扱いしていない。何とかできないか。
- イベント会場作りの最中にテント張りのとき、外れてテントが崩れ両手を負傷した。健康保険を使って自己負担で支払ってきたが、治療費が約10万円を超え、また後遺症の問題もあるので労災に切り替えたい。リストラが流行っていることもあり、あえて労災を申請しなかったが、会社から何かされないか不安。
- ある会社でグラインダーのバリ取りで目の負傷、現金治療させているのはおかしいという通報電話。
- 大手建設会社の建設現場で重量物を動かそうとして、ぎっくり腰を起こし1週間程度休業。その後に作業中に腰痛を繰り返し、また病院に行った。雇用主の下請会社は健康保険でやらそうとしたが、本人や主治医の意見で労災扱いにさせ、元請の労災保険で治療した。最近、症状固定し現在障害補償を請求中だが、直接の雇用主の下請会社が、「これまでしたことのないようなケースで労災にしてやった。元請にも迷惑をかけた。よそへ行け」と、職場復帰を認めようとしていない。
全体的に、会社側が労災にすることを嫌うことが労災隠しの原因になっている事例がほとんどで、そのために労働者もあえて労災にしてくれと申し出ることをためらうという現実があることを示している。
そして、やっと労災の適用を実現しても、今度は被災労働者の職場復帰に協力しないという、きわめて悪質な企業も存在しているのがわかる。
職場復帰に関して労働行政は、労働基準法第19条の労災休業者の解雇禁止規定のほかは、強制力をもって被災労働者を守る法的手段をもっていないためもあって、職場復帰の援助という点についてはきわめて及び腰で、わずかにある職場復帰援護金制度も有効に活用されていないというのが現実だ。
作業関連疾患や精神疾患
上肢作業障害などの作業関連疾患や精神疾患を発症した労働者に対して、企業が前向きに取り組んでいない状況が、今回の相談からもうかがえた。ケガの類でも「労災隠し」されてしまうケースが多々あるのだから、この場合はより難しいとはいえようが、厳しい経済環境がこうした傾向に拍車をかけているようである。
精神疾患関連では、必ずしも業務上疾病とはいえない例も含め、うつ病、自殺未遂など8件の相談があった。
上肢作業障害などの作業関連疾患については、「自分は仕事が原因だと思うが会社がまじめに取り合ってくれない」といった相談が目につき、これらは労災隠し的な内容のものといえる。たとえば、次のような内容の相談があった。
- 荷物運びをずっと行っていてアキレス腱炎になり健保と有給休暇を使ってきた。労災を請求するにはどうすればいいか。
- 荷物の発送の作業で腱鞘炎になった。急に仕事が増えたことによって発症。会社から「健康保険扱いです」といってきたが労災にならないか。
- 封筒、荷物をつめる仕事を2,3か月間根を詰めてしたら腱鞘炎になった。会社には「そういうのはタイピストとか特定の職業の人しかだめだ」と言われた。病院に行つて今ギプスをしている。1週間半になる。
じん肺、アスベスト関運疾患
アスベスト関連では2件で、うち1件は長年塗装工として働いてきた方の悪性中皮腫の相談だった。また、ハツリ、左官、トンネル工事といった建設労働者からのじん肺関連の相談が5件、鋳物工場労働者からの相談が1件あった。これらの相談の多くについては、じん肺検診医療機関の紹介、労災補償の手続の支援などの対応をはじめている。
以上の相談の他、損害賠償関係、同僚から感染した結核、脳内出血などいくつかの疾患の業務上外に関するもの、雇用保険の適用に関するものが寄せられた。
安全センターでは、継続的な取り組みになった事案の解決に努力していくことはもちろんのこと、今回の相談結果を労働局交渉など労働行政などに対する取り組みに生かしていきたい。
とりわけ、労働省が統計上労災が減り続けているとしている一方で、まさに労災隠しが日常化していること、じん肺や上肢作業障害、腰痛など救済されるべき作業関連疾患の被災労働者が依然として多いこと、うらを返せば安全衛生対策がまだまだ不十分であることを声を大にして訴えて行かなければならない。
安全センター情報2000年12月号