校舎改装でVOC被害: 高濃度の揮発性有機化合物/ 東京
都立のN定時制高校の音楽担当教諭をしているHさん。昨年夏の校舎改修で、 Hさんもきれいになった教室で生徒たちと一緒に顔をほころばせるはずだった。
しかし、改修直後から急激に体調不良を訴え始めたHさんは、調査の結果、自分の使用する特別室(音楽室)の改修に使用された建材が含有する揮発性有機化合物(VOC)に曝露していたことを知った。
突然の発症に不安を募らせた日々と問題解決に向けた職場N高校での取組みの様子をHさんに寄稿していただいた。
(東京労働安全衛生センター)
工事後の教室に入ると、強烈なにおいが・・・
昨年夏、学校が一部改装になり、私の使用する特別教室も床と壁を塗り直しました。また窓も2重になり、防音効果が高まりました。9月末に工事が終わり、 10月1日に引き渡しとなりました。その日、教室に入った途端、シンナーの強烈な臭いが鼻をついたので、すぐに窓を全開しました。しばらくして顔がかゆくなり、変だなあと感じました。その日は2時間ほど片付けをしました。 1日おいて10月4日、 4時間授業をしたら頭痛がしてきました。普段は頭痛など感じたことがないので、やはり変だなあと思っていました。次の日、朝起きると気分が悪く、倦怠感とひどい脱力感があり、休暇をとろうと思いましたが、我慢して登校しました。教室に入った時、急に頭痛がして気分が悪くなり、昨日から気分が悪かったのはこれだと思いました。
授業中、頭重・脱力感がひどくなったので、放課後、教頭に事情を説明し、帰宅しましたが、途中で悪寒や噸吐感があり、本当に辛かったです。
次の朝起きると、前日と同じような気分の悪さ、頭痛、倦怠感、脱力感、悪寒がひどく、それに加えて、顔の皮膚が乾燥して、カサカサになっていました。登校して教頭に顔を見せ、教室に入ると前記の症状がひどくなっただけでなく、顔が痒くなりました。
次の日は教室には入りませんでしたが、微熱のあるような感じがしました。その日に、管理職に、「業者に対して使用した建材、塗料、薬品等すべての品名を明らかにするように請求してほしい」と申入れました。
次の週はテストのため授業はありませんでしたが、 10月18日より教室に入ると以前の症状がひどくなり、さらに眼が充血し肩こりも出てきました。
10月20日に産業医に教室を見てもらい、対策を考えてもらうことになりました。その後、私は腰痛も起き、生徒のなかにも「気分が悪い」と早退する人も出てきました。ここまでの間に、事務担当者は業者への品名請求を何度も行ったのに、返事はありませんでした。また、管理職も教育庁に報告し、教室の測定を申入れていたのに、返事がありませんでした。
VOC濃度が基準の4倍?9倍!
ところが 10月29日、突然、教育庁の職員が学校を訪れ、校長に
「教育庁のやっていることに問題はない。したがって測定をする必要もない。学校長はこの件にこれ以上関わるべきではない」という趣旨の話をしたのです。
校長は、責任者として職員や生徒の健康や安全を確保するという立場と、行政のポストとして教育庁に逆らえないという立場で悩んだと思いますが、産業医の紹介する労働科学研究所のスタッフが測定にくることを了解しました。
11月11日に測定が行われ、その結果、揮発性有機化合物 (V
OCs)濃度が、教室はWHO基準の4倍強、 1317μg/立米、準備室は9倍強、 2895μg/立米とでました。これを職員会議に報告し、管理職には、「教育庁に報告してほしいJと要請しました。また、校長の勧めによって、教室を換え、曝露された部屋には入らなくてすむようになりました。
職場管理職、産業医の適切な対応
体調は、その後、薄紙をはくような感じで回復し、冬休みをはさむと症状が消えていました。後から話を開くと、業者は区内の中小企業で、そこの下請けのまた下請けの事業所が塗装を行ったそうです。VOCで曝露された教室を使用した私が化学物質過敏症 (12月に北里大学で診察を受けました)になったのに、仕事で日常的に曝露されている労働者はどうなっているだろうと思いました。また、東海村JCO臨界事故のように事故や被害が出たとき、それを隠献しようとする行政の姿勢に強い不信感を持ちました。
幸い、職場の管理職や産業医は、私の体調を一貫して気遣い、
職場環境の改善に努力してくれました。
目に見えない症状や体調を気のせいや不摂生と言わないで、同僚や労働組合、管理職から支えてもらえたことは本当にありがたかったと思います。また、産業医の原則的な姿勢にも助けられました。このことを通して、改めて職場環境の大切さ、そして、産業
医や外部の環境問題や労働問題に取り組んでいる人たちとのネットワークが必要だと感じました。
安全センター情報2000年6月号
VOC(揮発性有機化合物:Volatile Organic Compounds )
トルエン、ホルムアルデヒド、ベンゼンなどの揮発性の有機化学物質を指す。有機溶剤中毒やいわゆるシックハウス症候群、化学物質過敏症の原因となる。